なるほど、貴方は勇者になるべくして、勇者になられたのですね
「てか、鳥もヒーラーだろォが。自分でステくらいみろや」
「••••••••••••••••••え?」
「え?って、お前ヒーラーだろ?」
「いやいやいや、私はただの一般人で」
なにを言うのかこのレッドマンは。モブの中のモブである私を前にして実に面白いことを言う。
このパーティには頭が絶滅危惧種なメンバーが二人もいるのか。
大変御愁傷様でございまする。
「なに?モナって自分の職に気づいてないの?」
「いえ、職とかありません!一般市民ですって!」
このアホイケメンが!!そのイケメンの頭の中は空洞か!顔面にステータス全振りか!振ったらカラカラ良く鳴るんじゃないだろうか、まったく!
バカも休み休みいってくれ!と、ぶんぶんと両手を振り回した瞬間ガサガサッ!と音をたてながら空中にクリアディスプレイが現れ、その中を文字が勢いよく滑っていく。
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名前・ヒューベルテュス・ラーンスキー
レベル・26
性別・男
職・ヒーラー
スリーサイズ 90/69/88
出身地 サウス
HP・1500/1600
MP・100/200
冒険者ユーグ・シャンデルナゴルをリーダーとしたパーティに所属。
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いや、MP低っ!?!
眼前に現れたステータスデータに目を白黒させながらも、思わずツッコまずにはいられない自分の性よ。
さすがちゃらんぽらんイケメン勇者にすら「脳筋ヒーラー」と言われただけのことはある。MPよりHPにステ振りされてます。
「え、いや、なにこれ、え??」
あたふたと慌てる私に、勇者はケタケタと笑っている。
「もしかして、モナってばステータスはじめて開いた?俺も始めてのときそうなったわー」
あせるよなー、なんかいっぱい出るし。といいながら力強く、手首を掴まれる。
「閉じるときはね、こうだよー」と私の手を掴むとスイッと上に滑らせる。
とたん一瞬で情報は消え去った。
「で。出すときは、こう」と、ついで私の手をそのまま横に動かすと、また情報が展開される。
「自分のデータはこっちな」と空中にぐるっと丸を描く。
『名前 モナ・ブラウン』からはじまる私のデータが表示された。
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名前・モナ・ブラウン
レベル・1
性別・女
職・ヒーラー
スリーサイズ 80/67/88
出身地 ■
HP・88/90
MP・100/900
冒険者ユーグ・シャンデルナゴルに助けられ、その時に自己治癒を無意識に行いヒーラーの職に目覚め、彼の仲間になる。
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最早もうどこからツッコメばいいだろうか。
仲間になる?!?仲間に、なる?!?!なってないわ!!!?
情報に明らかな間違いがあるんですけど、なにこの決定事項?誰が決めたんですかーーーーー?!?!
出身地 ■ってなんですか?!モブにはお家は存在しませんか?!お家がいちばんって言ったところで、靴を鳴らせど帰る家はないと!そういうことですか?!
てかレベル1のくせにMPありすぎ!チートかよ!!!!!なんのバグですか??!
ただ、かなり減っている。
つまり、このステータス情報が示すように私は無意識に治癒したらしい。
いや、治癒した。
今の今まで動かないと思った脚に力を入れてみれば、なんの痛みもなく強く地を蹴り、立ち上がることができたし、血が固まってきていて髪はバリバリだが、あったであろう位置に傷はなく、あちこち服が裂けて皮膚が見え、血だらけではあるが、埃をはらえど痛みはなく、そこにかすり傷一つ見当たらない。
どうやら真実だ。
「ユーグ・シャンデルナゴル、とは勇者さまのお名前ですか?」
ヒーラーさまのステータスにもたしかその名前があった。私とヒーラーさまに共通するのは彼だ。
「うん、そうだよ!」
なるほど。
さてさていつもの流れです。
ユーグ・シャンデルナゴル
ユー シャ
勇者
まんまじゃねーーーーーか!!
「なるほど、貴方は勇者になるべくして、勇者になられたのですね」
「え?そんなことステータスで分かるの?モナ何者なの?」
いえ、私はただのモブ
ではなくなってしまった。
どうなるんだろう。私のモブ生活は。