鉱石干渉
この世界に来て3日目。
訓練初日である昨日と同様、午前は鍛冶を行い、午後は剣術の練習。
3日目ということで、鍛冶仕事はしないだろうと思っていたが、違った。
俺はスキルの『鉱石干渉』を実際に使用した。といっても初期段階。
目的はスキルの使い方を知ること。幸いにも1人だけ使える人がいたので使い方を実際に教えてもらう。
俺の持っているスキル『鉱石干渉』だが、うまく使うと鉄鉱石や金鉱石などの鉱石を魔力を使って精錬し、形成ができる。
剣を作るときの工程で例えると、鉱石を溶かした後、金づちでたたき、徐々に不純物を取り除きながら形成・焼き入れなどを行い、強度を上げていく。
一方『鉱石干渉』は、鉄鉱石から鉄を取り出しすところから焼き入れを行う手前までを魔力でやっちゃうというとんでもないスキルだ。
なぜとんでもないかというと、剣を作る際の時間や人員、費用がかなり抑えられるから。
時間はほんの数分あればいいし、人員は俺1人だけいれば剣が次々とできる。さらに費用は焼き入れの手前までの燃料の分がかからない。
代わりに魔力を回復するポーション代が掛かるが……
あとは俺のやる気。毎日毎日同じものを作っていると絶対飽きるだろう。いや、飽きる。きっと反乱を起こす。
もちろんすぐに鎮圧される。
ここでもう少しスキルの詳しいことを説明する。
鉄鉱石に『鉱石干渉』の中の『精錬』を使うと、純粋な鉄と不純物に分けることができる。不純物は指の間から砂が落ちるように落ちていく。手のひらに残った不純物も、手を払って落とせばいい。
そして出てきた鉄は岩のようにごつごつしているため、『精錬』と同じく『鉱石干渉』の中の『形成』を掛けて変形させてやればいい。
『形成』は頭の中で形をイメージしないと、きちんとした形の物にならない。イメージがあいまいならばその分出来上がりがぐちゃぐちゃになる。
もちろん鉱石干渉は名前の通りに鉱石にしか干渉できないのではなく、精錬されてすでに形成されている金属も変形させることができた。
さらに、合金を分離させることができることも分かった。
ただ、鉱石干渉では強化をかけることはできないので、強度は一定になる。合金を作れば話は変わるらしい。
質問はあるかと聞かれた際にレア度を聞くと、『鉱石干渉』というスキルはかなりのレアらしい。世界中を探しても20人いるかいないか。
だが、レアと言いながら使えない。
誰でも施設があれば自分の手で剣を作れるうえに、何十年もかけると剣を作る腕が上達するからだ。
スキルが欲しいと思うのは鍛冶を始めたばかりの若者ぐらいで、50年という長い期間鍛冶をしてきたプロからは、不要なスキルと見られる。
俺はその話を聞いて、複雑な気持ちになった。
レアにもかかわらず、使えない。使い道を見つけた俺にとって、かなり悲しい言葉だった。
ある程度説明を聞いたところで実際にやって見ろと言われ、今まさに掘ってこられたと言わんばかりの鉄鉱石を目の前に出された。
説明通りにやって見る。
「『精錬』」
そう言った瞬間、まるで全身から腕に向かって、何かが動いた。それが何なのかはわからない。例えるなら体の中を水が移動したような感じだろうか。
そして手のひらまで行った何かは、止まることなく手のひらからあふれ出している。
変な感覚に襲われていたので気が付くのが遅れたが、変化が起きたのは自分の体の中だけではなかった。
鉄鉱石から、砂のようにサラサラしたものがあふれ出ている。これが不純物なのだろう。
面白い。
じっと見ていると、徐々に鉄鉱石が小さくなっていっている。その代わり、足元にはサラサラした不純物らしきものが散らばっている。
そしてついに、鉄が顔を見せる。だが鉄鉱石同様、表面はゴツゴツしている。
原因はイメージをしていなかったからだろう。
魔力切れを何度か起こしそうになったが、結局成功せずに終わった。
一度昼食を挟んだのち、午後は剣術の練習。相変わらず型をひたすらするだけ。
そんな練習が終わると昨日と同様に夕食、入浴と終える。
そうして就寝時間になったが就寝はしない。
なぜなら、今日学んだ鉱石干渉を使って銃の試作品を作るためだ。
午前中にあった鍛冶の練習という名の見学で銃を見たが、昔日本に伝わった火縄銃と同じようなものが飾られていたことから1つの事が考えられる。
地球にあるような銃はないのではないかということを。
こう思ったのも、米軍などが使うような近代的な銃が飾られていなかったからことが大きい。
幸い銃の構造をネットで知ることがあった。理由としては、双子の妹の怜が原因だ。
あいつが銃の構造が気になると言って、ネットで調べる羽目になった。俺は興味がなかったが、見つからないために俺まで駆り出されたのだ。
そのため寝るまでに宿題が終わらず、徹夜で終わらせることになった。もちろん勉強が苦手な怜は終わらせることができず、俺の宿題を写すことになったことは言うまでもない。
ともかく、その時はかなり恨みを抱いたが、今になって感謝をしている。きっとあの時、怜が銃の構造を調べるなんて言っていなかったら、俺は1から考えて実験し、試行錯誤を繰り返さなければならなかっただろう。
もちろん構造がわかっている銃はすべてではない。しかし基本的な構造はある程度知っている。それを実際に作る。
と言っても最初からセミオートは構造が複雑で明らかに無理なうえに、薬莢も作らないといけないで、最初は1発撃つたびに薬莢を手動で排出しする単発銃か、リボルバーにするつもりだ。
そのため、セミオートの銃より装填数と連射性は劣るが仕方がない。
と言っても、銃口から火薬と鉄の弾を入れて装填する火縄銃よりは攻撃の間隔が少ないうえに、威力はあるだろう。
そう願う。
最終的にはセミオートの拳銃や突撃銃――アサルトライフルを作る予定だ。
機会があればミニガンを作ってみたいが、構造が複雑で弾薬の消費が半端じゃないので、そこを解決する方が先だろうな。
明日も訓練があるので、徹夜の作業にならないように早速製作を開始。
製作というより、試作品の弾薬を試射するための試作の銃の作成を行うといった方が正しいだろう。
製作の前に問題が1つある。人力で剣を作るだけでも大変なのに、複雑な部品がある銃をどうやって作るのか。
その答えは簡単だ。昼間に使った『鉱石干渉』を使う。
ところで、えーっと……鉱石ってこれだよな?
『インベントリ』から鍛冶屋で練習と称して貰った鉱石を取り出す。昨日までは開けなかったが、鍛冶屋で開くことができたのだ。
開けと強く願うと開いた。ただそれだけ。どうやら気持ちの問題のようだ。
インベントリから取り出した鉄鉱石を手に取って見てみる。色は赤褐色だろう。暗い赤色をしている。
聞いた話では、これを赤鉄鋼というらしい。
かなりずっしりとくる重たかったので、机の上に布を敷いてその上に鉄鉱石を置く。
これは練習するためと言って貰った分。
量は、机の上に赤褐色の山が出来そうなほど。そんな量を鉄鉱石をインベントリから机の上に取り出していく。調子に乗りすぎたので、途中でミシミシと音が鳴ったので、慌ててインベントリにしまうことになった。
鉄鉱石でできた山の中腹に、左右から包み込むように手を添える。
俺は大きく息を吸ってから吐いた。
「『精錬』」
夜のため、あまり大きな声は出せない。俺はつぶやくように言葉を発する。
もちろん精錬するためには対してイメージする必要はない。その代わり、鉄鉱石をすべて鉄にして小さくしたような、ゴツゴツした鉄が出てきた。
「『形成』」
そこから試しに、ハンドガンのフレームの形をイメージして形成するが、表面がボコボコになるどころか、小さい子が粘土を使ってハンドガンを作りましたと言わんばかりに形がぐちゃぐちゃ。
どうやら銃を作る前に、形成の練習をしないといけないな。
ただ、薬莢は円柱に近いと言うことで楽に作れた。もちろん銃を作ることと比べたのであり、苦労したことは変わりない。
さすがに疲れたと言うことで、作業は終了。薬莢を作ってから気が付いたが、どのような火薬があるか分からないので、明日にでも調べに行かないとな。
次の日の午前、鍛冶士の人から練習するよう指示された分は早く終わったので、城の一角にあった倉庫に火薬をもらいに行くことにした。
「すみません。火薬貰えますか?」
「火薬? 何に使うのだ? まさが城を爆発させるためなんて言わねえよな?」
管理人っぽい男性に尋ねてみる。やはり怪しまれているな。
ほんとうは黙っていたかったが、俺は正直に答える。
「銃を作ったので、試し撃ちに使いたいのです」
「銃だと? あんなもの作ったって、なんの役にもたちゃしねえよ!」
男性はそう言いながら笑う。
俺も笑った方がいいと思ったが、苦笑いしかできなかった。
「まあいい。頼まれたものを渡す。それが俺の仕事だ。ついてきな。火薬をやろう」
管理人はそう言って、倉庫の中に入っていく。俺はその後ろをついていく。極力普通に歩いていたが、心の中では火薬が手に入る喜びがあふれそうになっていた。
「これが火薬だ。ここにある分は普段使わないからあまりまくっている。好きなだけ持っていきな」
「わかりました。ありがとうございます」
管理人の男性はそう言うと、どこかへ立ち去って行った。
俺は火薬が入っていると言われた袋を開けて中をのぞく。
火薬の種類は色からして、種類は黒色火薬に見える。
だがここは異世界。見た目は黒色火薬だが、別の性質を持っているかもしれない。
火薬は袋で置かれていたので、それを必要な量だけ貰って持って行く。
そう。大事なことなのでもう一度言う。必要な分だけだ。
火薬は3袋置かれており、それぞれ5キロほどはあっただろうか。つまり15キロはある。
そのうちの2袋をインベントリにしまう。インベントリって便利。
触って仕舞いたいと思うと勝手に消える。見ればインベントリの中に入っていた。
ふと思ったことがあったので、鉱石を置いているところに向かう。銃弾を作るのに必要なものを探すためだ。
いろいろな鉱石があったので見て回る。そしてお目当てのものが見つかった。鉛だ。
確か銃弾に使ったはず。
かなりの量が置かれていたので、火薬のついでに貰っていくことにした。
そしてその夜。火薬を貰ったので、実際に薬莢に火薬を入れて見る。もちろん薬莢自体もまだ作り直さないといけないが、やる気を出すため。
火薬を薬莢に入れた夜の翌日は、鍛冶屋がなぜか大忙しだった。それを見ながらいつもの場所に向かう。すでに、俺に教えてくれる担当の男性がいた。しかしなぜかそわそわしている。そして俺を見るなり、こちらに来た。
「どうしたのですか?」
「それが騎士団から600人分近い装備の依頼があったんだ。そこまでいい物じゃないのだが、量が量だ。済まないが今日は帰ってくれないか?」
「わかりました」
俺の返事を聞くと、男性が作業に戻っていった。
時間ができたな。それじゃあ部屋に戻って銃……の前に、形成の練習をするか。
部屋で昼食の時間になるまで練習をしていた。インゴットの形に何とか出来るようになったものの、針金のような細いものを作ることはできず、バネやネジなどの細かい部品は論外だった。
手先は器用なつもりだったが、どうやらそれとこれとは違うようだ。
結局思い通りにはいかず、集中力も切れてた。
ちょうど昼食時だったと言うことで、昼食を取りに行く。
そして午後の訓練はひたすら型の練習。
そんな中、覚えのいい生徒は模擬戦を行っていた。もちろん俺はひたすら型の練習。正直詰まらなかった。
そして夜は再び形成の練習。
午前中に関しては、さすがにいつもいつもないというのは良くないと判断したためか、与えられた課題をひたすらやるという日もあった。
そうして数日が経った日の夕食後、本来ならすぐに入浴などの自由時間だがイスバーン団長がきて明日からのことについて話すと説明が来た。
「明日から、実践の一環としてここの地下にある『トート大迷宮』へ行く。班分けは各クラスを2つの班に分ける。詳しいことは明日の朝話す。以上だ」
短い説明を行うと、どこかに行ってしまった。
だがここにいる全員、状況はきちんと理解した。もちろん俺もだ。
明日からダンジョンへと潜る。
一気に周囲がざわめく。それを見ながら俺はため息をついた。
ここからが勝負だと。
一方で心配なこともある。
もし魔物に恐れて殺されてしまったらどうなるのだろうかと。