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「よーこそ、漂流者。名前はなんです?」
扉の先には、金髪と赤い目をした15歳くらいの少女が椅子に座り、怠そうな顔で私を迎えた。
「……市倉、沙羅」
「そーですか。じゃあエメ、シャラを被服室に」
「はい、お嬢様」
名前の訂正もこれからどうされるのかも問いただす隙すらないうちに、またぶよぶよしたものに包まれる。せめて名前の訂正だけはさせて欲しかった。
ついさっき潜ったばかりの扉を、またも自由を奪われたまま通り抜ける。
しばらく進んでから、隣を歩いているメイド……エメと呼ばれた女性に話しかけてみることにした。
「あ、あのぅ……」
「はい」
メイドは横目でこちらに視線だけを送り、短く返事をした。
「ここはどこですか?これからどこへ?さっきの金髪の人は誰ですか?あと私はどうしてここに?それとこのぶよぶよしたやつすごく嫌なので外してもらえませんか?」
意識が覚醒してから次々と溜まっていた疑問を一気にぶつける。どれか一つわかればそれでいいなんてものじゃない。全部知りたい。
「ここはお嬢様のお屋敷です。これから被服室へ。お嬢様です。その話は追々。貴女が逃げる可能性があるので容認できません。もうすぐ着きますのでどうか我慢を。」
全部答えてくれた。
「……被服室では何を?」
「貴女の好きな色を選んでいただき、それから担当のメイドが貴女用の服を作ります。」
「服?」
服?なぜ?私は今服を着ているしどこも破けているわけでもない。確かに着替えはもっていないが、わざわざ作ってもらう必要は────
そこで、私の頭に最悪な思考が過ぎった。
「帰れ、ない……?」
まさか、私はこのまま知らない家に囚われてしまう?知らない人たちの中で生きなければならない?もう家に帰れない?
最悪な思考は私をどんどん追い詰め、泣きだしたい気持ちでいっぱいになってきた。
「…………」
メイドが横目で私をみている。きっと今の私は怯えた顔をしているだろう。だけどそんなことを気にしていられる程悠長じゃない。これから何をされてしまうのか、どうなってしまうのかという不安と恐怖ばかりが膨らみ、頭がパンクしてしまいそうだ。
「♪〜、♪〜〜、♪〜」
突然、メイドが鼻歌を歌いだした。この曲は……きらきら星……?
「えっと……」
「泣いている子供には歌を聴かせてあげると泣き止む、とレオンが」
泣いている子供……?この近くには誰もいないはずとあたりを見回し、気が付いた。泣いている子供は、私だ。いつの間にか泣いていたらしい。涙で視界が霞んでいた。
メイドは、エメさんは、一瞬だけフッと笑い、すぐに真顔に戻った。
「もうすぐ着くので、それまで我慢を」
さっき聞いた台詞と同じでも、今はどこか優しく聴こえた。惑わすための演技かもしれない。それでも、私を落ち着かさせるには十分だった。
主人公の名前は『いちくら さら』と読みます。お嬢様は言い間違えてるのか噛んだのか。
ビジュアル説明
沙羅…黒のネコ耳パーカーにジーンズを履き、青と銀の間のような色をした髪をしているグレーの目の少女。15歳くらい。
エメ…赤のワンピースに白のエプロン、暗い赤の靴を身につけている茶色目の女性。軽くカールのかかった茶髪を耳あたりで2つに結っている。16〜18歳くらいの見た目。