第53話 接敵と戦闘
ここから戦闘に入りますが、この話全体を見ると戦闘描写が少ないかもしれません。
また、戦略や戦術などはさっぱりなので、できる範囲で頑張っていますが、おかしいところがあるかもしれません。ご了承ください。
・訂正のお知らせです・
第52話で書いていたレールン王国の兵力を訂正しました。
主力が5千、海岸を移動する兵士が3千と書いていましたが、合計の人数が1万1千となっていました。見事な計算違いです。
残りの3千の兵士どこに行った……
修正は、レールン王国主力8千。海岸側が5千。計1万3千。
アルール王国は変更なしで、主力が5千。海岸側が3千の計8千です。
進軍を開始した最初の日は休憩を挟みつつ、ひたすらレールン王国との国境に向けて進む。ほとんど歩きっぱなしだったにもかかわらず、敵との接触はなかった。
俺がいる側は主力。だがそれでも増援の人数は少なく、5千ほどしかいない。
遭遇するであろう敵主力側であるレールン王国の主力は8千であると想定されている。かなり心配だ。
海側の国境側にいる別の敵の部隊は5千の規模で、倒しに行った集団は3千しかいない。やはりそちらも心配である。
2日目に突入したが敵の姿は見えない。かなり後退したのではないかと兵士たちが話していた。そしてその日も夕方が近づいてきたために、野営となった。
野営の準備は昨日と同様に、すぐさま始まった。規模が規模だけに時間がかかるため、日が暮れる前に準備を始めなければならなかった。
夕食だが、人数が多いということもあり、大量の物資を運んでも数日間しか持たない。そのため、基本的に全員干し肉とお湯に溶いた粉末スープとなる。それは上から下の階級まで――つまり国王も同じ。
「……おいしく、ない」
「シュティア。文句言わずに食べろ」
昨日と同じ夕食――正しくは昼・夜・朝・昼・夜と5食連続で同じメニューを渡された。
本当は外で食べたいが、コートと仮面をつけているため、テントの中でないと食べられない。
いつも野営をするときは、おいしい夕食ということもあり、このような物を食べ慣れていないシュティアは少し機嫌が悪い。
反対に、狼人であるメルクールは干し肉をおいしそうに食べている。本人曰く、歯ごたえがとても好きだとか。さすが狼人だなと思ってしまう。
ヴェーヌも案外おいしそうに食べている。本人曰く、蜥蜴人の血が原因だとか。
「ウーラは何も言わずに食べているんだから、我慢しろ」
エルフのため野菜や果物が大好きなイメージがあるウーラも文句を言わずに食べている。それをシュティアに言うと、ウーラが俺の方を見てくる。
「あら。私だって文句を言いたいわよ? それは兵士たちも同じはずよ。でも彼らは文句を言わない。文句を言わないから、私も文句を言わないだけよ」
ヴェーヌはさも当然のように言い、再び干し肉を食べ始める。
それを見習ったのか、シュティアも文句を言わず、ひたすら干し肉を口に運び始めた。
昨日の番と同じように、夜番は兵士がすると言うことで俺達は寝る。もちろん敵が来た時には真っ先に起きて迎え撃つつもりだ。
シュティアが生活魔法を使い、体を綺麗にしてくれた。本当はお湯を使って体を拭きたいが、文句は言っていられない。
こうして2日目の夜も過ぎていった。
自体が急変したのは次の日の朝。
この2日間何もなかったと言うことで、朝早いときに騎士団から数名の偵察隊を出した。そしてその偵察が急ぐように戻ってきた。出発してほどなく立った時だった。
その情報を聞いた国王達数名が判断を下す。そしてすぐさまそれは全体に伝えられた。
その内容は――
「ここより1キロほど先で敵主力と思わしき集団を発見。規模は6千ほど。丘を背にするように待機している。これより戦闘準備を行う。物資を運搬している荷車はすぐさま後方へ退避。兵士たちは戦闘準備を行い、陣形を組むように」
伝令はそう伝えると、すぐに次の場所に向かい、同じ内容を伝え始めた。
「あれ? 聞いていたより少ないですね? 逃げちゃったのでしょうか?」
メルクールが首をかしげる。
予想より明らかに少ない。メルクールの言う通り脱走でもしたのだろうか。
「済まないが降りてくれ。下がらないといけなくなった」
「ああ。悪い。いま降りる」
俺達が乗っている馬車の御者が振り向きながら言ってきたので、すぐさま降りる。
御者はそれを確認した後、場所を後方へ移動させていった。
「さて。どうしよう」
このような状況になった時、俺はどのようにしていいか聞いていない。兵士たちはすでに、陣形を作るために動き始めている。
陣形がどのようなものか分からない上に、邪魔になりそうと言うことで後方へ下がる。多分だがそこに指令所的なものがあるはずなので、そこでどうすればいいか聞いてみよう。
陣形を整えるために移動している兵士たちの間を分け、後方に移動する。予想通り指令所的なものがあった。天幕は張られていない。周りには、敵から守るためか警備の兵士が残っている。
「ゼロ達か。ちょうどよかった。これから探しに行こうと思っていたところだ」
俺達が近づいたことに気が付いたようで、団長が俺に声をかける。
見たところ国王と副団長、それに数日前の作戦会議にいた人達が椅子に座っている。兵士にも拘わらず、戦場に出なくていいのだろうか?
「陣形を組みかえるのに時間がかかる。今の間にいろいろと相談しよう」
椅子に座った国王が俺を見る。椅子が1人分開いており、そこを指さしているので座っていいと言うことだろう。俺は礼をして着席する。
他の5人は経ったままなので少し悪い気がするが、我慢してもらうしかない。
「現在はパイク兵を前方に出し、敵を牽制、その間に陣形を整えております」
椅子に座っている兵士が答える。それを聞き、国王が頷いた。
怜がやっているゲームを隣から見ていただけなので情報が少ないが、簡単に言えば確かパイク兵は槍のような物を持って、突撃してくる敵兵士を押し返す役割があったはずだ。
そしてその後ろに、普通の兵士であったり弓兵を置いたりとする。
「陣形はどうなっておる」
「出発当日の会議で話していた陣形に変えております。訓練は日ごろ行っておりますが、やはり人数が多いことが原因なのでしょう。少々時間がかかっております」
「敵の動きはどうなっておる」
「今のところ、敵に動きはありません。どうやら向こうも準備が整っていなようです」
人数が多いと言うこともあり、陣形を作るのに苦戦しているようだ。
ゲームならばワンクリックで済むのになと、怜がしていたゲーム画面を思い出し、つい思ってしまう。
「陣形はいつ出来上がる」
「今の状態ですと、もう1時間ほどでしょう」
「わかった。ではその間にゼロの担当を伝えよう」
国王はそう言うと俺の方を見る。団長や副団長、それに席に座っている兵士らしきも俺を見てきた。
「ゼロには、思いがけない出来事に備えてもらうためにこちらで待機してもらう」
国王が真剣な表情で俺にいう。
つまり、前線に出なくていいと言うことだ。
それだけを聞くと、仲間の命が危険にさらされないのでいいと思ってしまうが、相手は国王だ。何かしらの考えがあって指示を出してきているはず。それを読みたいが読めない。
だが指示は指示だ。返事はきちんとしておく。
「わかりました。何かあればお任せください」
「ああ。頼りにしている」
その後は兵士の詳しい配置場所であったり動きを話していたが、俺は国王の策略を考えていた。
俺は後方に配置する理由で考えられるのは、エルフや獣人の奴隷の引き渡しを拒む理由にするため。俺が活躍しなければ拒む理由にはなるだろう。
だが果たしてそんなことをするだろうか。確かにエルフや獣人をそのまま奴隷としてアルール王国軍に取り込めば、兵力増強にはなるだろう。
だがアルール王国は他種族を無理やり奴隷にはしない。その考えは国のトップになればなるほど強い。
それならば別の理由が考えられる。例えば、俺がレールン王国に逃げないようにするため。
だがそれも少し違和感を感じる。前に俺は、向こうで嫌なことがありこちらに来たと言ったはずだ。
やはり国王が言う通り、思いがけない出来事に備えるためにここに残すのだろうか。さっぱり分からない。
そうこうしている間にも、準備は進んでいく。国王の考えを読むことに集中しすぎたようで、ほとんどの話を聞きそびれた。幸い、俺には待機の命令ぐらいしか言われていなかったということで、問題は起きなかったが。
偵察の者が絶えず行き来し、情報を更新していく。
その情報の中にも、学校の奴らがいるという物があった。やはり本当にいたようだ。
だがここで再び頭を悩ませる。今気が付いたのだが、なぜ学校の奴らがいるのかと言うことだ。
あいつらだって、俺と同じ日本人。人の殺し合いなんて見ることはない。
加えて、自分の手で人を殺したこともないようなものが、人の命が短時間の間に失われるような戦場にいることがおかしい。
悩む時間が多かったためか、あっという間に陣形ができたように感じた。だが実際はかなりの時間が立っていることが、太陽の位置で分かる。まだ高い位置にある太陽だが、戦闘が終わる前に沈むのではないかと心配だ。
「団長。突撃の指示を出してくれ。短期決戦で挑む。相手の準備が終わるまでに攻撃する」
「はっ!」
団長は踵を返すと、この場を後にした。
「やはり敵の考えが読めん……」
「どうされましか、国王陛下?」
国王のつぶやきに、この場にいる人の視線が集まる。
椅子に座っている人が尋ねる。
「相手の陣形の組んでいる位置を覚えているか?」
「もちろんでございます。確か丘のこちら側で、麓に置いています」
「ああ。それが気がかりでな」
「言われてみればそうですね」
国王が尋ねてきたために、別の人が答える。国王が頷いた。
気が付いたのか、他の人も頷いている。
こういうことの知識がない俺にとっては全く分からない。いったいどこに心配する要素があるかわからない。
「零さん。分かっていますか?」
「どこに心配する要素があるかということか? いや。さっぱりだ」
俺が悩んでいると、後ろに立っていたヴェーヌが耳元で囁いてきた。俺は前を向いたまま返事をする。
「矢っていうのは、重力の影響を受けますよね? 魔法も矢ほどではありませんが、重力の影響を受けます」
「確かに」
「相手の陳の後ろには丘があります。本来ならもう少し陳を下げ、弓兵が丘を少し登った当たりに配置するはずです」
「そういうことか」
ヴェーヌの説明でようやくわかった。
ヴェーヌがいったように、矢は重力の影響を受ける。そのため真っ平ではない限り、少しでも高いところに弓兵を置く。そうやって射程を伸ばすようにするのが1番いい選択になるのだろう。
確かにそう思うと、真後ろに丘があるにもかかわらず、陣を下げないのは不自然だ。
まさか丘の向こうに巨人でもおり、「薙ぎ払え!」という言葉と共に口から光線を打ち出すよう、待機でもしているのだろうか。まさかな……
「相手の戦略を、ゼロはどのように考えている?」
バカなことを考えていると、突然国王が尋ねてきた。全員の視線が集まる。
こういう状況をあまり知らない俺に聞かれても、正解を答えられる自信がない。だが答えないのも良くないので、俺は思いついたことを言ってみる。
「可能性としては、陣を下げられないような何かしらのものを隠している可能性がある……ですかね」
「うむ。わしもそのように考えておる。この考えに賛成の者は?」
つい先ほど考えていたバカな考えが真っ先に頭に思い浮かんでしまい、それを口に出してしまう。だがどうやらあっていたらしく、国王が頷く。
国王がこの場にいる人たちに尋ねる。誰も何も言わなかったことを見ると、少なくとも反対意見はないようだ。
「ではもう1つ聞こう。どのようなものを隠していると思う?」
「例えば、巨大な戦略兵器などではないでしょうか?」
「巨大な戦略兵器?」
「ええ。相手側が押されたときに使う用の、大規模な魔道具です。辺り一帯を火の海にするような……」
俺は再びとある映画のシーンを思い出しながら、例えを上げる。
まさかないよな?
「国王様。確かに相手には異世界のものが数多くいます。何かを隠しているという線も考える必要があるかと」
「うむ。偵察を出したいところだが、見つかった時の代償が大きい。仕方がない。何かあればゼロに任せるか」
どうやら俺の出番が回ってきそうだが、そんなものを回されてもどうすることもできないと思う。
いや、絶対にできない。
そんなことを思っていると、兵士から掛け声が上がった。それと同時に一斉に動き出す。後ろからなので分かりにくいが、なんとなく陣形を組んでいるのは分かる。丘などの高いところから見れるのが一番だが、残念ながら見れない。
「そう言えば、私たちは前線に行かなくてよかったのでしょうか?」
ヴェーヌが突然、国王に尋ねる。
そう言えばそうだなと、国王以外の人が思っていることが雰囲気で分かった。
「本来は1人でも多くのものを前線に出したいが、お主ら……ゼロ以外の者は、ゼロがいないと動かんだろ」
「……当たり……まえ。何か、あったら……困る」
国王がため息をつきつつ、返答する。そこにシュティアが頷く。
そしてシュティアの言葉に、メルクール達4人が頷いた。
よっぽどのことがない限り何もないが、蜘蛛に拉致られた前科があるので無いとは言い切れない。
「先ほどの者もそうだが、その仮面の下は女か」
隊長クラスの人――兜をかぶっているために顔は分からないが、声からして作戦を聞いたときにいた若い人と思われる人が俺に尋ねてきた。
作戦会議の時には俺しかいなかったから、今までシュティア達と隊長クラスっぽい人たちが話す機会はなかった。
「ああ。それがどうした?」
「なんでもない。ただの確認だ」
「そうか」
そういうと、その人は興味をなくしたのか視線を外す。
「ではこちらからも質問だ。兵士は前線に出なくていいのか?」
「それは俺のことを言っているのか? 言っておくが、こう見えても領主をしているぞ? もうつ言う
と、ここにいる者は領主が大半だ」
まさかここにいる大半の者が領主であるとは思わなかった。俺の考えでは、領主は基本的に戦場に出ないと思ってたからだ。
「これは失礼いたしました。あまりにも若かったので、領主様だとは思いませんでした」
「皆そういう。やはり若いと領主には見えないのか……」
さすがに相手が相手なので謝罪をしておく。
怒られると思っていたが、若い領主がやや肩を落としながらつぶやいた。落ち込むとは思わなかった。きっと苦労しているのだろうな……
気が付けば、金属と金属がぶつかり合う音が無数に聞こえてくる。どうやら本格的な戦闘が始まったようだ。
ここからは俺がいなくても大丈夫なようで、席を外す。
遠くで兵士たちが戦っている様子が見えた。前線で戦っている兵士たちを見ることはできないが、後方から矢や魔法で支援している兵士たちの様子は十分に見えた。
また、本来は攻城平気である投石機での攻撃も行われている。少しでも人数差を埋めようとする配慮なのだろう。
「ここからではやはり見えませんね……」
「どうした? 前線に行きたかったら、行っていいぞ?」
「止めておきます」
メルクールが目の上に手をかざし、少し背伸びをする。
俺はそれを見つつ尋ねると、メルクールは首を横に軽く振った。なんとなく他の4人の方を見ると、4人もメルクールと同じく首を横に振る。ここで前線に行きたいと言われても、俺は困るので少しほっとした。
兵力差は大きいが、投石機を使用しているためなのだろう。押されているような感じはしない。
どちらかというと、こちらがやや押しているような気がする。
だが、自分から2キロメートルと離れていない前線では何人、何十人。いや何百人もの人が死んでいっていると思うと、悲しみに似たような言葉では言えない感情に襲われた。
自体が急変したのは、それからほどなくしてからだった。
最初の引き金は、獣人と言うことで目の良いメルクールが見つけて発した、たった一言から。
「あれ?」
「どうした?」
静かに立ったまま戦況を見ていると、メルクールが声を上げた。
俺の声を無視して、再び目の上に手をかざす。足はと言うと、つま先だけで起用に立っている状態。
「何かが丘を登って行っていませんか?」
「なに?」
メルクールの報告を聞き、俺はすぐさまインベントリから双眼鏡を取り出すと丘の方を見る。距離はかなり離れているが、双眼鏡を使えば何とか見えた。これを目視で見れたメルクールにかなりの驚きがある。
すぐに何なのかが分かった。馬に乗った人だ。馬は丘の頂上につくと止まると思われたが、そのまま向こう側に消えていく。
「馬に乗った人だ。丘の向こうに消えていった」
「どうしたんでしょうね? 逃亡でしょうか?」
「見た限り相手が押されている、までは行っていないわ。少し頑張れば押し返すことだってできる。さすがに逃亡はないわ」
「では何が理由でしょうか?」
メルクールの問いに、ウーラが顎に手を添えつつ答えた。確かに今のところわずかにだが敵が押されている。だがすぐに埋まりそうな、ほんの小さな差だ。逃亡の線は考えられない。
そうなれば、ヴェーヌの言う通り別の理由があるはず。
ここで、先ほどの国王達と話したことを思い出した。
「まさかな……」
「……どう、したの?」
「いや、先ほどの話を思い出してな」
「先ほどの話って、戦略兵器のことですか?」
「ああ」
ヴェーヌが確認をしてくるので俺は頷いた。
もし本当に丘の向こうに戦略兵器があれば、起動させに行ったことで間違いないだろう。
俺はどうするか迷ったが、間違いであった時より当たった時の方が怖いと判断する。そこで国王に相談しに行くことにした。
「どうした、ゼロ」
「少し気になることがあったので伝えに来ました」
国王が気が付いて声をかけてきた。机の上には地図が広げられており、その上に赤と緑の駒が置かれている。今の戦局を表しているようだ。素人が見た限り、押しているように見える。
そんなことに気を取らているわけにはいかないことに気が付いた俺は意識を戻し、先ほど見たものを伝える。
俺が話し終えると、場の空気が重たくなるのが分かった。兵を率いてきた領主達と国王は表情を険しくしてそれぞれ思考を巡らしている。俺は立ったまま黙って待つ。後ろにはシュティア達も立っている。
「やはり、何かを隠しているな」
「私もそのように思います、国王様」
国王が重々しく言葉を発すると、年を取っている領主の1人が頷く。それに続いて、他の領主も黙ったまま頷いた。
「問題は何を隠しているかだが、皆はやはり何かしらの兵器だと――」
国王がそこまで言った瞬間、突然周囲で警備をしていた兵士たちがざわつき始めた。皆、敵の陣地の方向を指さしている。
俺はその方向に視線を向ける。国王や領主たちもその方向を見たことを感じた。
そして兵士たちと同じくざわつく。
そこには予想はしていたが、まさか本当に投入してくるとは思ってもいないものが存在していた。
外せない用があるということで、初めて予約掲載を設定しました。
果たしてうまくいったのだろうか……




