第33話 温泉街を堪能(2)
次回は話が少し進みます。
第2章ですが、区切りがいいところを見つけたので、第3章に入れそうです。
区切りがいいと言っても、まだ第3章の詳しい進み方は考えていないので、舞台となる国は変わらないかもしれません。(早く考えないと……)
夏休みを使い、第2章の最初の方の訂正を行おうと思っています。
というのも、第1章を変更したために、第2の最初の方に矛盾が生じてしまっていると言われたためです。さすがに第1章のように大幅な修正を行って、読んでくださる方にはご迷惑が掛からないようにします。
もちろんその時には誤字も直していきます。
何の依頼を受けるか考えれるために、ギルドまで移動する。距離はそこそこあった。
ここのギルドも他の街のように大きかった。
ただ、この街は観光地としての働きが多いのか、時間帯だからなのか分からないが、あまり人は出入していなかった。
俺は扉を押して中に入る。一瞬視線が集まったがすぐに散った。いつも通りだ。
初心者な女性冒険者が来たと思ったら、半分大人になりかけの男性が来たため興味がなくなったのだろう。
俺は気にしないで、クエストボードのところに向かった。クエストは採取系から討伐系までいろいろとあったが、めぼしい物はなかった。
ランクに見合ったものはあったのだが、つまらなさそうなものばかりと言った方が正しいだろう。
もちろんそんなことをこの場で言っては、日々の生活のためにクエストを頑張っている冒険者から反感を買うだろう。
一通り見たが、めぼしい物はなかったのでなんとなく眺めていると、隣に誰かが来た。
「どうした、青年? 自分の実力と合うものがないのか?」
隣に来た男性が尋ねてくる。男性の髪は茶色少し白髪が生えており、顔には皺が刻まれていた。年齢からして50代後半というところだろう。男性は動きやすそうな皮装備をつけていた。背中には男性の身長ほどはあろう槍を背負っていた。
俺は男性の姿を確認するとすぐに視線をクエストボードに戻す。そして再び一通り見直す。
「別の意味で実力と合うものがない」
「それは、これらが簡単ということか?」
「そんな感じだ」
クエストボードを見つつ、俺はぶっきらぼうに答える。
その瞬間、背後でこちらを見ていたらしい冒険者たちが、息をのむ音が聞こえた。
「そんなふうに自分の実力を過信しすぎていると、すぐに死ぬぞ。気をつけろよ」
「ご忠告感謝する」
男性も聞こえていたはずだが、無視をして俺に忠告してきた。俺は再びぶっきらぼうに言う。
それを聞いた男性は立ち去った。
「お前正気か!?」
「なにがだ」
再び別の男性が後ろから声をかけてきた。後ろを振り返ったわけじゃない。声で男性だと分かった。声からして若い男性だろう。
「さっきの人は、この国に数人しかいないSランク冒険者のドルト様だぞ!」
「知らんな」
「有名だぞ! 1人でドラゴンを倒したという話を聞いていないのか!」
「知らんな」
「まじかよ」
結局よさそうなものはなかったので戻ろうとすると、全員の目が俺に向いていた。中には驚いた顔をしているものもいる。それほど有名なのだろうか?
「じゃあなぜ、そんな人がここに来ていたのだ?」
「今は休暇中らしいが……」
驚いているため、口を半開きにしている黄土色の髪の若い男性に尋ねる。俺の質問にはきちんと答えてくれたが、驚いていた。よっぽど有名のようだ。
このまま残っていたら、注目が集まったままになりそうだったので、俺はギルドを後にする。外に出るまで、ずっと見られていた。
一度宿に戻って、シュティア達が戻ってきているか確かめたが、戻ってきていなかった。
鍵は受付に預けているため、部屋に入って5人を待っていることはできるが、いつ帰ってくるかわからないうえに、お腹が空いてきたので5人を探しに行くことにした。
通りを歩きながらシュティア達を探す。いろいろ探し回ったが、結局見つからないまま日が暮れてきた。
夕方のためか、あたりは人が再び増えてきた。さらには暗くなってきたので、シュティア達5人が余計に見つからなくなりそうになる。
1人で夕食を食べようと思ていると、前方にシュティア達5人を見つけた。そこそこ距離があるので、見失いそうになる。
人混みの隙間から、あちら側もきょろきょろしているのが分かった。きょろきょろしているのは背の低いメクールと、もう1人いるがわからない。
俺は駆け足でシュティア達5人のところに向かった。
わずかだが、メルクールの耳がぴくぴくしたのが分かった。それとほとんど同時にメルクールが振り返る。
何かを言っているが、遠いうえに周りの音が大きいので全く聞こえない。
「すまん。またせた」
「……レイ……おそい」
「遅いですよ、レイさん!」
「案外かかりましたね?」
「もしかして、迷子になっていたのかしら?」
追いついたので謝ると、シュティアとメルクールは睨みながら文句を言ってくる。ヴェーヌは少し心配しており、ウーラは楽しそうに微笑みながら訪ねてくる。
カナはヴェーヌに手をつながれたまま、無表情で俺を見ている。
「迷子に放っていない。ただ、人が多いから5人を探すのに苦労しただけだ」
「あら、そうなの?」
「まあ、人が多くなってきましたからね」
ウーラは顔をかしげ、ヴェーヌは周りを見回す。
「どうでした? なにかいいクエストは見つかりましたか、お兄ちゃん?」
「いや、よさそうなものは見つからなかった」
カナが尋ねてくる。
よさそうなものはなかったというより、面白そうなものがなかったという方が正しいだろう。
「そういえば、零さんは夕飯を食べましたか?」
「5人を探していたから食べていないが、なぜだ?」
「私たちもこれから食べようと思っていて、零さんを探すついでによさそうな店を探していたのですよ」
ヴェーヌの言う通り、シュティアとメルクールはお腹を押さえてこちらをじっと見ていた。かなりお腹がすいているようだ。
「じゃあ、どこかの店に入るか」
「じゃあ、さっそく探しに行きましょう!」
俺の言葉を聞いて、メルクールが歩き出す。そのあとをシュティアがついていく。待ちきれないらしい。
そのあとを俺とウーラ、ヴェーヌと手を繋がれているカナがついていく。
いろいろ見て回ろうと思っていたのだが、シュティアとメルクールはそれを許さなかった。
食べ物を売っている屋台が集まっているところに着くや否や、2人は俺からお金を受け取ると、別々の方向に食べ物を買いに行った。
「じゃあ、私たちも行ってきますね。カナちゃんのことをよろしくお願いします」
「ああ。分かった」
ヴェーヌとウーラは一緒に行動するようで、2人で楽しそうに話しながら屋台へ向かっていった。
残った俺はカナと手をつないで2人の後姿を見送る。
「じゃあ、俺たちも行くか」
「はい、お兄ちゃん。といっても、わたしは食べ物を食べられませんが……」
俺はカナを引っ張るように歩き出す。
カナは苦笑いするように、俺に言ってきた。
いろいろな店を見て回る。
昼間もここを通ったので、ここを何があるかは分かっているが、昼と夜とでは雰囲気が違う。
また、お酒を出しているところもあった。
「何を食べるのですか?」
「夕食だからある程度はしっかしとしたものを食べたいな」
カナが首をかしげながら尋ねてきた。
俺の言った通り、しっかりしたものを食べたい。別に屋台で出ているものが、しっかりしていないというわけではない。量が多く、バランスの取れたものという意味で言ったのだ。
突然、前方から何かが来るのが分かった。分かった理由は音だ。
そして道を譲るように、人が左右に分かれていく。馬に乗った人がこちらに近づいてくるのが分かった。
俺もカナを連れて、すぐさま道の端による。
目の前を馬が駆けていく。よっぽど急いでいるようだ。
馬が通り過ぎると、端に寄っていた人が真ん中に出てくる。
皆、口々にいろいろ言っている。文句を言っている者がいれば、どうしたのか疑問に思う者もいる。
「どうしたのでしょうか?」
「さあ。わからん。ひとまず何か食べて、それからシュティア達と合流しよう。落ち合う場所を決めていなかったが……」
俺はそう言って、近くにあった屋台で夕食を済ます。
肉と野菜を挟んだサンドイッチを食べた。なかなかの味だった。
サンドイッチを完食すると、カナと手をつないでシュティア達を探す。
もし見つからなければ、一度宿に戻って帰ってきているかを確認するつもりだったが、思ったよりすぐに見つかったのが救いだ。すでに4人とも集まっている。
「ようやく見つけました。これで全員ですね」
「じゃあ、宿に戻りましょ」
合流すると、ヴェーヌとウーラは少し疲れた顔でそんなことを言う。シュティアとメルクールも疲れが見える。
きちんと合流できなかった理由として、合流する場所の指定をしなかったのが原因だ。今後このようなことがあれば気をつけようと思う。
全員で固まって、宿を目指す。
空はすでに真っ暗だが、屋台により昼間のように明るい。そのため人は一向に減りそうものないので宿に向かうまでも大変そうだ。
「先ほど、道の真ん中を馬で駆けていった人は何だったんでしょうか?」
「さあ、わからん。あんなに急いでいたのだから、よっぽどのことだろう」
どうやらヴェーヌも出会ったようだ。
あんなに急いでいたということは重要なことだと思うが、それ以上の予想は全く出てこない。
宿に戻っている最中に、日本でいうところの銭湯があったのでよる。もちろんここは異世界なので、お湯は貴重だ。そのため普通の街では銭湯なんてないが、ここの街はお湯が沸き出るのでいたるところに銭湯がある。その1つに入った。
中はいたって普通。ただ日本とは作りが違うので、日本人の俺は少し違和感を覚える。それは中身が日本人のヴェーヌも同じらしい。
浴槽はほとんど日本と変わらなかった。もちろん壁には富士山なんて書かれていない。
だが、6人の冒険者がドラゴンに挑む姿が書かれていた。かなりの迫力があったので、これはこれでよかった。
あんまり長く浸かっていると、シュティア達が先に上がっていたら文句を言われそうだったので、上がることにした。
体を拭いて服を着ると、待合室にあたる広いスペースに向かう。向かう途中に飲み物を売っているスペースがあったので、そこで飲み物を買う。果物を絞ったジュースだった。日本なら牛乳を売っていると思うが、ここでは売っていなかったので残念だった。
待合室にあたる広いスペースについたが、誰も上がってきていなかった。仕方がないので、木のテーブルを挟んで、2つのソファーが迎え合わせになっているうちの1つに座って5人を待つ。さすがにカナを1人で待たせるのはまずいと思ったので、一緒に入れるとヴェーヌが言っていた。
飲み物を飲みつつ、インベントリに入っている本を読んで待つことにした。
本当は各国のことをまとめた本を読みたかったのだが、気になったことがあったので別のものを読む。
本を読んでいる間は、テーブルにコップを置いておく。
気になった内容とは、前回の召喚がいつだったか。かなりのページ数だったが、見つけることができた。
ページが多かった理由は、関連することまで乗せていたために多くなったようだ。召喚の方法まで乗っていたが、興味がないので飛ばした。
本題のページを読んでいく。そこに書いてあったものは――
「約20年前……だと……」
そう。ここ最近召喚されたのは約20年前。最近と言えば最近だ。
よくよく考えると、1つ疑問が浮かんだ。それはドローンについてだ。
ドローンとは遠隔操作の無人機をさす。俺が譲り受けたものがドローンのようなイメージがあるが、それはドローンという種類の中の1つにしか過ぎない。
話がそれたが、問題はこのドローンについてだ。無人機は70年以上も前から作られている。しかしドローンと言われて想像するような形のものが発表されたのは2010年。俺を含む学校の奴らが召喚された時期を除く、最も最近の召喚は20年前。
もし元の世界とこちらの世界の時間の進み方が同じなら、発表される10年も前に、俺が受け取ったドローンが作られたことになる。
それはいくらなんでもおかしい。このつじつまを合わせようとしたら、元の世界よりこちらの世界の方が少なくとも2倍は進むのが早いということになる。
こちらに来てから約3か月になるが、元の世界では1か月半ほどしかたっていないことになる。これは良かった。同じ進み方はまだしも、こちらの世界が進む速さが数倍遅いとなれば大ごとになっていた。
もしカナを受け取るときに見た青年がその時の召喚者なら、今はおよそ40代ごろと考えていいだろう。よっぽどのことがない限り、十分生きている。
もし会えたなら、その時にでもドローンは返そう。持っているだけでも怖い。
本を読みながら考え事していたために気が付かなかったが、俺の右隣にシュティアが座り、本をのぞき込んでいた。
「いつ戻ってきた?」
「……そこそこ、前」
「声かけてくれよ」
「……集中していたから……無理」
そこそこ前に戻ってきたようだ。全く気が付かなかった。隣にシュティアが座ったために、俺だけ座っていた時よりクッションが沈み込んでいる。
それさえ気が付かないのは相当考え込んでいた証拠である。左にはメルクールが座っており、向かいのソファーにはヴェーヌとウーラ。
それに、初めてではないだろうか。カナはウーラの膝の上に座ってこちらを見ていた。そしてウーラに頭を撫でてもらっていた。ヴェーヌの時もそうだが、はたから見ると2人が姉妹に見える
俺の髪の毛はもちろんだが、4人の髪の毛は乾いていた。メルクールはそこまで長くないが、カナを含む5人の髪の毛は長い。
さすがに短時間では乾かないので、シュティアかウーラの魔法で乾かしたのだろう。
机の上には、いつの間にか4人分のコップが追加で置かれていた。全員中身は同じだ。
だが1つ疑問に思ったことがあった。
「誰だ? 俺のやつ飲んだのは?」
そう。俺の分のジュースがかなり減っていたのだ。俺は本を読むのに集中していたために、ほとんど飲んでいない。
にもかかわらず、誰が見ても減っていると分かるほど、コップに入っていたジュースの量が減っているのだ。もちろん犯人はこの中にいる。
俺が尋ねた瞬間、シュティアとメルクール、ヴェーヌが目をそらした。それも、俺が尋ねたら目をそらすように打合せしていたかのようにタイミングがぴったりだった。
おい!
「ふふふ」
俺が3人をそれぞれ睨む。それを見たウーラは、手で口を押えると面白そうに笑った。
仕方がなく、俺は1口ほどしか残っていない分を飲み干す。それを見ていたシュティアとメルクール、ヴェーヌの3人がビクッと体をこわばらせた。ウーラの方は少し驚いていた。
俺は無視して立ち上がる。
「ほら。宿に戻るぞ」
「……ま、待って!」
「待ってよ!」
「待ってくださいよ!」
「ふふふ」
俺は立ち上がって建物から出ようとすると、シュティアとメルクール、ヴェーヌの3人は急いでついてきた。ウーラはカナと手をつないで、面白そうに笑いながら後をついてくる。
宿に戻ると、4人は布団に入るや否や、すぐに眠ってしまった。よっぽど疲れていたのだろう。
カナは疲れを知らないのか、起きている。しかしベッドの端っこで、ウーラの抱き枕となっている。
顔はウーラの胸に埋もれている。
銭湯のような所で読んでいた本の続きが気になったので、寝る前に読もうと思い読み始める。
しかしあまりにも眠たかったので、数ページ読んだが内容が入ってこなかったのであきらめて寝ることにした。寝る前に読んだページは、次に読むときに読み直さないといけないかもしれない。
布団にもぐったのはカナとは反対側のベッドの端っこ。隣ではヴェーヌが寝ている。シュティアとメルクールはくっつけたベッドの真ん中で、2人寄り添って向かい合うように眠っている。
布団に入って目を閉じると、すぐに意識は深い闇に沈み込んでいった。




