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第32話 温泉街を堪能(1)

気が付かなかったのですが、第27話の次の話が第25話となっておりました。すみません。

きちんと直しました。


今回は観光の話です。次も観光の話になります。

話が進むのは、その次からになります。

 俺が4人を信じるか信じないかを考えて、結局答えが出ないまま眠りについた翌日。

 着替えてから朝食をとると、さっそく温泉街に出て行った。


 温泉街に出た理由としては、暇だったことと、4人には昨日のうちに昼は外食すると言ってしまったためだ。


 最初の理由についてはそのままだが、外食は昼なのになぜ外を歩いているのか。それは4人がお腹を減らすためだと言って、俺も連れだしたからだ。俺はお金を渡すから好きなものを買ってくるように言ったにもかかわらず連れ出された。


 本当は本を読んだり、銃の調整を行ったりする予定だったが仕方がない。

 もちろんカナも一緒に来ている。人が多いので、はぐれないようにヴェーヌが手をつないでいる。


 人が多いため、いたるところに屋台があり、店主が客を呼び寄せている。中には小さな子に客引きをさせ、自分は商品を渡してお金を受け取っている店主もいる。

 屋台からは肉を焼くにおいがするところもあれば、柑橘系の匂いがするところもあった。


 また、お土産として、木を削って作った人形や、鉄を削って作ったアクセサリーを打っている人もいた。ただ、屋台で売っているだけあってそれほどいいものではない。しかし、その分安いので買う人がちらほらいる。



 宿の人に聞いたのだが、人が多いのは、王都が近いことと温泉街のためだ。主に商人が王都へ行く際に、休むために来ているらしい。もちろん訪れるのは商人だけでない。この街の周辺にある街の住人が、少し豪華な旅行で訪れてもいると言っていた。



 そのこともあり、人が多いので街は朝から活気に溢れていた。正月の初詣には及ばないが、一緒にいる人とはぐれるようなことがあったら、なかなか見つからないほどには混雑していた。


 現に目の前を名前を呼びながら探している若い男女が歩いている。残念ながら、人が多いため名前を呼んだとしても、あちこちで発生する音や声でかき消されるだろう。




 朝食を食べたのにも関わらず、メルクールは屋台で発生する、肉を焼くにおいに惹かれては、あっちへ行きこっちへ行きを繰り返している。


「メルクールさん。先ほど朝食を食べたばかりなのに、そんなもの食べていては太りますよ」

「あたしは体が小さいので、いっぱい食べないといけないのです! それにヴェーヌさんもお菓子を売っているお店ばかり見ているじゃないですか!」

「私は別に食べたいから見ているわけではないです! 何があるか見ているだけです!」

「食べたいと顔に書いているじゃないですか!」


 ヴェーヌがいいことを言うが、言っている本人も目移りをしている。もちろんメルクールがそれをつくと、ヴェーヌが慌てる。当たっていたようだ。


 メルクールの場合は焼肉に目が行っているが、ヴェーヌの場合はお菓子に目が行っている。ヴェーヌの目がなぜお菓子に言っているのが分かったかというと、ヴェーヌがメルクールに注意をする前に、近くを通った子供が持っていたお菓子に目が行っていたからだ。


「ち、違いますよ! いつか作ってみたいと思っているだけです」

「で、作った時に味がどのように違うかを確かめるために食べたいのですよね?」

「うぐっ……」


 どうやらヴェーヌは何かしらの理由をつけてお菓子を食べたいようだ。俺はインベントリからお金を取り出して、ヴェーヌに渡す。


「ヴェーヌ。食べたいときは食べたいと言え。金ならあるから」

「待て下さい! それじゃあ、私が腹ペコキャラになるじゃないですか! そのキャラはメルクールさんでいいです!」


 俺の発言に抗議するヴェーヌ。最後に言った言葉は、残念ながらメルクールには届かなかった。なぜなら、肉を焼く屋台を見つけたメルクールは、再び駆け出して行ったのだ。


 俺的には誰が腹ペコキャラでもいい。さすがに全員が腹ペコキャラなら食費が心配だが……



 そのようなことを話しながら、屋台を見て回る。

 途中、ヴェーヌのために生地を薄く焼いたものの上に果物を載せて巻いた、日本で言うクレープのようなものを買ってあげた。ヴェーヌはためらったが、今度作った時に味を比べることができるように食べていろと言って渡した。

 そのときにヴェーヌがすごく喜んでいた。相当食べたかったようだ。


 ヴェーヌって、案外ちょろくないか? いや、それはメルクールも同じか。


 もちろん俺とシュティア、メルクールとウーラの分も買った。食べ物を食べることのできないカナの分は買わなかった。


 注文するときにカナの分を買わないと、店主に「小さい子の分を買わないとは、どういう神経している!」言われそうだったが、どうやら俺の分をカナの分だと勘違いしたようで、怒鳴られずにすんだ。


 ただ、店主からクレープのようなものを渡されるときに「にいちゃん、小さい子が落とさねえようにしっかり見ていろよ」と言われた。俺はつい苦笑いしてしまったが、店主には怪しまれなかったので良しとしよう。


 クレープのようなものを食べながら、いろいろな屋台を見て回る。



 途中、ペンダントを売っている屋台を見つけたシュティアが、俺にどれが似合うか選んで欲しいと言ってきたので仕方なく選ぶ。それを見ていた他の3人も同じように選んで欲しいと言ってきたので、買ってやる。


「そこにいる小さいお嬢ちゃんの分はいらないのか? さすがにその子だけ無しじゃあ、かわいそうだろ」


 そこの店主はうまかった。

 近くにいる人に声が聞こえるよう、やや大きな声で訪ねてきた。聞こえた人は立ち止まって俺の方を見ているのだろう。


『そんなにかわいい小さな子に買わなかったときは、どうなるかわかっているだろうな?』

 そんな感じの視線だ。

 力では負けないであろう俺でも、この時はなぜか負けそうな気がした。


 それに、もしここで俺が断りでもしたら、俺は小さい子に物を買わない悪い男として扱われる。


「もちろん買うつもりだった。だが、いいものが見つからなくてな。おすすめのペンダントはないか?」


 嘘をついた。俺は買わないつもりだったのだ。

 別に、カナの分だけ無しにするつもりはなかった。ただ、カナには手作りのペンダントを作ってやるつもりだったのだ。


 だがここまでされた俺は、カナの分のペンダントを半分しぶしぶで購入した。


「まいどあり! これなんてどうですか? そこまで高くはないですが、いいものですよ?」


 店主が進めてきたのは、桜のような花をかたどったような金細工が付いているものだった。この世界にはチェーンなんてないらしく、首にかけれるように白いひもが代わりにつけられていた。



 しぶしぶ買うという言葉が、頭の中から完全に消えた。俺は即決すると代金を払って購入する。価格は銀貨5枚と高かったが、このぐらい問題ない。



 店から少し離れたところまで移動する。シュティア達4人は、すでにペンダントをつけている。購入すると、自分ですぐにつけていた。価格は4つで金貨1枚に銀貨2枚だった。


 シュティアにはハートのような形の金細工がついたネックレス。メルクールにはスペードのような形の金細工がついたネックレス。ヴェーヌにはクローバーのような形の金細工がついたネックレス。ウーラにはダイヤのような形の金細工が付いたネックレスを選んで買ってあげた。

 もちろん『ような形』なので、完全に一致した形ではない。しかし似たものを知っている俺からしたら、それにしか見えない。


「カナ。後ろを向いて」

「はい、お兄ちゃん」


 俺の指示に返事をすると、カナは後ろを向いた。

 俺はかがむと、先ほど購入したペンダントをカナの首につけてやる。


 外野が4人が、ずるいやら私にもつけてと叫んでいるが無視だ。今はカナにペンダントをつけてやるのが優先だ。何よりも最優先だ。

 例え暗殺者や魔王の手下が近くに潜んでいても。



「つけれたよ。こっちを向いて」

「はい、おにいちゃん」


 ややてこずったが無事つけられたので俺が指示を出す。俺の指示で、カナは再びこちらを向く。振り向いたカナには、人でいう鎖骨のあたりに桜のような形の金細工が光を受けて輝いていた。幼い容姿のカナに、桜のような金細工は大変似合っている。お互いがお互いを高めていると言えばいいのだろうか。


「よく似合っている」

「ありがとうございます。お兄ちゃん」


 俺が満足気に言うと、カナは微笑みながらお礼を言う。ロボットであると分かっている俺でも、普段は無表情のカナの微笑みの可愛さには驚いた。


 その時、後ろの方でいろいろな悲鳴が聞こえた。

 声のした方に振り向くと、男性が何もないところで転んでいた。さらには、普通に歩いていれば避けられるであろう男性2人が正面衝突をしていた。他にも花壇に突っ込む女性。馬車に轢かれそうになった男性などがちらほらいた。


 俺は放っておくことにして、先ほどまでうるさかった外野のシュティアたち4人に、何を言っていたかの要件を聞くためだ。

 しかし――


「なぜ顔が赤いのだ?」


 シュティア達4人がなぜか顔を赤らめていた。さっぱりわからない。


「……カナちゃんが」

「うん。カナちゃんが……」

「ダメなのはわかっています。よくわかっています。ですが……」

「その微笑みは卑怯ね……」


 俺の質問に答えずに、シュティア、メルクール、ヴェーヌ、ウーラの順によくわからないことを言っている。

 しかしいつまでもそんなことをしている暇はない。他にも回るところはたくさんあるのだから。


「ほら行くぞ」


 俺はため息をついた後そう言って歩いていく。4人は返事をせずに、カナの方をじっと見ている。いつもカナの面倒を見ているヴェーヌが面倒を見そうになかったので、俺がカナの手を握ってやる。


「手をつないでくれて、ありがとうございます。お兄ちゃん」

「ああ」


 カナは再び微笑みながらお礼を言ってくる。2回目だけあって、今度は驚かなかった。短く返事をすると歩き出す。


 再び近くで、なぜか転ぶ人がいたり正面衝突する2人の男性がいたり、花壇に突っ込む女性がいたり馬車に惹かれそうになる男性がいた。


 そして、シュティアたち4人はさらに顔を赤くするのだった。




 いろいろあったが、店を見て回る。昼近くになってきたこともあって、さらに道が混んできた。仕方がなかったので、昼食をとることにした。テラス付きのレストランに入る。


 観光地だけあって、外装内装共にすごく綺麗だ。

 驚いたことに、シャンデリアまでついている。夜になったら綺麗だろう。できたら夜に再び訪れたい。ただし、食事がおいしかったらの場合を含む。


 天気がいいので、テラス席に座る。もちろんカナも座った。そのため6人席になった。

 歩いていると分からなかったが、そよ風を感じる。日本では4季があったが、この世界ではどうなのだろう。そのあたりが気になる。


「……どれ食べよう」

「あたし、これがいいです!」

「メルクールさん。もう少し落ち着きを持ちましょう」

「じゃあ、私はこれにしようかしら」


 メニュー表を見ながら、定番になりつつある会話が始まった。食事になると、必ずと言っていいほどメルクールが落ち着かなくなる。そしてそれをヴェーヌが注意する。その横ではシュティアがメニュー表とにらめっこをし、ウーラに至っては即決並みの速さで料理を決める。カナは安定の無表情のうえに無言だ。



 俺は、かなり前まではこのやり取りの光景を、騒がしい程度にしか思わなかった。

 しかし、今ではこのやりとりを見るのが好きになってきている。


 それは、この4人のことを『仲間』だと思い、大切にしているからなのだろうか?

 俺自身よくわからない。最近は、4人のことをどう思っているかさえ、自分でもわからないのだ。


 王都を出た時の俺からは考えられない。仲間と思う影響として一番大きかったのは、エルフの郷で2か月という長いような短いような期間を共に過ごし、共に訓練し、共にダンジョンに潜ってレベル上げをしていたことだろう。


 また、気がつかない間に4人を『仲間』なのかどうかを考えてしまっている自分もいる。

 そのことから、俺は本当に4人のことを『仲間』だと思って――


「レイさん。ボーっとしていないで、さっさと決めて下さい。でないと、レイさんの分は無しにしますよ!」


 考え事をしていると、突然メルクールが話しかけてきた。俺は考えから意識を戻す。シュティアとヴェーヌ、ウーラとカナもこちらを見ていた。


「すまない。すぐに決める」


 俺はそう言って、メニュー表に目を落とす。昼食から軽食。朝食や夕食で食べそうなものまでずらりと並んでいた。さすが観光地だけある。どれもおいしそうだ。


「本当に大丈夫ですか? なにか悩んでいそうな感じでしたが……」

「大丈夫だ。本当に考え事をしていただけだ」

「もし私たちに相談できることがあれば相談してください」


 ヴェーヌが心配そうに尋ねてくる。俺は本当に大丈夫であると言って、メニュー表に視線を落とした。

 ヴェーヌが相談できるならしろというが、4人には相談が出来ないから困っているんだろうが!


「あ! 何を悩んでいるかわかりました!」

「なにですか?」


 メルクールが手を挙げながらそういうと、ヴェーヌが尋ねる。

 俺はギクッとしてしまった。もし本当に当たっていたら怖いのだ。


 俺の気持ちはよそに、メルクールがどや顔をする。そして言った言葉は――


「ずばり、あたし達を助けた時の姿で行動する際に、名前を何と名乗るか迷っていたのですね!」


 見当違いの答えだった。俺は心の中で、ついほっとしてしまった。


 しかし事態はまずい方向に流れ出し始めたのだ。


「……なるほど」

「確かにその可能性はありますね……」

「なかなかいい推理じゃない。メルクール」


 メルクールの言葉を聞いて、3人が納得した。見当違いの答えだったので、俺は苦笑いをする。

 その表情を見て、メルクールの言った言葉が想定外だった……


「じゃあ、レイさんのためにみんなで考えてしまいましょう!」

「ま、待て!」

「大丈夫ですよ。誰もレイさんのことを馬鹿にしていませんよ」


 突然始まった相談に、俺は止めようとする。しかしメルクールには引く気がないようだ。それよりも、なんだか楽しそうだ。他の3人もやる気十分な表情をしていたので、俺は諦めた。


「じゃあ、何かアイデアはないですか?」


 ヴェーヌが仕切り始めた。そのことに誰も突っ込みを入れなかった。


「……漆黒の、暗殺者」


 シュティアが提案する。思いっきり中二病が入っている。その言葉を聞いて、メルクールとウーラがなるほどという顔をする。なぜだかわからないが、ヴェーヌはちょっと笑いをこらえていた。

 これまずい奴だ。


「それじゃあ、銃の要素がないわね。レイくんは銃の使いなのだから」

「じゃあ、『漆黒の銃使い』ですか?」

「それより、『漆黒のスナイパー』の方がかっこいいですね」


 ウーラの言葉を聞いて、メルクールが意見する。ヴェーヌが提案する。収拾がつかないことになってきた。

 しかもなぜ『漆黒』をつけたがる。確かに俺の衣装は黒かったが……


 しかもヴェーヌが、ちょっと吹き出しそうにしながらノリノリで提案する。

 あいつ、絶対バカにしている。


「『ゼロ』なんてどうでしょうか?」


 驚いたことに、カナが提案してきた。その提案を聞いて、全員の目がカナに向く。カナは全員の目が集まったことを確認すると、説明し始めた。


「日本では、数字の0(レイ)0(ゼロ)と呼びます」


 その言葉を聞いて、ヴェーヌが納得をした。他の3人は知らないようだ。

 カナの説明は続く。


「また、『漆黒』は『無』を連想させます。そして『ゼロ』も、何もない『無』を表します。そこからこの提案をしました。これなら、お兄ちゃんの名前に関連しますし、シュティアさんたち4人の意見も取り入れたことに近い状態になります。また、覚えやすいです」


 カナの素晴らしすぎる説明に言葉を失った。カナってこんな子だっけ?


 俺はいろいろなことに疑問を感じてしまった。

 まさかここまで説明がうまいと思わなかったのだ。いつも黙ったままで、何事にも興味を示さない。しかしここ数日で変わってきたと思う。


 それに、日本での数字を知っているとは思いもしなかった。いくら日本人が作ったとはいえ、そこまでの情報を教えていたとは思いもしない。


「……『ゼロ』……いい名前」

「『ゼロ』ですか! いいですね! それで行っちゃってください!」

「いいじゃない。『ゼロ』」


 シュティアとメルクール、ウーラは賛成であることを伝えてきた。

 しかしヴェーヌはうつむいたままだ。なぜか体が震えている。


「……ヴェーヌ……どうしたの?」


 シュティアが心配そうに尋ねる。メルクールとウーラも心配そうだ。カナは無表情で見ている。

 ヴェーヌはその質問に答えた。ただ……


「な、なんでも……ぷっ……あ、ありませ……ふふっ……ありません……ふふふっ」


 無茶苦茶、笑いをこらえている。

  しかも笑い過ぎからなのか、上げた顔が真っ赤だ。


「ヴェーヌさん!? 大丈夫ですか!?」


 メルクールがかなり心配そうに尋ねる。するとヴェーヌは手で待つように制すると、再び机に突っ伏した。



 それから回復するまでが長かった。5分ぐらいは立っただろうか。その間ずっと笑いっぱなしだった。

 仕方がないので、ヴェーヌが回復するまでに、俺は料理を選んで注文した。選んだものは肉料理。


 昼間からかなりがっつり系だが、歩き回ったのでこのぐらい食べないと足らなさそうだったのだ。シュティア達も似たようなものを頼んでいた。お腹がかなり空いているようだ。



 料理を待っている間に、ヴェーヌは笑いの発作から回復した。だが笑い過ぎのため顔は赤く、呼吸が荒い。

 ヴェーヌは呼吸が落ち着いてから、なぜ笑っていたのかを説明する。


「実は、日本には中二病をいうものがありまして……」

「……何の病気?」

「シュティアさんが思っているような、病気ではないのですが――」


 俺は知っているので、ヴェーヌの説明は聞き流す。その間、俺は通りを眺めていた。


 そしてヴェーヌの説明を聞いた残りの3人も机に突っ伏して、肩を震わせる。絶対笑っている。

 覚えていろよ。



 そんなことをしていると、注文した料理がきた。辺りにいい匂いが広がる。俺たちが座っている近くを通った人がこちらを見ては、羨うらやましそうな表情をする。


 カナの分だが、みんなの分を少しずつ分けるということにしている。そのため何も注文はしていない。


 肉料理は肉料理だが、ゆで卵のようなものがお皿の端に乗っていた。半分に割られており、うっすらと湯気が立っている。しかもおいしそうな半熟。

 肉にはソースがかかっていたが、ゆで卵にかけて食べてもおいしそうだ。


「これなんですか?」

「それはゆで卵っていうものです」


 メルクールは食べたことがなかったらしく、フォークでゆで卵をつつきながら睨んでいる。同じくシュティアもフォークでつついている。

 ウーラの方はおいしそうに食べていた。2人とは違い食べたことがあるのだろう。

 中身は日本人のヴェーヌが答える。


「ゆで卵っていうのは、言葉の通りに卵を茹でて作ります。この辺りなら温泉が湧いているので、それで作ったのでしょう。そしてゆで卵は茹で時間によって半熟になります。こんな風に」


 ヴェーヌはそう言いながらゆで卵を頬張った。そして両手で頬を抑えてうれしそうな表情になる。尻尾が揺れている。よっぽどうれしかったのだろう。


 それを見て、シュティアとメルクールも恐る恐る少しだけ口に入れる。一度動きが止まったが、すぐに動き出し、残りの分も口に入れる。

 入れるというより、入れ込むの方が正しいだろうか。2人の小さな口には少々大きかったようで、リスがドングリを頬張ったようになっている。さらに口の周りにはソースがついている。2人は気が付いていない。


 それを見て吹き出しそうになったが、こらえることに成功した。


 お肉もきちんとおいしく食べてお金を払うと店を後にした。全員満足そうな表情をしていた。




「この後はどうするつもりですか?」

「そうだな。どうしようか」


 隣を歩いているヴェーヌが、カナの手を引きながら尋ねてくる。

 残りの3人は後ろでゆで卵について話し合っている。よっぽど気に入ったようだ。


「だいたい見て見て回りましたが、まだ少し残っていそうなので見て回りのですが」

「そうするか」


 宿で聞いた話なのだが、いつもはもう少し静からしい。

 しかし、つい先日まで王族の方が来ていたらしく、その余韻がいまだに残っているようだ。めったに来ないため、その盛り上がりはすさまじかったようだ。

 これでも来ていた時よりは落ち着いているらしい。


 午後も残りの分を見て回る。

 しかし午前中で見て回ったのが大半だったらしく、すぐに見終わった。

 そこまで疲れていないが、この後何をするか相談するために近くのベンチに座る。手にはジュースの入ったコップを持ている。コップはもちろん木製。


「このあとはどうするつもりですか?」

「確かに気になるわね。レイ君はどうするつもりかしら?」


 ヴェーヌとウーラが質問してくる。シュティアとメルクールはカナのつけているペンダントを見ては、自分のペンダントを見て何かを落ち込んでいる。


「することがないから、一度ギルドによって依頼を見たいと思うのだがいいか?」

「ここにきてまで依頼ですか……。まあいいですが」

「私としては、もう少し楽しみたいのだけれど、仕方ないわね」


 俺の提案を聞きいて、2人は少し呆れたような表情をしながらも了承してくれた。

 だがもう少し楽しみそうだったので、俺は1つ提案をすることにした。


「じゃあ5人でもう少し見て回ってきてくれ。その間にギルドに行って見てくるから」

「そうじゃないのですが……まあいいです。5人で見て回ります」

「もし戻ってこなかったら、先に宿にもどっているわね?」

「ああ。そうしてくれ」


 俺の提案を渋々飲み込んだので、宿のカギを渡す。そうして俺は立ち上がる。


「……どこ……いくの?」

「ギルドで依頼を見てくるから、その間に他のところを見て回るといい」


 シュティアが聞いてきたので、俺は答えるとギルドのある方向に向かった。

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