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いじめ

この話では、いじめられるシーンがあります。そのようなシーンが嫌いな方用に、後書きに何があったかを簡単に書くので読んでみてください。

「おい! 戦闘に向かない職業の奴! 俺たちが戦闘に向かない職業のお前を鍛えてやるよ! ギャハハハ」

「感謝しろよな! こんなことないんだからよ! ヒヒヒッ」

「おお、いいじゃんか。俺ら超優しいじゃん。無能のために俺たちの時間使ってやるとかさ~」


 ダンジョンに潜ると説明があった次の日の午後、型の練習が終わって城に戻っている途中に、後ろから言葉を掛けてきた。振り向くと、服からして同じ学年の3人が、何がおかしいのか分からないがゲラゲラ笑いながら近づいてくる。


 別の人に声をかけているのではないかと思って周囲を見るが、どうやら俺のようだ。

 明らかに関わると面倒なことになることは分かった。


 以内だろうと思いつつ、助けてくれるやつはいるかと周りを見たが、案の定助けてくれそうな人などいない

 周りにいる生徒はこちらを見ているだけだ。俺と目が合うと、目をそらすか近くの人と突然話し始める。俺と関わりたくないようだ。


 俺の見た中には男性の先生もいた。しかしその先生も関わろうとしない。


「1人でするから大丈夫。放っておいてくれていいから」


 無理だと思いつつ極力丁寧に断る。もちろんこんなことを言って、はいそうですかと言って下がりはしないだろう。案の定、男子生徒の1人の顔がゆがんだ。


 俺と一定の距離を取るように歩いていたが、俺の言葉を聞いた瞬間、少し早足になって近づいてきた。あまり離れていなかったので、あっという間に俺の真ん前に来た。


「はぁ? おいおい、何言っているの? 同じ学年の、しかも戦闘に向かない職業の奴のために教えてあげるってんだから素直に従えよ!」


 男子生徒の1人がそう言って、持っていた練習用の剣を力いっぱい俺の横腹に叩きつけてくる。突然だったため、避けることも剣で防ぐこともできなかった。


 練習用の剣と言っても、重さになれるために鉄でできている。もちろん、けがをしないよう刃はつぶしている。

 さらには万が一のことを考え、皮の防具服を着ているが衝撃は伝わった。下手をすれば骨にひびが入ったのではないかという痛さだ。


 俺はその場に膝をつく。


 まさか、同じ学校の奴らが暴力に躊躇いを覚えなくなってきているのか? もしかして、それはほかの奴らも同じ?




 俺は周囲に目を走らせる。周りでは他の奴らが見ているが、一切助けようとしない。中には、はやし立てる奴らもいた。

 見ている奴らの中には先生もいた。しかし注意しようとしない。助けようともしない。

 それどころか面白がって、もっとやれとはやし立てるのだ。その先生の顔は学校で見たことがなかった。きっと事務の人だろう。


「おい! 早く立てよ!でないと死んじまうぞ! ギャハハハ」

「おらよっと!」

「おいおい! もうだめなのか?」


 そう言いながら倒れている俺の腹にけりを入れてくる。蹴られた場所が悪く、肺の空気が抜ける。

 ここから走って逃げたいが、連続して蹴りを入れるため、逃げようにも逃げられない。

 意識が遠のくが、蹴りによる痛みで戻される。それの繰り返しだ。




 どのくらい時間がたっただろう。見ていた奴らが少しずつ部屋に戻っていく。観客がいなくなった上に満足したらしく、男子生徒3人も笑いながらその場を去った。


 あまりの痛さに、俺は立ち上がることができなかった。少しでも体を動かそうとすると、体中が痛む。動けそうにないな。


 俺はしばらくそのまま待って、体の痛みが少し引くのを待つ。



 動いても大丈夫そうになると、痛む体を気遣いながらゆっくり立ち上がる。転がっている剣を拾い杖のように使って、自分の体を支える。かなり蹴られたが、幸い骨にはひびは入っていなさそうだ。

 だが、体のあちこちが痛んで思うように力が入らない。


 視線を上げて部屋に戻ろうとしたところで気が付いた。遠くにある城の入り口の扉にもたれるように人が立っていたのだ。そこに立っていた人は……


「なぜだ。なぜ止めてくれなかった……女王……」


 立っていたのは女王だった。女王は扉に寄り掛かる様にこちらを見ていた。遠くにいたため、表情は読み取れない。

 女王に向かって、俺は消えてしまいそうな声で尋ねる。もちろん聞こえるわけがない。


 少しすると、女王は扉をくぐって城の中に戻っていった。


 俺は、ただ茫然として見ているだけだった。召喚した本人が、見捨てることはあると予想していたが、まさか本当に見捨ててくるとは思わなかった。


 痛む体に鞭を撃ち、奥歯をかみしめながら歩き出す。

 見捨て、馬鹿にした奴らを後悔させるために……






 実践が始まって数日間、俺の周りはいろいろと変わってきた。鍛冶の練習・型の訓練・ダンジョンでの実践。


 鍛冶の練習では、鉱石干渉を使って剣を作る。銃作りのために『鉱石干渉』を扱う練習をしたことが良かったのか、剣を作ることが簡単に思えた。


 型の訓練では模擬戦を行い、ダンジョンでの実践では、実際にダンジョンに潜って敵を倒す。層は第1層のため敵は弱いうえに罠はない。よっぽどのことがない限り死なない。さらには騎士団の人もついているので、死ぬ可能性はさらに減っている。


 ダンジョンの第1層は本に書いてあった通り、洞窟のような作りだ。膝ぐらいの高さに、青く光る石が等間隔であったので明かりには困らなかった。


 銃作りに関しては、スキルをきちんと扱えることが出来るようになるまでやらないつもりなので中断している。



 ここ数日は進展があったものもあれば、変わらないこともあった。

 イジメはもちろん1回で終わるなんてことは無かった。何度も行われた。最悪なことに激しくなってきた。


 なんども王都を抜け出そうと思った。だが今は弱いから出ていくことが出来ない。

 何より銃が出来ていないにも関わらず、何が起きるか分からない世界に出ていくつもりはできなかった。


 そしてこの時には、周りにはもはや仲間と呼べる人は存在しなかった。いや、気付くべきだったのだ。いじめが行われた時点でみんなはこう言っているのだと。


 お前は弱い。だからお前はもはや『仲間』ではないと……


 俺はこれに気が付くのがあまりにも遅かった。誰も信用せず、王都を抜け出して1人で強くなろうと思う決断があまりにも遅かった。そのため俺は後悔する羽目になる。




『仲間』はいないとようやく気が付くきっかけになったのは、午前の訓練が終わって大広間で昼食を食べていた時。

 昼食は広い部屋はないため、大広間でみんな集まって食べる。本当は個室で食べたいのだが、許可は下りなかった。


 昼食はオーク肉を焼いたステーキなようなものに野菜たっぷりのシチュー、柔らかいパンだ。この世界で柔らかいパンは貴族ぐらいしか食べることのできないものだ。平民は硬いパンを食べるらしい。


 俺はいつまでもいじめられてまで、柔らかいパンを食べようとは思わない。ここを出ていけるのなら、硬いパンを食べたっていい。


 座っている場所は、大広間の入口近くのテーブル。ここに来てから1人のため、誰とも一緒に食べていない。



「おい。大丈夫か?」


 食事をしていると、男子生徒が後ろから声を掛けてくる。振り返ると1人、真後ろにいた。向こうでは仲の良かった友達の一人だ。

 名前は小林修太(こばやししゅうた)。日本にいた時は、よくゲームの話をしていた。たしか召喚された日の放課後も一緒に話をしていた。ここに来てからは話していないが、今のところ信用できる奴だ。

 そいつ声を掛けてきた。


「大丈夫って何が?」

「体だよ。時々いじめられているから」

「大丈夫だ」


 俺はついぶっきらぼうに返事をしてしまう。すると、男子生徒は少しホッとした表情になる。どうやら本当に心配していたようだ。ぶっきらぼうに返事をしてしまったことに罪悪感を覚えてしますが、なぜか謝らなかった。理由は特にない。


「そ、そうか。わかった。あまり無理するなよ?」

「分かっている」

「じゃあな」

「ああ」


 無理をするなと言うと小林は離れていった。向かったのは数人の男子生徒が集まる場所だった。よく見るとそこには前に訓練用の剣でたたき、蹴って来た奴らがいた。その3人が先程話してきた男子生徒に何か話していたが、遠いため聞こえてこなかった。


 俺は皿に視線を戻して、残りの昼食を食べていく。

 残っていたスープに手を付ける。冷えてしまっていたが、ここに来てから食べる味には変わりなかった。スプーンでスープをすくっては口に運ぶ。


「……ッ!」


 ちょうど3口目を飲もうとした時、激痛が起きた。あまりに痛い。例えるなら胃の中が溶けているのではないかと思うような痛さだ。さらには体に力が入らなくなってくる。


 痛みと体に力が入らないことにより、イスから転げ落ちる。

 遠くで誰かが大声で笑う声が聞こえるが、誰かはわからない。徐々に目の前が暗くなるような感覚に襲われる。意識がなくなっていくのが分かった。


 意識が完全になくなりそうになった時、どこからかは分からないが、足音が近づいてくる。そして誰かが耳元で叫んでいるのが聞こえた。しかし何を言いているのかわからない。すると腕を両側から支えられ、引きずられるようにしてどこかに連れていかれるのが分かった。


 わかったのはそこまでだ。そこで意識は深い闇の中に落ちていった。




「気が付いたか?」


 目を覚ますと、誰かががのぞき込んでいた。顔は逆光でよくわからない。声からして若い男性だろう。

 少しずつだが、目が明るさに慣れてきたので、周りの状態が分かった。しかし頭がきちんと働いていない。


「……ここは?」

「ここは医務室だ。何が起きたかはわかるか?」


 今いる場所を聞きたかったので尋ねると、男性は答えてくれた。どうやら医務室らしい。俺は自分に起きたことを働かない頭を懸命に動かし、思い出しながら、回らない口を懸命に動かして、ぽつりぽつりと話しはじめる。


「……確か、昼食を、とっていた」

「そうだ。その次は?」

「……友達と話した」

「次は?」

「……スープを飲んだ。そして倒れた」


 男性がたずねてきたのでゆっくりと答える。答えがあっていたらしく、男性は頷く。


 そこで、ようやく意識がしっかりしてくる。そして自分に何があったのかを細部まで思い出した。

 午前の分の訓練が終わり、昼食をとっていたのだった。すると男子生徒――小林が話しかけてきた。少し話すと小林は離れていった。食事を続けて、最後にスープを飲んだら倒れたのだ。


「思い出した」

「思い出したか。良かった」

「なぜ、俺は倒れたのですか?」


 自然に出てきた言葉を聞いて、男性医師はほっとした表情になる。心配をしてくれていたみたいだ。

 思い出したついでに、倒れた原因を俺は尋ねた。俺を助けることができたのだから、俺が倒れた理由は分かっているはずだ。

 俺の質問を聞いて、医師は何かを考える。


「君は毒を盛られた」

「毒……ですか?」

「ああ。スープの中に入っていた。薄いため死ぬほどだはなかったが、意識が戻らない可能があった」


 男性医師は深刻そうな表情で説明する。

 思い当たる節があった。小林に話しかけられた時だ。あの時にわずかだが、小林の目線が俺の後ろに向いた。あれは何かを見ていたのだ。ではその見ていた物とは?

 答えは簡単だ。毒をスープに入れた人を見ていたのだ。だが誰が入れたかまではわからない。


「毒を入れたであろう人はわかるか?」


 何が起きたかの予想をしていると、医師が聞いてきた。どのように答えようか考える。

 ここで小林の名前を出せば手っ取り早かっただろう。しかしそんなことをすれば、小林までもが俺をいじめてくるだろう。そうなれば俺の負担はさらに増える。ここで名前を出すのは間違いだ。俺は名前を出さないことにした。


「そうか」

「……さっぱり分かりません」


 医師が短く答えた後、無音の時間ができた。どこか遠くで人の声が聞こえてきたが、これが街の活気なのか訓練している奴らの声なのかは分からない。

 ここに何時までもいることはできないと思ったので、部屋に戻ることにした。


「何かあればまた来なさい。」


 ベッドから出ようとしたため、手を貸しながら言われる。独の影響なのか、体にはまだ力が入りにくいが、立てない程ではない。体の調子を確かめながらゆっくりと扉に向かう。


「今日は安静にしておきなさい」

「分かました。ありがとうございました」

「ああ。気を付けて」


 俺はそういうと、自分の部屋に戻る。今日は部屋で安静にしていようと思った。訓練に行っても、体が万全ではないうえに、訓練が終わったらまたいじめられるだろう。今は体が弱っているので、蹴りを食らえばただでは済まない。



 壁に手をつきながら重たい体を動かして、割り当てられた自室に戻る。

 戻る最中に人に会うことはなかった。生徒は訓練中で、騎士団の人は教えているためにいないのだろう。それ以外の人に会わなかった理由は分からないが、どうでもいい。



 部屋に着くなり着替えないでベッドに倒れこむ。ここまで歩いてくるのに、かなり神経を使った。1歩1歩、歩くたびに綱渡りをするときのような集中を必要とした。そのため息は上がっている。


 何もない天井を見ながら、昼間起きたことを思い出す。数日前まで信用で来ていた人さえも、もはや信用できない。

 それはこの世界に来た同じ学校の奴は、全員信用できないことを示す。そしてついに、あまりにも遅いが、1つの事に気が付いた。



 学校の奴らは俺を『仲間』だと思っていない。

 そして、王女のようにこの世界の奴は誰も俺を受け入れない。




 つまり、この世界には俺の『仲間』なんていない。


「クックックッ……」


 何が面白いのか、自分でも分からない。

 だが何かが可笑しかった。


「フハハハハハ……」


 ただ、笑いたかった。

 何に対してかは分からないが、ただただ笑いたかった。

*何があったかの説明*

主人公が非戦闘職のため、クラスメート達からいじめられる。さらには仲のよかった友達もいじめに荷担していることを知り、周りには『仲間』がいないことに気がつく。

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