第51話 復興とカナの報告
翌朝、目を覚ますと体がなぜか重たかった。特に胸部から腹部にかけて。別に体がだるいと言うわけではない。物理的に重さを感じると言った方がいいだろう。
視線を下ろすと、メルクールが俺の上に乗り、丸くなって眠っていた。布団はきちんとかぶっている。
カナはすでに起きた後らしく、昨日寝ていた場所に視線を向けたがいなかった。
確か話し合いの結果、メルクールはヴェーヌとウーラの2人と一緒に寝ることになっていたはず……
と考えて昨夜のことを思い出した。
シュティア達4人が寝た後、俺とメルクールはソファーに座り、メルクールの過去の話を聞いていた。そして話し終えたメルクールは俺の太股の上に頭を載せるとそのまま寝てしまった。
俺が寝室に連れて行こうとした時に、シュティアが起きて来ており、ヴェーヌとウーラと一緒に寝ると言って寝室に入っていった。結果、俺はカナとメルクールと一緒に寝ることになった。
昨日会ったことを考えていると、寝室の扉が開くのが音で分かった。視線を向けると、シュティアとヴェーヌが顔を覗かせている。
俺は視線を向けていたため、2人とばっちり目が合った。
一瞬、2人は体をビクッとさせるが、まるで何も見なかったかのように扉を閉じようとし――
「おい、待て。何している」
「「ッ!?」」
扉の向こうで、2人が小さく飛び跳ねたかのように感じたのは気のせいだろうか。
どうするか考えていたのだろう。数秒間おいて、2人が恐る恐る扉を開く。俺はじっと見て居たために、再び2人と視線が合った。
「何している?」
「な、何もしていませんよ?」
「……メ、メルクールと……なにを、したかなんて……気になって、いな……い」
うん。シュティアの言葉で大体分かった。弱ったメルクールに俺が手を出したと思ってやがる。
よし。あとであの2人と話をするか。
なんて思っていると、シュティアとヴェーヌの頬を冷や汗が流れるのが見えたような気がした。
「……ぅにゅ? レイ……さん?」
「おはようメルクール」
突然腹部の上にいたメルクールが、眠たそうに眼を開けながら俺の名前を呼ぶ。それと同時に、メルクールと俺の目が合った。
俺があいさつをすると、一瞬メルクールが動きを止める。だが状況を理解したようで、次第に顔を赤くしていき……
「ひっ!」
小さく悲鳴を上げながら布団を頭からかぶって隠れた。
俺がメルクールの頭であろう場所を撫でると、イヤイヤと頭を横に振るように額を擦り付けている感覚がした。
「あははぁぁ……では」
苦笑いしながらそんなことをいいつつ、ヴェーヌが扉を閉める。
いや、俺は何もしていないからな?
結局メルクールが顔を出すまでには時間がかかった。俺が頭を撫でようとするたびに、メルクールは首を横に振って拒否する。
顔を出したからといって長話は出来なかった。
メルクールは着替えるために、ヴェーヌ達が寝ていた寝室にダッシュして行った出ていくが、よっぽど慌てていたためか本来は引かなければならない扉を押して開けようとした。結果、開いていないにもかかわらず走り始めたため、みごと扉にぶつかっていた。
俺はというと寝ていた寝室で着替え、寝室を出る。
すでに朝食は運ばれてきていたようで、起きていたシュティアとヴェーヌ、ウーラにカナは席に座っていた。
「すまん。遅くなった」
「……そんなこと、ない」
「ええ。シュティアちゃんの言う通り、先ほど朝食が届けられたばかりよ。遅くはないわ。それよりも、もう少しメルクールちゃんといても良かったのよ?」
席に座っていたシュティアの言葉を聞き、安心した。ただ、ウーラが言った最後の言葉は聞かなかったことにしておく。
シュティアは隣の席をポンポンと叩くので俺は隣に座りメルクールを待つ。
しばらくすると着替えを終えたメルクールも出てきて、朝食をとり始める。昨日と同様、城の備蓄品が少ないということでそこまでの朝食を用意できなかったと言っていたが、十分な量で尚且つおいしかった。
食事中に全員で話し合った。今日一日城にいることを考えたのだが、いくら王が優しくてもそれは良くないと全員が思っていたようだ。ではどうするかと考えた結果、街で復興の手伝いをすることにした。
最初は城の復興を手伝おうと思ったが、城のことは国王に任せようという意見になった。その代わり街に向かい、何か手伝えることがあれば手伝うことで満場一致。
そのことについては、食器を回収しに来たメイドに伝えている。ちなみに昨日の夜に来たメイドと同じだ。
メイドが来たと言うことで服装を昨日の戦闘時に着ていた服装にしたのだが、どうやらそのメイドはすでに俺達が誰なのかを気付いていたようだ。いちいち服装を変えなくていいですよと言われた。
「お伝えするのを忘れるところでした」
ワゴンを押して部屋から出ていこうとしていたメイドが立ち止まると、俺たちの方に振り返る。
「国王陛下からの伝言です。行動を縛るつもりはないので、何をしてもいいとのことです。ただし援軍が来る時にはきちんとここに戻ってくるようにともおっしゃっていました」
「わかりましたと国王にお伝えください」
「かしこまりました」
そう言ってお辞儀をしたメイドが部屋から退出する。
「じゃあ行くか」
「はい!」
俺の言葉を聞き、怪しい服装に着替えたメルクールが元気よく返事をする。昨日までの落ち込んでいたような感じは一切なく、話を聞いて良かったと改めて思った。
向かう先は街。観光をするつもりはない。朝食の席で話し合った通り、復興の手伝いを行う問うことつもりだ。
仮面をつけて部屋から出ていく。城内ではすでにそれぞれの役職の人が活動を開始しているのか、廊下を何人もの人が行きかい、遠くの方からはどなり声が聞こえてきた。
所々には城内の片づけをしている人もいる。それも建築などを行う人達のようで驚いた。
そんな中を城の外へ向かう。
さすが王都在住の職人たちだ。爆発か何かにより穴が開いたりしているなど、被害が大きかったところはすでに修復作業に入り始めている。
「おはよう、レ――ゼロと仲間たち。街に行くのか?」
「おはようございます、国王陛下。ええ、街に行って修復を少し手伝おうかと思っております。本当は城内の修復を手伝いたいのですが、すでに腕の良い人たちがいるので、手伝いは不要かと思いまして」
廊下を歩いていると、国王に会った。一瞬俺の名前を言いそうになっていたが、なんとか踏みとどまった感じがする。
俺があいさつをするのと同時に、5人も会釈をする。
俺の後半の発言を聞き、国王がどこか困った表情をしながら、職人たちのいる方を見る。
「本当は先に、被害の大きい街の方を修復してもらいたいものだ」
「呼んだわけではないのですね?」
「ああ。自分たちから進んできてくれた。街に帰そうにも帰ってくれなくてね」
ヴェーヌの質問を聞き、国王が答える。その言葉が聞こえたのか職人たちがこちらを向いて腕を高く上げている。その手には金槌などが握られていた。それに答えるかのように、国王は軽く手を上げる。
手を上げた職人たちはこのような状況にもかかわらず、どこか嬉しそうな表情をしている。
「すまんすまん。ゼロ達の足を止めてしまったな。これで失礼する」
国王はそう言うと、廊下を歩いて行った。
廊下の角を曲がるまで見た後、城の外に出ていく。
途中、騎士団の兵士に合い、馬車を出させてくださいと頭を下げられたが、騎士団だって大変な状況ということで丁寧に断った。もちろん断ったのはヴェーヌ。こういうことは俺よりヴェーヌの方が得意だからだ。
ただ、ヴェーヌにパスしたときに仮面の奥からものすごいジト目を向けられたような気がした。いや、確実に向けられたな。
昨日、俺は城に向かうので必死だったため、あまり街の様子は見ることが出来ていなかったが、街のいたるところには戦闘の惨たらしい後が残っている。所々にはまだ死者が横たわっている状況だ。
「零さん。さすがにこのような格好では目立つので、いつもの服装で動きたいのですが……」
「確かにそうだな。どこか建物の陰で着替えるか」
先ほどから住民たちに向けられる視線を感じたのか、ヴェーヌが提案してきたので飲み込む。
すぐ近くに建物が倒壊してできた陰があったので入り、コートを脱ぎインベントリに仕舞う。そしてまるで何事もなかったかのように再び出てくる。
それからは、近いところから手伝いをして行く。さすがに建物の修復は無理なので障害物を除けたり横転した馬車を起こしたりと忙しく動く。
「違う! そっちじゃねぇ! それはこっちに持ってこい!」
「気をつけろ! 崩れるぞ!」
朝早くからあちこちで、大工らしき人達の声が上がる。それでも最初は少なかった。
時間がたつにつれ、街の復興を行う人の人数が増えていくと、それに伴いさらに声が上がる量が増えていく。
「兄ちゃんすまねぇ! 助かった!」
「あんた。一体ステータス値いくらあるんだよ!」
「おい。ステータスを聞くのはマナー違反だぞ!」
ステータスが大きいことを利用し、俺は資材の運搬を行う。さすがに家に使う柱を1人で持つのは大変なので、数人がかりで行ったが。それでもかなり助かったようで、喜ばれた。
作業中は、何もなかったのであればよかったが、そうはいかなかった。
いくら気をつけているからと言っても、修復作業中にケガをする人は何人かいた。多かったケガは、建物が崩落したときの破片で怪我をする人。そのような人には神官が無償で治療を行っていたが、それでも追いつかない時にはシュティアとウーラが手を貸す。
その際にお礼を言われており、2人とも嬉しそうだった。
俺は、資材の運搬の合間に、完全に壊れそうになった工具の修理も行う。いくら鍛冶士が多くても、鉄を溶かしてそこから直していたのでは時間がかかりすぎるからだ。治す際に【強化】も掛けておいたので、修理期間中は壊れることはないだろう。
別に俺のように【鉱石干渉】を持っている人がいなかったわけではないようだ。ただ、近くにいなかっただけだと思う。
昼近くになると、休憩になる。
炊き出しが行われた。といっても1人当たりの量は微々たるもの。やはり食料はあまりないようだ。その上素材も限られているので味は保証されないと言われた。だが――
「何ですか、これ! 無茶苦茶おいしいです!」
「お! お嬢ちゃんもわかるか! ひと仕事の後の食いもんはどんなに質素でもうまく感じるもんだ!」
「その通りです!」
メルクールは目を輝かせながら、配られた分を掻き込む。メルクール言う通り、おいしく感じた。
メルクールの感想を聞いた、近くにいた大工のような人が嬉しそうに声をかけてくる。
それにメルクールは、目をキラキラと光らせるようにうなずく。
そんな感じで、共に働いた人達と食事をとっていく。
シュティアは神官達に神殿に入らないか尋ねられ、ウーラの方は神官達と魔法について議論していた。これは後に聞いたことだが、ウーラにオファーが来なかったのはエルフであるため。詳しい理由はよくわからない。
ただウーラの魔法はとても良かったためか、神官たちがルール改正をするか真剣に悩んでいた。
ヴェーヌは作業中に知り合った冒険者と情報交換をしていた。もちろん情報は現在の戦況について。
俺はと言うと、そんな状況を眺めながらおいしく食べる。カナは炊き出しに来ていた女性陣に囲まれていた。
食事終了後はすぐさま作業に戻る。内容は午前と大して変わらなかった。
そんなことをしていると、あっという間に夕方になる。街中の人たちが頑張った甲斐あって、今日だけでかなり進んだように見える。しかし所詮、復興初日のため。あまり大きな変化はない。
別れた後は再び建物の陰に移動して着替え、城に向かう。
門をくぐる際に門番に止められると思っていたが、すんなりと通してくれたので良かった。
また、廊下を進んでいる途中メイドに会い部屋まで案内されそうになったが、部屋までの道は知っているということで辞退。
部屋に戻ると、ほとんど間を置かずに夕食が届けられる。
その後は昨日とほとんど同じ流れだった。
「カナ。遅くなったが、昨日のことについて報告して欲しいことがある。レールンの兵士についてだ。」
「はい」
入浴を終え、シュティア達がソファーに座って何やら話している。俺はカナと共に並んで椅子に座っている。
遅くなったが、昨日のことについて尋ねることにした。
「ドローンでどのくらい殺した?」
「詳しい数は分かりませんが、30人はいっていると思います」
「……そうか」
人数を聞いて、俺は少し気分が落ち込んだ。
仲間であったり守りたいと思った人を守るためには、殺人を躊躇なく行うと決断したにもかかわらず、いざ死んだ人数を聞いたら気分が落ち込む。
「もちろん、どうしても倒さなければいけない人を選別した結果がこれです。もし選別しなければもっと多くの人が死んでいたと思います」
カナの言葉を聞いて、俺は目を見開く。まさか選別をしてこの人数だと思わなかった。
というより、カナは選別を行っていたのか?
「どうして? という顔をしていますね? 私は知っています。お兄ちゃんがこの世界に来た時に殺人を行い、そのために苦しんでいることぐらい」
「……シュティア達に聞いたのか?」
「はい。4人も心配をしていましたよ?」
カナが理由を知っているとは思わなかった。というより、知るであろうと予想を立てていなかった。
別に困りはしないが、5人に心配を掛けたくはなかった。
「ドローンから見ていましたが、4人とも必要最低限で済まそうとしていました。メルクールさんは途中で暴走を始めていましたが……」
カナは一度そこで言葉を止めると、今日のことを話しているのか、楽しそうにしているシュティア達4人の方を見た。
「多分ですが、お兄ちゃんに質問され答えた時に、お兄ちゃんが自分を責めて落ち込まないようにしようとしていたのだと思いますよ?」
「そうか」
俺を気遣ったために必要最低限しか殺さなかった。俺を気遣った5人には感謝をする。
だが5人に心配をかけ、俺を気遣ったために怪我をしていた可能性がある。そのため感謝と同時に罪悪感が襲う。
「……レイ、どうしたの?」
「何が?」
考えていると、シュティアが俺の隣に座る。どこか心配そうな表情をしている。
俺は何を言いたいのか分からなかったので、尋ね返した。
逆に尋ね返されたシュティアは、どのように話そうか考えているのか、黙る。
「……何か、悩み事?」
「悩み事ではないが、そんな風に見えたか?」
「見えますよ。すごく皺が寄っていますよ?」
ヴェーヌは俺の向かいのソファーに座りつつ、自分の額を指でつつきながら苦笑いしている。そんなに皺が寄っていたのだろうか。
気が付けばメルクールとウーラもソファーに座っていた。
4人とも聞きたいと訴えている表情をしている。どうやら話さなければいけないようだ。
俺はため息をつく。
「カナから昨日のことを聞いていた」
「昨日と言えば、ここに着いた日よね?」
「ああ」
ウーラが確認を取ってくるので、俺は頷いておく。
「戦闘は各自の判断で、と言ったが、カナからの報告では4人ともできる限りレールン兵士を殺さないようにしていたようだな。俺のことを考えたためか?」
俺が尋ねた瞬間、4人が一斉に目を逸らした。
ただ、メルクールの場合は途中で暴走したことから目を逸らしているように思えた。それは過ぎたことなので、掘り返すつもりはない。
「どうやら当たっていたようだな。俺に気を遣うな。でないと怪我をするのは自分自身になるぞ?」
「……でも、レイが苦しむところ……見たく、ない」
「なぜ俺が苦しむと思った?」
「レイさんが、戦闘の指示を出しましたよね? それはつまり、レイさんが間接的に殺したのと変わりないじゃないですか」
シュティアが何やら考えていると、メルクールが説明をする。それを聞いたシュティア達3人が頷いた。
「確かにメルクールの言う通りだが、俺は何とも思っていないぞ?」
メルクールの言う通り、確かにその可能性はあったが、実際聞いてみるが何とも思わなかった。
理由としては、言い方は悪いが、シュティア達が行ったことに俺は全く関係ないと感じているからだろう。
そてよりも、先ほどシュティアが言っていた言葉の中に、気になる言葉があったので尋ねてみることにする。
「話は変わるが、俺が苦しんでいると、いつから知っている?」
「……私は、最初から。メルクールがその日の夜で……ヴェーヌとウーラは郷にいるとき。カナちゃんも同じぐらい」
俺の質問にシュティアが答える。
シュティアとメルクールは最初から知っており、ヴェーヌとウーラ、それにカナに至ってはエルフの郷にいるときから。
エルフの郷にいるときからと言っても、2か月もエルフの郷にいた。滞在して1か月あたりには気が付いたとしても、かなり長い間心配させていたことになる。
「心配させてすまない。今はかなり落ち着いてきたから心配するな。それに俺の心配をして5人が傷つくようなことがないようにしてくれ。俺的には5人が傷つく方が苦しむことになるから」
俺が5人の顔を順に見ると、5人とも真剣に頷いてくれたので心配はないだろう。
その後は話を切り替えて、この戦争が終わってからのことについて少し話し合った。
ヴェーヌがフラグを立てそうだと恐れていたが、まあ大丈夫だろう。
この戦争が終わったら戦後処理があると思うが、それは国王にでも丸投げしてさっさと次の国を通り魔族領にでも向かおう。
話していると寝るにはいい時間になったので、それぞれ寝室に戻っていく。
明日も街での復旧作業があるので、もちろん参加するつもりだ。
その後も数日間、街での復旧作業を手伝う。
復旧作業を始めた当初よりはいくらか進んだが、全体を見ると全然進んでいないように感じるのは初日と同じだ。
そして、街で復旧作業をしているときに、援軍と思わしき集団が到着するのが分かった。




