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第57話 アスノハ奪還戦(後編)

 俺のやったことは、誰が見ても無謀と言えるもの。


 まず、矢が飛んでくる中、走って門まで行くこと自体がおかしい。

 さらには門を開く方法も間違っている。対ドラゴン用に作ったもので門を破壊するなど、前代未聞だろう。

 ただ思いつく限り、素早くかつ確実に門を破壊する方法はこれしかなかったので仕方がない。


「うっ……」


 記憶が一部抜けている。どうやら一瞬気絶をしてしまったようだ。戦場の――しかも敵の目の前でよく気絶なんてしていれるなと自分に言い聞かせつつ、すぐさま状況確認。


 門だが問題なく破壊できている。

 ただ、威力が高すぎたのか、それとも至近距離での爆発だったのかは分からないが、扉自体は吹き飛び跡形もない。さら、扉の周りの石も一部壊れて、崩れかかっている。


 後ろを振り返ると、アルール王国の兵士が近づいてきているが、まだまだかかりそう。もちろん城壁の上の兵士は健在なので、アルール王国の兵士達が危険。


 そう思った瞬間、俺は立ち上がると盾を持ち直し門をくぐる。爆破の影響か門の近くにいた兵士たちは倒れており、その兵士たちを助けようとしている兵士たちが慌ただしく動いている。


「敵が1人入ってきたぞ!」

「取り囲め!」


 何人かは俺に気が付いて周りに知らせているが、今は放置。


 すぐさま近くにあった階段を駆け上る。どこまでかは分からないが上へと続いている。ざっとだが、大人が2人通れる広さはある。ただ鎧を着た人がすれ違うのは少し厳しいかもしれない。

 この階段が城壁の上まで続いていることを願う。


「来たぞ! 迎え撃て!」


 上からのぞき込んでいた兵士に見つかった。すぐさま4人が出口を塞ぐように前後2列横2列に並ぶ。手には木の棒のような物を持っている。

 ただの棒のような物を持ていたために安心してしまったが、頭の隅に追いやられていた情報をすぐさま思い出した。慌てて盾を構え直す。それと同時に声が聞こえる。

 時間を置かずに盾に何かがぶつかったのか、衝撃を感じた。


 入り口をふさぐようにいた4人は魔法を放ってきた。手に持っていたのは杖。わずかながら威力を上げる地下柄あるとかないとか……


 どのような魔法であるかは詳しく分からなかったが、水属性の魔法であることは分かった。階段が水びたしだ。

 すぐさま4人は次の詠唱に入った。俺は左手だけで盾を持つと、インベントリからハンドガンを取り出す。すぐさま盾と壁の隙間から足を狙い撃つ。


 パンッ! パンッ!


 2発とも前列にいる2人の足に当たった。まさか反撃してくるとは思っていなかったのか、4人はどうようする。その間に一気に駆け上がる。


 2人は怪我をしていたが、残りの2人は残っている。そしてその2人が反撃のために詠唱に入ろうとした瞬間、俺は出口にたどり着いた。

 立っている2人を盾で押し倒すと、その勢いのまま外に飛び出た。


 暗いところから明るいところに一気に出たためか、一瞬目を細める。だがすぐになれたこともあり、周囲の状況を見ることが出来た。


 城壁の上だが、大砲が置かれても尚余裕のある幅だった。

 そんな風にのんきに考えているが、状況はかなりまずい。俺を取り囲むようにたくさんの兵士達が集まってきた。俺と先ほど駆け上がってきた階段の間にも兵士を置かれているので、戻るのはほとんど不可能に近い。


 兵士は全員鎧を着ている。ただ鉄装備のうえに紋章は俺がレールン王国の王都で見た紋章にはなかったので、どこかの街の兵士だと思われる。


「いますぐ降伏しろ! お前に逃げ場はない」


 兵士の1人が俺に向かって叫ぶ。確かに逃げ場がない。

 できればこの状況を打破し、今も攻撃を行っている大砲を破壊していきたい。ただ、俺1人ではこの状況はまずい。


「くそっ! 2人目の侵入者だ!」

「上に上がったぞ!」


 下が騒がしくなる。スキルにある【気配察知】を使うと、階段を1人上がってきているのが分かった。この気配はいつも良く感じている。


「おりゃぁ!」


 気合を入れるためか声を出しつつ、駆けあがってきた勢いのまま小柄なメルクールが俺の頭上を飛び越える。


 メルクールは俺と兵士たちの間に着地すると、そのまま一気に兵士達の首を両手に1本ずつ持ったダガーで切っていく。まるで踊っているかのようだ。5人ほど切った所で、相手と向き合ったまま俺の近くに後ろ飛びできた。


 メルクールが何人か切ったということで、少しは人数が減ったが、まだまだおおい。


「阿保なんですか! 1人で突っ込むなんて阿保なんですか!」

「その1人を助けに来るお前も十分に阿保だろ!」


 メルクールが怒鳴るので、俺も怒鳴り返しながら背中合わせになるように体の向きを変える。1人増えたが、それでもどうなるか分からない。


「ところで、どうにかする案はありますか?」

「……ない」

「……ですよね」


 メルクールが半分呆れながら返事をする。見えないが、雰囲気で肩を落としているような感じがした。

 だが完全にないわけではない。どのくらい通用するか分からないので使わなかった手がある。 


「今から秒後に敵がひるむ」

「本当ですか!?」

「ああ。その間に向こうに走れ。道中、敵は殺さなくていい。攻撃ができない程度に怪我をさせろ。あとは中に入ってきたアルール王国の兵士たちがやってくれるはずだ。くれぐれも、俺が止めないといけなくなるほど暴れることがないように。数えるぞ」

「暴れたらだめなことぐらいわかっていますよ」


 力強く返事をしてくれた。俺はそれを聞き、仮面の内側で口角を上げる。

 ちょうど3秒立った時、威圧を周囲に放つ。威圧はレベルなどの条件により、どの程度影響を受けるか受けないかが決まるが、今回はどうなるか。


「「「……ッ!」」」


 俺の放った威圧の影響を受け、大半の敵兵士が1歩下がる。隙ができた。

 それと同時に俺は前方に走り出す。後ろでは俺に遅れてメルクールが走り出したことを感じたが、振り返らない。信用できる仲間だ。下手に心配をして振り返り、俺が怪我をすれば意味がない。


 前方にいた兵士を盾で突き飛ばすかのようにぶつかる。隙をつかれた兵士は対処できなかったために、まるでトラックに跳ね飛ばされたかのように地面を転げた。


 俺はそれを確認すると、そのまま走り続ける。

 目標は大砲などの防衛設備や弓兵など、アルール王国の兵士たちが進行するにあたって邪魔な存在を破壊もしくは無力化。特に大砲は脅威になるので、出来る限り壊す。


 俺に近い大砲へ近づく。こちらに気が付いた敵兵数名が剣を抜くが、俺は手に持っているハンドガンで敵の足を撃ち抜く。立っていられなくなったのか、兵士がその場に倒れた。

 殺すつもりはないので、倒れた敵をよけつつ大砲に近づくと、手で触れる。すかさず【鉱石干渉】を使用し、発射口を変形させ塞ぐ。倒れた兵士たちが起きあがろうとするころに、俺は再び走り始める。


 そして次の大砲のところにつくと、再び【鉱石干渉】を使用して使用不可能に。


 道中、弓兵が俺に向かって矢を放とうとするが、味方に当たることを恐れてか放ってこなかった。その間に近づいた俺はハンドガンから持ち替えた刃物を使用して弦を切り裂く。

 ついでに盾で突き飛ばし、軽いけがを負わす。


 かなりの距離を移動したとき、上からのぞくように門の方を見る。ちょうどアルール王国の兵士たちが中に入っていくところだった。どうやら仕事は終わったようだ。


 門から視線を外し、メルクールが駆けて行った方を見ると、こちらの方に走ってきているところだった。俺も走ってメルクールの方へ向かう。



 ちょうど上がってきた階段のところで合流。もちろん復活して反撃をしてきた兵士達には再び倒れてもらっている。


「無茶はしていないだろうな?」

「もちろんです!」


 メルクールは無い胸を張る。いろいろと可哀想に思ってしまい、ついつい頭を撫でてしまった。

 そこに兵士たちが階段を上ってきた。邪魔にならないように端っこに退避しておく。


 兵士が上がるのを待っていると、階段をあがってくる兵士と兵士の間を利用し、メルクールを除くシュティア達4人が上ってきた。

 俺とメルクールを見るなり、駆け足で近づいて来る。


「あなた、何もないわよね?」

「ああ。問題ない」


 俺とメルクールと合流するなり、顔がぶつかりそうな距離でウーラが尋ねてくる。あまりにも近づいて来たために、つい1歩後ろに下がってしまった。もちろんどこも怪我はないので問題ないと答えておく。


「そう」

「……大丈夫なら……いい」


 俺の言葉を聞き、ウーラは安心したのか大きく息を吐いた。シュティアも安心したようで、ほっとしている。

 その間も、兵士たちは続々と登ってくる。街の方を見ると、残っているレールン王国の兵士たちとアルール王国の兵士たちが戦っているのが見えた。


 上に上がってくる兵士たちがいなくなったところで、俺達も加勢すべく階段を降りて合流する。




 加勢するといっても、あまり積極的には動かない。

 先ほどさんざん戦闘をしていた俺が言うのもおかしいが、これ以上人を殺したくなかったため、極力戦闘はしたくなかったことが理由だ。

 唯一したことと言えば、遠距離から魔法を放ってくる人に向けライフルを撃つぐらい。もちろん足をねらって打つ。それでも威力が高いと言うこともあり、ただでは済んでいない。


 魔法が使えるシュティアとメルクールは、治療系の魔法を負傷した兵士たちに使ったり、矢が飛んできたときに風魔法を使用して矢を防いでいた。

 メルクールとヴェーヌは前衛だが、時々建物の間から飛び出てくるレールン王国の兵士がいるので、その人たちと後方で戦っている。


 ちなみに、カナはここにはいない。状況を常に知っている方がいいと言うことで、指令を出す国王達のところの近くで待機し、ドローンを使って常に空から敵の動きを監視している。また時々だがドローンについているガトリングガンを発砲をしている。場所が悪いため、これが威嚇のための発砲か攻撃のための発砲かはわからない。


 

 ただ意外にも、街の内部にいるアルール王国の兵士たちが思ったより多く苦戦した。ヴェーヌの予想だが、平地であった戦闘から逃亡してきた兵士がまぎれているのではないかのこと。


 戦況はこちらが優勢。街に入ってそこまで経っていないにもかかわらず、街のほとんどを制圧できている。ここでも捕縛できなかった兵士たちが、アルール王国側にある門を使用し逃亡していった。


 結局その日の夕方より少し前には街全域を制圧し、安全も確認出来た。

 だがアルール王国の兵士がいなくなったからと言って、すべてが片付いたわけではない。問題はいくらでもある。



「これは……酷いな」

「ええ……」


 ある程度することが終わったと言うことで、俺達6人は街の状況を見て回っている。ただ俺が言葉を漏らした通り状況はあまりにも酷い。王都よりも状況は酷いかもしれない。

 それは隣を歩いていたヴェーヌも同じように思っていたようだ。


 民家や商店の扉は壊され、半壊している建物もちらほらと見える。また路上には何人もの人や馬車が倒れている。略奪や殺人の跡が生々しく残っていた。そんな中を歩いて見て回る。


 もちろん見て楽しい物のはずがなく、1時間も立たない間に指令所の役割を果たしている領主邸に向かうこととなった。




「ゼロ。夕食は済ませたか?」

「はい。戻ってくる途中に貰いました」

「それならよかった。今後について話したい。ついてきてくれ。もちろん全員だ」


 俺達が広場に近い場所にある領主邸に向かうと、副団長が尋ねてきたので貰ったことを伝える。

 俺が答えた通り、夕食は指令所の役割を果たしている領主邸に向かう途中に貰った。街にはある程度食料があったと言うことで、ここに来るまでに食べていたよりはマシな夕飯となった。


 俺は副団長に言われた通りついていく。


 向かった先は、領主邸にある1室。そこは王城の広間と比べるとあまりにも狭い部屋だが、この屋敷の中では1番大きな部屋のため指令所代わりになっていると、移動中に副団長から説明された。



「国王様。ゼロを連れて参りした」

「おお、来たか。ご苦労」


 副団長が先に入り、そのあとに俺たちが入る。副団長の声に気が付いた国王は、机の上にある物からこちらに視線を映してきた。この部屋にいたのは国王だけではない。援軍で来た他の領主たちも机を取り囲んでいたが、国王と同じく視線を俺に移してきた。


「これでそろったな。それでは話を詰めるか」


 国王がそう言うと、今度は机の上に視線を落とした。副団長が手招きをした後、机の方に移動するので俺も付いて行く。


 1か所空間があったので俺はそこに入る。

 机の上には地図が広げられており、【アスノハ】の街の位置に駒が置かれている。これはアルール王国の兵士を表しているのだろう。

 レールン王国の兵士を表しているであろう駒は、【アスノハ】とアルール王国に近い街【ウィーン】との真ん中ほどに置かれている。


 国王が説明を始めたので国王の方を見る。


「先ほども言った通り、敵兵はアルール王国との国境の方へ向けて撤退中だ。ただ、今回の戦いでかなりのアルール王国の兵士の数を潰すか捕縛して削いだため、敵の戦力はかなり激減した。これで主力側の方は安全になったといってもいい。それより心配なのが海側に行った別動隊の方だ。そのためこちらから、いくらか戦力を送ろうと思っている。そこでゼロに頼みごとがある」


 まさかここで突然話を振ってくると思っておらず、声が出なかった。それでも国王は続ける。


「お主の仲間に魔法を使えるものがおるな? それもかなり熟練したものが」


 多分だがシュティアとウーラのことだろう。ただ、それがどうしたのか分からなかったので、俺は黙ったまま次に言われる言葉を待つ。


「できれば援軍として出してはくれないだろうか。もちろん嫌ならそれで構わん」


 驚くべき頼みごとをされ思わず言い返しそうになった。だが国王がすかさず言ったことを聞き、俺はわずかだが安心し、どのように返事をするか少し考える。


「少し話し合いをさせてください」

「よかろう。隣の部屋が空いているはずだ。そこを使わせてもらえ」

「わかりました」


 さすがにシュティアとウーラの意見を聞かずに返事をするのはまずい。

 国王が頷いたので、俺は一度席を離し隣の部屋へ向かう。きちんと5人ともついてきている。


 隣の部屋は物置のような感じで、見たこともないものがいろいろと物が置かれていた。ただ掃除は行き届いているのか、埃っぽさはない。

 全員が入ったのを確認すると、扉を閉める。それと同時に俺を含む全員が仮面を外した。


「零さん。まさか2人を援軍として出すつもりですか?」

「俺はどちらでもいい。2人が行きたいというのなら止めないが」

「……行かない」

「ええ。私も行かないわ」


 俺が言いかけた言葉を遮るかのように2人が真剣な表情をしながらいう。そんな2人を見て俺はつい苦笑いを浮かべてしまった。


「そう言うと思った。それじゃあ決まりだな」



 俺は先ほどの部屋に戻ると、シュティアとウーラは援軍に出さないことを伝えた。

 どうやら国王は予想をしていたようで、すぐさま援軍に出す編成を考え始める。ここからの話は俺たちには関係ないと言うことで、退出していいということになった。いたところで意味がないうえに邪魔になるであろうと言うことで、退出する。


 その後はテントを置いてあるところまで戻る。

 本当は宿で寝たかったのだが、街に存在する建物はほとんどが損傷を受けている。民家を壊された人に宿を回したため、街の中で野営となった。場所は街の中に存在した広場の一角。広場は仮の駐屯地となっている。


 外はすでに暗くなっており、城壁の上には松明が置かれているのか、街を囲むようにぼんやりと明るくなっている。また街の所々にも松明が置かれている。


 テントに戻ったが、することがない。さらにはある程度遅い時間になっていると言うことで寝ることとなった。どうやら他の兵士たちも同じようで寝る準備にかかっている。


 ただ、兵士全員が寝ると言うことはなかった。いくら逃亡していくところを確認できたからと言って、戻ってこない保証はない。そのため城壁の上で見張りをしている。






 真夜中。俺はふと目を覚ました。

 テントの外から話声が聞こえる。見張りの兵の会話だと思ったが、なんだか違和感があった。コートを羽織り仮面をつけると外に出る。


「……ええ。分かったわ」


 近くでウーラの声が聞こえた。ただ姿は見えない。

 俺は声が聞こえたであろう方向に向かおうと足を伸ばす。だがそれよりも早く、ウーラが建物の陰から出てきた。


「あら? どうかしたの?」

「テントの外から声が聞こえてな。一瞬兵士だと思ったが、違和感を感じて見に来ただけだ」

「そう」

「誰と話してた?」

「ちょっとね。それよりも、明日も早いわよ。寝ましょ」


 話をはぐらかそうとするかのようにウーラは答えると、テントの方へ向かって行った。追及はしたかったが、はぐらかすので答えたくはないのではと考え直し、ウーラに付いて行くかのようにテントに戻る。


 再び布団をかぶり寝ようとする。だが目が覚めてしまったのか、なかなか寝付けなかった。じっとしているのは暇だったので考え事をしてしまう。気になったのは、先ほどウーラが話していた相手。ウーラと俺以外は寝ていたので、それ以外のはず。

 アルール王国軍の魔法使いとでも話していたのだろう。


 そんなことを考えていると、ゆっくりとだが眠気が襲ってきた。俺は目を閉じ、残りどのくらいあるか分からない起床時間まで眠ることにした。

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