第58話 戦略級魔法
今回は視点を変更し、3人称でお届けします。
後書きに今回の説明と、少し手直し修正を加えたところを書いておくので、興味のある方は読んでみてください。
レールン王国にある街【アスノハ】奪還戦のあと、休憩を入れたレールン王国の軍はアルール王国の王都へ向けて侵攻。
途中、領土内の街である【ウィーン】に到着するも、【アスノハ】の時のようにアルール王国の兵士たちは籠城をしていなかった。
そのためアルール王国は兵力を無駄に減らさず、進行することに成功。
だが国境を越え、レールン王国に入っても敵兵士は一切攻撃をしてこなかった。いや、一切は言い過ぎた。
何を焦ってか、命令を聞いていなかったのであろう日本人が数人、単独で攻撃をしてきた。いくら夜中であったといっても、数人でどうにかできるものではなく、あっけなくアルール王国の兵士たちに捕まる。
もちろん捕虜として生かしている。
レールン王国の兵士が一切いないと言うこともあり、アルール王国の軍は一気に進軍。
そんな中レールン王国の街【エリーノ】に入る。だが、まるでレールン王国の兵士は街を見捨てたかのように、撤退しており姿が見えない。
犯罪者を取り締まるはずの兵士がいないというこもあり、【エリーノ】は無法地帯と化してる。あまりにもひどい状態だ。
殺人や強盗はもちろんのこと、強姦まで行われている。あまりにも危険。戦う前に命を落とすかもしれない。そのため街にある食料を強奪し、すぐさまアルール王国の軍は街を出発することとなった。
そしてそれは【エリーノ】だけではない。
【ハルーフ】と【クリノス】でも、兵士がおらず街は無法地帯と化していた状況は全く同じ。
何度見ても慣れる物ではない。
特に日本ではこのような状況はないので、ストレスからなのか零はわずかばかし体調を崩してしまっていた。
治療のための魔法はあるが、乱用は良くないと言うことで、薬草をいくつか知っているウーラが薬草を使用して薬を作り。
だが問題があり……
「飲めるか! こんな苦い物!」
「あら? 私が作った薬が飲めないのかしら?」
「子供じゃないんですから飲んでください!」
ものすごく苦く、飲めるような物ではない。エルフの郷で飲んだヴェーヌ作の野菜ジュースといい勝負の苦さがある薬だと、零は内心思いながらヴェーヌとの攻防を続けている。
そして零のために作ったにもかかわらず「飲めるか!」と怒鳴られたウーラは眉間にしわを寄せ、零を睨むかのように見ている。
「離せ! 俺は飲まなくても元気だ!」
「の、ん、で、く、だ、さ、い! シュティアさん! 早く!」
だがついに薬を飲まなくていいと言っていた零は、テント内でヴェーヌに取り押さえられた。わずかな油断からだった。近くに待機していたシュティアが強引に飲ませる。
そんな様子をメルクールとウーラ、カナが静かに見ていた。どこか呆れたような表情をしているが、それは逃げていた姿に対してなのか、それとも捕まってもなお暴れる姿に対してなのかは、本人たちにしか知らない。
肝心の零の体調だが、苦すぎたために余計体調が悪化――なんてことはなく普通に回復。翌日、テント内で機嫌の悪いウーラに土下座して謝罪と感謝をしている零の姿を見たとか見なかったとか……
そして零が体調を崩している間も兵は移動。
レールン王国の兵士たちが攻撃をしてこなかったと言うこともあり、わずかな違和感を覚えつつ予定よりも早くレールン王国の王都の目の前まで来ていた。
だが事態は一気に一変。
ちょうどレールン王国王都と、零が王都を出て始めて立ち寄った街である【ハルーフ】の中間地点あたりでレールン王国の兵士たちは攻撃を仕掛けてきた。
レールン王国の兵士たちが攻撃してこないことに違和感は覚えていた。だがレールン王国の王都が近づいてきたと言うことに、兵士はもちろんのこと国王までもが、わずかだが油断してしまっていた。結果、【ハルーフ】と王都方向の2方向から攻撃をされるという事態に陥る。
急いで陣形を整えるも、時すでに遅し。レールン王国の兵士たちは陣形をきちんと整え、アルール王国の兵士たちは陣形を満足に整えていないままの戦闘となり、かなりのピンチに陥っている。
零は後方から来たレールン王国の兵士たちの相手をするために、後方へカナとメルクールと共に下がった。ヴェーヌは前方へと走っていく。
魔法使いであるウーラとシュティアは前にも行けず後ろへも行けないために中央付近出援護。そこにはアルール王国の魔法使いたちや弓兵もおり、前と後ろに向かって魔法や矢を放っている状態だ。
10名ほどしかいない捕虜は、逃げないようにしっかりと縛り、近くに座らせている。本当は眠らせるなどするつもりだったが、不必要な魔力を消耗しないようにとのことで起きたままになっている。ただ念には念を入れ、捕虜はまるで1本のロープで繋がれているようにくくられていた。
「まずい! 敵が包囲しようとしているぞ! 魔法を打ち込め!」
「ポーションをくれ! 魔力が付きそうだ!」
「早く治療しろ! 死んでしまうぞ!」
ただ前線ではないからと言って、落ち着いているわけではない。前線とはまた違った意味で、魔法を使う者たちも慌てている。
「まずいわ。いつ陣形が崩れてもおかしくはない状況ね」
「……うん」
回復魔法をアルール王国の兵士たちに向かって使いながら2人は言葉をかわす。アルール王国の軍はすでに包囲は完成しつつあり、じりじりと迫ってきている。
しかも人数が多い。まるで国中に残っている兵士をかき集めているかのようだ。
それを見たアルール王国の兵士たちは焦り、捕縛されているレールン王国の兵士たちは期待に満ちた目をしている。このままでは立場が入れ替わる。
さらには指揮をするために、この場にいる国王の命も危ない。兵士たちは最後まで己に課せられた仕事をやり通そうと必死になり剣を振る。それでも敵の包囲は徐々に小さくなっていった。
零のインベントリに入っているドローンだが、最初は銃弾を雨のように降らせていた。だが途中で弾切れを起こしたため、上空を旋回するだけとなっている。
弾切れの原因だが、飛行船を落とすときに多くの銃弾を使った。戦闘の後にある程度ドローンに銃弾を補給したが、それでも少なかったようだ。
ミサイルだが、これは威力が強すぎる。すでに包囲が狭まった今、使用すれば間違いなく見方にも少なからず被害がでる。結果、使用はできていない。
「なあ、ねぇちゃん? 俺の手下にならないか? そうすれば、命だけは助かるかもしれないぞ?」
「考えとくわ」
「おいおい? 早く答えを出さないとまずいんじゃねのか?」
日本人の男子生徒の1人が余裕を浮かべた表情でウーラに声をかける。もちろんウーラは仮面を被っているので顔はバレていないが、男子生徒は声で女性と見抜いたようだ。
ウーラは集中するためか、ぶっきらぼうに返事をする。だが男子生徒は声をかけ続けた。そして少しでも気を引こうとしたのか、別の話題を出す。
「そういえば、同じ姿の奴がいたよな? 声からして男か」
「それがどうしたのかしら?」
ウーラは返事をしつつ、今度は弓を構えて矢を放つと敵兵士を射抜く。距離はあったが、さすが物語にも出てくるエルフ。ちょうど味方兵士に切りかかろうとしていた敵兵士に当たった。
「あいつの持っている銃――お前たちにはわからないな。あの武器だが、俺の知っている奴も持っていたぞ?」
「あら、そうなの?」
ウーラは極力、自分はそれを知らないかのように振る舞う。だがどうやら声の調子が変わってしまったようだ。
そして男子生徒はそのわずかな違いに気が付いたようで、賭けに出る。
「お前は零を知っているか? あいつは零か?」
「さあ? どうかしら?」
男子生徒の問いに、まさか知っているとは思わなかったウーラは一瞬動揺するが、まるで知らないかのように答える。ウーラ本人も驚くほど、いかにも知りませんといった感じに言葉が口から出た。
だがシュティアの方はわずかながら動揺を見せる。
運が悪かった。日本人はシュティアの動揺にたまたま気が付いた。
男子生徒は確信を持つ。同じ姿で男性の声である者が零であると言うことを。男子生徒はそれを利用する。
「ほう? それじゃあ、弱い癖に簡単に人を殺すようなあいつは、目の前で殺されても問題ないんだな?」
男子生徒の言葉にウーラは一瞬言い返しそうになったが、何とか踏みとどまる。ここで何か言ってしまえば、零が零であると認めてしまうことになる。それはなんとしても防ぎたかった。
だがどうやらもう1人の方は、踏みとどまることが出来なかったようだ。
「……零は、弱くない。人を、殺して……苦しんでいる。分からない……くせに、簡単に……言うな」
「強い強くないは、お前たちと比べてか? それだったら弱くないだろうな?」
「止めなさい、ワン。乗ってはだめよ」
シュティアが魔法での援護を止め、男子生徒の挑発に乗り始めたのでウーラは注意をする。だがシュティアは言うことを聞かない。
「……仲間を馬鹿に、するな」
「ワン。いい加減にしなさい!」
ウーラもついには魔法での援護を止め、シュティアを止めようとする。
「俺の言っていることは間違っているか? 弱い奴らが集まったら強く感じるだけだ。だが周りと比べれば弱いだけだと思うがどうだ?」
「……黙れ」
男子生徒の言葉に耐え切れなかったのか、シュティアが冷たい声で言う。零と会ってから今まで出したことのない、ゾッとするような冷たい声だ。
まさかこのような声を出すとは思っておらず、ウーラは口を閉ざしてしまう。男子生徒も一瞬だが、シュティアの出した雰囲気に呑まれた。
その間に、シュティアは再び口を開く。
「我は願う。故に我の願いに答えよ。我の魔力を貪り、地上に白き大地を生み出せ――」
怒りのためか、先ほどと同じようなゾッとするような声を出して何やら言い始める。男子生徒は前衛だ。故にこれが魔法であると言うことはわからない。
長生きをするエルフであるウーラだが、この詠唱の魔法が何なのか分からなかった。それほどまでに普段耳にしないもの。
だがすぐに記憶の中から、この魔法がどのようなものなのか出てくる。それと同時に驚きと焦り、両方の感情に襲われた。そしてその感情によりウーラは行動を遅らせてしまった。
その間にもシュティアは詠唱を続ける。
「――あまつさえ、すべての忌まわしき敵を万年にわたり封じ込める柱を地上に築きあげろ。そうして白き都と成長せん。我はそれを願う――」
「止めなさい、シュティア! あなたはその魔法を起動できないわ! それに魔力が圧倒的に足りないわよ! 命を落とすかもしれないわ!」
ウーラが焦ったように警告を発する。それもそのはず。
シュティアが唱えている魔法は、人はもちろんのこと、魔力をたくさん持っているエルフでさえ、1人ではとてもじゃないが足らないものだ。
魔法を発動中に魔力がなくなった場合、魔法は中断され気を失う。それは問題ない。ただ、戦闘中にそのようなことが起きるのは自分の命はもちろんのこと、仲間の命も危険にさらすことになる。
そしてここは戦場。あきらかに場所が悪すぎる。
だがシュティアは詠唱を止めず、最後の言葉――起動させるための言葉を発する。
「――汝の力を我に見せよ。ニヴルヘイム」
その瞬間、シュティアの足元から白い線のような物が360度、全方向へと地上を走っていく。空から見れば、それはまるで蜘蛛の巣が広がっていくように見えるだろう。だがそれに触れた瞬間、たちまち体に氷がまとわりつく。
その間にも氷は広がって行き、止まることなくレールン王国の魔術師や弓兵のところまで広がった。
空から見れば、氷の彫刻が建物のように見え、光を反射して輝き、さぞかし綺麗だろう。
だが実際はおぞましいもの。
真っ先に被害を受けたのは、シュティアの目の前にいた日本人。先ほどまでしていた表情のまま、氷漬けになっている。まるで氷の彫刻だ。もちろん中にいる日本人は体の芯まで凍り付き、とっくに息絶えている。
そしてオブジェクトと言えるようなそれは、戦場のいたるところで見ることが出来る。レールン王国の兵士たちは、あるものは剣を振り上げた形で、あるものは魔法を放とうとした形のまま。そしてある者は逃げようとした体制のまま氷漬けになり固まっている。
凍ったのはレールン王国側の兵士達のみで、アルール王国側の兵士達は凍ってはいない。まるで氷が敵味方を判断したかのようにアルール王国の兵士たちを避けて行っていったのだ。
この魔法を放った張本人であるシュティアは、魔力切れのためか静かに地面に横たわっている。死んではいない。気を失っているだけだ。
そしてその周りでは、アルール王国の魔術師たちが困惑をしている。それもそのはず。なぜなら……
(本来は1人で成功させることが出来ないはずの戦略級魔法を成功させるなんて。あなたはいったは何者なの……)
倒れているシュティアを呆然と見ながら、全身鳥肌が立ったような感覚のままウーラは心の中で尋ねる。もちろん答えてくれる者など、倒れているシュティア以外いない。
さすがに氷漬けされたレールン王国の兵士たちは置いておく以外どうしようもない。ただ、こんな物騒な物の近くにいることはさすがに避けたいと言うことで、必要最低限の治療を行ったあと、少し移動して治療がてら野営の準備となった。
「さて、それじゃあ詳しいことを教えてくれ」
「分かったわ」
とあるテントの中に零達6人が集まり、コートと仮面を外して向かい合うように話し合いをしている。もちろんシュティアについてだ。詳しく言うと、シュティアが発動した魔法についてだ。
本人は未だに目を覚まさずに眠ったままと言うことで、1番近くにいたウーラが説明することとなった。
日本人が話しかけてきたことから説明を始め、シュティアが魔法を発動させて倒れたところまでをウーラは説明する。
零は魔法をあまり知らないと言うことで、シュティアが発動させた魔法が戦略級魔法であることも伝えるあたり、きちんと零のことを理解できているといっていいはずだ。
発動させた魔法が戦略級魔法であると伝えた時、零は複雑な表情を見せた。もちろんメルクールとヴェーヌも複雑な表情を見せる。ウーラでも困惑したので、当たり前といったら当たり前だ。
「ウーラ。もう一度聞くが、本当に氷属性魔法の戦略級である【ニヴルヘイム】でいいんだな?」
「ええ。間違いないわ。逆に【ニヴルヘイム】じゃなかったら、何なのかっていう話よ」
「でもまさか、シュティアさんが1人で発動させるなんて、この先どうするのですか?」
零が確認を取ると、ウーラは真顔で言い切る。ヴェーヌは別の質問を零に投げつけたが、質問を投げつけられた零はなぜそんなことを聞かれたのか一切分かっていない。
まるで事前に打ち合わせをしていたかのように、ウーラとヴェーヌが同時にため息をついた。2人は軽く目くばせをすると、代表をしてかウーラが説明をする。
「多分……じゃないわね。間違いなくシュティアはレールン王国騎士団の魔法使いの部隊に入れられるわ」
ウーラはそこで止め、零の表情を確認する。だがさらに分からなくなっているような表情を零が見せたと言うことで、ウーラは説明を続けた。
「戦略級魔法を使ったのよ? それも1人で。今回がたまたま成功しただけだとしても、戦略級魔法を1人で、それもあれほどの広範囲に使えるほどの魔力量であることは知られたわ。そうなれば後はどうなるか分かるわよね?」
「例え戦略級魔法が使えないとしても、魔力量が多いと言うことで入れさせられるかもしれないと言うことか?」
「そういうことよ。それをどうするかってことよ」
「もちろん決まっている。それは今後も変わらない」
ウーラの説明で分かったようで、零が確認を取る。それに頷くと再度ウーラは尋ねた。
零は力強く即答をするが、最後までは言わなかった。言わなくても、寝ているシュティアを除く4人はきちんと分かってくれると判断したから。
そしてそのように返してくると分かっていた4人は表情を変えない。代わりに、4人はさらに真剣な表情になる。
「場合によっては、騎士団と戦うことになるわよ?」
「もちろんそのぐらい覚悟の上だ。仲間のためなら1国ぐらい焼け野原にしてやる」
「いや、零さん。それはやりすぎですよ……」
「そのぐらいの覚悟があると言う意味だ……」
「でも、みさいる……だったかしら? それはいくらでもあるのよね? あなたならやりそうね」
「おい。俺をなんだと思っている」
「動く戦略兵器ってとこかしら?」
最後の方は見事に話の趣旨がずれた。だが5人の意見は一致した。
そしてそれを確認するかのように、零は4人の顔を順に見る。
「シュティアを守る……でいいな?」
それを聞いた4人は力強く頷いた。
「それよりも、なんでシュティアさんは戦略級魔法を使えたんですか? 魔力明らかに足らないですよね?」
「メルクール。それを聞かれても、誰も答えられないぞ?」
ポツリと漏らしたメルクールの言葉に、零はやや呆れながらも答える。魔法に詳しいエルフであるウーラに分からないことが、他の4人に分かるわけがなかった。
それが分かる可能性があるのはシュティアのみで、当の本人はまだ眠っている。そんなシュティアを5人はじっと見ているしかなかった。
ほぼ1話を使って伏線を書いてみたのですが、うまく伝わったでしょうか。
少々心配です……
今回出てきた戦略級ですが、少々説明が足りないかも+まとめ用で書いておきます。
それでも説明が足らなかったりして……
火・風・水・土・氷・雷・闇、各1属性にそれぞれ1つずつ戦略級が存在(火・風・水・土の4種を、基礎4魔法と呼ぶ)
魔法のうち、初級~上級までは練習さえすれば習得(ステータスプレートに表記されること)が可能。だが戦略級を取得した者は歴史上確認できていない。
成功率だが、複数人で詠唱し成功確率を上げたとしても80~90パーセントほど。ましてや1人でするなど、成功するはずがない。
また必要とする魔力は戦略級だけあって初級~上級と比べると非常に多い。人が数十人規模で詠唱した際の作用である、1人当たりの魔力の使用量が減る効果があったとしても倒れる人が続出する。それも国内屈指の魔力量が多い魔法使いの集まりで。(ただ、その集団の魔力量は、エルフ数人分の魔力量とほとんど変わらない)
必要魔力が多く成功確率が低い戦略級。にもかかわらず、シュティアは成功させました。
理由はもちろんありますが、それはそこそこ……かなり(?)先で分かります。
修正点です
第55話 日本人の扱いと国への疑問
死者が(確か)50人となっていましたが、20人に減らしました。それでもまだ少し多く感じますが……
また、捕虜について書いていなかったので15人と記載しました。このまま行くと思いますが、下方修正を加えた時はまた連絡いたします。




