プロローグ
加護――それは、魔法を超えた超常の力。
練習すれば誰でも使えるようになる魔法とは異なり、先天的に使える者が限定されている。加護持ちは非常に希少で、世界中でも100人に満たないと言われている。
テルムント家の令嬢、マーシャ・テルムントは加護持ちだった。
その加護の名は、《剣の加護》。
文字通り剣に関わる加護で、世界中の剣士からは羨望と妬みの対象にもなる。これは最も有名な加護の一つで、歴史上《剣の加護》を持つ者は数名もいる。
そう。“最も有名な加護”というレベルでさえ、歴史上数名しかいない。それほど加護は多種多様で、歴史上一度しか現れていないものが大半である。
《剣の加護》は“剣に愛される”異能と言われるが、実際の具体的な効果は剣を振る際の【疲労軽減】と剣の【耐久性向上】のみだ。
と言ってもどちらの効果も凄まじい。
【疲労軽減】は、朝から晩まで剣を全力で振り続けてもまだまだ疲れない、というくらいに滅茶苦茶だし、
【耐久性向上】は、剣が絶対に折れないと言い切れるレベルなのだ。
実際の効果はこの2つだけだが、もう一つ上げるとするならば、剣の才能である。
《剣の加護》を持つ者はすべからく剣の才能にあふれていて、全員がその時代の最強剣士へと昇り詰めている。
ただし、これは《剣の加護》によって才能が与えられたのか、もともと凄まじい才能がある命に《剣の加護》が与えられたのか分からない以上、何とも言い難いものだが。
圧倒的な才能の上に、一日中剣を振っても疲れない異能。
実際の効果はそれほどではないのにもかかわらず、世界中の剣士から妬みの対象になるのは、《剣の加護》を持つということが“最強剣士”になるということを意味しているからだった。
マーシャ・テルムントは《剣の加護》を持って生まれた。
そして凄まじい剣の才能があった。
それは周囲の過剰な期待を軽々と飛び越えるほどの才能だった。
マーシャは12歳の時、あと1年で剣聖を抜き去り世界最強になると言われていた。
しかしマーシャが世界最強となる前に、《剣の加護》は暴走してしまった。
剣に過剰に愛されるようになってしまったのだ!
それは、剣を振ることで発生する疲労を軽減するどころか、逆に疲労をプラスに変えてしまうほどの超強力な《剣の加護》。剣を振ると疲労を回復が超過して、熱が溜まる。そして振りすぎると体がだるくなる。だから一日に占める剣を振る時間はどんどん減っていった。
剣に愛されすぎるあまり、マーシャは慢性的に高熱を出し苦しんだ。
ただこの時は、まだ良かった。
剣を振らなければ、まだ何ともなかったから。
しかし月日が流れるにつれ、マーシャは剣を振っていなくともエネルギーが溜まるようになった。そして勝手に体が熱くなり、高熱でベッドから起きれなくなる。
マーシャの父ミラムダは友人にして宮廷医師筆頭のダレイオスに懇願した。
『なんとかしてくれ! このままでは娘の命が!』
『うむ……方法はなくはないが……』
『なんでも良い! 娘が助かるのなら!』
『剣を失ったとしても?』
そして、ミラムダは頷いた。
結果《剣の加護》は封印され、マーシャは自分の命が助かる代償として剣を失った。
そのときマーシャは12歳。
物語はその4年後――マーシャが16歳のときから動き出す。