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第52話 最後の確認と出陣

 王都に来て、数日が立った。


 さすがに迷惑だろうと思って、そろそろ城の外で寝泊まりをすると言ったのだが、国王は許してくれなかった。なんでも、現在城の中にいる兵士は仕事に追われ、疲れている。そのため、もし夜中に敵の兵士が刺客として来たとしても対処できない可能性がある。

 そういうときに備えるためにいるようにとのこと。別に寝ては良いようだ。色々と矛盾があるが、俺は気にしないようにした。



 そして日が沈んだ現在。

 つい先ほど、副団長が部屋を訪れた。なんでも明日には出陣の準備が整うらしい。それだけを伝えに来たようだ。そして副団長は伝えることは伝えたようで、急ぐように部屋から出て行った。


 俺はこの場に残された5人の顔を見る。カナはいつも通り無表情だったが、残りの4人は真剣な表情をして、副団長が出て行った扉の方をじっと見ている。


 しばらくして、ヴェーヌがこちらを向く。


「本当に始まるのですね……」

「どうした? 怖くなったのか?」

「そう言うことではありませんが……」


 ヴェーヌが不安を漏らすので俺は尋ねる。

 もしここでヴェーヌが怖いと言ったのであれば、王都から離れたところに向かわせ、そこで待たせるつもりだ。だがヴェーヌは首を横に振る。


「零さんは人を殺すことが怖くないのですか?」

「怖くないといえば嘘になる。ヴェーヌはどうだ?」

「私もです。この世界に来て何年もたちますが、未だに慣れません」


 俺が尋ね返すと、ヴェーヌは弱々しく笑う。

 俺にしては同じ異世界の人であるヴェーヌには、人殺しに慣れて欲しくはないと思っているので良かったと思う。


「そもそもこの世界でも、人を殺すのに慣れている人は少ないわ。慣れている者は盗賊ぐらいよ。だからあなたは何もおかしくはないわよ」


 弱々しく笑うヴェーヌにウーラが真剣な表情で見つめる。

 この世界で長く生きているエルフであるウーラの言葉には、重みがあった。


「もちろん、慣れるなとは言わないわ。場合によっては、この戦争で慣れてしまうかもしれない。それは仕方のないことだと思う。でもそれになれて、ないとは思うけれど、盗賊のようなことをするのはやめて頂戴」


 真剣な表情のウーラの言葉に俺とシュティア、メルクールにヴェーヌが頷く。カナは頷いてはいないが、きちんと分かっているはずだ。基本的に俺が5人を引っ張るが、この時ばかりはウーラがいてよかったと思えた。

 それほどまでにウーラの言った言葉には大きな意味があったから。


 俺だって慣れようとは思っていない。だがそれでも、仲間の命がかかるようなことが起きると感じ、必要と判断したら、人に向かって銃の引き金を引くつもりだ。



「失礼します。夕食を運んでまいりました」


 そんなことを考えていると、夕食が運ばれてきた。ここ最近、朝食と夕食を運んできてくれていたメイドさんだ。

 この部屋の空気はかなり重たい。それに気が付いていないように振る舞い、何も聞いてこないので感謝が沸き起こる。


 テーブルにお皿を並べている間に、それぞれ席につく。

 ここ最近もう1つ変化があった。昨日の夕食からだが、きちんとした5人分の量になった。つまりカナの分として少し多かった分が減ったのだ。これにはシュティア達4人が喜んだ。少々きつかったのだろう。


 今は食事を楽しむ時間だと気持ちを切り替えて食事をする。その考えは他の5人も同じだったようで、話題は次の国がどんなところなのかを話し合っていた。


 実は、俺は次の国についてあまり知らない。そのため情報を仕入れるいい機会になった。


 記憶がないシュティアは全くと言っていいほどで、レールン王国に近い森に棲んでいたメルクールはあまり知らないようだった。

 ウーラはよく知っていることは大体予想出来ていたが、驚いたことにヴェーヌもかなり知っていた。


 ヴェーヌに行ったことがあるのかと聞くと、住んでいたと返事が帰ってきた。

 ただ、その瞬間少しだけ表情が暗くなった。


 良くない質問であったことはすぐに理解できた。俺は慌てて質問を変える。


 ちなみに、レールン王国と魔族領の間にある国の名前は【アストア帝国】。現在国を治めているのは女性だそうだ。それも20代前半。若い女帝が帝国を納めていることになる。なんだか凄くカッコいい。


 ここの皇帝の決め方は簡単。皇帝が変わるときに武道大会に似たものが開かれる。そのときに最後まで勝ち進んだ者――すなわち一番強い者がなる習わしがある。これは魔族領に隣接しているのが原因とされている。


 女帝という響きがカッコよく、1度会ってみたいと思う。だが逆に、どう考えても面倒ごとに巻き込まれそうなので少し気になる。


 あっという間に夕食を食べ終える。するといつも通りにメイドが来て食器を回収していった。


 夕食後は特にすることがなかったので、順番に風呂に入り、就寝となった。

 ただ、明日出発と言うこともあり、なかなか寝付けなかった。それは同じ部屋で寝るシュティアとメルクールは何度も寝返りを打っていた。最後には俺を抱き枕にして寝るという始末。

 俺が眠りに着く時間は伸びだのであった。




 学校での体育祭がある日の朝に早く起きてしまうことのように、次の日は早く起きてしまった。

 外を見ると、ようやく日が顔を見せ始めたところだ。もう一度寝ようかと思ったが、眠れそうになかったので、起きることにした。


 着替え終えると、そのまま寝室を後にしてベランダに出る。外の空気は夜の間に冷えたのか、ピンと張りつめている。それを口からゆっくり吸いこみ、肺にいれる。

 そして吸った空気を再び口からゆっくりと吐き出す。それだけで少しは落ち着けたと思う。


「早いですね、零さん」


 後ろで誰かの声がした。声からしてヴェーヌだ。

 俺は振り返りつつ声をかける。


「そう言うお前も早いと思うぞ? ヴェーヌ」

「早く目が覚めてしまいまして」

「ヴェーヌもか」

「その言い方からして、零さんもですか……」


 ヴェーヌは苦笑いを浮かべつつ、俺の隣に来ると、同じように深呼吸を1度行った。目はまっすぐと太陽の方へ向けられている。


「やはり落ち着きません」

「と言うと?」

「嫌な予感……は言い過ぎですね。少し不安な気持ちです」


 確かにそう言われれば、俺もわずかにだがそんな気持ちがする。

 嫌な予感は言い過ぎだが、どこか不安な気持ちになる。だが今からそんな気持ちになっても疲れるだけだ。俺は再び深呼吸して気持ちを落ち着かせる。


「ヴェーヌ。今からそんなに考え込んでいると疲れるぞ」

「分かっていますよ。それぐらい」


 ヴェーヌは弱弱しく笑うと、再び深呼吸をする。

 そのあとは、2人で並んで太陽を見る。




 しばらくして、太陽に当たっているといっても体も冷えてきたと言うことで、俺とヴェーヌは部屋の中に戻る。

 戻って数分後、寝ていた4人が眠たそうに眼をこすりながら寝室から出てきた。もちろん4人ともすでに着替えは済ましている。


 その時、まるで待っていたかのように朝食が運ばれてくる。

 本当は楽しく会話をしながら食べているはずだが、全員黙々と口に運ぶだけだ。


 廊下の外であったり開けられている窓の外からは、出陣の前の最後の準備を行っているのか、慌ただしく動く足音や兵士の声が聞こえる。本当は手伝いたいが、副団長に手伝わなくていいと言われているので手伝えない。唯一できるのは、静かに待っているだけだ。


 静かな朝食を取り終えると同時に、メイドが皿の回収に来た。本当にタイミングがいいな。壁に関しようの穴でもあけているのか疑いたくなる。



「レイ。済まないが最後の作戦会議を始める。至急来てくれ」

「わかりました」


 メイドが退出すると同時に、今度は副団長が尋ねてくる。俺はすぐにコートを羽織り仮面をつける。シュティア達には待機を出しておく。現在城の中は慌ただしい。

 大勢で移動すると邪魔になるので、俺1人でいいと判断した。


 俺がいない間に何かあったら大変だと思い、5人分のコートと仮面を置いて行く。



 食事中の時に聞こえた音で分かっていたが、城の内部を慌ただしく人が移動していく。数日前までは修復のために来ている職人が多かったが、出陣をまじかに迫っていると言うこともあるのだろうか。今では兵士が行きかっている。

 大半の兵士の鎧はミスリル製の鎧ではないうえに、肩の部分に書かれている紋章が違う。きっと増援部隊だ。それもいろいろな紋章が書かれているので、各地から増援が来たのだろう。


 また、鎧ではなくローブを着ている人までいる。前衛に立つ兵士は鎧を着るが、ローブを来ていると言うことは魔術師なのだろう。



 しばらく行きかう人を見ながら廊下を歩く。すれ違う人の大半は、コートを羽織り仮面をかぶった俺の姿を見てギョッとしていた。ただ、現在の状況が状況と言うことなのか、すぐに通り過ぎていく。


「ここだ。入ってくれ」


 しばらく歩いた後、扉の前に立つ。前に作戦を聞いたときと違う部屋のはずだ。同じような扉ばかりなのでわからない。

 副団長に促されるまま、部屋の中に入る。


 室内だが、部屋の真ん中に机が置かれており、それを取り囲むように椅子が配置されていた。机の上には、つい最近見た正確な地図が置かれている。配置も同じだ。

 そしてすでに数名人来ており、椅子に座っている。


 兜だが、頭から外し机の上に置かれていた。そのため座っている人の顔がよくわかる。全員そこそこ年を取っている。年齢的に40代といったところ。若い人もいるが、明らかに少ない。

 年齢が上の方が多いので、各援軍を指揮している隊長とかその辺なのだろう。

 そんな人達の表情はかなり険しいものだった。


 一瞬だが、俺に視線が集まる――が、興味がないのかすぐに散った。

 慌てるどころか、表情1つ変えないことに、こちらが驚かされた。仮面をかぶっていなければ俺の驚いた表情を見られていたかもしれないが、俺は仮面をかぶっている。そのため、バレていないはずだ。


「ゼロはここに座れ」


 俺は副団長に促された場所に座る。この世界の上座下座なんてわからない。ただ、国王が座るところからは1番離れている。

 1番端っこなので、扱いとしては下っ端だと思っていいはずだ。これで真ん中であるなんて言われたら少々驚くが……




 しばらく待つ。時々作戦の説明に参加するであろう隊長クラスの兵士達が入ってきては、席に着いていく。驚いたことに若い人もいた。隊長クラスには若い兵士も慣れるのだろうか?

 途中、騎士団副団長も入って来る。そして最後まで開いた席は残り2つになった。多分だが、国王と団長の席だろう。



 誰も話さない部屋にノックが響く。空いた扉から騎士団団長が入ってきた。


「国王陛下が入られます」


 その声と同時に全員が一斉に立ち上がった。一瞬だが遅れて俺も立ち上がる。

 部屋の入り口に視線を向けると、団長に続き、国王が入ってきた。いつになく険しい表情をしている。


 国王は席の前まで来ると止まり、座る。それに続くように全員が着席した。

 今度は予想が出来ていたので、ほとんど同時に座ることが出来た。


「皆のもの。駆けつけてくれて感謝する」


 国王はこの部屋にいる全員の顔を順に見ながら感謝の言葉を述べる。

 全員が頭を下げた。俺も見習い下げる。


 そこから少し国王が話す。少々難しかったので、俺は半分聞き流した。

 ほんのしばらく話した後、国王が本題に入るといったので、俺は意識を戻す。


「皆も分かっている通り、我が国は現在、レールン王国から攻められている。もちろん、国境まで押し戻すつもりだ」


 国王の言葉を聞き、全員が頷く。

 国王は言葉を続けた。


「だが、私はレールン王国に報復をしようと考えている。王都を落とし、レールン王国を我が領土にしようと考えている。もちろん異論があるなら言って貰っても構わない。命をかけるのは、そなた達だからだ」


 国王が全員の顔を見る。

 だが誰も何も言わない。


「報復をし、我が国領土を広げる方向で動くことに異論はないな?」


 国王が最後の確認をすると、俺以外の全員が返事をした。俺はどうしていいか分からないので、この場の状況を見ているだけだ。


「ではレールン王国を落とす方向で話を進める。団長、説明を頼む」

「はっ!」


 団長が返事をすると、立ち上がった。全員の視線が団長の方に集まる。


「今回の進行ルートですが、短期決戦に持ち込むためにも、レールン王国王都を目指して直進するルートを選択しました。この作戦ならば、少なくとも1月以内には方が付くと思います」


 団長はそう言いつつ、長い棒でアルール王国王都からレールン王国王都をつなぐように指す。


「ですが、問題が発生しました。敵部隊は2つに分かれており、王都から直進するルートと海沿いを移動するルートに分かれています。この情報はつい先日、偵察を行っていたものからもたらされました」


 今度は、海沿いにある国境付近を指す。


「そのため主力を叩きつつ進行。その間、海沿いのルートを防衛する方向で考えています」


 内陸と海沿いの道を指す。


「肝心の規模ですが、主力と思われる内陸側の兵力はおよそ8千。海沿いの兵力はおよそ5千。どちらも異世界の者がいるとの報告が入っており、主力側には勇者もいるようです。また、奴隷にされたエルフや獣人も参加しており、さらに戦力差が拡大しています。攻城兵器ですが、先日攻めてきた先行隊に大半を投入していたと言うことで、数が少ないという報告があります」

「やはり先行隊に力を入れてきおったか」

「はい。やはり先行隊の数が多かったと思われます。ですが撤退した兵士の数も多いので、主力にそこそこの数が加わったと思います。幸い、攻城兵器は置いて行ったと言うことで、いくつか手に入れることが出来ましたが」


 人より魔力量が多いエルフと、人より身体能力が高い獣人がいるとなると厳しくなる。

 また、この世界でも攻城兵器は存在しているようだ。

 そういえば、先行隊が多かったと言っているが見ていない。レールン王国とは反対側の入り口から入ったからなのだろうか。


 だが気になることが1つあった。現在のような時間を争うような状況下で、話の腰を折るようなことはしたくないが、どうしても聞いておきたかった。


「1ついいですか?」

「どうした?」


 俺が手を上げつつ声を出す。全員の視線が集まった。

 やはり話の腰を折ったためか、数名は眉をひそめている。


「魔法があるにも関わらず、攻城兵器を使う理由が分からないのですが……」

「魔法には射程距離があることは知っているか?」

「ええ。攻撃系の魔法の射程距離は確か、短い物でも矢と同じぐらいだったと思います。物によっては、さらに距離が伸びたはずですが」

「知っているなら話は早い」


 副団長が尋ねてきたので、俺は答える。

 俺の答えを聞き、副団長は頷く。続いて説明をしてくれる。


「物によっては射程距離が伸びる。伸びるには伸びるが、その代わり大きな弱点が存在する。それが何かわかるか?」

「弱点?」

「その言い方からすれば、弱点が何かは分かっていないようだな」


 副団長の言葉を聞き、数名が冷笑を浮かべた。


「その前に、射程距離が長い魔法を言っておこう。一般市民や冒険者は知らないが、我々兵士たちのほとんどは知っている。上級魔法の上に存在する『戦略級魔法』と言われるものだ」


 戦略級魔法。聞いたことがない。確か本にも書いていなかったが、もう少し後ろのページにでも書かれていたのだろう。

 魔法はこの世界にとって重要な位置にある。それについて書かれている本は、早急に読まなければいけなさそうだ。


 俺が頭の片隅で考えている間にも、副団長は説明を進める。


「戦略級魔法だが、名前の通り戦争などの大規模な戦略時に使われる。射程距離はものすごく長い。ただ、大きな弱点がある。1つ目が詠唱が長いこと。2つ目が魔法の発動の成功率がきわめて低いこと。3つ目が必要な魔力が多いことだ。魔法を知っている者にとって、攻撃魔法にとって3つとも弱点であることは知っているはずだ」


 副団長はそこで一度説明を止める。


 確かに魔法にとって、副団長が言った3つの弱点はつきものだ。

 初級魔法から上級魔法に上がるにつれ、基本的に射程距離は伸びる。だがそれに伴い、必要な魔力量と詠唱の長さは変わってくる。

 確かに成功率も変わるといえば変わるが、それは練度が100――つまりステータスプレートに表示されるまでであり、ステータスプレートに表示されると魔法が失敗するということはまずない。そう考えると、副団長の言っている意味がいまいち理解できなかった。


「だが、戦略級魔法にとって、今言った成功率は、他の魔法とは意味合いが変わってくる。戦略級魔法には、習得と言う概念がない。これはただ単に習得できないだけなのか、それとも習得までの期間が長いことが原因なのかわ分かっていない。唯一言えるのは、戦略級魔法を()()()()()()()()()()()と言うことだけだ」


 確かに、確実に戦略級魔法を発動させることが出来るものがいれば、その国にとって大きな切り札となる。国に1人ぐらいは魔法を極めたものがいてもおかしくないだろう。

 にもかかわらず、歴史上誰もいないとなれば、本当に習得することが出来るのかと疑問に思ってもおかしくない。


「もちろん、確率を上げるために手段はある。数十人規模で一斉に詠唱を始めればいい。そうすれば、ある程度は成功率が上がる。それに、必要とする魔力もある程度は抑えられる。これは集団詠唱の利点だ。ただし危険な戦場で、長い詠唱を数十人で合わせることができるだろうか? それが魔法ではなく、攻城兵器が使われる理由だ」


 確かに副団長の言う通りだった。

 確かに、危険な戦場で長い詠唱を集団で行うなど、ほとんど不可能に近い。


「国王様。私からも1つ質問がございます」

「申してみろ」


 俺が納得していると、近くの席に座っていた歳を取った男性が挙手をしていた。

 その男性が発言の許可を貰うと、俺の方を見てくる。


「そこにいる者はいったい誰なのでしょうか? 騎士団に所属している割には、格好が明らかに違います。高ランク冒険者だとしても、このようなものは存じませんし、なによりこのような場に一般人を入れるとは考えられないのですが」


 ここにいる大半の者が思っていることを代弁したかのよな質問だった。

 それを表すかのように、全員の目が国王へ向く。


「お主のことを皆に言って良いか?」

「本名が広がると少々厄介ですので、それ以外なら大丈夫です。何を伝えるかは任せます」


 国王が俺に尋ねてきたので、少しばかし制限をつけさせてもらう。


「少々遅いが紹介しよう。彼はゼロと言う名前の者だ。訳あってあのような姿をしているが、人間なのは間違いない。正確な実力は分からないが、十分にあると判断してよい。実力を見込んで、今回の戦争に参加してもらうことになった。ついでに言うと、異世界から来たものだ」


 異世界から来たものという言葉を聞き、数名が立ち上がろうとする。人によっては腰に下げている剣の柄に手をかけて今にも引き抜こうとしている。

 それを見たためか、慌てて国王が追加の説明をしてくださった。


「安心しろ。こちらの仲間であることは確かだ。つい先日も、城内に攻め入って来たレールン兵を倒してくれたからな。信用していい」


 国王はそう言うが、ほとんどの者は納得していない。

 案の定、1人が声を上げる。


「ですが、スパイと言う可能性はあるのではないでしょうか?」

「私も同意です。昔から異世界から来た者たちは何かしらの犯罪を行っております。信用できません」

「お前たち! 国王様が信用している者を信頼できないとでもいうのか!」


 別の男性の言葉を聞き、団長が声を上げる。


 国王とは実際に面識があるし会話もした。だがここ数日で来た人たちとは面識が今日が初めてだ。

 いくら国王がいったとしても、すぐには信用できなくて当たり前だろう。

 このままでは話が進みそうではない。


「俺はあの国に戻るつもりはない」

「それはお前にとって、レールン王国が敵ということか?」

「敵と言うより、異世界の奴がいるから戻るつもりはないということだ」

「同じ異世界から来た者同士なのではないのか?」

「いろいろあった」


 俺の言葉に別の男性が尋ねてくる。

 完全な敵と言うわけではない。ただ、同じ学校の奴らがいるというだけだ。だから戻るつもりはない。


 俺の言葉を聞いて、信用するしないより、なぜ同じ世界から来た者同士なのに仲間割れを起こしているのか気になったのだろう。場が落ち着いた。


「話が逸れたな。続きを頼む」

「はっ!」


 国王が団長にそう言うと、団長は再び説明を始めた。


「相手の戦力は先ほど話しました通り1万3千ほど。対するこちらの戦力は8千ほど。やはり突然の援軍の要請は無茶がありました」


 団長の説明を聞き、場の空気が重たくなった。


 1万とか8千とか言われても想像できない規模だ。学校の人数でも600人ほど。それでもどのくらいの多さであるかを想像することも難しい。


「さらにもう1つ問題があります。援軍は少しでも早く来るために攻城兵器を持ってきておりません。それに、王都にあった攻城兵器はレールン兵により大半を破壊されました。現在も修理を行っていますが、あきらかに破城槌とカタパルトが少ないです」

「圧倒的な兵力差があるということだな……」


 重々しかった空気がさらに重々しくなる。始まる前から負けたような雰囲気が漂っている。

 結局、その後も重々しい空気のまま話が進んでいく。



「では初めに言った通り、兵は2つに分けることとします。主力はレールン王国王都に侵攻。その間、別動隊は海沿いを防衛することとします。攻城兵器は王都に侵攻する主力で運用します」


 話がまとまったと言うことで、団長が最後の確認を行う。


 兵だが、5千と3千に分けることとなった。5千の方がレールン王国王都に向けて移動。3千の方は海岸側へ向かうこととなった。兵力差が大きいため、夜襲を行うなどしてどうにかするしかない。


 もちろんすでにどちらに行くかは伝えられていたようで、そのことに関する説明もあった。

 ちなみに俺はこの場で伝えられた。主力側だ。


 理由としては、ドローンを持っているためだとか。

 本当は使うつもりはなかった。しかし国王がどのようなものなのかを説明したため、主力側につく人が俺に期待を持たせた視線を向けてくる。どうやら使わなければならなくなりそうだ。



「最後になりますが、国王様も参加し、主力の指揮を執るのでそのあたりは忘れないで下さい。」


 最後の最後で驚くべきことを団長が告げる。

 しかしこの世界では当たり前なのだろうか。驚いているのは俺ぐらいで、他の人は最初から分かっていたような感じがする。


 そのまま最終確認が進み、作戦会議のような物は終了した。準備はすでに終わっていると言うことで、出発は1時間後となった。


 最初に国王が立ち上がり退出し、そのあとに続くように全員が退出していく。

 俺は最後の退出だ。



 一度、寝泊まりしている部屋へ向かう。

 すでに出発の準備が終わっているようで、シュティア達はコートを羽織り、静かに座って待っていた。


「……レイ」


 俺が戻って来たことに気が付いたシュティアが、俺の方を不安そうな表情で見てくる。他の4人も不安そうな表情をしている。


「準備はできているようだな。出発だ」


 俺はそう言うと、部屋を出て集合場所へ向かうために背中を向ける。 


「零さんは……」

「なんだ?」


 ヴェーヌが名前を読んできたので振り向く。

 5人とも席を立っただけで、誰1人動いていなかった。


「零さんは……ここにいる6人は、これで、誰も……死にませんよね?」

「ああ」


 俺はそう言うと、部屋から出ていく。そのあとに5人も続く。


 俺は肯定をしたが、絶対に誰も死ぬことはないとは言い切れない。もしかしたら、この中の誰かが怪我をするかもしれない。最悪の場合、戦死するかもしれない。


 だから俺は、誰も欠けることなく無事に乗り切れるよう願いながら肯定した。




 集合場所は城の入り口。

 と言っても、ここから兵士全員が一気に街の外へとつながる城門に向かって進むわけではない。

 いくら王都が大きいからと言って、一気に8千人近くを収容できるはずがなかった。それに街はいまだ復興を行っている。寝泊まりができる場所などほどんどないに等しい。

 結果、大半の兵士は街の外で寝泊まりしていたらしい。


 国王は馬車に乗り、その周りを騎士団の兵士たちが護衛するように囲む。国王以外の王族は、城で留守番となっている。


 全員の集合が確認できた。

 移動手段だが、俺達6人は物資を運ぶための荷車に乗って移動する。馬に乗っている者もいるが、大半の兵士は徒歩。物資を運ぶための荷車に乗れただけでも感謝だ。


「総員、前進!」


 団長の掛け声と共に、兵士が歩き出す。荷車はそれに合わすかのように動き始めた。

 ついに進軍が始まったのだ。

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