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第61話 メルクールの願い(前編)

かなり長くなったと言うことで、2つに分けさせてもらいます。

 まだ捕まっているはずのエルフと獣人を探し、城内を探し回る。城内に存在する牢屋は地下にあるということは他の白でも同じようで、主に地下での捜索が行われた。

 予想通りといっていいのだろうか。場所が場所なのでなかなか見つからなかったが地下牢を見つけた。


 地下牢がある部屋の前に兵士を待機させ、俺とメルクールは中に入る。

 兵士を外に待機させた理由は、俺とメルクールが仮面を外すため。同じ獣人であるメルクールを見れば、獣人が安心すると思ったから外す。


 俺たちが入った瞬間、エルフと獣人から緊張したのが分かる。

 だがそれもメルクールが仮面を外した時、見た獣人たちはすぐに安心したような声が聞こえてきた。



 鍵を探すのが面倒だったと言うことで、【鉱石干渉】を使用して牢屋を壊していく。もちろん資源としても利用するためにインベントリにしまった。


 解放された獣人とエルフが次々と牢屋から出てくる。その様子をメルクールはじっと見ていた。安心させるためにメルクールが仮面を外していたので表情が分かる。獣人やエルフが話しかけるたびに笑顔を見せようとしているが、どこか乾いている。


「あら。メルクールちゃんじゃないの?」

「あ! シュルおばさん!」


 そんな中突然、出てきた1人の年老いた茶色い毛をした狼人の女性にメルクールが声をかけられた。

 どうやら知り合いのようだ。メルクールの表情がわずかにだが明るくなる。


「大きくなったわね。元気にしていた?」

「はい! おばさんも元気そうで何よりです!」


 メルクールは元気そうで何よりと言ったが、俺にはそうは見えない。虐待か拷問の影響だろう。女性の体には無数の傷跡がある。それもつい最近付けられたようだ。

 もちろんこの女性だけではなく、他の獣人やエルフにも傷があった。


「そうだ、メルクールちゃん。これあなたの母から預かったのよ」

「お母さん……から、ですか」


 女性はそう言いながら手に握っていた物をメルクールに渡した。メルクールは驚きながらも受け取る。メルクールの小さな手の上にそれは乗った。見たところネックレスだ。穴をあけた綺麗な石に糸を通したような簡単なもの。


「待ってください!」


 女性が立ち去ろうとした時、メルクールが声を出す。思ったよりも大きく、本人も驚いている。

 それでも女性は優しく微笑んでいる。

 だがそれもすぐに消えることとなった。


「お母さんはどこですか?」

「……え?」

「これがあると言うことは、お母さんいるんですよね?」


 メルクールはすがるように、今にも泣きそうな表情で尋ねる。女性の表情が暗くなった。それを見てか、メルクールはゆっくりを目を見開く。


「うそ……ですよ……ね……」


 聞こえるか聞こえないか、ぎりぎりの大きさの声でメルクールはつぶやく。それと同時に、1歩2歩と後ろに下がっていった。


「あそこにいるわ」


 女性が静かにそう言って指さした先は、牢屋の一角だった。底にはボロボロの布が敷かれており、そのうえに女性が1人横になっている。目を閉じてはいるが、わずかにだが息がある。


「お、お母さん!」


 メルクールはそう叫ぶと同時に牢屋の内部に入って女性に近寄り、近くにしゃがみ込む。


「お母さん! あたしだよ!」

「メル……クー……ル?」

「そうだよ! メルクールだよ!」


 メルクールは女性に呼びかけながら手を握ると、メルクールの母親と思わしき人はゆっくりと目を開け、声を絞り出すかのように名前を呼んだ。

 汚れているので分かりにくいが、きっとメルクールと同じクリーム色の毛なのだろう。


 見た限り、体には無数の切り傷がある。それも歩けていた獣人たちとは比べようもないほどの傷だ。生きているだけでも奇跡に見える。


「よかっ……た。最後に……あなたの声を、聞けて……」

「お、お母さん?」

「これで、お父さんのところに、行けるわ」


 まるで自分が死んでしまうことが分かっているかのように、メルクールの母親と思わしき女性はつぶやく。


「待って、待ってよ! 死なないでよ! 生きてよ! みんなと一緒に戻ろうよ! お母さんの作ったご飯を一緒に食べようよ! 一緒に寝ようよ!」

「ごめん……ね? お母さん……もう、無理……みたい」


 メルクールが涙を流しながら手を握って懸命に話しかける。だが女性はまるで生きようとはしないかのように、声の力が弱くなっていく。明らかに呼吸が弱くなってきている。


「お願い、待ってよ! レイ! 来て!」


 メルクールが俺の名前を呼ぶ。そこでじっと見ていた自分に気が付く。

 すぐさまインベントリから最上級のポーションを取り出しながら、メルクールのもとへと走っていく。


 メルクールの母親の近くに行くと体をゆっくりと起こし、口元にポーションが入っている丸フラスコのようなものの口を近づけ、傾ける。


「飲んでください! メルクールのためにも生きてください!」

「うっ……がふっ! けふっ……けふっ……」


 女性は飲もうとする。だがすぐさま吐き出した。見ると、僅かばかし血も混じっている。


「飲め……そうも、ない……わね……」


 女性は弱弱しく笑いながらポーションをぼんやりと見ている。飲めないのであれば、傷口に掛ければいい。それだけでも効果はある。

 だがそれを止めるかのように、メルクールの母親は俺の手首を握ってきた。目を見開いて見ると、女性は微笑みながら俺を見ている。


「もう……いいわ……。そっとして、頂戴……」


 どうしらた良いのかと、俺は一瞬迷ってしまう。

 その間にも、女性はゆっくりと息を吸い、ゆっくりと吐き出した。


「それ、じゃあ……メルクール。本当に、お別れ……ね。敵討ち、なんて……考え……ないで。幸せ……に、なっ……て……」

「ま、待ってよ! まだ話したいこといっぱいあるんだから! お母さんが捕まってから、私頑張ったんだから! いっぱい話したいんだから! いっぱい甘えたいんだから! 生きてよ!」


 メルクールの母親は、優しくメルクールの頬を撫でる。メルクールは涙を流しながら、自分の頬を撫でる母親の手を握る。


 だがその声はメルクールの母親には届かなかった。

 力尽きたのか、メルクールの手をすり抜けるかのように地面へと落ちる。


「お、かあ……さん?」


 メルクールが弱々しく母親に呼びかけるが、メルクールの母親返事はない。


「お母さん! お母さん! お母さん!」


 メルクールは叫びながら、母親の体を揺する。だが返事はない。人形のようにじっとしている。

 涙がメルクールの頬を伝っては、冷たい石畳の床に落ちる。


「――――ッ!」


 メルクールが叫び声をあげる。子供のように、何も取り繕うことのない、純粋な泣き声だった。


 気が付けば、メルクールに声をかけてきた女性が近くに立っていた。

 メルクールと同様に、頬に涙が伝っている。


 メルクールの悲痛な鳴き声が、狭い地下牢に狭い地下牢にいつまでも反響し続けた。




 しばらくしてメルクールがようやく泣き止んだ。

 目は真っ赤に晴れ、顔は涙でぐちゃぐちゃだ。


「私が来た時には、すでにボロボロだったのよ。ほとんど虫の息だったわ。それでも彼女は、あなたのことを思っていた。少しでも長生きしようとしていたわ。愛する娘のために」

「お、かあ……さん……」

「彼女は十分に頑張ったわ。ゆっくり休ませてあげましょ?」


 女性の言葉を聞いたためか、メルクールがゆっくりと立ち上がった。

 なにやらつぶやいているが、声が小さくて聞こえない。


 突然、入り口に向かって走り出した。


「おい! 仮面をつけろ!」


 俺はメルクールに向かって叫ぶが、聞こえたかはわからない。

 すぐにメルクールは視界から消えた。


「そう言えば、あなたはメルクールちゃんのお友達かしら?」

「友達と言うより、仲間ですね」

「仲間?」


 女性がオウム返しをするので、大雑把にだが説明をする。本当に大雑把だ。

 だがそれでも、年老いた獣人の女性はまるで母親のように、嬉しそうに頷きながら話しを聞いていた。


「良かったわ。あの子が楽しそうに過ごしていて」

「一緒にいる俺としては、元気すぎて少々困るときがあります……」

「うふふ。でも、その分一緒にいれば元気を貰えるでしょ?」

「確かにそうですね」


 俺はメルクールに出会ってからのことを思い出す。確かにいろいろとあった。


「でも昔はあの子、もっと暗かったのよ?」

「暗かった……と言いますと?」

「あの子、父親は殺され、母親は捕まったでしょ?」

「ええ。本人から聞いています」


 俺がメルクールから話を聞いているといったとき、女性はわずかながら驚いていたが、話を続けた。


「両親がいなくなった当初、メルクールちゃんは死に物狂いで強くなろうと頑張っていたのよ。大人が止めるほどにね。無茶をしたために、時々死にそうになったのよ」

「死にそうになるって、かなり無茶をしていますよね……」

「ええ。だから私、一度聞いたの。強くなったらどうするのか。そしたらメルクールちゃん、なんて答えたと思う?」

「……誰も失わないようにする、ですか?」


 メルクールが自分の過去を語った時に言っていた言葉を思い出しながら答える。

 だが女性は首を横に振った。


「いいえ。違うわ。『お父さんを殺し、お母さんを連れ去った時にいた兵士を覚えている。だから単独で突っ込めるほどまで強くなったら、そいつらを殺す』だそうよ。その時のメルクールちゃん、かなり目が本気だった。大人である私でも、恐怖を覚えたわ」


 それを聞いて嫌な予感がした。

 形は違うが、メルクールはすでに街に入った。しかも兵士は捕縛されている。殺すならチャンスだ。


「すいません。メルクールを探してきます」


 俺はそう言うなり、仮面をつけて地下牢を出る。後ろで女性が何かを言っているが、すでに離れたので何を言っているのか分からなかった。



 外で待機していた兵士とすれ違うが、今は無視。すぐさま捕縛されているレールン王国の兵士たちのもとへ向かう。捕縛されている兵士は中庭にいるので、メルクールもそこにいるはずだ。


 ほとんど全速力に近い速度で走る。すれ違う兵士たちが何事かとこちらを見るが、構っている暇はない。可能性が低いことはないが、メルクールが兵士を殺すかもしれない。止めなければならない。


 牢屋までの道のりを思い出しながら中庭へと向かう。全速力で走れるように、手には何も持たないようにする。

 メルクールが牢屋から出てからそこそこの時間が立っているので、すでに手遅れかもしれないが、わずかな可能性に賭ける。


 角に近づくたびスピードを落とす。それがもどかしい。




 何度も加速減速を繰り返しようやく中庭に到着。すぐさま中庭の隅々にまで目を走らせる。


 見つけた!


 場所は俺が出てきた場所から離れた中庭の隅の方。フード付きコートを着ている人が1人いる。

 場所が悪いと言うことで横姿でしか確認を出来ないが、大きさ的にメルクールで間違いない。さらに周囲を見てみるが、シュティア達4人は見当たらない。


 メルクールの正面には1人の兵士が縛られ座っている。メルクールと向かい合うように座っているため、顔は分からない。多分だが、会話でもしているのだろう。

 メルクールと1人の周囲には人がおらず、ほとんど2人きりの状態。

 幸い、まだ殺してはいないようだ。


 だが安心したのもつかの間。

 右腕をあげたと思ったら、手にはダガーが握られていた。上にあげられた右腕はわずかながら震えており、まるで何かに耐えているかのようだ。


 状況は見ればわかる。兵士を殺そうとしている。


 メルクールの向かいに座っている兵士の方はと言うと、殺されそうな状況のためか、震えている。

 いや違う。笑っている。わずかだが、笑い声が聞こえる。


 すぐさまインベントリからスナイパーライフルを取り出す。本当は地面に伏せた方がぶれは少ないが、そんなことをしている暇はない。


 メルクールの持っているダガーに照準を合わせようとしたが、遠い上に目標であるダガーが小さい。それにすぐさま撃たなけれなばならない状況でしっかり狙い、確実に当てることなどほぼ不可能だ。


 一瞬迷ったが、必要な犠牲だと割り切り、照準を兵士の頭に向ける。

 躊躇なくすぐさま引き金を引く。


 パンッ!


 音と共に銃弾が銃口から飛び出る。まっすぐと飛翔し、狙い通り兵士の頭に当たる。当たった場所はこめかみ付近だ。

 衝撃のためか兵士は横に倒れるが、地面に倒れ切る前に絶命している。


 倒れる兵士を見ていたメルクールが、俺の方を見る。横からだったのできちんとは分からなかったが、こちらを見たことにより、仮面をきちんとつけていることが確認できた。


 ――と安心しているのもつかの間だった。


「なん、で……なんで殺したんですか!」


 メルクールはそう叫びながら、手に持ったダガーで俺に()()()()()()()()

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