第30話 援護射撃
移動中にいろいろあったが、一定のスピードで王都方面の道を進んでいると丘が見えてきた。それなりの高さがあるので、ここからでは丘の向こう側が見えない。越えるために若干だが少しスピードを上げる。
スピードを上げた時の反動で、シュティアが落ちそうになったらしく、座席の後ろからポカポカと叩きながら文句を言ってくる。軽く謝って運転を続ける。バックミラーでシュティアが膨れているのが見えた。
シュティアが膨れている間に、メルクールが銃座につく。気持ちがいいらしく、しっぽが左右に揺れているのが見えた。
頂上が近づいてきたので、頂上で止まるようなスピードまで落としていく。メルクールがなぜ止まったのか気になったらしく、降りてきた。
頂上に着くと軽装甲機動車を止めた。その際、きちんとハンドブレーキを行い、ギアをパーキングに入れる。エンジンも切った。
景色が良かったので、軽装甲機動車から降りて外に出る。もちろん本当の目的は、景色を楽しむためではない。向かう方向の先を見て、魔物や人がいないかを確認するためだ。魔物なら倒せばいい。しかし無害な人は殺してはいけない。インベントリに軽装甲機動車を入れて徒歩で行くか、迂回して見つからないようにする必要がある。
あたりを見待たすと、およそ1キロメートル先に森があった。前に聞いたが、アルールはどうやら自然豊かな国らしく、森が多く存在する。
そしてその右100メートルあたりには馬車が見えた。人がたくさん集まっている。
人かいるのは問題だが、別の問題があった。普通の人が遠くから見れば、馬車とそれを取り囲む数十人の人が見えるだろう。しかし遠見を使って詳しく見ると、その様子は少し違って見える。
数十人の人が、馬車を護衛しているであろう十数人の人と戦っているのだ。さすがに多すぎので詳しい人数までは分からなかった。
詳しく調べるために、インベントリから双眼鏡を出して使用する。じっくりと時間をかけて観察する。
わかったことは、片方は盗賊らしく、装備の材質は全く統一されていない。そのうえかなり低級品だ。鉄装備をしている者がいれば、防具を一切装備していないものもいる。一部ミスリルでできているであろう剣を持っている者もいるが、剣先が欠けている。
一方、護衛側は全員同じ装備。白い鎧であるため、ミスリルであることが分かる。さらに肩の部分にドラゴンが書かれている。
遠見では分からなかったが、盗賊側の規模はおよそ40人。対する護衛側は15人ということが分かった。圧倒的な差がある。さらに地面には何人かが倒れている。
それぞれの動きに関しては、盗賊側はかなりひどい。みんな思い思いに動いているので、混乱が起きている。一方護衛側は統率が取れており、互いにかばい合っている。動きからしたらかなりできる人たちだ。
だが人数差で少し押されている。こうして見ている間にも護衛側は少しずつだが、力尽きて1人1人確実に倒れていく。
だが、本当に驚いたのはここではない。問題は護衛側が囲んでいる馬車にあった。装飾が、あまりにも豪華なのだ。例えるなら、レールン王国の女王が乗っていた馬車のように豪華だ。
気が付くと、車に乗っていた5人が軽装甲機動車から降りてきて、同じように横で伏せていた。並びは右からシュティア、俺、ヴェーヌ、カナ、メルクール、ウーラの順番で伏せている。
さすがに5人の視力では、ここから何が起こているか見えないだろうと思ったので、インベントリから双眼鏡を5つ取り出して、それぞれに渡す。全員に行き渡ったようで、全員双眼鏡を使って見ている。前に一度使いかたを教えたので、全員使い方を知っている。カナも双眼鏡を使っている。
さすがに向こうの人たちはこちらを見る暇はないだろう。だが見られた時の事を考えて、軽装甲機動車をしまうことにした。
一度立ち上がって軽装甲機動車をインベントリに仕舞った後、元の場所に戻って伏せる。場所は先ほどいた場所と同じだ。
「あれはアルール王国の王族用馬車ですね。そこから考えると護衛は騎士団の人でしょうか?」
双眼鏡で観察していたヴェーヌが報告する。盗賊と護衛――騎士団の戦いであるなどの情報は、俺も知っていると判断したらしく言わなかった。その代わりどの貴族の馬車で、護衛はどこに所属しているかを教えてくれた。
「王族用馬車でも、いろいろな種類があるのか?」
「どういうことですか?」
双眼鏡を覗きながら気になったことをヴェーヌに尋ねる。ヴェーヌが双眼鏡から目を離して、こちらを見ているのがなんとなくわかった。
隣で双眼鏡を除いているシュティアに質問しようと思ったのだが、見ることに集中しているため尋ねられない。
俺の説明不足が原因で、意味が分からなかったようで、ヴェーヌが尋ね返してきた。
「王様用の馬車や王妃様の馬車はあるのかって話」
「うーん……ないのでは?」
「そうか。ありがとう」
俺は例えを出して再度質問をする。ヴェーヌは少し考えた後、答えてくれた。答えが疑問形だったので、さすがのヴェーヌでも分からないのだろう。ただ、答えてくれたのには変わりないので、お礼を言う。
「なぜ聞いてきたのですか?」
「少し気になっただけだ」
「そ、そうですか」
ヴェーヌが尋ねてきたので、双眼鏡から目を離してヴェーヌの方を向いて答える。みんなかなり近づいて腹ばいになっている。そのためヴェーヌの方に振り向いたら、鼻と鼻が当たりそうになった。
俺が答えると、ヴェーヌはすぐに視線を前に戻して、双眼鏡を覗いて観察を続ける。
ヴェーヌの顔が少し顔が赤いような気がするが気のせいだろうか?
俺も双眼鏡を覗き、観察を続ける。俺とヴェーヌが話している間にも、護衛を行っている騎士団の人数は減っていた。見える範囲で10人しか残っていない。しかし盗賊側はかなりの人数が残っている。
このままではまずい。
聞いたことがあるが、盗賊は金品を盗むだけではなく、子供や若い女性さえも連れていく。その後、奴隷として売る。もちろん奴隷として売られない場合もあるが、その場合ずっと監禁されていると思った方がいいだろう。
もしあの馬車に王妃がいれば大問題になる。しかし関われば、面倒ごとに巻き込まれるのは目に見える。
助けるべきかどうか、かなり迷った。その間にも護衛側一人がやられた。
その時、こちらは助けつつ、相手には誰が助けたのかがバレない、いい解決策を思いついた。
「すまん、ヴェーヌ。これを配って、付けておいてくれ」
「え?」
インベントリからヘッドホンを取り出す。耳の付き方が独特の、メルクール用のヘッドホンも用意してあるのでそれも取り出す。それをヴェーヌに預けて、俺はその場から立ち上がって、5人から離れた。
そして短い距離だが、移動する間に双眼鏡を仕舞って、スナイパーライフルを取り出す。
そう、狙撃を行うのだ。
十分離れると、腹ばいになってヘッドホンをインベントリから出して付ける。スナイパーライフルの発砲音により、耳を傷めないようにするためだ。
スコープを覗き込み、倍率を上げる。指はトリガーに掛けていつでも打てるようにしている。風は吹いている。風向きは右から左――馬車から森の方向だ。弱いので、それほど補正はいらないだろう。
馬車を囲んでいる盗賊のうち、円の外側に近い盗賊を狙う。馬車を守っている騎士団の人を守るために、内側の盗賊を狙ってもよかったのだが、もしものことを思ってやめておいた。
目標の次の動きは先読みで分かるので、移動先に照準を合わせる。ゆっくりと引いて撃つ。
サプレッサーを取り付けていたので、音が小さい。と言っても、本来の音と比べてなので、そこまで小さくはない。シュティア達が音に驚いたようで、こちらを見ている。
銃弾は見事命中。当たるかどうか怪しかったので当たって良かった。倒れた盗賊の近くにいた盗賊が、数人混乱していた。当たり前だ。急に仲間が倒れたのだから。
それをのんきに見ていないで、次々と目標を切り替えて撃つ。ひたすら撃つ。1発目で弾道がわかったので、内側に近い盗賊も倒していく。
どこから撃たれているか分からないので、盗賊は動揺している。見当違いの方向を向く者が多数だ。
騎士団の人も盗賊の様子を見て、自分たちがどこからか援護されていることに気が付いたようだ。士気が上がったらしく、一気に攻め始めた。
残り少なくなったところで、盗賊は逃げ始めた。しかもジグザグに動くので、照準が付けられない。狙撃するのはあきらめるしかなかった。
騎士団の人は、護衛をしているのであって盗賊を倒しに来たのではないので、周りを警戒しつつ馬車のもとに戻っていた。馬車に乗っている人の安全を確認しているのか、1人が馬車のドアを開けて話している。残りの騎士団8名は仲間の埋葬を始めた。さすがに王都まで運ぶのは大変なのだろう。
その様子を確認して銃を持つと、5人のところに戻る。
ちなみに薬莢は落ちていない。すべて回収している。と言っても、いちいち拾ってインベントリに入れているわけではない。薬莢の排出する部分に、薬莢がでる部分を覆うほどの長方形の物を付けている。これはマジックバッグのような物で、この中は魔法により空間が作られており、それに薬莢が入る様にしている。薬莢は回収しないといけないので、長方形の物は、取り外しできるようにしている。
「零さん、それ物騒ですね……」
「だが便利だろ?」
みんなを連れて、丘を少し戻って見えない位置まで下がる。後ろをついてきたヴェーヌが半分呆れながら銃を見てくる。銃を見せるように言うと、ヴェーヌは苦笑いした。
「……最初より、進化している」
「確かにそうですね。初めて見た時なんて、木でできていたところもあったのに、今ではすべて金属ですね……」
「仕方ない。銃はそういうものだから」
シュテイアとメルクールが横からのぞき込むように見ながら感想を言う。最初は材料不足と研究不足により、一部の部品は木製で、ボルトアクション式の銃しかなかったが、今では据えての部品が鉄やミスリル製だ。さらには連射ができるアサルトライフルを作って持っている。
ただし、狙撃銃はボルトアクション式のままだ。
突然、誰かに見られているような気がして周りを見る。しかし、この辺りにいるのはカナも合わせて6人だけ。その他の人は見える範囲には誰もいない。
「どうしたのですか?」
「誰かに見られている感じがした」
「あら? 私があなたをしっかり見ているわよ?」
周りを見渡していると、ヴェーヌが不思議そうに尋ねてきた。何が起きたのかを伝えると、ウーラが冗談を言う。
「そうじゃない。ここにいる人とは別の人に見られている感じがする」
「気のせいじゃないですか? わたしは何も感じませんよ?」
「私も何も感じません」
「……私も、何も……感じない」
「私も何も感じないわよ?」
「お兄ちゃん、考えすぎでは?」
詳細なことを伝えるが、誰も見られているという感じがしないようだ。カナも何も感じなかったようで、首を横に振っている。首をかしげるが、気のせいだと考えてきた道をたどって、丘を少し下る。
軽装甲機動車を出して乗り込む。ここは坂道だが、きちんとハンドブレーキとギアをパーキングに入れているので、急にバックすることは無い。
全員乗り込んだことを確認してエンジンをかける。カナはヴェーヌの太ももの上に座っている。
「これからどうするかだが、このまま王都方面に行っては、必ず前の王族の馬車に追いついてしまう。そうなってはいろいろ面倒だから、行先は近隣の町にしようと思うが、それでいいか?」
行き先を変えることを伝える。5人はそれぞれ、分かったと返事をする。不満は無いようなのでエンジンをかけると、ハンドルを回して分かれ道まで戻っていく。
近隣の町に続く道に入って少し進むと、休憩がてら昼食をとる。天気がいいので軽装甲機動車から降りて食べる。気づかない間に誰かに近づかれており、見られるといろいろ面倒になりそうなので、軽装甲機動車は仕舞っておいた。
インベントリから昼食のホットドッグと飲み物を取り出す。飲み物は果物ジュースだ。エルフの郷で使った自作のミキサーで作った。
両方ともインベントリに入れていたので、ホットドックのは出来たてのように湯気を上げ、ジュースは冷たいままだ。
みんなで雑談しながら昼食をとる。雑談の内容は日本についての事だった。いろいろ聞かれたが、詳しくは知らないところもあったので簡単に説明する。この世界とは違うところばかりなので、シュティアとメルクール、ウーラは驚いてばかりいた。ヴェーヌは元日本人なので、あまり驚いていなかった。ただし生きていた時代から、それなりに経っていたらしく、少し驚いていた。
話した内容は主に、俺が使ったような軽装甲機動車――車があること。食べ物は大量生産されており、量に困らないことなどだ。
昼食を食べ終わり少し休憩した後、軽装甲機動車に乗って近隣の街へ向かって再び移動する。お腹いっぱいの上に、軽装甲機動車の揺れでシュティアとメルクール、ヴェーヌにウーラはうとうとし始めて、気が付けば4人は眠っていた。ヴェーヌの抱き枕状態になっているカナは寝る必用がないので、無表情で前を向いていた。
今はまだ大丈夫だが、このままでは俺まで眠たくなりそうだったので、カナに話し相手になって貰うことにした。居眠り運転は危ないので、居眠りしないように頑張りたい。
「カナ。あの2つを使用するときの感覚は残っているか?」
「2つとも大丈夫です」
「そうか、ならいい。もし間隔が鈍っているなら練習するから言ってくれ」
「分かりました」
どうでもいいこと……ではないことを話ながら車を運転する。『あれ』とはエルフの郷で作った新たな兵器だ。あまりにも危険なため、できれば使いたくないものだ。ドローンのことではない。場合によってはもっと物騒なものだ。
「使うことはあるのでしょうか?」
「分からない。だが、できれば使いたくない。この世界のバランスを壊すかもしれない。いや、絶対に壊すことになる」
「そうならないようにお兄ちゃんが頑張ってください」
「ああ」
そこまで話して、ネタが無くなった。そのため無言の時間ができた。
無言のまま車を進めていく。




