表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/83

第41話 王都の冒険者ギルド

国ごとに分けると書いていましたが、2章があまりにも長くなるので、前半後半と分けます。分けるのはもう少し後になるかと……

「本当に馬車に乗らなくてもいいのだな?」

「大丈夫です」


 翌朝、王都に向かって出発する前に、俺達はギルドに立ち寄った。手紙を受け取るためだ。

 受け取った場所は、昨日と同じ部屋だった。シュティア達は昨日と同様に下のフロアで待機しているので、この場には俺とギルド長しかいない。わざわざギルド長本人がわたしてきたのは少し驚いたが。


 この手紙は、王都のギルドに渡さなければならないそうだ。

 内容もきちんと教えられた。この手紙を持っている者――俺たちは、王族の指輪を持っている。それをここのギルドが確認済みであることを書いているらしい。


 手紙を受け取った時に、開けるなと言われた。これが開けられると、手紙は無効になるらしい。手紙は蝋付けされている上に、ギルドの紋章が入っているで、開けられたらすぐに分かるそうだ。俺ならこの紋章を鉱石干渉を使用してコピーできるかもしれない。


 内容を聞いたのだが、別に向こうでも王族の指輪かどうかを確認すればいいのではないかと思ったが、聞かなかった。なにかしらの理由があるのだろう。


「では、失礼します」

「ああ。頑張れよ」


 俺はギルド長にそう言うと、部屋を退出する。この時に気になったことがあった。ギルド長がニヤニヤしているのだ。はっきり言うと気持ち悪い。

 だが、あの顔は何かを隠しているときの表情だと思われる。もちろん感だが。



 部屋を出て下に向かうと、昨日のように視線が集まった。俺が来た時は、時間が少し早かったようで、まだ冒険者は数人しかいなかった。だが今は時間がそこそこ立ったため、数が多い席はほとんど埋まっている状態だ。


 だがその視線は昨日とは明らかに違った。昨日は睨んできたものが大半だったが、今日は大半のものが視線を合わせないように、俺が向いた瞬間に顔を何もないテーブルの上に向ける。俺から目を逸らす瞬間に感情を読み取ったが、その目は何かに恐れているようなものだった。


「要は済んだから、出発するぞ」


 シュティア達がいる席に近づくと、声をかける。カナを含める5人は頷くと、席を立ちあがった。俺たちはギルドを後にした。



 すでに朝食は済ませているので、まっすぐ城壁に向かう。

 途中、生肉や野菜などの食材を購入した。インベントリに入れていれば、腐敗することがないので、購入しても問題ない。


 入ってきたときと同様に、身分証明書を見せて街を後にした。

 と言っても、また戻ってくる。戻って来た時には、存分に楽しむつもりだ。邪魔が入らなければ。




 城壁からこちらが確認できないであろう場所まで移動すると、軽装甲機動車をインベントリから出して乗り込む。運転はヴェーヌ。俺は助手席に座っている。

 後ろの席では、メルクールを挟むように、シュティアとウーラが座っている。カナはウーラの膝の上に座っている。


 走っている場所は、馬車道から500メートルほど外れた場所。ここならすれ違ったとしても、完全にはみえないだろう。

 慣れてきたこともあるのか、ハンドルを握っているヴェーヌの肩の力はかなり抜けてきている。


 後ろの席で、銃座につくために開けることができる天井の開く音が聞こえた。真ん中に座っているメルクールが開けたのだろう。


「メルクールちゃん! 危ないわ! 戻って!」

「メルクール! 戻って!」


 急に後ろが騒がしくなった。何かと思い、俺は後ろを振り返る。

 真ん中にいるはずのメルクールが()()()()()


 シュティアとウーラは、天井を見ている。状況はすぐに理解できた。

 どうやらメルクールは銃座の所から車外に出たようだ。


「れ、零さん? どうなっているのですか?」

「大丈夫だ。そのまま走り続けろ。下手にハンドルを切るなよ。それと、急ブレーキと急加速もだめだ。車外に出ているメルクールが振り落とされる」

「え、えっ!?」


 ヴェーヌが、急に首をこちらに向けてきた。グリンッ! と音が鳴りそうな勢いだった。

 俺は放置して置き、メルクールを戻すことを考える。


「メルクール! 戻ってこい!」

「大丈夫です! あたし獣人なので!」


 俺はメルクールに怒鳴るが、メルクールは戻ってこなさそうだった。


「かなりのスピードが出ているから、獣人でも落ちたらただじゃすまないぞ!」

「大丈夫です! 安心してください!」


 俺は再度怒鳴るが、メルクールは戻ってこなさそうだった。

 俺は心配になったので、窓を開けて体を車外に乗り出す。メルクールの状況を確認するためだ。


 車内ではシュティアとウーラ、ヴェーヌが何やら言っているが気にしない。

 俺は窓から身を乗り出すと、天井をしっかり持って体を支える。


 メルクールはペタンとお尻をついて座っていた。ショートカットのクリーム色をした髪は、風を受けてなびいている。


「メルクール。危ないから戻ってこい」

「こうして、きちんと座っているので大丈夫です」


 俺が再び戻ってくるように言うが、メルクールは戻る気はないようだ。それよりも、目を細めて気持ち良さそうにしている。

 言っても無駄だと分かったので、俺は気をつけながら車内に戻る。


「……何しているの」

「メルクールを見てきた」

「……そうじゃない」


 シュティアが尋ねてきた。

 俺は答えたが、シュティアが求めていた答えと違っていたようで、ものすごく怒っているのが声で分かった。


「……レイの命は、私の命。危ないことは……しないで」

「……すまん」


 俺は謝るが、シュティアの機嫌は完全には回復しなかった。どうしていいかわからない俺は、そっとしておくことにした。





 海辺の街から王都まではかなりの距離がある。もちろん移動は軽装甲機動に乗って。だがそれでも野宿を2回することになった。

 もし、これが馬車移動となればもっとかかり、大変だっただろう。


 何度か馬車や徒歩の冒険者とすれ違ったが、軽装甲機動で走っていたところは、街と街をつないでいる道から500メートルほど離れた場所を走っているため、気が付いた人は少なそうに思える。ただ、土煙が時々上がっていたので少し心配だ。 




 王都に着いたのは、出発してから3日目の昼過ぎ。昼過ぎと言っても、あと2時間もすれば日が沈みそうなので、夕方と言った方がいいだろうか。


 城壁は、王都と言うこともあるのか、ものすごく高い。また大砲が数多く備え付けられており、いつでも撃てるように、頑丈そうな鎧を着た兵士がその周りに待機している。見たところ、ミスリル製ではなさそうなので、騎士団の兵士ではないのだろう。


 王都のため、門は人の出入りが激しい。日暮れが近づいてきていると言うこともあるのか、王都に入るために並んでいる人の量がものすごく多いのが遠くからでもわかった。


 もちろん接近しすぎないように気をつけるように王都に近づき、軽装甲機動から降りた。そしてインベントリに軽装甲機動を仕舞い、何事もなかったかのように列に並ぶ。


 前の集団は人が乗れるような馬車があるが、荷車も混じっている。全部で6台ほど固まっているので、行商人か何かだろう。



 人が多いと言うこともあり、街の中に入るのに、かなりの時間がかかった。

 入るための検査は、いつもの通りに行った。門番に、街での武器の携帯は可能だが、管理はくれぐれも気を付けるようにと言われた。理由を尋ねると、よく盗まれると説明された。

 特に、王都に始めてきた人が被害にあうようだ。理由としては、地方では犯罪は少ないため、油断しているからだそうだ。


 俺はお礼を言うと、王都の中に完全に入る。



 内部も王都と言うだけあって、賑わっていた。賑わいを言葉で表すとすれば、毎日がお祭りであると言うと分かりやすいと思う。それほどにぎわっていた。


 今回入った門から、大通りが真っ直ぐ伸びている。王都はかなりの広さがあるようで、遠くに2つ目の城壁が見える。予想が正しければ、あの向こう側に城があるのだろう。


「やはり王都だけあって広いですね!」

「……うん、迷子に……なるかも」


 メルクールがせわしなく見回している。他の3人も興味深そうに見ている。カナは何とも思わないのか、ヴェーヌに手を握られたまま歩いているだけだ。

 ちなみに、シュティアは俺と手をつないでる。


「これからどこに行くつもりですか?」

「本当は王都を見て回りたいが、先にギルドに手紙を持って行かないといけないな」

「そういえば、そんなことを言っていましたね」


 ヴェーヌが尋ねてきたので、行き先を伝えておく。

 王都に来るまでの間に、王都に行ったときにはギルドに行って手紙を渡さなければならない趣旨は伝えておいた。


 時間は大丈夫そうなので、さっそくギルドに向かう。


 王都のギルドと言うこともあり、海辺の街【タラッタ】より大きなギルドだった。驚いたことに、3階建てだ。いままで見てきたギルドはすべて2階建てだったが、3階建てなので驚いた。高さは周囲より一段高いので目立つ。


 俺を先頭に、建物の中に入って行く。外見の通り、内部もかなり広い。一部の2階の床はなく、吹き抜けになっている。


 安定といっていいのだろうか。入った瞬間、数十人いるうちの数人がこちらを見てきた。

 王都に存在するギルドのため、人が頻繁に出入りする。いちいち入ってきた人全員を見るのは疲れるのか、地方のギルドよりは見てくる人が少なかった。


 ただ、シュティア達5人が入ってきた瞬間、何人かの男性が息をのんだのはわかった。


「座って待っていてくれ。飲み物を飲んでいてもいいぞ」


 俺はポケットからお金を出したように見せながら、インベントリからお金を出し、ヴェーヌに渡した。5人は頷くと座りに行った。ここのギルドは人が多いため、椅子と机もそれに応じてたくさん用意されている。


 俺はそれを確認して受付まで行く。列が少しできていたので、並んで待つことになった。シュティア達を座らせていて正解だったかもしれない。


「ようこそ、冒険者ギルド、アルール王国王都支部へ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 俺の番が回ってきたので、俺は1歩前に進み出る。受付の女性はいつもの通りのあいさつをする。だが1か所だけ気になるところがあった。


「王都にあるにもかかわらず、支部なのか?」

「はい。よく皆さん尋ねてくるのですが、ギルドは本部が存在しないため、すべて支部となります。ただし、王都にあるため実質本部のような役割をに担っております」

「なるほど……」


 説明を聞いてなぜ王都になっても支部なのかが納得した。

 俺は納得して思い出した。用があって来たのに、こんなところで話している場合ではない。


「すいません。要件はこの手紙をギルド長に渡して貰いたいのです。タラッタのギルド長からの手紙です」

「一度確認させてもらいますね。それとプレートの提出をお願いします」


 俺は手紙と、冒険者であると言う証明のプレートを受付の女性に渡す。女性は両方を確認すると、顔を上げて俺を見てきた。

 確認ができたのだろう。


「確認できました。確かにタラッタのギルド長からの手紙ですね。中身は見ないで、直接ここのギルド長に渡すよう指示があったので、渡してきます。プレートの方は返しておきますね。席に座って少しお待ちください」

「わかりました」


 受付の女性が待つよう言ったので、俺は頷くとシュティア達のいる席に戻る。


 シュティア達は椅子に座って雑談しつつ、コップに入った飲み物を飲んでいた。


「……おかえり。手紙、渡せた?」

「ああ。直接ギルド長に渡してくるそうで、待っているよう言われた」

「と言うことは、また行くのですね?」


 真っ先に気が付いたシュティアが尋ねてきた。他の4人も気になっているようで、視線を向けてきたのでどうなったかを伝えておく。

 それを聞いたヴェーヌが尋ねてきたので、俺は頷く。


 だが俺は、どうしても周囲が気になった。

 俺はそれについて尋ねるため、ヴェーヌの近くまで行くと、声の大きさを落として尋ねる。


「なあ、ヴェーヌ。俺達かなり見られていないか?」

「確かに見られていますね」


 ヴェーヌが俺の顔を至近距離で見るように向くと、苦笑いを浮かべる。


 再び視線を感じた。だが今度の視線は感じ方が違った。

 俺は視線を向けてきた奴を見る。


「どうした、シュティア?」


 シュティアが俺とヴェーヌを睨んでいた。予想はついているが、尋ねてみた。


「……2人だけで、内緒話はダメ」

「嫉妬ですか……」


 ほとんど予想通りの答えが返ってきた。ヴェーヌは苦笑いをしている。メルクールもヴェーヌと同じく苦笑いしているが、ウーラは微笑んでいる。


「すみません。準備ができましたので、2階に上がってもらっても構わないでしょうか?」


 突然、後ろから女性が声をかけてきた。振り向くと先ほどの受付の女性が営業スマイルを浮かべて立っていた。準備ができたようなので、呼びに来たようだ。


「わかりました。シュティア達は待っていてくれ」

「……大、丈夫?」

「心配するな。すぐに戻る」


 俺は4人にそう言うと、受付の女性の後ろについて、2階に上がる。

 別れ際の際に、フラグとしか思えないセリフを言ってしまったが、大丈夫だよな? ここはギルドだから死ぬようなことはないよな?


 少し心配になりつつ、2階にある部屋の1つに入った。

 内装だが、はっきり言うと、タラッタのギルドにあった小さな会議室と変わらない。

 いや。少し違う。わずかだが広い。だがそれもほんの少しの差だ。


 内装が同じと言うことは、椅子と長机の配置も一緒だ。

 そして椅子の片一方に男性が座っていた。男性は白髪で、体の筋肉はタラッタのギルド長より少しだけ劣っているように見える。

 多分だが、この人がギルド長なのだろう。


「待っておったぞ! 早く座ってくれ!」

「失礼します」


 男性は年の割に合わない、子供のような笑顔で俺に促す。俺は一瞬、受付の女性を見たが、受付の女性が頷いたので、俺はギルド長らしき人の反対側にある椅子に座った。

 すると、女性が俺とギルド長らしき人の前に飲み物を置いて退出した。


「早速で悪いが、指輪を見せてくれ!」

「指輪――分かりました」


 何を言っているのか意味が分からなかったが、すぐに王家の指輪のことを言っていると言うことに気が付いた。俺はポケットに手を突っ込み、インベントリから指輪を取り出す。


 ここで何もない空間から指輪を取り出したりでもしたら、絶対に追及が来るだろう。もちろん、俺が答えたくないと言えばすぐさま追及はやめると思うが、余計な時間は取りたくない。


「ほう。それが手紙に書かれていた指輪か……」

「ええ。手紙に書かれていたと言うことは、盗賊が持っていたと言うことも知っていますよね?」

「ああ。詳細に書かれていたから、君の説明は不要だ」


 俺はそれを聞いてほっとした。さすがに捕縛した盗賊であったり指輪をどこで拾ったかを、2回も説明をするのは大変だ。

 指輪の説明を行うつもりで来ていたが、その説明が不要だと言うことなので何を聞かれるかが全く分からなにので、変に身構えてしまう。


 指輪を見ていた


「すまん。自己紹介を忘れていたな。私はここのギルド長のオーリンだ。君はレイ君で間違いないね?」

「ええ。間違いないです」


 自己紹介だった。

 予想通り、男性――オーリンは王都支部のギルド長だったようだ。


「さて、それでは今後のことについて説明させてもらおう」

「今後のこと……ですか?」

「ああ。時間が時間だから明日からのことだな」


 今後のこと。

 タラッタのギルド長が話していた、王に合うことだろう。残念ながら詳しいことはわからない。


「多分だが、お前は王に謁見することを聞いているだろ?」

「ええ。タラッタのギルド長から聞いています」

「なら話は早い。俺はこのあとすぐ、王宮に手紙を出す。指輪を持ったものが現れたとな」


 ギルド長はそう言って説明をし始めた。


 順調に進めば、明日の朝にでも俺のところに使者が来るそうだ。遅くても明後日の朝だろうとのこと。

 その後、使者と共に王宮へ向かう。移動手段は馬車の可能性が高いとのこと。冒険者と言うこともあり、服装に気を使う必要はなく、普段着でいいらしい。それは王からの指示だそうだ。

 王宮につくと、さっそく王に謁見して指輪を渡す。その際、報酬は何がいいか聞かれるかもしれないので考えておくようにとのこと。ただし、欲ばりすぎないようにと注意を受けた。


 はっきり言って、報酬なんていらないのだが……

 どうしてもやると言われれば、鉱石が欲しい。銃弾って案外、金属を使うのでいくらあっても困らない。発射された後に排出される薬莢は、できる限り回収して再利用しているのであまり金属を使わない。だが弾丸の部分は回収できないので、毎回新しく作る必要がある。


「まあ、王に謁見するときの注意事項は、直前に言われると思うから、その時に覚えろ」

「雑過ぎません?」

「こんなもんだ」


 一番気になる注意事項が、直前に言われるからその時に覚えろ。

 はっきり言うと、無理だと思う。


「必要なことはすべて話したな。指輪はこちらで預かる。帰って良いぞ」

「わかりました。失礼します」


 俺はそう言うと、立ち上がって部屋を後にした。



 1階に降りるために階段を下りる。そこで異変に気が付いたが、なんだか騒がしい。


 階段を降りると、すぐに原因が分かった。

 シュティア達5人が、男性冒険者4人に絡まれていた。しかも男性冒険者4人は全員美形。アイドルを組めるのではないかと思える感じだ。


 そしてシュティア達と男性冒険者の周りは少し開いており、その周りでは他の冒険者がはやし立てている。

 どうやら、シュティア達に絡んでいる冒険者達は将来は有望で、愛人にでもなっていれば将来心配しなくていいぞという内容。


 俺はどのようにシュティア達が対処するのか見たいと思ったが、それはシュティア達がかわいそうだと思ったので、俺が助けに行くことにした。


「何してる」

「……レイ」


 俺が声をかけると、真っ先にシュティアが気が付いた。顔には少し疲れが見える。もちろん周囲には分からないように装っている。

 カナは平然としているが、メルクールとヴェーヌ、ウーラもシュティアと同じく、周囲には分からないように装っているが、疲れが見える。


「なんだてめぇ?」


 いかにも不良ですと言うかのように、俺を睨んできた。はっきり言って怖くないな。これならまだドラゴンの方が怖い。

 比べる相手を間違っているか?


「こいつらの仲間だ」

「そうか。じゃあお前に頼むわ。そいつら俺たちにくれよ。可愛がってやるから」

「それは無理だな」


 俺がそういうと、周囲で座って見ている奴らの雰囲気が明らかに変わった。何人かは息をのんだ。

 十数人はじっと俺を見ている。そいつらは装備がミスリルなので、ランクがAであったりSなどの上位の奴だろう。 もちろんその十数人全員がミスリル装備と言うわけではない。中には濃い紺色のローブを着た女性もいる。


 俺がどのように対応するか楽しんでいると思われる。性格悪いな。


「おいおい! 俺らBランクの冒険者だぞ! お前は何ランクだよ?」

「Fだが?」

「おいおい! FランクがBランクに盾突こうと思っているのか? 弱いのに?」


 男性冒険者の1人がそういうと、残りの4人が声を上げて笑った。

 周囲の奴らは笑っていない。それよりも、今すぐ謝れと目で訴えかけているように見える。


「……レイを、馬鹿に……しないで」

「シュティア。やめろ」


 今にも魔法をぶっぱなしそうな雰囲気のシュティアの方を向いて止める。

 初級魔法しか使えないと本人は言っているが、2か月は一緒に過ごしているので、中級魔法が使えることは知っている。下手をすればここのギルドが言葉通り跡形もなく消え去るかもしれない魔法をぶっ放す恐れがあるので止めなければならない。


「おいおい。男の方が使えない奴なら、女の方も使えないやつかよ」


 男性冒険者の1人がそう言った瞬間、俺の堪忍袋の緒がきれた。

 俺は男性冒険者の方にゆっくりと振り返る。威圧は何とか抑える。ここで使ったら、全員ただでは済まないだろう。さすがに全体に被害を出すようなことはしたくない。


「仲間を馬鹿にするな。さっさと立ち去れ。でないと――」

「でないと?」


 男性冒険者の1人が俺を馬鹿にした表情で見てきた。別に馬鹿にされてもいい。

 だが、大事な仲間であるシュティア達を馬鹿にするのは許さない。だから――


「文字通り、粉々にするぞ」


 威圧を出さないように気をつけながら俺がそういうと、周囲に静寂が訪れた。誰しもがぽかんとしている。

 だがそれも一瞬だった。すぐに爆笑が起きた。


「ちょっ、ちょっと待て! お前、それ本気で言っているのか? まじで止めてくれよ!」

「無茶苦茶うける!」

「待ってくれ! 笑い過ぎで腹痛い!」


 誰しもが机をたたいて笑っている。

 ――顔が真っ青になっている、ミスリル装備の十数人の冒険者を除いて。



 数分後、笑いが収まった自称Bランクの男性冒険者が俺を見てきた。

 笑ったためか、顔が赤い。


「さて、先輩冒険者を馬鹿にするやつは、きちんと教育しないとな?」


 笑ったためなのか赤くなった顔で言われても、何とも思わない。そもそもこいつらは、Bランク。俺と比べると、あまりにも()()


「先輩冒険者に教育されても、俺が退化するだけだ」

「て、てめぇ!」


 俺の一言で、キレた男性冒険者5人が剣を抜いた。それを見た周囲が息をのんだ。

 さすがにトップランクの冒険者として、放置できない状況になったのか、ミスリル装備の冒険者が立ち上がる。止めに入るつもりだろう。


「じゃあ、粉々にするな」

「は?」


 俺はそう言った瞬間、縮地を使って1人の男性冒険者に近づいた。あまりの速さに、男性冒険者はついてこれていない。もちろん他の4人と、周囲の見物人も付いてこれていなかった。


 俺は男性冒険者の腕をつかむ。つかんだ場所は手首と肘。つかまれた男性冒険者はまだついてこれていない。

 俺はわざわざ待つつもりはないので、さっさと片付けることにした。腕に力を掛ける。


 ボキッ!


 本来は人の腕でなってはいけない音が、ギルドの中に響いた。

 俺は男性冒険者の右の前腕の骨を折ったのだ。次々と起こる出来事が原因なのか、骨を折られた男性冒険者は、状況を理解できていないらしく、全く動いていない。


 状況を理解できていないのは、周囲の人たちも同じのようだ。

 あまりの出来事に、全員ついてこれていない。全員なので、ミスリル装備の冒険者も付いてこれていない。椅子から立ち上がろうとしたところで固まっている。



 俺は右の肘と肩を持つと、続けて上腕の骨を折る。


 ボキッ!


 再び、なってはいけない音が鳴った。


「ぎ、ぎゃー! 腕が! 俺の腕が!」


 そこでようやく男性冒険者が状況を理解したようだ。物凄い悲鳴を上げると、折れていない方の腕を使い自分の折れた腕を押さえている。


「お、お前! 何している!」


 男性冒険者が叫んできた。攻撃されないように、俺は後ろに下がって距離を開けた。男性は俺に剣を向けているが、近づこうとしない。


「文字通り、骨を粉々にしようとしているのだが?」

「て、てめぇ。悪魔に魂でも売ったのかよ!」

「安心しろ。まだ売っていない。それに骨はまだ粉々ではないぞ」

「もう十分粉々だよ!」


 俺がきちんと答えると、男性が叫んできた。見ると、周囲で見て居た奴らの顔は真っ青を通り越して、真っ白になろうとしていた。


「じゃあそいつはもういいとして、他の奴らにするか」

「他な奴らって、まさか……」

「お前らのことだ」


 俺の言葉を聞いて、残りの男性冒険者4人は周囲に視線を走らせる。

 周囲の人たちは、視線が合わないようにコップを見たり、何もない壁を見るなどして、関わろとしていない。それを見た4人は、互いに顔を見合わせてどうするか考えている様に見える。

 もちろん俺は逃がすつもりはないので、他の4人の腕を折ろうと思っている。


「何の騒ぎだ」


 俺が行動を起こそうとした時、階段の方から声が聞こえた。静かだったこともあるのか、全員がその声に気が付き、一斉に見る。

 そこにいたのは、先ほど別れたギルド長だった。


 ギルド長はまず、全体を見る。続いて騒ぎの中心である冒険者に視線を向けたあと、悲鳴を上げている冒険者を見た。視線は腕を見ているのだろう。そして最後に俺を見た。

 俺を見たギルド長はすべてを理解したらしく、苦笑いを浮かべている。


「やはり、先に行っておくべきだったな」

「ギルド長……」


 ギルド長はそう言いながら、階段を降りてきた。受付にいた女性の1人がつぶやく。あまりの静けさに、声はしっかりと聞こえた。


「なぜ止められなかったのかは、あとで話を聞こう」

「はい……」


 受付にいた女性が、今にも消えそうな声で返事をした。ギルド長は、その返事を聞けて満足したのか、小さくうなずいた。


「さて、問題はお前たちだ。まあ、大体の原因は5人組の方だと思うがな」


 ギルド長は俺たちと男性冒険者5人組を見ながら呆れたように言った。

 ギルド長の言い方からすれば、男性冒険者は以前にも、何かやらかしたのだろう。


「話を聞きたいところだが、先に腕の骨を終われた奴を連れていけ。付き添いは1人でいいだろう」


 ギルド長の指示にしたがい、男性冒険者の1人が腕の骨が折れた男性の左に立って付き添う。受付の女性の1人が気の毒そうな顔をしながら、2階に上がっていった。それについて聞くように2人も付いて行く。


「さて。じゃあ、状況を聞こうか」


 ほとんどの人が、階段を上がっていく2人を見ていたが、すぐに視線がギルド長に集中した。

 ギルド長に睨まれるように見られている冒険者3人は、体を一瞬硬直させたが、すぐに元に戻ると俺の方を指さして叫び始めた。


「俺らは何もやっていない! やったのはこいつだ! こいつが俺の仲間の腕の骨を折りやがった!」

「それは分かっている。だが本当に、こいつだけが悪いのか? お前たちは何もしていないのだな?」

「当たり前だ!」


 ギルド長は数秒間、男性冒険者を見た後に、ミスリル装備の冒険者の方を見た。

 ミスリル装備の冒険者は互いに目を見合わせた後、まるで打ち合わせをしていたかのように1人の男性冒険者の方を見た。男性はまだ若く、20代後半のように見える。


 この場にいる全員の視線が集まったためなのか、その男性冒険者はため息をついた。


「そいつらが最初に剣を抜いた。その前にそこの女連れの男が挑発したが、それより前にそこの男ども5人が女にしつこく声をかけていた。俺たちはBランクだ、ってな」

「それは本当だな? 先に行っておくが――」

「本当だ。それに嘘はつくなぐらい知っている」


 説明をした男性冒険者の言い方では、俺より絡んできた5人組の方が悪いように聞こえる。

 それが困ると言うわけではない。きちんと説明しているなと感心しただけだ。


 男性の目撃証言聞いたギルド長は、再び視線を冒険者に戻す。

 目撃証言を聞いた男性冒険者はどこか焦っているように見える。


「さて。あいつはそう言っているが、間違いないか?」

「でも――」

「先に言っておくが、場合によっては除名処分になるぞ。やったのなら大人しく認めるほうが罪が軽くなるかもしれん。それを伝えたうえでもう一度聞く。間違いないか?」

「……ああ。間違いない」

「よろしい」


 ギルド長の脅しのような警告で、男性冒険者は自分たちがやったと認めた。

 この状態なら俺も何かしらの処分が下りそうだ。あいつらは剣を抜いただけだが、俺は怪我をさせた。

 除名は避けられそうにないな。だが、シュティアに何かあったよりは、除名の方がマシだ。


「それより、あいつはどうなる。俺たちは剣を抜いたが、あいつは怪我をさせた」

「確かにあいつはお前たちの仲間に怪我をさせた」

「なら――」

「だが、厳重注意に使用と思う」

「何!?」


 誰しもが気になっていた、俺への処罰をギルド長が言い渡し、それを聞いた男性冒険者が声を上げて驚いた。成り行きを見ていた他の冒険者も驚いている。もちろん俺も驚いている。


 良くて除名処分と予想していたが、まさかの厳重注意。一瞬ほっとしかけたが、ギルド長の考えが分からず、ギルド長の方を凝視する。


 俺の視線に気が付いたのか、ギルド長が不敵な笑みを浮かべた。

 何かを隠していると、俺は判断した。でないと、あのような処罰を下そうとは思わない。


「さて。処罰を下された本人もわかっていないと思うから説明する。俺は、とある奴から情報を貰ったのだが、その情報から安易に力やランクを振りかざすような奴じゃないと判断した。だが怪我をさせたのには変わりはないから、厳重注意にした」


 ギルド長が厳重注意を俺に下した理由を聞いて、男性冒険者は一瞬、何かを言おうとして口を開いた。だがすぐに口を閉じた。言い返そうと思わなかったのだろう。


 俺も何も言えなかった。それより気になったことがあった。

 ギルド長に情報を渡した者が誰であるのかが気になった。俺と話したことがあるのは多い。と言っても多くはエルフの郷にいる者や獣人たちだ。それ以外にも人族と話してはいるが、宿の人やギルド職員ぐらいで、俺の詳しいことを知っている人はいないはず。


 ――いや、1人だけいた。俺のことを知っている人が。タラッタのギルド長だ。


 俺はタラッタのギルド長に、必要最低限の人に必要最低限の情報を教えることはいいと言った。

 そしてタラッタのギルド長は、さっそく王都のギルド長に教えたのだろう。2人が直接会っていないにもかかわらず知っていると言うことは、俺の持ってきた手紙に書かれていたと思われる。


 俺がギルド長をぼんやり眺めながら考えていると、ギルド長は再び不敵な笑みを浮かべた合っていそうだな。


「先に忠告しておく。まあ、忠告が遅かったために1人怪我人が出たがな」


 ギルド長は視線を戻すと、全員に聞こえるように声を出した。忠告と聞いて、ギルド長の話を聞いていた全員がギルド長の言葉に集中する。

 なんだか嫌な予感がするのだが……


「そこのガキだが、かなり強いぞ。もしかしたら6人のBランクパーティーを1人で壊滅させるかもしれん。場合によってはAランクパーティーでさえもな」


 ギルド長が俺を指さしながら、とんでもない発言をした。全員の視線が集まる。大半の奴は顔を青くしながら見てきて、一部の奴は面白いものを見るかのように俺を見てくる。


「まあ、強いのはそいつだけだろうな。見た限り他の奴は――」

「……私も、やるときはやる」


 ギルド長の言葉にかぶせるように、シュティアが言った。ただ単に言っただけなら良かったのだが、俺の左腕に抱きついた。

 結果、さっきまで顔を青くして関わりたくないですアピールしていたやつが――


「さっさと、くたばっちまえ!」

「スライムにぶつかって死んじまえ! この世から消えろ!」

「爆発しろ!」


 俺に向かって罵声を浴びせ始めた。どうやら自分の命より、俺に不幸が訪れるように願う方が大事なようだ。

 ギルド長は罵声を浴びせる側には回っていないが、シュティアの大胆な行動を見て、顔を引きつらせている。


 ちなみに、『スライムにぶつかって死んじまえ』というのは、『豆腐の角に頭をぶつけて死んじまえ』と同じ意味であると、ヴェーヌに後日教えてもらった。


 閑話休題。



 結局その後は、多くの人たちが見ていたとはいえ、形だけでもと言うことで俺は取り調べを受けた。形だけなので、10分ぐらいで終わった。その間シュティア達は先ほどと同様に座って待っていたが、誰からも声をかけられなかったという。


 俺がシュティア達のところに戻って来た時には、恋人がいない哀れ――可哀想な男性冒険者たちは、なぜか絆が深まったらしく、酒を飲み始めた。


 カナを含む俺たち6人は解放されたので、ギルドの外に出る。ギルド長が名前を呼んだように感じたが、気のせいだろう。



「……レイ。お腹、すいた」

「あたしもお腹すきました! どこか食べに行きましょう!」

「2人の言う通りですね。どこかで食べましょう」


 ギルドから出た瞬間、シュティアが俺の袖を軽く引っ張りながら訴えてきた。

 外はすでに日が落ち、屋台や店の明かりが道路を行きかう人を照らしている。

 メルクールが提案をし、それにヴェーヌが賛成の意志を示す。


 3人の言う通り、空腹だ。昼は少し遅めにとったとはいえ、食べる量が少なかったのだろう。

 ここは王都なので、食べる場所には困らないと思う。ただ、何があるか分からない上に、その中で何がおいしいのかが分からない。


「何を食べるかで困っているのかしら? 安心していいわ。王都には色々なものが各地から来るから、色々とあるわよ?」


 俺が考えていると、ウーラは微笑みながら情報をくれた。

 ウーラの言う通り、王都には各地から色々なものが集まる。特に料理に必要である調味料や香辛料はなければいけない。王都ここは王都なので、心配はほとんどないのだろう。


 ――いや、そうじゃなくて


 「なあ、ウーラって人の気持ち読めるのか?」

 「あら。気持ちを読めるのは、あなたのだけよ?」

 「そういう誤解しそうなことを言うのは止めてくれ」


 俺はウーラを見ながら尋ねると、ウーラは目を少し見開いて返してきた。

 この前もそうだが、時々ウーラは俺をからかうために言っているかどうか分からない事を言ってくる。



 結局、近くに合ったレストランに入ることにした。

驚いたことに個室を完備していた。シュティアの提案を受け、個室で食べることにした。


個室は店の奥の方に作られていた。手前は普通のテーブル席だ。

個室は2人、4人用、6人用があり、6人用を頼んだ。もちろん個室と言うこともあり、別料金がかかるがあまり痛くはない。もちろんCランクやDランクの冒険者たちにとっては、何かしらの祝い事がない限り使おうとは思えない金額だったとだけ伝えておく。


個室が完備されているというだけあって、食事の方も豪華だった。見た感じ、大半の料理が夕食で食べるようなメニューだ。

 王都と言うこともあり、いろいろな料理があって気になったが、パスタ料理を選んだ。


 メルクールはあまりにもお腹が空いていたのか、ガッツリ系の肉料理を選んだ。そして、おいしそうに食べている姿を見たヴェーヌとシュティアが、顔を少し引きつらせる。

 いくらお腹が空いているからと言って、メルクールの小さい体のどこに消えて行っているかものすごく気になる。


 カナに関しては、俺が作った魔力補給用のクッキーを食べている。


 ちなみに、シュティアとヴェーヌはグラタンのようなものを頼み、ウーラは俺と同じパスタを頼んでいた。

 ヴェーヌ曰く、この世界のグラタンはまだ食べたことがなく、チャレンジしたかったらしい。



 店を出た時の、4人の表情は満足したものだった。

 驚いたことに、カナは少し不満そうな表情をしていた。量が少なかったのだろうか?




 すでに日が落ちていると言うこともあり、宿を探すことにした。

 王都ということで、宿も多いと思っていたが、その分人も多く、宿の部屋はほとんど埋まっていた。

 数件回って、空いている部屋を見つけた宿に泊まる。幸いなことに5人部屋が開いていた。宿の人に6人いるが5人部屋で大丈夫か心配されたが、大丈夫であると伝えて部屋に行く。


 することはない上に、疲れもあったのか、すぐにみんな寝てしまった。

 俺は最近読む暇がなかった本を読んだのち寝ることにした。


 そう言えば、いつ国王に謁見すればよいか聞いていなかったな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ