第55話 日本人の扱いと国への疑問
「おお! ゼロ! よくやった! 敵が撤退していったぞ!」
「それは良かったです」
指令所に戻ると国王が嬉しそうに俺に近づいてきた。そして敵が撤退していったことを伝えてくる。
やはり飛行船は敵の切り札だったようだ。そしてそれがなくなった今は勝率が下がったと判断して撤退していったのだろう。
シュティア達は捕縛した敵兵士を連行する手伝いをするためについて行ったということでこの場にはいない。それは副団長も同じだ。
そのためこの場には、作戦の立案を行う領主と国王、前線から帰って来たのか鎧の所々が真っ赤になっている団長と、カナを連れた俺ぐらいしかいない。
「まさか王都だけではなく、ここでも救われるとはな。これは褒美を増やさなければいけないかもしれないな」
「俺に渡すより、前線に出た勇敢な兵士たちにあげてください」
「私も国王様に賛成します。ゼロ、謙遜はするな」
国王が笑みを浮かべるので俺は正直に言ったのだが、団長に真顔で返された。
いや、今回の分は本気でいらないのですが……
「それよりも国王様。本当に追撃はしなくてよかったのでしょうか?」
「ああ。兵士たちも疲れたであろう。今の間に休むように言っておいてくれ」
「はっ!」
国王の指示を聞いた団長は返事をすると、それを伝えるためか近くにいた兵士に指示を出すため離れていった。
「さてゼロ。捕縛した敵兵士について話そうではないか。というより、確認と言った方が正しいかもしれぬがな」
「と言いますと?」
「日本人のことだ」
「……わかりました」
国王が先ほどまでとは違い、真剣な表情になる。
日本人のこと。特に話すことなどないと思ってしまうが、国王が話そうというのであれば話すしかない。少し考えてしまったために、返答までにわずかに時間が空いてしまった。
「ではこちらに座ってはなそう」
国王が移動するので、俺は後ろをついていく。カナは俺の隣と歩いている。
国王が向かった先は指令所だった。領主たちは出払っているのかいなかった。国王が椅子に座り、隣の席を指さすので、俺はその場所に座る。国王に一番近い席だ。そして俺の隣にカナがちょこんと座る。
「先ほども話した通り、日本人について話そう」
俺は何を言っていいかわからずに黙ってしまっていると、国王が切り出す。カナが座ったことに対しては何も言わない。
「日本人であるゼロは、やはり元の世界に戻るつもりなのか?」
「ええ。最終的にはそのように考えております」
「なら話は早い」
国王はそういうと、少し間を開ける。
話が早いと言われても、何を話すのか想像が全くつかない。そう思っていると、国王が俺の方を見てきた。自然と俺の背筋が伸びる。
「この戦争で捕まえた日本人は、全員ゼロに引き渡す」
「……と言いますと?」
「彼らをもとの世界に帰してくれ」
国王が俺の方をじっと見る。
はっきり言って、引き取りたくはない。今のあいつらなら足手まといになる。俺は今のメンバーでも十分に動ける。何よりも大事な仲間だ。そこに学校の奴らを入れたくない。
かといって、拒否をすれば国王もどうしようかと困るだろう。少し時間が必要だ。
「元の世界に返すつもりはありますが、今は手段がありません。受け取るかどうかは少し考えさせてください」
「ああ。できればこの戦争が終わるまでに考えをまとめてくれ」
「わかりました」
俺はそういうと、席を立ち上がる。話は済んだと思ったからだ。
しかしどうやら違ったようだ。
「済まないが、もう1つ話がある」
「もう1つですか?」
俺はオウム返しのように、尋ね返しながら再び座り直す。
座ってから気が付いたのだが、この場合は座るように指示があるまで座らない方がよかったのだろうか。
まあ、国王は何も言ってこないので大丈夫だろ。
「戦死者と捕虜についてだ。日本人側の」
想定をしていなかった言葉が、国王から出てきた。
いや。戦争に参加している以上、戦死者が出るのは当たり前か。
「どのくらい出たのでしょうか?」
「死者は少なくとも20人。捕虜は15人だ。試射に関してはしっかり調べると、かなり増えるかもしれん」
確かこっちに来た学校の奴らは確か550人。そのうち20人が戦死ということは、かなりの人数になる。
やはり違和感がある。俺が言える立場ではないが、なぜ日本人がここにいるか分からない。
そんなことよりも、今はなしていることの方が大事だな。
「15人ですか。かなり多いですね」
「多いのか。やはりお主がいた国とこちらは違うようだな」
異世界では15名の死者とは少なく感じるようだが、俺のいた世界では15名は多い。
「話が逸れたな。こちらは別に問題ないのだが、そちらは大丈夫なのか?」
「戻った後の説明が、少々面倒になるかもしれませんね」
さすがに2か月ちょっと。下手をすれば、向こうの世界ではもっと時間が過ぎている恐れがある。そのような長期間、集団でいなくなったりすれば、絶対に説明を求められるだろう。まあ、戻れたらの話だが。
俺の言葉を聞いた国王が目を少し見開いた。俺がそれを見ていると、国王は表情をすぐに戻す。
「お主の学校の者が戦死したにもかかわらず、よくそんなに冷静でいられるな」
「参加した者が悪いので」
確かに冷静すぎると思うが、今の俺にとって学校の奴らなどどうでもいいと言ってもおかしくはないくらい、関係が薄れている。
だからといって、俺だけ日本に帰るつもりはない。俺を含め、日本人はこの世界にとって有害となる。この世界にはいてはいけない。それが俺の考え。
「話はこれで終わりでしょうか?」
「ああ。疲れているとこをとすまなかったな。ファイブにも感謝をする」
国王が言った言葉から察すると、席を立ち上がってもよさそうだ。
俺は椅子から立ち上がると一礼し、捕縛した敵兵士を連れていく手伝いをするために別れたシュティア達を探しに向かう。
俺が一礼するのに合わせ、カナはコートの裾をつまむと軽く膝を曲げて挨拶すると俺についてくる。動作のせいか、シュティア達よりも年上に感じてしまった。
ただ、その格好でされると違和感がものすごい。
戦闘の後のためか、ここら中に兵士が座っている。
1回の戦闘でもかなり疲れるようだ。皆口数が少ないように見える。
そこから少し離れたところには天幕がいくつも張られており、周囲にはけが人がたくさん座っている。軽い症状の者はポーションを渡され、それを飲んでいる。
欠損などの症状がひどいものは見た感じ見えないが、天幕の中に出もいるのだろう。
そこからさらに少し移動したところに、シュティア達がいた。近くには捕縛した敵兵士が見当たらない。
「ここにいたのか……どうした?」
4人とも俺が至近距離に行くまで気が付いていなかった。
俺が声をかけると4人は俺の方を見る。
「……考えごと」
「捕まえた敵の中に日本人がいて、その人達が意味の分からないことを言っていたのよ」
シュティアの言葉に補足を入れるかのように、ウーラが伝えてくる。
「どういうことだ?」
「アルール王国の奴は魔族だ、的なことです」
「説明が大雑把すぎないか?」
メルクールが説明をしてくれるが、全く分からない。こういう時の説明が上手なヴェーヌの方に向く。
ヴェーヌは肩を落とした。内心、説明の要求が回ってきたとでも思っているのだろう。
仕方がない。厄介ごとや説明はすべてヴェーヌに任せるのが1番。別にウーラにも頼んでいいが、元日本人であるヴェーヌの方が、日本人である俺に分かりやすく説明してくれると思って頼んでいる。
「簡単に言いますと、日本人の方はアルール王国が魔族と手を結んでおり、軍の中に魔族がいると思っているようです。そして魔族が入っているのは軍だけではなく、国のトップから下まで魔族が浸透していると思っているようですね」
「アルール王国が魔族と手を結んでいる? 魔族と人間は敵同士だぞ。いくらなんでも無理がないか?」
「だから悩んでいたんです」
ヴェーヌの説明を聞いて、別の意味で訳が分からなくなる。レールン王国の王女はいったい何を考えている……
人間と魔族は長い間敵同士であるのは、全員が知っているといっても過言ではない。ましてや王女が知らないと言うわけはない。例外としては日本人だが、それはこの世界に来た時に教えてもらっている。
にも関わらず、アルール王国と魔族が手を結んでいるという可能性は低い。何を目的にしているのかさっぱりだ。
こういう時は直接聞くのが一番だろう。
「しかたない。日本人のところに連れて行ってくれ」
「あなた、会ってもいいの?」
「別に会ったからといって、病気が発症するわけでもない。問題はない」
「そう。じゃあ付いてきて」
ウーラはそういうと、捕縛しているであろう方向へと歩いて行くので、俺はそれについて行く。もちろんシュティア達も付いてくる。
そこまで離れて居ない一角に、50人近くになるであろう警備をしている兵士と、縛られて地面に座らされている大勢兵士がいる。もちろん縛られている方がレールン王国の兵士だ。よく見ると、一角には日本人も十数名交じっている。大半は逃亡したのだろう。
「ごめんなさい。少し日本人と話をしたいの。いいかしら?」
「ええ。問題ありません」
「ありがとう」
ウーラが近くにいた兵士に許可を貰う。声をかけられた兵士はウーラの姿を見るや否や、すんなりと許可を下ろした。
それを聞くと、ウーラを先頭に日本人のところに向かう。かなり久々の再会だ。だが感動は一切しない。
「後は任せるわ」
日本人が集まっている場所の近くまで来た時、ウーラは俺にそう言うと後ろへ下がった。
俺は1人の男子生徒の前に進む。見たことのない顔だが、顔の感じからして1年生なのだろう。鎧を着ているので、前衛をしていたと思われる。よく生き残っていたな。
「なんだ」
「お前に聞きたいことがある」
俺はそういうと、男子生徒を縛っている縄をつかみ、無理やり立たせる。そして引きずるかのように強引に少し離れたところへ移動する。
「少し借りるぞ」
「わ、わかりました」
兵士の横を通り過ぎるときに声をかける。声をかけられた兵士は怯えるかのように詰まりながらも、きちんと返事を返してきた。アルール王国の兵士たちには何もしていないはずなのだが……
俺は男子生徒をそのまま引きずるかのように、少し離れたところまで連れていく。
「最初に言っておくが、お前からの質問は一切受け付けない。俺が聞いたことだけに答えろ。本当に、アルール王国が魔族と手を組んでいると聞いて戦争に参加したのか?」
「お前は誰――」
「質問は受け付けないと言ったはずだぞ」
俺の質問に答えないどころか、質問をしてきたので軽く威圧しておく。それだけで男子生徒は黙った。
「もう一度聞く。本当に、アルール王国が魔族と手を組んでいると聞いて戦争に参加したのか?」
「ああ。女王が言っていた」
「アルール王国が魔族と手を組んでいる理由を聞いたか?」
「聞いたが、忘れた……」
「忘れた?」
「ほ、本当だ! 忘れたというより、つい友達と話してしまっていて聞いていなかっただけだが……」
女王が情報の発信源であることは分かったが、理由を聞いていなかったとは……
他の奴に聞くのもいいが、はっきり言って面倒なので止めておく。
用も済んだし、元の場所に連れて行こうとする。
「待ってくれ」
縄に手が降れそうになった時、男子生徒が俺を制止してきた。つい手を止めてしまう。
「なんだ」
「お前は誰なんだ? どう見たって、アルール王国の兵士じゃないだろ。それに冒険者でもない」
俺は一瞬迷った。質問を受け付けないといったが、こいつは答えたから答えてもいいのではないかと。
わずかに迷った末、俺は答えた。
「ゼロ。それが今の俺の今の名前だ」
質問に答えた男子生徒を元の場所に戻すと、すぐさま国王のもとへ向かう。
どうしても気になったことがあるからだ。
戻る途中、ふと気が付いて考える。別に問題がないといえば問題はないが、どうしても気になった。名前の言い方があまりにも中二臭かったのではないかと。それが原因となり、若干だが挙動がおかしくなっているかもしれない。
あ、駄目だ。ヴェーヌがどこか笑いをこらえている。イラッとしたので威圧をかけると、今度は無言で槍の柄の部分で後頭部を殴られた。
国王のところに戻ったが、残念ながら領主たちと何やら話しており、声をかける暇がない。
聞いていると、兵を2つに分けるかどうかの話であることが分かった。ただ、今のところは様子見がいいという意見が多いような気がする。
「ゼロ。どうした?」
「国王様にお尋ねしたいことがありまして」
ひと段落したようで団長が尋ねてくる。俺は座っている国王に近づきながら要件を伝えた。
「何だ? 褒美のことか? それとも日本人のことか?」
「両方とも違います。魔族と手を組んでいるのかどうかと言うことです」
国王は笑みを浮かべていたが、俺は答えの身を聞きたかったので単刀直入に尋ねる。
その場の空気が一瞬で変わるのが分かった。その場にいた領主たちと団長、それにシュティア達が背後で息をのむのが分かった。国王に関しては笑みが消え、真剣な表情になる。
まるで時間が止まったかのように感じた。だがすぐに動き出す。
「お前! どういう了見だ!」
「国王様に失礼だぞ!」
「そうだ!」
そこそこ歳をとっている領主の1人が声を上げながら立ち上がった。それに続くように他の領主も立ち上がる。
シュティア達は黙ったまま俺の方を見ているだけ。表情が分からないので何を思っているのか一切分からない。
「静かにしなさい」
領主たちが口々に色々言っていると、国王がため息をつきつつ静かに言った。領主たちは一瞬反論しようとしたが、国王の表情を見てすぐに口を閉じた。
「誰から聞いた?」
「捕縛した日本人からです。先に言っておきますが、これは単なる確認です」
「……そうか」
国王は再びため息をつく。だが今回のため息は先ほどのため息とは違い、深かった。
全員の視線が国王に集中する。
「正直に言うと、魔族との関わりは一切ない。こちらから接触はしていない。もちろん相手からの接触も一切ない。それが答えだ」
「そうですか。わかりました。それを聞いて安心しました。疑ってしまい申し訳ございません」
国王は静かに言ったので、俺は謝罪をしておく。もちろんきちんと頭も下げた。
尋ねたいことも尋ねれたので、俺はこの場を後にする。多分だが、作戦の話し合いは終わっていないと思ったからだ。
「れ――ゼロ。本気ですか!?」
「何がだ?」
適当に歩いていると、隣に来たヴェーヌが小声で尋ねてきた。ただ、きつい言い方なので怒っていることは分かる。
「国王を疑うなんて、下手をすれば反逆罪に問われますよ!」
「疑うというよりは、先ほども言った通り単なる確認だ」
「それでもですよ! もう少し気を付けて発言してください!」
「ああ分かった」
ヴェーヌの説教が長引きそうだったので、俺はやや適当に返事をして歩き続ける。
その後ろをシュティア達が付いてくるが、ヴェーヌは「本当に分かっているんですか……」とため息をついている。
その日は戦場となった場所で、野営をすることとなった。
というのも、捕縛した敵兵士を輸送する方法を考えなければいけない上に、負傷した兵士の治療と休息が必要だからだ。
戦闘が終わって2時間ほど経っただろうか。日が半分ほど沈んだころ、戦闘で足止めを食らったと言うことで、後方からの援軍兼補給部隊が到着する。
援軍だが、遅れて王都についた部隊が来たようだ。重症の兵士や捕縛した敵兵士は、補給部隊が帰る時に合わせ、王都戻る。さすがに連れて行っても足手まといになるためだ。
夕食は補給部隊がいろいろと持ってきた中にお酒があり、戦闘で頑張った兵士たちの労いのためと言うことで国王から許しが出た。
もちろん全員が酔いつぶれるといけないので、見張の兵士以外が飲む。見張の兵士に関しては、後日改めて飲む許可が下りることになるらしい。
まあ俺は日本の法律が身に沁みついていると言うこともあり、飲まないため関係ない。
――と思っていた時期が俺にもありました。
飲まないのは俺とカナであり、シュティア達4人は普通に飲んでいる。そしてお酒に強くないシュティア達はと言うと……
「……レイ。寝よ?」
「シュティアさんばかりズルいですよぉ!」
酔っている。かなりまずいほどの酔っている。かなり前にもあった気がするが、気のせいだろうか。
食事の時は仮面を外すと言うことで、もちろん今は割り振られたテントの中。いくらテントとは言え、音漏れはしているはず。兵士たちとの間で気まずくならないか心配だ。
「……心配しなくても……いい。音漏れは……魔法を、使っているから……大丈夫」
「シュティアさんもそう言っているんですから、寝ましょうよ!」
まるで俺の思考を読んでいるようにシュティアが伝えると、メルクールが俺の体にもたれかかってくる。シュティアの手回しの良さには驚きだ。
ヴェーヌとウーラは静かだなと思ってみて見ると、カナを挟むように2人とも眠っていた。わずかだが負担が減った。カナは不本意なのか、少し不機嫌そうな表情をしている
突然、シュティアが俺の顔を両手で挟み込むと、自分の顔と向き合うように俺の顔の角度を変えてきた。表情はお酒の影響か、目はうっとりとしている。
「……レイ。3人のことは良いから、私を……見て」
「3人って誰ですか! 3人って! あたしも含んでいるんですか!」
シュティアの言った言葉にメルクールが噛みつくが、言った本人は知らんぷりして俺をじっと見てくる。その目に、俺は釘付けになったかのように目を離せなかった。
「シュティアさんだけズルいです!」
メルクールが半分叫ぶように言うと、なぜか俺に腹パンしてくる。
分かっていたならば身構えれたが、あまりにも突然だったので身構えることが出来なかった。
「……メルクール。それは、よくない。メルクールに、渡すと……レイが、怪我する。渡せない」
「酷いです! それは酷いです!」
「どっちが酷い!」
ついつい突っ込みを入れてしまうが、メルクールはまるで聞こえていないかのように無視をする。
良く話し合った結果、2人に挟まれて寝るということで落ち着いたが、かなり暑かった。
ちなみに話し合ったのはシュティアとメルクールであり、俺は見事に蚊帳の外であった。つまり俺の意志は一切入っていないのである。




