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第37話 残党処理

「どうですか? そちらは終わりましたか?」


 倒した盗賊を紐で縛りつつ、シュティア達が洞窟内に入ってくるのを待っていると、背後から声がした。声からしてヴェーヌだろう。

 俺は振り向く。5人がすぐそこまで来ていた。


「戦闘は終わったが、縛るのはまだだ。ちょっと手伝ってくれ」

「わかりました」


 合流した5人と盗賊を縛る作業に入る。追加のロープをインベントリから出して、メルクールとヴェーヌ、ウーラに渡す。カナには盗賊が起きないかを見てもらっている。さすがに縛る作業は、人の手で宇うやった方がいいと思ったからだ。


 シュティアは縛る作業はせず、盗賊に何やら魔法をかけていた。盗賊を見れば、倒したときについた傷がふさがっていっていたので、治療魔法でも使っているのだろう。

 手の平を盗賊に向けて、詠唱も何もせず、じっと見ているだけで治っているところを見ると、シュティアは相変わらず魔法が得意だなと思ってしまう。




「他にも盗賊はいるのですか?」


 縛った盗賊を並べ終えてみんなで眺めていると、メルクールが尋ねてきたので答える。


「まだいるはずだが、どこにいるかまでは分からない。多分奥の方にいると思う」

「村を襲うほど、薬を必要とするケガをしているはずだから、脅威にはならないはずよ」


 俺の言葉の後に、ウーラが言葉をかぶせてくる。


 その後、俺は力を確かめられたことを伝える。

 そして洞窟の作りが分からため、全員で移動することにした。


 もういらないと思って、仮面は外した。フード付きコートは一応着ておく。




 以外にも、分かれ道は一切なく、順調に進んだ。

 そしてついに、広いところに出た。壁にはマジックアイテムであろう、ランプが付けられている。だが薄っすらと暗い。

 本当はここで行き止まりがよかったのだが、奥に続く道が2本ある。だがそれは後だ。


 ここの空間には手作りのベッドがあり、そこに5人の盗賊が寝ていた。

 幸い、ぐっすりと眠っていたらしく、盗賊は起きる気配がない。


「あいつらも縛るぞ」

「……待って」


 5人に縛ることを言うと、シュティアが待つように言う。全員がシュティアを見る。

 シュティアは右腕を上げ、盗賊の方に向けると、じっと盗賊を見る。

 それもほんの3秒ほど。すぐに腕を下ろすと、俺の方をじっと見て来た。


「なにをしていた?」

「……深い眠りにつかせた」

「どういうことですか?」


 俺が尋ねると、シュティアが答える。

 どうやらそれでもメルクールには分からなかったようで、首をひねっている。


「魔法の中には、相手を眠らせる魔法もあるのよ。シュティアちゃんはそれを使ったみたいね。理由としては、縛っている最中に起きないようにするため……ってところかしら?」

「……うん……あっている」


 ウーラがメルクールに説明する。そして魔法を使った理由をシュティアに確認する。

 メルクールは理解したらしく、納得した表情をしている。シュティアの方は、ウーラの予想があっていたらしく、すこし驚いている。


「もしかして、俺が倒した盗賊も同じようにしたのか?」

「……うん」


 驚いた。治療をしているように見えたが、実は眠らせていたとは思いもしなかった。だが魔力の方が少し心配になってくる。

 シュティアは未だに、レベルが10。ステータスも相当低い。

 しかしいろいろあり、レベルとステータスが偽造されていると分かっているので、魔力はたくさんあることぐらいわかっている。


 それでも限界はあるので、使っているといつかは魔力が切れる。にもかかわらず、かなりのスピードで魔力を消費しているので、いつ倒れるかが心配だ。


「あまり無茶はするなよ? 魔力切れで倒れられたら困る」

「……心配?」

「ああ。倒れたシュティアを誰が運ぶことになるかが心配だ」


 シュティアが目をキラキラさせて俺に聞いてくる。俺は正直に言うと、シュティアの目が一瞬でジト目になった。

 他にも目線を感じたので、その方向を見る。すると、メルクールとヴェーヌ、ウーラまでジト目を向けてきた。


「最低ですね」

「本当、最低です」

「ひどいわね」


 俺に向かってメルクール、ヴェーヌ、ウーラの順でそれぞれが感想を言う。

 ひどくないか?

 唯一、カナだけ無表情だった。


「ともかく、さっさと縛るぞ」


 俺はまるで、逃げるかのように盗賊のもとに行って縛る作業を始めた。

 他の4人も手伝う。カナは見ているだけ。


 人数が少くなかったこともあり、あっという間に縛れた。

 盗賊を床に並べておく。


「盗賊は置いておいて、2つの通路の確認に行くか?」

「ええ。それがいいと思うわ。まだ盗賊がいたら大変ですもの」

「じゃあ、先に右を見ましょう!」


 尋ねると、ウーラが返事をする。

 それを聞くや否や、メルクールがダッシュして右側の通路へと行った。メルクールについていくように、残ったメンバーは歩いていく。



 右側の通路を進んだ先、メルクールが立ち尽くしていた。

 メルクールの前には扉があった。扉は一部金属が使われた木製だ。木製だが、とても重たく頑丈そうに見えた。

 一度押してみるが、カギがかかっているらしくびくともしない。

 これほど頑丈な扉と言うことは、内部には宝石類があるのではないかと想定できる。


「鍵がかかっているのか?」

「はい。どこかに鍵が落ちて居たりしませんでしたっけ?」


 すでに開けようとしたようだが、鍵がかかっているらしく開かなかったのだろう。

 メルクールの質問に、シュティアとヴェーヌ、ウーラは首を横に振る。カナも首を横に振っていた。

 残念ながら、俺も鍵は見ていない。


「見てないな。まあいいか。ちょっと扉から離れていてくれ」


 俺の言葉を聞いたシュティア達が扉から離れる。何をするのかわかっていない顔をしている。

 分かっているのはカナだけのようだ。


「零さん。その扉は一部が金属でできているからと言って、スキルで空くようなものではないと思いますよ?」


 俺が扉に手の平を当てたのを見て、ヴェーヌがどこか申し訳なさそうに言う。

 俺は後ろを振り返り、不敵な笑みを浮かべた。それを見て、4人は首をひねる。


 俺は壁から少し離れると、体から力を抜く。

 深呼吸をして集中する。別にしなくてもいいと思うが、雰囲気作りだ。


 俺は1歩踏み出すと同時に腕を引き、力を入れて扉を殴った。もちろん全力ではない。力の入れ具合は60パーセントほどだろうか。

 全力でやれば、間違いなく扉が部屋の奥まで飛んでいくだろう。そうなれば部屋の中にあるであろう宝が売れなくなる。


 蝶番が壊れた扉は、ゆっくりと奥に倒れ、腹に響くほどの振動を起こして静かになった。


「さて、中に入る――どうした?」


 俺が振り向きながら中に入ることを伝える。しかしシュティア達の顔を見た時に、言葉を止めてしまった。


 シュティアとヴェーヌは苦笑いし、メルクールは口をぽかんと開けたまま固まって俺を見ていた。ウーラは口元を抑えて、驚いていた。カナも少し驚いていた。



「いろいろと突っ込みたいですが、なにから突っ込んでいいのか分かりませんね……」

「……化け物」

「かなり力尽くですよね」

「もう少しマシな力の使い方はないのかしら?」


 4人そろって言いたい放題だ。

 確かにちょっと間違えているような気がするが、仕方がない。鍵がなかったのだから。


「仕方がない。鍵がないから力尽くで開けるしかなかった」

「パンがなければケーキを食べればいいじゃない、みたいな言い方はやめてください」


 思いっきりヴェーヌに突っ込まれた。

 それは少し違うような気がするが……


「ともかくだ。宝をあさろう」

「スルースキル高いですね」


 今度はメルクールに言われた。こいつら言いたい放題だな。



 宝だが、銀貨が一番多くあった。その次に銅貨や金貨があった。すべて麻袋に入れられて箱詰めされていた。

 ルビーなどの有名な宝石のような物もあったが、すべて木箱の中に入れられていた。宝石が入っている木箱の数は2箱。


 よく漫画であるような、宝石をちりばめた剣であったり、王冠のようなものは一切なかった。あったらあったで、貴族絡みになりそうだったのでとてもよかった。



 シュティアとメルクール、ヴェーヌは宝石を見てものすごく喜んでいた。好きなものを持っていていいと言うと、気に入ったものをアイテムボックスに仕舞っていた。

 ウーラは宝石を見てもあまり喜んでいなかった。大人の対応なのだろう。宝石を仕舞っているところを見たので、興味はあるようだ。

 カナは宝石に一切興味を示さず、ずっと俺の後ろをついてきていた。


「一通り回収したな。もう一方の通路も見るか?」


 めぼしい物はすべて仕舞えたので4人に尋ねる。ウーラとカナを除く3人は、はしゃぎ過ぎで少し疲れたのだろう。壁にもたれて座っている。

 そのため、まだ動けそうなウーラとカナに尋ねる状態になった。


「ええ。そうしましょ。あなたに何かあれば大変だから、私が付いて行くわ。カナちゃんは、3人と休んでいて」

「わかりました」


 ウーラの言葉を聞いたカナは頷くと、3人のところに向かった。

 カナが3人に何かを話している。それを聞いた3人が俺とウーラを見る。

 それを見たウーラが微笑むと、シュティア達3人が悔しそうに睨んできた。


「さて。それじゃあ、行きましょうか」

「あ、ああ」


 ウーラはそういうと、元来た道を戻り最初の部屋に向かった。俺はその後ろをついていく。




 もう一方の通路は、盗賊と戦闘したときの通路と違い、でこぼこしていた。そのため足首をくじかないように、少し慎重に歩く。

 もちろん先頭を歩くのは俺。


「そういえば、あの蜘蛛はここに来るまでに見かけなかったわね?」

「そういえばそうだな」


 ウーラが尋ねてきたので俺は答える。


 ウーラの言う通り、ここまで来る時に、一度も蜘蛛に会っていない。

 予想だが、こちらの通路のどこかに蜘蛛がいるのではないかと予想している。


 そして、それはすぐに当たった。

 俺はインベントリから銃を取り出すと、天井に構える。


 銃はブルパップ式――弾倉の前の方に、引き金を配置するようにして、後ろの方の銃床部に機関部を収納しているアサルトを構える。

 機関部を後ろにすることによって、銃本体をコンパクトにすることができる。もちろんそれに伴って、デメリットも存在する。


 銃を取り出して構えると同時に、ウーラに声をかける。


「待て」

「どうしたの?」

「蜘蛛だ。天井にいる」


 蜘蛛は数メートル先の天井に蜘蛛が逆さまで張り付いていた。大きさは1メートルほど。だが色が黒なので、近づくまできちんと認識できていなかった。もう少し気を付けるべきだった。

 顔はこちらに向けているため、8つの目が俺とウーラをじっと見ている。



 洞窟の入り口で見た、ホワイトスモールタラトに間違いないだろう。重力を無視しているので、どのようにして逆さまでくっついているのかが気になる。

 もしかしたら、今後の作品に役立つかもしれない。


「ねえ? いま余計なこと考えなかったかしら?」


 まるで、俺の考えていることを読んでいるかのようにウーラが尋ねてきた。

 時々だが、ウーラは人の心を読んでくるので、油断できない。


 俺がウーラの心を読もうとした時には、微笑をするので、心を読めない。


「あいつ、襲ってこないな」

「あら? 話を逸らすなんて、いい度胸しているじゃない? まあ、あなたの言う通り、襲ってこないのが不思議だけれど」


 俺の話を逸らす意図が見え過ぎていたようで、微笑を向けられた。あとでいろいろありそうで怖いな。


 ウーラが言う通り、蜘蛛はこちらを認識している。そしてこちらが認識していることも分かっているはずだ。

 にもかかわらず、襲ってこないので、どうしても攻撃を躊躇してしまう。



 突然、蜘蛛が行動を起こした。天井から足を離すと、180度回転して足から地面に着地する。それも音をほとんど立てずに。大きさからして、あまりにも不自然な大きさの音だった。


 俺は蜘蛛に銃口を向けたままじっとする。

 蜘蛛は着地した後も、じっと8つの目でこちらを見てくる。


「ねえ、これってどうすればいいのかしら?」

「俺に聞かれても……」


 ダンジョンに存在する蜘蛛なら、とっくの前に攻撃してきているだろう。だが蜘蛛はこちらに攻撃してこない。こちらから攻撃するべきか、判断に迷う。


 蜘蛛が新たな行動に出た。今度は向く方向を180度変えた。お尻をこちらに向けている。

 逃げるのかと思い、油断してしまった。


「なにっ!」


 蜘蛛が糸を俺に向けて飛ばしてくる。前を向いているくせに、俺の右足に的確に当ててきた。


 それだけならまだよかった。糸を切ればいいからだ。

 だが蜘蛛は俺の足に糸をくっつけるや否や、突然走り出した。


 走り出した蜘蛛と俺の右足がつながっている。そのため、右足が持って行かれた。


 俺はバランスを崩す。地面にぶつかった衝撃で、アサルトライフルが手元を離れた。

 それでも蜘蛛は止まらないで走り続ける。


「レイくん!」

「俺は大丈夫だ! 絶対に来るな! 待ってろ!」


 あっという間にウーラとの距離が開く。俺は何とかウーラに向かって叫ぶことができた。


 歩いていた地面はでこぼこしていた。そこを引っ張られるとなると、ものすごく痛い。

 西部劇の世界で、足にロープを括りつけられた人が、馬に乗った人に引きずられるシーンが映画でよくある。

 その人の気持ちがよく分かった。


 それに、服が心配だ。フード付きコートを着ているからと言って、大丈夫とは限らないだろう。

 まあ、フード付きコートはもう着れなくなる恐れがあるが。


 のんきなことを考えている暇はない。ハンドガンを取り出す。アサルトの方がよかったかもしれないが、引きずられている状況で、撃てるとは思わないので、ハンドガンという選択にした。


 だが蜘蛛も蜘蛛で、撃たれようとは思っていないようだ。左右に移動しつつ走る。それだけならまだ撃てたのだが、蜘蛛の動きに合わせて、俺の体も左右に揺れるので照準が定まらない。


 パンッ!


 試しに撃ってみたが、見事に外れた。

 適当に撃つのをやめ、狙う。


 前方に、分岐が見えた。蜘蛛は躊躇なく、左に進む。

 その時に、俺の体が右に傾いた。


 最悪なことに、傾いたときに手が壁に接触。

 衝撃でハンドガンを離してしまった。


「ちくしょう!」


 思わず毒尽く。だがどうしようもない。新たな銃を取り出す。


 やっきになったこともあり、ブルパップ式でない、普通のアサルトライフルを取り出した。

 銃弾はミスリルでコーティングした特殊な弾。ミスリルコーティングなので、大体のものは貫けるはずだ。


 俺は照準を合わせる。

 相変わらず、蜘蛛は左右に動く。それに伴って、俺の体も左右に揺れるので照準が付かない。

 だが焦って撃てばその分、弾を消費する。


 タイミングを待っていると、蜘蛛と引っ張られている俺は広い空間に出た。盗賊がいた空間より、何十倍も広い。


 嫌な予感がした。


 俺はすぐさま蜘蛛に向かって銃を乱射する。当たればいい。それだけだった。

 蜘蛛は銃弾に撃ち抜かれると動きを止めた。


 俺はインベントリに銃を仕舞い、代わりに長さが1メートルほどの剣を取り出すと、蜘蛛の糸を切る。

 人を1人引っ張ることのできる強度なので、手でちぎってみようなど思わなかった。


 念には念を入れて、思いっきり剣を振り下ろす。

 だが予想よりすんなり切れた。まるで、元から強度などなかったかのように。


 俺は剣をインベントリに仕舞うと、立ち上がる。コートをはたき汚れを落とす。

 かなりの距離を引っ張られてきたので、かなり汚れていた。

 さらに、かなりボロボロだ。幽霊なのではないかと思ってしまうほど、背中のあちこちが破れている。

 案外気に入っていたのに……


 立ち上がると、あたりを見回す。先ほども感じたが、空間はかなりの広さがある。

 それに、壁には、他の道に続くであろう穴も開いている。数えるなど不可能に近いのではないだろか。

 天井にはクリスタルのようなものがあり、薄っすらと光を放っている。


 だが目を引いたのはそれだけでない。

 クリスタルの周りには、白い何かがある。天井までは遠いため、何があるのかはわからない。仕方なく遠見を使う。


「おいおい嘘だろ……」


 そこにあったのは、蜘蛛の糸らしいものの塊。

 昔、祖父の家で見たことがある。大きさは違えど、多分だが蜘蛛の卵だろう。

 そして、それがここに存在する理由として――


「蜘蛛の住処か」


 そう。蜘蛛の卵があるなら、生んだ親である蜘蛛も住んでいる。

 嫌な予感がして、俺は視線を落とす。そして全方向の壁を見るが、肝心の蜘蛛は見当たらない。


 ほっとした。これでもし、蜘蛛に囲まれていたらかなり厳しい。別に死にはしないだろう。だが逃げるのには間違いなく苦労する。


 見つからないうちに、さっさと逃げようと思ったが、何かの気配を感じた。それが良くない気配なのはすぐに分かった。

 気配を感じた先を見る。方向は天井だ。見た瞬間、ゾッとした。


 天井が、まるで夜空のように光っていた。だが色は1色。すべて赤色だ。

 それだけで分かった。天井は無数の蜘蛛でおおわれているのだと。さっきまではいなかった。


 それよりも、今は逃げるのが先だ。さすがの蜘蛛でも、あそこから降りるには時間がかかるはずだ。


 だがその考えもすぐに間違いであることに気が付く。


 新たな気配を感じたので、視線を落とす。


「冗談もほどほどにしてくれよ……」


 そうつぶやいてしまった。

 なぜなら、周囲の壁にある通路の入り口から、おびただしい量の蜘蛛が出てくるのだ。

 それは壁や天井を這って出てくる。明らかにまずいのはすぐに分かった。


 どうやら数だけでなく、質もいいようだ。

 見た限り、ホワイトスモールタラトの進化系であるホワイトタラトもいる。大きさは2メートルはある。さらにアラクネまで出てきた。大きさは2メートルより少し大きいぐらい。


 アラクネは数々の物語に出てくるように、蜘蛛の体に女性の上半身がくっついたような姿をしている。

 胴体の部分である蜘蛛は黒だが、人間の部分は雪のように真っ白。目は蜘蛛と同じく赤い色そしている。蜘蛛の胴体には目がなく、人間の顔の方に目が8つある。

 魔物と言うだけあって、服は着ていない。




 俺はインベントリからアサルトライフルを取り出すと、走ってくる蜘蛛に構える。だが撃たない。売っても無駄だと分かっているから。


 無数の蜘蛛があっという間に、俺を中心にするように丸く囲む。蜘蛛と俺までも距離は10メートルあるかないか。そしてその中にはアラクネもいる。数は2体。遠いところにもアラクネが何体かいる。

 蜘蛛が、地面だけでなく壁や天井にまでいるので、どうしようもない。


 だが、それであきらめるわけにはいかない。

 俺は日本に帰るつもりだ。こんなところでくたばるわけにはいかない。

 俺は蜘蛛にアサルトライフルを向けたままじっとする。



「エサ。エサガ来タ」

「チガウ。コドモ貰ウ」


 近くにいたアラクネが2匹――いや2人か? ともかく、なにかを言い争っている。しかもしゃべっているのが、上半身の方だ。きちんと口が動いている。

 だが、どこか片言。


 どうやら俺を食べ物にするかどうかで言い争っているようだ。

 ただ、子供を貰うってなんだ?

 まさかだが、ゴブリンやオークの逆なんて言わないだろうな?


 周囲にいた蜘蛛が、アラクネの方を向いて、ギシギシと牙のようなものを動かして鳴く。

 どうやら会話をしているようだ。


「エサ」

「チガウ。コドモ貰ウ」


 2匹のアラクネはいまだに言い争っている。

 きちんと会話になっているので、そこは驚いた。


 俺はゆっくりと、2体のアラクネから後ずさるように移動する。足はするように動かす。

 だが、2体のアラクネに気を取られていたため、完全に忘れていた。

 蜘蛛は俺を中心にするように丸く囲んでいる。


 すなわち、()()()()()()()()()()()のだ。

 それに気が付いたときには、すでにいくらか後退していたので遅かった。


 ちょうど俺の後ろにいた蜘蛛が、ギシギシと音を立てて鳴き声のようなものを出す。なぜか、仲間に警告をしているように聞こえた。

 それが当たっていたらしく、蜘蛛の鳴いた声を聞いた1匹のアラクネが、俺の方に振り向く。確か、子供がどうのこうのと言っていた方だと思う。


 そのアラクネはすぐさま、8本の足を使い俺の方に歩いてきた。

 俺とアラクネを結んだ一直線上にいた蜘蛛がそそくさと道を開ける。


 すぐ目の前までアラクネが迫ってきた。だが攻撃はされない。

 アラクネは、上半身を倒すと8つの目でおれをじっと見てくる。俺もその目をじっと見る。

 銃口はアラクネの頭に向けて構えておく。本体が蜘蛛の方か分からなかったので、上半身を狙うことにした。


 近くで見たのでわかったが、かなりの美形だ。魔物ではなく、完全な人ならかなり持てるだろう。ただ、魔物なのであまり惹かれない。


「オマエ、来イ。ワタシ、コドモ貰ウ」

「すまんが、そういう趣味はない」


 自分でも驚いたが、会話が成り立っている。アラクネの言葉が少し聞き取りづらいのは、仕方がないだろう。


「来ナイナラ、エサ」

「どちらも選ばない」

「ナラ、死ネ」


 アラクネが言った言葉を聞いた瞬間、背後で動きがあることが分かった。蜘蛛が少しづつ距離を縮めてきている。

 銃を使っても、この量の蜘蛛を相手にはできない。考える時間を稼ぐため、俺は会話を長引かせることにした。銃口はアラクネに向けて構えたままだ。


「お前、人の言葉を話せるんだな」

「主カラ、学ンダ」


 アラクネが乗ってきた。その言葉を聞いた蜘蛛が止まった。どうやらアラクネと俺の会話を遮るつもりはないのだろう。


「主と言うのは盗賊か?」

「アイツラ主。私タチヲ率イル」


 言い方からすれば、蜘蛛は盗賊の従魔――テイムされていると考えてよさそうだ。それなら、洞窟の入り口で魔物が盗賊を襲わず、おとなしくしていた理由が分かる。


「オマエ、ドウスル。食ワレルカ?」

「1つ気になったが、お前たちここに住んでいるのか?」

「ソウダガ、ナゼダ?」


 会話が途切れそうになったので、俺は別の話を振る。

 逃げるための作戦は思い浮かんだ。だがそのためには時間がまだ足らない。


 逃げる作戦を実行するには、もう少しだけ時間が必要だ。あと30秒もあれば大丈夫だろう。

 だがその30秒が長く感じる。


「食い物はどうしている? こんな大家族なら、食い物が足らなくなるだろ」

「ココハ、ダンジョンノ入リ口。食イ物ハ手二入ル」

「そうか。じゃあ、この小さい奴らのエサはたくさんあるんだな」


 俺はそう言いつつ、首を捻るとホワイトスモールタラトを見る。アラクネも同じ方向を見た。


「私ノ、コドモタチ。カワイイ、コドモタチ」


 アラクネはそう言いつつ、ホワイトスモールタラトに微笑む。

 やはり、ホワイトスモールタラトはアラクネの子供のようだ。将来、ホワイトスモールタラトがアラクネのようになると思うと、少しゾッとする。


「時間稼ギハスンダカ?」


 どうやら完全にバレていたようだ。だが十分に稼げた。だから逃げることができるのだ。この蜘蛛の住処から。

 アラクネが尋ねてきた。周りにいる蜘蛛が、牙をすり合わせて騒がしく鳴き始めた。

 俺は答える。


「ああ。十分だよ」

「ナラ、答エヲ言エ。コドモ貰ウカ、エサニナルカ」

「どちらも選ばないなぜなら――」


 そこで俺は言葉を止める。

 まるでタイミングを合わせたかのように、俺が蜘蛛に引きずられて入ってきた入り口が炎に包まれた。


 アラクネはそれを驚愕の表情で見る。

 俺はそんなアラクネに言った。


「ここから逃げるからだ」

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