そんな充電いらねぇよ!!!!
あらかたの鎮火と、騒ぎの沈静化、瓦礫や崩壊しそうな建物の適切な対処、ワイバーンの処理を役所に連絡し、怪我人の治療をてきぱきとこなした冒険者一行は「とりあえず、安全な場所へ移動しよう」という突然のまともな提案をした勇者さまの一声で、現在近くの宿屋まで移動中だ。
彼は、私にも同行せよ、とのことで、確かに崩壊した酒場以外居場所のない私はなんだかんだで結局このパーティに付いてきてしまった。
同行せよ、とかっこよく表現してみたが、実際には「モナもくるよな?え?来ない?まじ意味わかんないわ」と勇者からは言われ。
「鳥は親鳥についてくるもんだろォが。はやく来いや雛鳥」とヒーラーには言われ。
ほかのパーティメンバーさま方にも無言で圧力があったようななかったような。
なんだろう、強制イベってやつかな。
特にパーティ唯一の女性で魔法使いのマフレナ・ホウスコヴァーさんに今もずっと無言で見つめられ続けている。正に無言の圧力。いや、これは、見張られているのかな?
「マフレナ・ホウスコヴァー。いくらなんでもモナを見過ぎでしょ」
と、私の横を歩く勇者さまが苦笑する。
やばい、勇者がまたしてもまともだ。槍が降る。
「見張ってないと、またどっかいっちゃうでしょ」
魔法使いは私から一切目を離さず、私の後ろをきっちりずっと3メートル程あけて歩き続けている。
また、とは崩壊した酒場からちょっと移動しようかなとした時のことで、ほんの数歩移動し、たまたま冒険者たちから死角に居たくらいで、えらく大騒ぎになってしまった。みんなとんだ心配性だ。きっと勇者あたりがなんらかの盛大なやらかしをした前例があるんだろう。そりゃあもう想像を絶する「やらかし」を。
私は別段なにかやらかしたわけではないが、こうまで見られると、なんだか移送中の罪人の気分だ。
まぁ、捕まるなら「魔法使いさまの纏う布切れから溢れている爆乳や美尻、細い腰、むっちりした美脚を見過ぎた罪」だな。うん。そりゃ大罪だわ。捕まるわ。
見つめられているのがわかるということは、すなわちこちらも同じだけ見ているのである。そりゃあもうチラチラチラチラチラチラチラチラ振り返りまくりである。
彼女の美しくエロスな爆乳を。くびれたセクシーな腰を。キュッとしまった小尻、さらにはそこから伸びる美脚も。
某セレブ姉妹かな??
最早リアルではない気がするその大きさや形の良さに、思わず手が伸びそうになるが、同性といえどハラスメントだ。
「ちょっと!どこみてんのよ」
魔法使いが噛みつかんばかりの勢いで歯をガチガチ鳴らしている。
私はまったく動じもせずに、「あー、そんなセリフのCMあったなぁ」なんて呑気に思いながら、
「いえ、別に」
と、いいつつ目線は良い意味に振り切ったわがままボディから一切外さない。
彼女を見てると自分の身体の貧相さに、「はて、性別を間違えたかな?」と首をひねりたくなる。
「あのねぇ!バレバレだから!嘘つくならちょっとマシな理由でもつけなさいよ!
あとね、ワタシだって、好きで露出してんじゃないわよ!!
ここの服ってどれを着ても露出狂になるの!仕方ないじゃない!」
あぁ、揺れてます。揺れてます。たゆんたゆーん。
彼女の怒りの動きに合わせ、いろんなモノが揺れている。そりゃあもうありとあらゆる柔いかたまりが。
ヒラリと揺れる紫色をメインに使った衣服は、サンクチュアリでの「魔法使い」の典型的な装いのはずではあるが、なにぶん規格外のナイスバディ故に彼女はそれを改造して着用しているようだ。
胸は谷間と脇に縦に切れ目が入っており、突き出した胸の先端を申し訳程度に隠している。
引き締まった腰には胸の下あたりからサッシュベルトにより胸の布がズレないように固定されてはいるが、これがより胸を強調し、そこからお尻以下は深いスリットがあり、「あれ?下着は?」と問い詰めたいくらい足がみえている。
いや、ガチで下着は?まさか、はいてらっしゃらないのかな??
「まァ、そんなナリじゃ、ただの露出狂だよなァ」
魔法使いの数歩後ろをステッキの先端を粉末にしながらだらだらと歩いていたヒーラーが、彼女と対照的にきっちり着込んでいる服を翻し、ニヤニヤと口角を上げて笑う。
「喧しいわよ、ヒョロ男。センスゼロの全身真っ赤のダサ男は黙ってな!」
「アァ゛??ヤんのか、コラ?」
「ヤッたこともないくせに」
「ヤリ違いだこのドスケベババアが!」
「あんたこそ頭沸いてんの?そっちこそヤリ違いよ!」
あ、うん。色んなヤリがふったな。
そのまま、漫画さながらのつかみ合いの喧嘩がはじまる。
あーあーあーー!?魔法使いさま!見えちゃいます!いろんな中身が見えちゃいますって!見えそうで見えないのが究極のエロスですから!見えちゃダメですってばーーーーー!
止めに入るべきか迷っていると、隣で勇者が大笑いをはじめる。
「あっはっはー!毎日毎日二人とも仲良いなー!いいな!俺らもあれやる?ねぇ、アーベル・チャーストカ?」
「いや、オレは、痛いのは、嫌だから」
勇者の前を歩いていたアーベル・チャーストカさんは、マッチョな体を縮めながら、首を横にふった。彼の動きに合わせて背中に背負った弓矢がガチャガチャと揺れている。
正にゴリマッチョ!な体つきと厳つめな顔立ちではあるが、繊細な調整が必要な弓を扱うとは、人は見かけによらない。
「それに、妖精も、怖いって」
そういいながら、彼の周りをきゃっきゃっと飛び回る妖精達を愛おしく見つめている。
色とりどりの羽根や衣装のファンシーな小人たちは、アーチャーが大好きなようで彼の周りからは一切はなれず、キスしたり、抱きついたり、髪で遊んだり、妖精同士で遊んだりと楽しげにじゃれついている。
妖精だけではなく、彼の周りには自然と鳥が飛んできて肩にとまったり、どこからか鹿の子どもがやってきてすり寄ったりと、なんだこれは白○姫のワンシーンかな?彼の空間だけディ○ニーかな?ミュージカル始まっちゃいます?というファンシードリームファンタジー感が濃厚である。ただ、妖精や動物に愛されているのは、華奢で美しく儚げなお姫様ではなく、ゴリマッチョで厳つい顔で真っ黒な鎧のアーチャーなので、ギャップがしんどい。
「うふふ、くすぐったいよ」
いや、なんだこの慈悲深い顔としぐさは。
さては、ゴリマッチョの魔法かかかったお姫様だな。彼女の王子様どこかな?
白馬と王子を探して辺りをキョロキョロしていた私の横で、勇者が一枚の扉の前でぴたりと立ち止まった。
私とアーチャーも歩を止める。
「あ、宿屋ここ!ここ!
みんな、入るよー!」
「マフと、ヒューは、どうする?」
「そのうち飽きるだろうから放置、放置」
さて、入ろー!と私とアーチャーのみ連れて扉を開けた勇者に、あれ、今回終始まともだ。人違いかな??あれ?途中から勇者の中身変わってんのかな??と首を捻る。
いや、まてまてまて。なんといっても勇者だ。天下の勇者だ。あのワイバーンを倒す程の強い勇者だ。本当はものすごくまともな勇者さまで、戦いの興奮やらなんやらでテンションも頭もおかしくなってらっしゃっただけなんだろう。
なるほど、きっとそうだ!
「••••••••••••んんんん??!」
だがしかし、パッカーンと勢いよく開けた扉の先はどうにもこうにも宿屋ではない。
岩肌むき出しの通路がはるか奥まで続いており、先は真っ暗闇になるほど長い。
「勇者さま、ずいぶん趣向を凝らした斬新な宿屋ですね」
どうか、新しいタイプの宿屋なんだよね、的な返しをプリーズ。
最近の流行りとかそういうのであってほしい。
「あれ、やっべ。これダンジョン用の通路だ、ミスったわ」
「ユー、これ、脱出不可、のダンジョンだな」
前言撤回、今の今までのまともさは、やらかしへの充電だったようだ。
そんな充電いらねぇよ!!!!