第36話 盗賊の討伐
洞窟内での戦闘で、少しグロい表現が出てきます。
ご注意ください。
次の日、少し遅めの朝食をとると準備を行い、盗賊の討伐に向けて出発した。
誰なのかバレないように付ける物騒な仮面とフード付きコートは、まだつけていない。
近づいてからつけるつもりだ。
村を少し迂回する感じで移動し、山の中に入っていく。
山と言っても、急な丘と言った方がいいだろう。
けもの道を進んでいく。
人が1人通れる広さなので、索敵が得意なメルクールが先頭を行き、その後ろを俺がついていく。
魔法使いのため、真ん中あたりにシュティアとウーラを置き、最後尾にヴェーヌを置いた。
カナは、シュティアとウーラの真ん中に置いた。
最初はそこまで険しくなかったが、徐々に坂道が急になってきた。本当に盗賊がいるのか心配になってきた。
だが村の人が言うには、盗賊は山から下りてきたので、登っていればそのうち会えるだろう。
歩いていると、坂道が緩やかになってきて、ほぼ平地になった。
突然、先頭を行くメルクールが止まった。そして止まると同時に、突然しゃがんだ。
メルクールの後方を歩く全員が、同じようにしゃがむ。
「どうした?」
「前方に人がいます。音が少しする程度なので、詳しい人数は分かりません」
メルクールに近づき尋ねると、盗賊がいるであろう方向を見ながら、報告をしてくる。
メルクールは、盗賊にバレないように声を抑えていたため、シュティア達には聞こえない。
俺は後ろを振り返る。後ろにいたシュティア達は俺の方をじっと見ていた。
俺は盗賊がいるであろう方向を指さし頷く。
それだけで後ろにいたシュティア達には通じたようだ。
「メルクール。1度下がるぞ」
「わかりました」
俺はメルクールに言って後ろに体を向ける。
シュティア達はこちらを見ていたので、手で物を押すように合図を送る。
意味が伝わったようで、回れ右をしてヴェーヌを先頭に下がり始めた。
それについて、メルクールと俺も下っていく。
少し下がったところにあった草むらで止まる。音のした位置から離れているので、話しても大丈夫だと判断したため止まった。
全員が円形になるように1か所に集まる。
「……盗賊?」
「盗賊かは分かりませんが、人がいたのは確かです」
シュティアの質問にメルクールが答える。
全員の目が俺に集まる。どうするか気になるようだ。
「偵察に行ってくる。盗賊でも盗賊でなくても一度戻ってくる。次の行動はそれからだ」
「気を付けて行ってきてください」
「絶対に戻ってきてね?」
カナとウーラの言葉にうなずき、俺は誰かがいる方向に向かう。
先ほど、メルクールが物音を聞いた位置まで戻ってきた。コートと仮面はつけている。
ここからは、足音は立てないように、ゆっくりと慎重に向かう。
前より足元に気を付ける。枯れ枝を踏んで折ったりでもしたら、確実にバレる。
「このままじゃあ、全滅じゃないか?」
「かもしれないな。王族の馬車を襲ったから、騎士団が出るだろうな」
「逃げ出さないか?」
「無理だから残っているんだろ」
前方から声が聞こえてきた。聞こえてくるのは2人分の会話。
慎重に、さらに近づく。
草木の隙間から人の姿が見えた。見た限り2人だけ。
2人とも若い男性で、皮の装備をしている。装備と言っても胸当てのみ。腰には剣をさしている。
鞘にいれているため、剣は何製なのかは分からないが、皮装備から銅か鉄だと思っていいだろう。
男性2人は奥に進むようで、体の向きを変えた。
俺もシュティア達のところに一度戻ることにした。
盗賊が振り向いて見つかった時のために、すぐに対処できるように身構えつつ体の向きを変える。
しかし、盗賊に意識を向けすぎて、完全に油断していた。
パキッ!
乾いた音があたりに響いた。一瞬だが体が固まる。だが、すぐにその場にしゃがみ込む。
足元を見ると、枯れ枝を踏んでいた。
やってしまった。
「誰だ!」
案の定、盗賊に枯れ枝を踏んで出した音がバレてしまった。
足音で、盗賊がこちらに近づいてきつつ、剣を抜くのが音で分かった。
このままでは確実に見つかる。
例え近づいてきた盗賊を倒したとしても、別の盗賊が大声で助けを求めるだろう。そうなればあっという間に何人もの盗賊が押し寄せてくる。
押し寄せてくることに関しては問題はないが、場所が少し悪いため、戦闘になれば少々大変だ。
俺が隠れているすぐ近くまで、盗賊が来た。俺は飛び掛かるタイミングを計る。
ここから盗賊の拠点までの距離は分からない。サイレンサーをつけていても音はなる。そのため銃は使わないつもりでいる。その代わり近接戦になるので、大きく振らなくても扱えるダガーを使うつもりなので、インベントリから出して右手に持っておく。
「何もいないだろ。早く帰って次の見張り役の奴と交代しようぜ」
「ああ。そうだな」
一緒にいた別の盗賊の言った言葉に、すぐ近くまで迫ってきていた盗賊が答えた。
2人の盗賊は、そのまま去っていく。
先ほどの会話からして、盗賊の住処に向かって行っているのだろう。
2人が去った後も、数分間じっとしておく。もし、急に戻ってこられたら見つかる。
待っていたが戻ってこなかったので、シュティア達のところに戻る。
もしものことを考え、来た時と同じように足音を立てないように慎重に進む。
十分に離れたところで、警戒を解き歩いて戻る。
「戻ったぞ」
シュティア達のいるところに近づいたときに、仮面を取りつつ、戻ったことをきちんと伝える。
シュティア達は隠れているようで、姿が見えないが、付近にいると思われる。
そして、ここは盗賊の住処の近くなので、シュティア達は警戒しているはずだ。
もし何も言わずに不用意に近づけば、敵と思われて攻撃される恐れがある。
そのためきちんと声を出して、味方であることを伝えたのだ。
「戻ってきましたか。随分かかりましたね?」
草むらの奥からヴェーヌが立ちながら、そんなことを言ってくる。
その近くから、残りの4人も立ち上がった。見た限り、全員何事もなかったようだ。
「ああ。ちょっとドジをして、見つかりかけた」
「ドジをしたって何をしたのですか?」
「枯れ枝を踏んだ」
「あー……」
俺がやらかした時の想像をしたのだろう。
俺の説明を聞いたヴェーヌが苦笑いした。見れば、メルクールも苦笑いしている。
メルクールの場合は俺と同じような経験があったのだろう。
「ともかく、盗賊のいるであろう方向は分かった。今からそこに行こうと思っている」
「ということは、戦闘ですね!」
「いや、お前は戦闘しないだろ」
メルクールが、無い胸の前でガッツポーズをしながら嬉しそうに言うので、突っ込んでおく。
それを聞いたメルクールが、頬を餅のように膨らませているが放っておく。
「盗賊との戦闘は、基本的に俺1人で行う。もし俺がやられそうになった場合のみ、手を出してくれ」
「盗賊が逃げ出した場合はどうするのかしら?」
「俺が向かえそうになかったら、頼む」
俺の言葉を聞き、4人は頷いた。
カナは安定の無表情で見てきた。
移動を開始する。
全員でここまで来た時と同じように、一列に並び慎重に進む。
だが今回は、並び方を変えている。
真ん中にシュティアとウーラを置き、最後尾にヴェーヌを置いている。そしてカナは、シュティアとウーラの真ん中に置いた。この4人の位置は変えていない。
変えた部分は、俺が先頭を行き、その後ろをメルクールがついてくるようにしたところだ。
慎重に歩いていく。
見回りをしていたであろう盗賊が、戻ってくる恐れはほとんどない。だが他に見回りをしている盗賊が見回りをしている恐れがあるので、慎重に進むことを選んだ。
盗賊に合わないまま、数十メートル先に洞窟が見える距離まできた。
洞窟の入り口は崖にぽっかりと空いており、入り口の広さは、2人が横並びで通れるほどの十分な大きさがある。高さも頭を打つ心配はないぐらいはある。
入り口の周りには、半径5メートルほど、木が生えていない空間がある。
入り口の両サイドには、見張り役と思われる若い盗賊の男性2人が立っており、腰には剣をさしている。
盗賊が見張りを行っていることは予想が来ていた。
問題は別にあった。
盗賊の近くに、体が真っ黒で8つの赤い目がある1匹の蜘蛛の魔物がいるのだ。
蜘蛛の魔物は、大きさからしてホワイトスモールタラト。蜘蛛の中で、一番小さな魔物として知られている。
ホワイトと言っても、色は真っ黒。スキルにある言語理解が翻訳の仕事をきちんとしていないためなのか、体の色が黒なのに、名前にホワイトとついている。
一番小さいと言っても、大きさは1メートルは超えている。蜘蛛嫌いの人にとっては地獄だ。
だがホワイトスモールタラトも魔物には変わりはない。
本来なら人を襲う。しかしそのホワイトスモールタラトは盗賊を襲う様子は一切見せない。
「どうしましたか?」
よさそうな草むらに移動すると、手でジェスチャーをしてシュティア達を集める。
真っ先にヴェーヌが聞いてきた。
「あのホワイトスモールタラトだが、おかしくないか?」
「おかしいって……タラトが盗賊を襲わないことですか?」
「ああ」
ヴェーヌが魔物の名前を略して尋ねてくるが、タラトが何なのか分かっているのでスルーしておく。
ヴェーヌの思ったことと他の3人も思ったことが同じようで、じっと盗賊と魔物を見ている。
「……テイム?」
「それが一番あり得ますね」
俺より右にいるシュティアとメルクールがテイムの可能性を指摘。
俺は左にいるヴェーヌとウーラ見ると2人は頷いた。
4人とも、盗賊はホワイトスモールタラトをテイムしている可能性があると言う考えのようだ。
「レイ君。盗賊なのだけれど、気絶させるだけにしてもらえないかしら?」
「どういうことだ?」
ホワイトスモールタラトをどのようにして倒そうか考えていると、ウーラが願いを言う。
ウーラは基本的に、他の3人の意見に合わせるような形をとっているので、自分から願いを言うのは珍しい。
だが願いが願いなので、疑問に思った。
別に、最初から盗賊は全員殺すと考えてはいなかった。
気絶させてからどうするか考えようと思っていた。
この世界の考え方では、盗賊は殺されて当たり前という考えが基本的にある。
にもかかわらずウーラは、まるで盗賊に同情するような提案したことが疑問に思った。
「あの盗賊は、王室の馬車を襲ったのよね? もしかしたら、すでに騎士団が動いているかもしれないのよ。だから騎士団に盗賊を渡そうと思ったのだけど、どうかしら?」
ウーラの考えを聞いて、俺は少し考える。
王族の馬車を襲ったのなら、王が黙っているわけがない。
そうなれば、ウーラの言う通り騎士団が動いている可能性がある。
下手に盗賊を倒せば、こちらの方が危険人物がいると思われ、盗賊に向いていた矛先がこちらに向くかもしれない。
「わかった。盗賊はできる限り気絶させて捕まえるようにする。だが手加減を間違えて殺してしまうかもしれないが、それは分かってくれ」
「ええ。できる限りでいいわ。あと盗賊の頭がいれば、絶対に捕まえて」
「ああ。努力する」
俺はそういうと、草むらの中を移動する。今回は銃の力に頼らず、自分の力とスキルだけで盗賊を捕まえようと思っている。
そのため、今いる場所から盗賊のいる位置までは、いくら何でも遠い。
盗賊に近づくために木と木の間を横に移動していく。仮面をつけておく。
落ち葉を踏む音は完全に音を消すと言うことはできないので、できる限り立てないようにする。
盗賊との距離はあるので、聞かれる心配はないだろう。
洞窟の入り口にかなり近づいた。位置は盗賊の真横。
シュティア達がいるであろう方向を見ると、4人が手を振っているのが見えた。俺の位置を分かっていると思うが、手を振って位置を知らせる。
準備はできているので、戦闘開始だ。
俺は木の陰から出て、洞窟の入り口に向かって歩いてく。
「誰だ!」
こちらに振り向いた盗賊の1人が叫ぶ。手は剣に軽く触れている。
盗賊からは、木が邪魔して俺の姿が完全に見えていないはずだ。
それでも俺の存在に気が付いたのは、ホワイトスモールタラトが俺に感付いたことに、盗賊が気が付いたからだろう。
その証拠に、盗賊は一瞬ホワイトスモールタラトを見た。
俺は何も言わずに、木が生えているところから完全に出て、姿を見せる。
俺の姿を見た2人の盗賊が一瞬、後ずさった。盗賊でも、この仮面が物騒に見えるのだろう。
だがさすが盗賊と言っていいのだろうか。
すぐに剣を抜いて、臨戦態勢に入った。
もちろん相手の攻撃を待ってやるわけはない。
俺は縮地を使い、一瞬で盗賊の近くまで接近する。
「なにっ!」
一瞬で近くまで接近されたため、盗賊は動揺して硬直した。その隙は逃さない。
盗賊の1人に蹴りを放つ。
俺に蹴られた盗賊は、崖に斜めから入ったため、背中を崖にこすりつけるようにして地面に倒れた。
「アルの仇!」
そう言いつつ、もう1人の盗賊が剣を振り回してきた。それをバックステップでかわす。
盗賊は続けて振り回してきたので同じくバックステップでかわす。
「敵襲を伝えろ!」
盗賊は俺に攻撃をしながら叫ぶ。
それを聞いたホワイトスモールタラトが洞窟の中に走っていった。
「ふはははは。あと数分もすれば、仲間が来る。そうなればお前は生きて帰れないぞ!」
盗賊は笑い声をあげながら俺に攻撃をしてくる。
俺はその攻撃を、しゃがんで回避すると同時に、相手を蹴り飛ばす。
1人目と同じように、2人目の盗賊も背中を崖にこすりつけるようにして地面に倒れた。
俺はそれを確認すると、シュティア達がいる方向を見る。4人が木の間から見ているのが分かった。
俺は頷くと、洞窟の中に入っていった。
洞窟の中は、入口より広かった。幅と高さは両方とも3メートルはあると思う。
盗賊に言われて仲間を呼びに行ったらしい、ホワイトスモールタラトはすでにいなかった。洞窟内は暗いが、スキルに暗視があるので、ほんの少し暗いなと思う程度の明るさ。
足元は石が転がっており、少し滑りやすくなっている。注意しつつ進む。
シュティア達は外で倒した2人の盗賊を縄で縛っているころだろう。
俺は緩やかな下り坂を慎重に進んでいく。
「急げ! もたもたするな!」
「すぐに戦闘できるように陣形を組め!」
「頭! もしもの時は頼みます!」
進んでいると、そんな声が聞こえてきた。どうやらすぐそこまで来ているようだ。
30秒もたたないうちに盗賊が見えた。
「いたぞ!」
「もうここにきているのか! それじゃあ外の2人は……」
「今は倒すことに集中しろ!」
盗賊は俺を見つけた瞬間、剣を抜いた。
道は、下方向に少し角度が付いているが、そこまできつくないので、戦う際に足元に気を使う必要はない。
「お、おい。あいつ人か? どう見たって……」
「ひ、人だろ……多分……」
「ともかく、仲間の仇を取るぞ!」
俺を見た盗賊が数人、足を止めかける。盗賊さえ不気味に感じたようだ。
だがすぐに攻撃をしてくる。
俺は盗賊が近づいてくるのを待つ。
最初に、剣を持った若い盗賊が攻撃をしてくる。
装備は皮の胸当てしかしていない。剣もボロボロで、切れるか怪しい。
「くたばれ!」
「待て!」
若い盗賊はそう言って剣を振り上げ、上から攻撃してこようとする。
別の盗賊が叫ぶが、聞かない。
剣を振り上げて下ろそうとしたとしたところを、俺は少し近づき正面から回し蹴りを放つ。
「グフッ!」
盗賊はくぐもった声を出して、後ろから来た仲間を巻き込み倒れた。
俺は一度、後ろに跳んで盗賊との距離を開ける。
盗賊はすぐに立ち上がり、再び剣を構える。だが今度は近づかない。
俺と盗賊が対峙する。
「貴様は人か! 賞金を狙う冒険者か!」
「俺は人で、一応冒険者だが、賞金は狙っていない」
相手が尋ねてきたので、答える。
俺の声を聴いた盗賊がたじろく。仮面もそうだが、声も異質のためだろう。
「や、矢だ! 矢を持ってこい!」
奥の方から盗賊の声が聞こえてきた。
ここは洞窟内。ほぼ一直線のため、矢を避けることはほぼ不可能。しかも盗賊と俺の距離は、ほとんど無いに等しい。
さすがに矢を打たれるのをただ待つわけにはいかない。
俺は盗賊に近づく。だが盗賊の方も攻撃を受けるつもりはないのだろう。
盾持ちを前衛に置いてきた。人数は3人。通路を塞ぐように横並びになる。
盾の形は楕円形で、体全体が隠れる大きさがある。だが自作のためなのか材質は木製だ。
俺は真ん中にいる盾持ちの盾に、再び回し蹴りを放とうと踏み込む。
「馬鹿なやつ――」
バキッ!
「ぐはっ!」
「レックス!」
盗賊が何かを言いかけていたが、俺は真ん中にいる盗賊の盾のちょうど中心に蹴りを放った。木製だったこともあり、縦は見事に真っ二つ。
その衝撃で、盾を持っていた盗賊は倒れる。
どうやらレックスという名前のようだ。盗賊のくせにかっこいい名前だ。
「ちくしょう! あいつ化け物じゃねえのか!?」
盾持ちの盗賊は、2人が中央に寄って、すぐに空いた穴を塞いだ。
木製のため脆いので、今度は2つの盾をまとめて一気に壊そうと思い、大剣をインベントリから出そうとする。
「準備ができたぞ! 関係ない奴は下がれ!」
盾持ちの後ろから声が聞こえてきた。どうやら矢を放つ準備ができたようだ。
通路は広いと言っても、矢が何本も飛んで来たら避けるのは大変だ。
俺は身体強化を使うと、後ろに跳んで距離を開ける。
「放て!」
着地と同時に矢が放たれる。
俺はインベントリからミスリル製の盾を取り出す。大きさは1メートルほどで、盗賊の盾と同じく楕円形。
地面に設置させて隠れると同時に、矢が盾にぶつかる音が聞こえる。
エルフの郷で、何度か矢を防ぐ訓練をしたからといても、やはり矢が盾に当たった時の音は慣れない。
ほんの一瞬だが、どうしても体が硬直する。
「おいおい! どこに盾を持っていた!」
「違う! 盾を出したんだ! あいつ、マジックバッグか空間魔法持ちだぞ!」
「ちくしょう! あいつ化け物だ! 勝てるわけねえだろ!」
盗賊が動揺を見せる。さすがにインベントリを持っているとは思わなかったのだろう。
このままでは一向に決着が付かなさそうなので、強引に行くことにした。
盾から体を出すと、盾の端っこを持って後ろに振りかぶる。
何をするのか分かったらしい盗賊は身構える。
俺は筋肉をうまく使って、盾をフリスビーのように投げた。
フリスビーは基本プラスティック製なので、当たっても大けがはない。しかし俺の投げたものはミスリル製。しかも大きさが1メートル近くある。どうなるかはわかるだろう。
もちろん殺さないように手加減はした。
「ぐわぁ!」
「がふっ!」
だがそれでも被害があったようで、体をくの字にして後ろに跳んでいった。もちろん後ろにいた盗賊を巻き込んでいった。
「頭! 助けてください!」
後から来た、盗賊の1人に盗賊が助けを求める。頭が出てきたようだ。
頭は身長が2メートルに達するかもしれない大男だ。手には斧が握られている。それも大斧と呼ばれる大きな斧。
お頭は俺を睨み警戒しつつ、話しかけてきた。
だが体から発せられる感情は、怒りのみだ。
「おめえ、冒険者か? 俺の首を狙って、来やがったのか?」
「冒険者だが、首は狙っていない」
「じゃあなぜ来やがった。討伐依頼か?」
「討伐以来ではない。村を襲われた原因の1つである俺が、後始末をするためだ」
頭は俺の声を聞いても、たじろぎはせず、じっと俺を睨んでいる。
俺も堂々と立って、相手を見る。
「まあいい。詳しくはこれ以上聞かないでやる。だが貴様は俺の大事な仲間を殺したとなりゃあ、生きて返すつもりなんざ微塵もねえ! ぶっ殺してやる!」
頭はそう言うと、大斧を上に大きく振りかぶって、たたきつけるように振り下ろしてきた。
俺はそれをバックステップで回避する。
頭はすぐに距離を詰めてきた。そして今度は横に薙ぎ払う。
今度もバックステップで下がる。しかし今度はあまり下がらない。
俺のすぐ近くを大斧が通り過ぎる。その瞬間を狙って、真上に蹴り上げる。
バキッ!
急激に上への力を加えられたたことにより、大斧は木製である持ち手の中央部分から2つに折れた。
そして先端は回転しつつ、洞窟の天井に当たって落ちてくる。
運悪く、斧の先端が落ちた所には盗賊の部下がおり、頭に斧が刺さって死んだ。かなりグロい。
「化け物かよ!」
盗賊の頭が叫ぶ。
俺は縮地で一気に近づくと、盗賊の頭が立っている一歩手前で止まる。
一瞬で近づかれたためか、盗賊の頭の思考はついてきていない。
俺は盗賊の頭の体を蹴り、バク転のように回転する。そのときに足の先で顎を蹴り上げた。
体を蹴ったことと顎を蹴り上げたためか、盗賊の頭は後ろに倒れる。頭を地面に強く打ち付けたので死んでいないかが気になる。
「頭がやられたぞ!」
「撤退しろ!」
頭をやられた盗賊が、洞窟の奥の方に走って逃げていく。
もちろん逃がしはしない。残っていた盗賊を全員倒す。人数は全員で15人。
一応全員を捕まえることにできた。ただ、全員生きているかと聞かれれば、力加減を間違えたかもしれないのでわからないとしか言えない。
薬がいる状況だったと言うことは、どこかにケガ人がいるのだろうか。
それならば、捜索して探し出して捕まえなければならない。
だがそれをする前にしなければならないことがある。
俺は地面に倒れている盗賊をロープで縛り始めた。起きたときに逃げられないようにするためだ。
洞窟の外に倒れている盗賊2人はシュティア達がどうにかしているはず。
俺は盗賊を縛りつつ、シュティア達がここに来るのを待つことにした。




