番外編 休暇『必殺技』
本日は番外編と外伝、第2章で出てきた登場人物を上げております。
俺はなぜか朝早くに目が覚めてしまった。眠れそうもなかったのでテントから出ると、少し離れたところでヴェーヌはこちらに背を向けるように、槍での攻撃をする訓練をしていた。海の向こうからは朝日が顔を出し始めている。
俺はうしろから近づいて声をかけた。
「おはよう、ヴェーヌ。あまり無茶はするなよ?」
「……」
ヴェーヌはこちらの世界に転生してきた。そして蜥蜴人として槍を持って戦い始めてから、10年ほどたつようで、槍で攻撃する動きは、もはや無駄がないと言うぐらいまで完成させられている。
だが少しでも上を目指そうとしているヴェーヌは、時間があればできる限り槍での攻撃を行っている。
俺があいさつしたにもかかわらず、ヴェーヌは一向に振り向かないで、ずっと槍で攻撃をする練習をしている。どうやらかなり集中しているようだ。
俺は少し離れたところで見ることにした。
登ってくる朝日と、照らされてダイヤモンドのように光を乱反射させている海を背景にしながら、槍の練習しているヴェーヌはどこか美しかった。
俺達は現在、旅の疲れを取るために昨日からタラッタの近くにある海岸で休暇を取っている。3日ほどここで休暇を取るつもりだ。下は真っ白な砂で、都会の海岸のようには汚れていない。
この休暇の後は、一気にとなりの国に向かって移動を開始する予定なので、この国で最後の休暇になる予定だ。
どのくらい経っただろうか。最後の一突きのまま動きをしばらく止めたヴェーヌは、構えを解いた。どうやら終わったようだ。
「ひっ!」
テントに戻ろうと思ったらしく、振り向いたヴェーヌは小さく悲鳴を上げると、真っ白な砂地に尻餅をついて倒れた。
俺は苦笑いを浮かべながらヴェーヌに近づく。
「集中しすぎだ」
俺はヴェーヌに近づくと、手を差し出す。ヴェーヌは最初ためらったが、俺の手をつかんだので、引っ張り上げる。ただ目は逸らしている。
「い、いつから見ていたんですか……」
「そこそこ前から」
ヴェーヌは俺に尋ねながら引っ張り上げられると、つないでいた手を放したのち、服をはたいて汚れを取り始めた。
長い間見て居たのは確かだが、どのくらい前から見ていたのかは分からないので、適当に答える。
「いたのなら声をかけてくださいよ」
「かけたが、集中していたようで聞こえていなかったな」
俺とヴェーヌはそんな話を少したのち、テントに戻ろうとした。
そこで気が付いた。テントの入り口から、4人の顔が見えた。4人とは、シュティアとメルクール、ウーラにカナだ。シュティアは腹ばいになって見ており、メルクールがその上に乗るようにしてこちらを見ている。
その上にウーラがいれば団子のように見えていたかもしれないが、ウーラはそんなことをせずに、シュティアの隣に座ってこちらを見ている。
代わりに、なぜかカナが上に乗っていたので頭が3つ縦に並んでいた。
メルクールはにやにやと見ており、ウーラは微笑んでいる。シュティアはと言うと、嫉妬しているのか、俺の方を睨んでいる。カナは無表情だ。
「いつから見られていた?」
「零さんに見られていることに気が付いていないのですから、知りませんよ」
俺は気になったのでヴェーヌに尋ねたが、ヴェーヌも気が付かなかったため分からないようだ。
そもそも俺が見ているのに気が付いていなかったので、他の4人にも見られていることに気が付くわけがないか。
カナを除く3人が、いろいろと詮索してきそうなので、俺とヴェーヌはため息をついてテントに向かった。
「本当に何もありませんでした!」
「……嘘だ」
朝食時に案の定、シュティアとメルクールから詮索が行われた。ウーラは詮索を行わなかったが、ヴェーヌ対シュティアとメルクールのやり取りを楽しそうに見ていた。カナは静かに話を聞いているだけだった。
ヴェーヌはシュティアとメルクールに説明した。ヴェーヌが訓練をしているときに、俺は後ろから見ていただけであると説明した。だがシュティアはあまり納得していないようで、今度は俺の方を見てきた。
「……本当?」
「ああ、本当だ。俺はただ見ていただけだ」
「……そう」
俺の言葉は信じることができたようで、シュティアは納得した。
メルクールは納得できずに、どこか不満があるような表情をしていた。
「どうした? まだ不満があるのか?」
「不満と言うより、残念だったと言った方が正しいですね」
「残念? どこが残念なんだ?」
メルクールの言いたいことがいまいちわからなかった。俺はメルクールに尋ね返す。
「レイさんのことなので、ヴェーヌさんに何か教えていたのじゃないかと思ったのですよ」
「俺はヴェーヌに何も教えていない。そもそも教えることなんてないだろ」
シュティアとウーラが、俺に何か言いそうだったので、素早く言葉を挟んでおく。ここで2人が再び何かを言うと、朝食が長引きそうだ。
「それはそれでつまらないですね」
「どこがだ!」
メルクールがつまんなさそうに膨れるので、俺はメルクールの額にデコピンを当てる。もちろん手加減はした。朝食を食べているのでメルクールは座っていた。そのため後ろに寝転がるように転げると、痛さのあまりなのか地面を転げ回っている。
だがすぐに回復したらしく、転げ回ったために汚れた服をはたくと座り直す。
俺がデコピンしたためか、額が少し赤くなっている。
「仕方ないじゃないですか! 少し期待していたんですから!」
「そうか。ちなみに聞くが、何を教えたと期待したんだ?」
「例えば……必殺技とか?」
俺は、ヴェーヌに何を教えたと期待していたのか聞くと、メルクールから意外な言葉が出てきた。
この世界にも必殺技があるのか?
俺はシュティアとウーラの方を見るが、2人とも初めて聞いたようだ。
それも、言葉自体を初めて聞いたようで、言葉の意味にすごく興味があり聞きたいという顔をしている。
シュティアとウーラが知らないと言うことは、この世界にはない言葉なのだろう。と言うことは、外部の世界からもたらされた言葉だ。もちろん俺は話していない。
メルクールが前から知っていたという可能性も考えられるが、それならばもっと前から言っていたはずだ。と言うことは最近知った言葉である。
外部からもたらされた言葉であり、メルクールは以前は知っておらず今は知っている。そして外部から来た人間である俺は必殺技という言葉は話していない。つまりもう1人の外部から来た人間が教えた。
俺はそいつを見る。
「お前が教えたのか?」
「言っても、問題はないですよね?」
ヴェーヌを見ながら尋ねると、本人も少し焦りながら確認を取る。
俺が知るわけないだろ。
「それに似た言葉は探したらあるだろ。ただし多分だぞ?」
俺の言葉を聞いたヴェーヌが、あからさまに安心した表情をしたので俺は最後に言葉をつけ足しておく。
ここで俺はようやく思い出した。
メルクールは必殺技という言葉をヴェーヌから聞いたので、言葉の意味は知っているだろう。だがここにはもう2人、必殺技という言葉を知らないであろう、この世界の住人がいる。
「ヴェーヌ。お前のせいでメルクールが余計な言葉を知った。そしてそれが原因で、他の奴も知りたいようだ。教えろ」
「確かに私が教えましたが、それを原因にして無理やり教えさせるのはどうかと思います! それに、一体他の奴って……」
ヴェーヌが反論する。最後の言葉は、周りにいる仲間を見回すと徐々に消えていった。
ヴェーヌの視線の先には、ものすごく聞きたそうにしているシュティアとウーラがいる。そしてその2人は、教えろと言っているかのようにヴェーヌを見ていた。
それを見たヴェーヌが助けを求めるかのように俺を見てきたが、俺は目を逸らした。ヴェーヌが崩れ落ちるのが雰囲気で分かった。
その後、朝食を食べ終わった。俺が片付けしている間にヴェーヌがシュティアとウーラから質問攻めにされたのは言うまでもないだろうか。
「じゃあ、私も考えてみようかしら?」
「必殺技を?」
「ええ」
「……じゃあ、私も」
「あたしも考えます!」
ウーラの発言に乗っかかるように、シュティアとメルクールも考え始めた。その隣でヴェーヌが頭を抱えて下を見ているが、何も言わないであげよう。きっと前世での出来事を思い出しているから。
「別になくてもいいだろ。お前たち十分強いだろ?」
「それとこれとは別です!」
メルクールがそう言って再び必殺技を考えている。シュティアとウーラも頑張って考えているが、2人は時々俺の方を見ては何やらつぶやいている。
まさか俺の必殺技を考えているわけはないよな?
この日も海の近くでのんびりと過ごして泊まるつもりなので、テントは片付けない。もし移動となれば片づけることになる。
ただ、海で遊ぶために来たにもかかわらず、必殺技を考えることで1日が終わりそうなのはどうなのだろうか……
「ねえ、レイ君。あなた用の必殺技を考えたの。試してくれないかしら?」
特にすることもなかったので、白い砂の上に寝転がって暖かい日差しを浴びていると、隣からウーラが声を掛けてきた。隣を見ると、ウーラが横座りで座っている。
シュティアはまだ考えているようだ。ヴェーヌは攻撃の練習をしている。メルクールとカナは少し離れたところで、ヴェーヌの練習を見ている。
練習といってもそこまで本気ではなく、体を動かすことを目的としているために、軽く攻撃をしていると言った方が正しい。
「俺は必殺技なんていらないのだが……」
「いいじゃない。面白いものを考えたのよ?」
「やらない前提で聞くが、どんなものだ?」
面白いものと聞いて、少し気になった。そのため聞かずにいられなかった。もちろんやらないと言うを先に伝えておく。
「あなたの持っている【鉱石干渉】を使ったものよ」
「それで?」
俺の顔を見たウーラが、何やら嬉しそうに少し微笑む。
俺はかなり気になった。しかしそれを表情に出さないように先を促したが、どうやら表情に出ていたようだ。
ウーラが説明をする。
「あなたが盾の形にした金属を持つ。もちろん金属はなんでもいいわ。相手が剣を振ってきたときに、盾で剣からの攻撃を防ぐのよ。そして防いだ時に、盾を通して剣に【鉱石干渉】を与えるの。そうして【鉱石干渉】を与えた剣を盾に取り込めば、相手の武器を奪えるわ。ついでに言うと、資源も回収できるわね」
俺はウーラの説明を聞いて一瞬納得しかけたが、その技がかなりひどいことに気が付いた。
簡単に言うと、相手の武器を奪って、こちらの資源にすると言うことだ。
「ウーラ。それかなりひどい考えだぞ」
「あら? 戦場にひどいも何もないわよ? 勝てば正義、負ければ悪よ?」
「確かにそうだが……」
「それに、あなたがそんなふうに考えるなんて思わなかったわ」
ウーラの言う通り、戦場ではひどいも何もない。死んだらそれで終わり。勝たなければならないのだ。
俺はいろいろと考える。実際に相手がそんな手段をとってきたらどう思うか。間違いなく驚く。次に罵声を浴びせるだろう。だが戦場にはひどいも何もない。勝たなければならない。
「ヴェーヌで試して来たらどうかしら?」
「なぜだ?」
「あなたの顔に、試したいって書いているからよ」
ウーラはクスクスと笑いながらそんなことを言ってくる。何か悔しかった。
だがやってみたいのはやってみたい。
俺は立ち上がると、ヴェーヌの方へ歩いていく。その後ろをウーラが付いてきている。遅れてシュティアがついてきた。何をするのか興味ありと言った表情だ。
ヴェーヌに近づいていくと、メルクールと一緒にヴェーヌとカナが気が付いた。
「ヴェーヌ。少し試したいことがあるから、これを使って俺を攻撃してくれ」
「え、ええ。わかりました」
俺はそう言いながら即席で作った槍を渡す。すべて鉄でできているが、持ち手の部分だけは皮を撒いて握りやすくした。長さは2メートル行くか行かないかぐらい。
ヴェーヌが受け取ったのを確認すると、俺はインベントリから鉄を取り出して盾の形に形成する。だが普通の盾とは違って、横が60センチで縦が1.5メートルほどの長方形だ。丸みのある角をつけている。ニュース番組でデモ隊の鎮圧のために出動した警察などが持っている盾のような物と言えば分かりやすいだろう。
「変わった盾ですね」
「……うん。見たことが、ない」
メルクールとシュティアが感想を言う。ウーラは何も言わなかったが、少し困った顔をしているので見たことはないのだろう。カナは無表情で見ているだけだ。
「来い! ヴェーヌ!」
「行きます!」
ヴェーヌは少し戸惑っていたが、俺が来いと言うと迷いを捨てて槍を構えた。
俺は左半身が盾に隠れるように構える。盾には2つの取っ手が同じ高さで2つ並んでいる。そして左腕を2つの取っ手にまっすぐ通し、手の側に来ている取っ手――盾の右側にある取っ手をつかんで持つことができるようになっている。
「やっ!」
掛け声と同時に、ヴェーヌは槍を突き出してきた。すぐさま全身を隠すように盾を移動して俺は防ぐ。
槍の先が当たったと同時に、盾を後ろに下げた。そのままでは盾で槍をはじいてしまい、接触時間が短くなるからだ。いくら【鉱石干渉】でも、接触時間が短ければ不発に終わる。
盾を通して【鉱石干渉】を加える。突き出された勢いにより、槍の先が変形してつぶれるのが分かった。
ウーラの言っていた通りにするため、すかさず盾と槍をつなげ、鉱石干渉を止める。するとまるで、溶接されたようにぴったりとくっついた。
「……え? えぇぇっっ! ちょ、ちょっと待ってください! どうなっているのですか!?」
槍を引っ込めようとしたヴェーヌは、盾にぴったりとくっついている槍を見て焦っていた。俺が【鉱石干渉】を使ったことは分かるはずだが、あまりの出来事にそこまで思考がまわらないのだろうか。
必死に引っ張っているが外れるわけがない。だが代わりに俺が引き寄せられそうになったので、踏ん張って耐える。
ヴェーヌが引くのを止めた瞬間を見計らい、【鉱石干渉】を使用する。それと同時に踏み込む。すると、槍は柄の部分も潰れて盾の表面にくっつく。
状態は、手の表面に円柱状の粘土を強く押し付けた時になるような状況というと分かりやすいはずだ。
そしてすぐさま【鉱石干渉】を止めて、盾と溶接したような状況にする。
ほんの一瞬で、柄の部分が一気に短くなった。
「ま、待ってください! 本当に待ってください! どうなっているのですか!?」
「ヴェーヌ。手を離せ」
混乱したヴェーヌは今にも泣きそうな表情で訴えてくる。
さすがにこれ以上はまずいと思い、俺はヴェーヌに手を柄から離すように言うと、槍ごと盾をインベントリに仕舞った。
そしてヴェーヌに説明を始めた。
「零さん、あんまりです」
説明を聞いたヴェーヌが膨れながらそんなことを言う。ついでに効果音をつけるなら、ツーンって鳴りそうな感じでそっぽを向かれた。
言い出したのはウーラであると言ったにもかかわらず、これはあんまりだと思う。
「……なかなか、酷かった」
「確かに、あんな戦い方をされるのは困りますね……」
シュティアとメルクールがジト目を俺に向けつつ非難してくる。
俺は悪くないはずだ。
「あ。そうでした。ヴェーヌさんの話聞いて、あたしも必殺技を考えました!」
突然、メルクールがそんなことを言ってくる。それを聞いた全員がメルクールに視線を向けた。全員驚いている。
メルクールの言葉を聞いて、不安な気持ちにしかなれなかった、絶対に何かをやらかす。メルクールはそんな奴だ。実際、エルフの郷でもいろいろとやらかしていた。誰が見ても罠だと分かるボタンを押したことが、一番記憶にある。
「考えたって、本当に考えたのか?」
「もちろんです! 今すぐにでもできます!」
気になったので尋ねると、今すぐにでもできると言うので、少し離れたところに移動して向かい合う。俺とメルクールを除いた4人は座って見ている。
「本当にできるのだな?」
「大丈夫ですよ! 見ていてください! 凄い技を出します!」
お互いの準備ができたのでが尋ねるとメルクールはそう答えた。そして顔を斜め下に向ける。目は閉じている。
両手はこぶしを作って硬く握っている。腕は両方ともそれぞれ体の横に自然な形で置いている。
俺とメルクールの距離は6メートルほど。明らかにこぶしでは無理な距離だ。ナイフなどを投げるならば話は変わってくるが、そのような感じはない。
「こぶしで殴るにしても、遠すぎないか?」
「大丈夫です! 届きます!」
俺の質問に、メルクールは下を向いたまま答える。
俺は一応、先ほど使った盾を取り出して置く。だが構えない。構える必要がないと思ったからだ。鉱石干渉によってくっついた槍の部分は邪魔だったので取っている。
準備をしていると、メルクールが顔を上げる。準備ができたようだ。
「いつでも来い。準備はできている」
「行きます!」
メルクールはそう言うと、右半身を隠すように体を傾けると、腰を少し落とす。右手は後ろに引いて構えているので見えない。だが、さまにはなっている。
俺はそれを棒立ちになって見る。
「はあぁぁっ……!」
「ッ!」
メルクールが突然、気合を溜め始めた。本来なら笑えるだろうが、明らかに雰囲気が違った。
まずい。かなり本気だ。
俺は慌てて盾を構え、何が起きても何が来ても大丈夫なように身構える。
「せえぇぇっ……!」
メルクールは再び気合いを溜める。わからない。何が起きるかが分からない。例え何が起きても大丈夫なように構えてはいるが、何が起きるか分からないから怖い。
日本での常識が崩れるから異世界は怖いのだ。
「とおぉぉっ……! いきまあぁす!」
「来い!」
どうやらメルクールは何かの準備ができたようで、攻撃することを伝えてくる。俺は声に出して答える。だがその答えは半分、自分に気合を入れるためのものだった。
俺は、何が来ても何が起きても全身に力を入れる。だが何が来るのかを少しでも確認しようと、盾の端からメルクールを見る。
「やあぁぁっ……!」
メルクールは叫びながら、その場で思いっきり、こぶしを前に突き出す。本人は飛んでこなかった。だが、感じからして見えない何かで俺を攻撃するようだ。
俺は体に力を入れる。
俺はそれが到達するのを待つ。
1秒が過ぎ、3秒が過ぎる。5秒が過ぎて、ついには10秒が過ぎた。
遅い。明らかに遅い。だが油断はできない。相手を油断した時に襲ってくる攻撃かもしれない。
ここは異世界だから何が起きてもおかしくはない。
それからも待つ。どのくらい立っただろうか。波が浜辺に打ち上がる音が聞こえるほど静かだ。
突然、メルクールが行動を起こした。まっすぐ立つと首を傾げた。
俺も恐る恐る、構えている盾を下ろす。そしてメルクールに近づくと尋ねる。
シュティア達も終わったことが分かったらしく、立ち上がって近づいてきた。
「何をした?」
「……おかしいですね?」
俺が尋ねると、メルクールが答える。だが本人も予想とは違う結果がでたようで、疑問に思っているようだ。
「何をしようとしていた?」
「こぶしを前に突き出して、衝撃波を作ろうとしました」
「衝撃波だと?」
こぶしを前に勢いよく突き出して衝撃波を生み出す。それを使って俺を攻撃しようとしていたのだろう。
だが衝撃波は出なかった。そういうことをしたかったと思われる。何もなかったと言うことは、失敗したということでいいはずだ。
だが気になることがあった。なぜ突然それをしようとしたのか。普通ならば、明らかに考えつくようなことではない。それにメルクールの戦闘スタイルは、ダガーを使う近接攻撃だ。近接攻撃を行えるにもかかわらず、こぶしで攻撃しようとしている理由が分からない。
「なぜそんなことを思いついた?」
「ヴェーヌさんの話にあったのですよ」
そしてメルクールは説明し始めた。
先ほど、メルクールが必殺技を考えているときに、ヴェーヌが格闘ゲームについて話したそうだ。そのゲームにはコマンドが設定されており、バツや三角を順番に押せば必殺技が出ると言うのだ。そしてメルクールはそれを参考に必殺技を考えた。
俺は今回の主犯であるヴェーヌを見る。
するとヴェーヌは、目を逸らした。どうやら話の内容は聞こえていたらしい。あとでお話をする必要がありそうだ。
「でもおかしいですね?」
「どこがおかしい」
メルクールは説明を終えた後に首を再びかしげた。俺は盾を仕舞いつつメルクールに近づく。背に差があるので、メルクールは俺を少し見上げるような形になった。
「あたしの考えたコマンドでは、丸、三角、斜め下、パンチで衝撃波が出ると思ったのですが、出ませんでしたね?」
「でませんでしたね? じゃねぇよ!」
「ぐふっ!」
俺はそう言いつつ、ほとんど全力と言っていい力で、メルクールの脇腹を右足で蹴った。メルクールはそれを食らって、左に飛んでいき派手に転んだ。
「け、蹴った……! か弱い女の子を、蹴った!」
「お前はか弱くないだろ!」
メルクールがよろよろ立ち上がりながら文句を言ってくるが、俺は怒鳴り返す。
「そもそも、なぜ衝撃波を出せると思った!」
「え? ありませんか? 思いついてからじっくり考えていると、なんだかいけるぞ! すごいやつ出来そうだな! みたいな!」
「……」
メルクールが出せると思った理由がかなりひどかったので、俺は何も言わずにメルクールを見る。
そもそも、どのように返して言いた分からなかった。
「ああ、レイさんの目がだんだんと軽蔑に変わっていく……」
どうやら、知らない間にメルクールに向ける目が軽蔑に変わっていったようだ。
「そもそも獣人って身体強化以外の魔法を使えないだろ」
「はい!」
「はい! じゃねぇだろ!」
そう。獣人は身体強化の魔法以外は基本的に使えない。俺が知っていることを獣人であるメルクールが知っていないわけがない。
メルクールが元気よく返事をするので、俺は頭を抱えた。シュティア達の方を見ると、クスクス笑っている。驚いたことに、カナまで笑っている。
俺とメルクールのやり取りが面白かったのだろう。
「レイさん、次こそ成功させます! なのでもう一度……って、待ってください! 置いていかないでください!」
もう一度と言いかけたところで、俺はシュティア達の方に帰っていった。さすがに付き合え切れない。
「お、おつかれ……けほっ、さまでしたっ、ふふっ」
「……お、お腹痛い」
「おつかれさま、レイ君」
「おつかれさまです、お兄ちゃん」
ヴェーヌが労いの言葉をかけてくる。ただ、ものすごく笑いをこらえている。
シュティアに至っては、お腹を押さえて苦しそうにしている。ウーラとカナは、普通に労いの言葉をかけてきたが、笑うのを我慢している。
「そういえば、ヴェーヌとウーラは必殺技を考えなくていいのか?」
「え? 私は別にいいですよ?」
「私も別にいいかしら?」
話を変えるために、ヴェーヌとウーラはどうするか聞くと、2人は考えなくていいそうだ。
まあ、2人の年齢から考えると、そんな年じゃないのだろう。
「零さん? 今ものすごく失礼なこと考えませんでしたか?」
「レイ君、ものすごく失礼なことを考えたわよね?」
「ソンナコトハ、カンガエテイマセン」
俺は思いっきり目を逸らした。女の感って怖い。真面目に。
目を逸らした先には、ちょうどシュティアがいた。そういえば、シュティアはずっと考えていたままだよなと思ったので、聞いてみることにした。
「シュティアは何か考え付いたか?」
「……ん? うん」
シュティアは一瞬きょとんとしたが、すぐに意味を理解したらしく、小さく首を縦に振った。どうやら考え付いたようだ。俺は気になったので尋ねてみることにした。
「どんな必殺技だ?」
「……レイを、不意打ちで倒す……必殺技」
「俺を?」
シュティアからは想定外の言葉が出てきた。まったくわからない。
そもそも、どんな魔法でも使えるのではないかと思えるシュティアに、俺がかなうはずがない。不意打ちで俺を倒すとなると、かなりの魔法だろう。
「今見せてもらえるか?」
「……うん」
少し気になったので、俺はシュティアに頼むと、すぐに了承してくれた。
俺とシュティアは向かい合うように立つ。距離は50センチもない。
あまりにも近すぎる。かなりの近接魔法なのだろうか?
というより、俺を倒せる魔法を使えば、間違いなく至近距離にいるシュティア本人も被害を受ける。
「あの……シュティアさん? 近すぎませんか?」
「私も、そんなに最大射程が短い魔法なんてしらないわ」
メルクールとウーラが心配そうに、シュティアに尋ねる。ヴェーヌとカナも心配そうだ。
「……大丈夫」
シュティアは微笑みながら自信満々に言い放つ。目も本気だ。少し――かなり心配だ。メルクールの二の舞にならないだろうか。
「準備はできたか?」
「……うん。盾は、いらない」
俺が確認すると、シュティアは頷く。俺は盾をインベントリから取り出すと、シュティアがいらないという。俺はためらいながら、インベントリに盾をしまった。
いくら何でも、こんな近距離から魔法は食らいたくない。盾がいらないと言うことは、それほど威力が低い魔法なのだろうか?
もしそうなのであれば、必殺技とは言えないと思う。
「……必殺技、する」
「来い」
考えていると、シュティアが必殺技を出すと言ってきた。俺はこちらに意識を戻して、シュティアと向かい合う。一応、避けることができるようにはしておく。
「……覚悟!」
シュティアはそう言うと、行動を起こした。俺は全身に力を入れて身構える。
だが実際に起きたことは、俺の想像を超えていた。
突然シュティアが突進をしてくる。距離が50センチほどしかなかったので、すぐに俺にぶつかった。失敗したのだろうか?
俺は衝撃を逃がすように、慌ててシュティアを抱く。
「ッ!」
その次に何が起きたのか、さっぱり分からなかった。
気が付けば、シュティアは俺の首の後ろ両腕を回して、俺が逃げられないようにしていた。
そして、すぐさまシュティアは柔らかい唇を重ねてきていた。
それも一瞬だった。すぐにシュティアは離れたが、顔には満面の笑みを浮かべている。
完全にやられた。
「な、なな、何やっているんですか!」
最初に言葉を発したのはメルクールだった。ただ、かなり驚いているらしい。
ヴェーヌは顔が引きつっている。初めて見たが、カナの表情も引きつっていた。
ウーラは口に手を当てて驚いている。
「……キスした」
「そうですが、そうじゃないです!」
「……接吻?」
「同じじゃないですか!」
メルクールとシュティアが何やら言い争っている。それを聞いていると冷静になれた。
「シュティアさん! そういうのは良くないと思いますよ!?」
「……なぜ? 私とレイは、恋人だよ?」
「ですが!」
メルクールとシュティアの言い争いにヴェーヌも参戦。ウーラとカナは楽しそうに見ていた。
シュティアの必殺技だが、突然やられるのは心臓に悪いので、止めるようにでも行っておこう。




