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第28話 人攫い(2)

先に言いますが、(2)と付いていますが、人攫いに関しては前半だけです。後半は人攫いと関係ないです。

今後サブタイトルを変えるかもしれません。

「さっさとここから出るぞ」

「待ってくれ!」


 シュティア達4人に向かって出ることを伝えると、どこからか男性の声が聞こえてきた。


 その方向を見ると、2つ隣から男性4人女性2人が、右側の一番奥の牢屋に入っていた。そしてその向かい側の牢屋に男性6人が入っていた。どうやらその12人も捕まったようだ。


「借金の返済が出来ないで捕まったのか?」

「違う! 俺たちは大会に参加していたから捕まったのだ!」


 俺は捕まっている理由を借金返済の返済ができなかったから捕まったと予想を立てて尋ねる。すると助けを求めてきた若い男性とは違う、少し年を取った男性が声を掛けてきた。


「大会に参加していたから? どういうことだ?」

「そのままの意味よ。宿で寝ていて、気が付いたらここにいたの!」


 少し年を取った男性の方を向きながら聞くと、今度はその男性の隣にいた女性が言葉を発する。

 説明をするのは1人にしろ。いちいち向かないといけないのが面倒だ。


「ここに捕まっている人が全員同じように捕まったのだ!」


 最初に助けを求めてきた男性の隣にいた、これも若い男性が言う。顔を向けるのが面倒になってきた。


「その4人のついででいい! 俺たちも助けてくれ!」


 そのまま男性は言葉を続けて助けを再び求めてきた。

 俺はため息を付くと、4人を助けたように、それぞれが入っている2つの牢屋の鉄格子をスキルで切断する。12人はすぐに牢屋から出る。地下にある廊下は狭いので、17人もいたら狭い。


「その手錠も外した方がいいか?」

「いや、これは外せない。触れるだけでスキルや魔法は使えなくなるし、ミスリル製のため千切ることもできない。上に上がったら鍵を探すから大丈夫だ」

「そうか、わかった」


 俺が尋ねると、少し年を取った男性が首を横に振りながら答えてきたので、軽く答える。だが、素手だけでは相手が来た時に攻撃できないので、インベントリから剣を取り出す。この剣は練習で作り、強化の付与を付けるために使ったものなので出来は悪いし、切れ味はあまりよくない。


 だが何もないよりはマシなので、自分から剣士であると言った男性4人に渡しておく。魔法使いの人や弓の人は何もなしでは心もとないので、小刀を渡しておいた。

 剣士である男性達も、もちろん手錠はされている。だが剣は上手に持っていた。



 最初に剣を持った男性4人が階段を上がり、敵を倒す。その後残った人がついて行くという形にした。建物から出た後は各自逃げることになった。


 男性4人が準備できたので階段を駆け上がり、攻撃を開始する。激しい戦闘音が少し続いていたが、すぐに止み、上がって来いという声が聞こえた。その後、俺たち5人を除く8人が階段を上がいく。俺達5人はその後をついて行く形で階段を上った。




 階段を上がると、扉の近くには俺の前に階段を上がった8人がいた。そして部屋の中央付近は血の海だった。そして数人倒れている。息はないだろう。人数は8人。辺りには血が飛び散っていた。

 倒れている人の中に、先に階段を上がっていった4人の顔は1人もいなかったので、誰も死んでいないと思っていいだろう。




「誰だ!」


 突然、隣の部屋に続く通路から人が出てきた。


「違う! 鍵を探してきていただけだ」


 隣の部屋から来たのは、先に階段を上がった4人のうちの1人だった。男性は何をしていたかを伝えながら手に持っていたカギを見せてきた。

 そこには2つのリングと、それぞれ6個ずつ鍵がついていた。手錠のカギに見える。


 4人は敵を倒した後、それぞれの部屋に向かって鍵を探してきたらしく、戻ってきた。


「どうやら鍵はあったようだな」

「ああ。これで手錠を外せる」


 戻ってきた男性同士で会話を行ってきている。結局見つかった鍵は12個だけのようだ。シュティア達4人分のカギがない。


「すまない。見つからなかった」


 探したようだが見つからなかったらしい。男性のうちの1人が謝ってきた。他の3人も申し訳なさそうだった。


「大丈夫だ。どうにかする」

「本当にすまない」

「それより逃げるのが先だ。騒ぎが起きたのはバレているだろう」

「そうだな」


 俺はどうにかすると伝えると、再び謝ってきた。話が進まなさそうだったので、話を逸らすことにした。



 俺の言葉を聞いて、すぐさま全員建物から出る。建物から出た際に、お礼を言ってきそうだったので、俺は逃げるように言って別れた。

 各自それぞれの方向に散っていった。と言っても3方向に散っただけだ。



 それぞれ同じ牢屋に入れられていた人が、固まり走って逃げていく。

 俺の後ろにはシュティア、メルクール、ヴェーヌ、ウーラが走ってついてくる。ただ、足に鎖が付けられているので走りにくそうだった。

 右へ左へと不規則に建物の角を曲がって、建物から離れた路地に逃げ込んでいく。ある程度進んだところで1度止まって休憩する。俺は仮面をとると、インベントリに仕舞った。


「ありがとうございます、零さん!」

「……うん。……助けに来てくれると……信じていた」

「レイさん、かっこよかったです!」

「ええ。凄く感激したわ!」


 ヴェーヌ、シュティア、メルクール、ウーラの順番にお礼を言ってくる。全員嬉しそうな表情だった。俺は恥ずかしくなり、頬を掻きながら顔を逸らした。




 ふとヴィーヌが何か疑問に思ったことがあるようで、首を傾げた。


「どうした? 何か疑問に思ったことでもあるのか?」

「えーっと……。零さんがここにいるということは、試合に出ていないことですよね?」

「そうなるな」


 俺が疑問に思ったことを言うように促すと、ヴェーヌはどこか申し訳なさそうな表情で質問する。俺はそれに肯定で答えるが、どこに疑問を持ったのか分からない。


「零さんはそれでもよかったのですか?」

「なにが言いたい?」


 ヴェーヌが疑問に思ったことを言うが、何を本当に聞きたいのか、さっぱり分からなかったので聞く。残りの3人はヴェーヌが質問したいことの内容に気が付いたようで、同じく申し訳なさそうな表情をする。


「私たちを助けるために、大会にでられなくなりましたよね? もしかしたら優勝していたかもしれないのですよ? それでよかったのですか?」


 ヴィーヌが疑問に思ったことを俺はようやくわかった。そしてそんな事かとため息を付く。その姿を見て4人は落ち込んだ。

 なにか勘違いしていそうだったので、俺は説明を行うことにした。


「助けてあたり前だろ? お前たちは自分の意思で、俺のもとから離れていったわけじゃないのだから」

「「「「……え?」」」」


 俺が助けに来た理由を説明すると、4人は同時に声を出した。どうやら4人ともわかっていないようなので、俺はもう一度説明することにした。

 最後まで手間のかかる奴らだ。


「俺は言ったよな? 自分の意思で離れていくのは放っておくと。だが、自分の意思で離れたわけではないのに、放っておく訳にはいかないだろ? それに攫われたという可能性があったから探した」


 そういうと、4人の顔が明るくなる。どうやら意味が分かったようだ。――と同時に4人がいっせいに抱き着いてくる。4人とも手錠をしているため、タックルに近い状態だ。しかし今回は4人の顔を見た瞬間に予想ができていたので、身構えることが出来た。だが、思ったよりも勢いがあり、後ろに倒れこむ。頭を打ってとても痛いが、我慢する。


 俺は倒れたまま4人の頭を撫でる。4人は泣きながらお礼を言ってきているが、何を言っているか分からない。




 結局4人が落ち着くまで30分ほどかかった。本当は早くここから逃げたかったのだができそうになかったので落ち着くまで待っていた。4人は落ち着いたらしく、俺から離れていった。

 シュティアとメルクールはうれしそうな表情をしていたが、ヴェーヌとウーラは顔を赤くして、顔を背けていた。

 泣いたから赤くなっているのだろうか?



「ほら、腕を出せ。手錠を外すから」

「え? どうやって外すのですか?」


 俺が外すことを伝えると、顔を背けていたヴェーヌがきょとんとしてこちらを見た。

 俺は半分呆れて、ため息を付く。手錠を外すのは、もちろんスキルを使ってだ。それ説明することにした。


「鍵はないのだから、スキルを使うしかないだろ」

「でもこの手錠は、触れるだけでスキルを使えなくするのですよ?」


 ヴェーヌが困惑した表情で、手錠の特性を言い無理であることをいう。他の3人も同じことを思っていたらしく、困惑した表情になる。

 俺はその様子を見て、4人に鉱石干渉のスキルの説明を始める。


 確かに4人がつけている手錠は、触れるだけでスキルを使えなくする。ではどうするのか。

 答えは簡単だ。手錠に触れないでスキルを使ったらいいのだ。

 だが、それは本当にできるのかという問題が発生する。


 ここで、スキルの詳細の事を知る必要がある。鉱石干渉というスキルは、名前の通り鉱石に干渉して精錬、形成することが出来る。またエルフの郷にて強化をできるなど、加工も行えるようになった。ここまではスキルで出来ることだ。


 そしてスキルが使える条件だが、使える条件を簡単にまとめると、金属を含んでいるか含んでいないかだ。

 スキルを使った精錬をイメージするなら、金属に魔力を流して金属と不純物を分ける感じ。簡単に言うならば、電気を流すような感じだ。ただ、精錬前の鉱石は不純物が多い。そのため魔力が通りにくい。だが、純金属なら魔力が通りやすいのだ。そのため精錬するときより、精錬してインゴットにした金属に魔力を流す方が簡単なのだ。


 そして今の状況では、ここが大事だ。

 鉱石干渉は、ある金属を通して別の金属へ干渉できるのだ。魔力を流すこと電気を流すことに例えたのは理由がある。電気で言うと、アルミを通して銅に電気を流すようなことだ。




「確かにそれなら行けそうですね……」


 俺がひと通り説明を行うと、ヴェーヌは納得した表情になる。しかしシュティア、メルクール、ウーラの3人はポカンとしていた。俺はどこが分からなかったのか考えるが、全く思いつかない。


「いったい、どこの部分が分からなかった?」

「……でんきって、なに?」


 俺が尋ねると、シュティアが答えてくれた。メルクールとウーラも同じところが分からなかったようだ。ヴェーヌは元日本人のため電気は分かったのだろう。俺は自分の失態に気が付いて、ため息を付く。


「すまない。すっかり忘れていた。電気とは、雷の弱くなったものだと思ってくれ」

「大雑把ですね……」


 俺が電気とはどのようなものか説明すると、ヴェーヌが苦笑いしながら指摘する。だが3人にはこれで伝わったらしく、顔がすっきりしたものになっていた。


「というわけで、手錠をこっちに近づけてくれ」


 俺はインベントリから直径1センチ、長さ5センチほどの鉄でできた棒を取り出す。それを4人の手錠に触れさせて、スキルを発動させる。分かってはいたが、狙い通り成功した。4人の手錠は次々と外れていく。


「……そのスキル……便利」

「戦闘で使えば、相手の武器を壊すことが出来るかもな」


 シュティアが自分の手首についていた手錠を見ながらぽつりとつぶやく。他の3人も驚きながら、手首や手錠を見ていた。

 俺はシュティアのつぶやきに軽く返しておく。


 剣を触れ合わせておいて、鉱石干渉を使って敵の剣を使えなくする。そうすればこちらが一気に優勢になる。

 我ながらひどい方法だが、戦いはどのような手段を使ってでも勝った者勝ち。俺の方法はまだ許されるだろう。

 多分……



「それよりも、この後どうするのですか? 大会の方はもう無理そうですが……」


 手首を見ていたヴィーヌが、突然訪ねてくる。俺は考えていなかった。

 考えてみるが、時間的に武道大会の方は無理そうだ。かといってすることもない。


「することがないな」

「じゃあ、大会を見に行きましょう!」

「却下だ。3人は疲れていると思う」


 メルクールが元気よく答えるが、却下する。

 今気が付いたのだがシュティアとヴェーヌ、ウーラは顔にうっすらとだが疲れが見えている。メルクールは疲れが見えない。


 3人がつかれているため、宿に戻ることにした。ついでに、朝に情報をくれた受付の人にお礼を言うつもりだ。


「そういえばカナちゃんはどうしたの?」

「……あ」


 黙っていたウーラが尋ねてきた。俺はその時にようやく気が付いて少し焦った。完全に忘れていた。


 俺は急いでインベントリからカナを出す。カナは最初きょとんとしていたが、周囲を見回す。そしてすぐにシュティア達4人を見つけて笑顔になった。


「無事に見つかったのですね」

「ああ。迷惑をかけたな。すまなかった」


 カナは俺の方を安心した表情で見てくる。インベントリに入れるということをしてしまったので、俺は謝っておく。


 その後、6人で宿へ向かった。




「今後どうするのですか?」

「そうだな……」


 今は宿の部屋で丸テーブルを囲むように、向かい合って椅子に座り、今後の事について話し合っている。

 部屋は5人部屋を頼んだ。今後攫われるなどのことが無いようにするためだ。価格はかなり高いが、集まっている方が安全のため仕方がない。5人部屋なだけあってVIPの部屋まではいかないが、かなり広い。

 丸テーブルの上には、子供が描いたような簡単な地図が広げられている。


 メルクールが体を乗り出しながら聞いてきたので俺は地図を見ながら考える。


「馬車を探して次の街に行こうと思っているのだが、どうだ?」


 俺は自分の考えていることを伝えた。これはあくまで、自分の意見で言った。4人の意見も聞いて、それから最終決定を行うつもりだ。


 ちなみに武道会の試合は、時間切れで負けとして扱われた。宿までの道に会場があったので訪ねたのだ。すでに棄権の手続きは行われていたので、しなければならないことはなかった。

 そのため、すぐに宿に戻ってこれた。


 もちろん戻ってきたときに、受付の人に見つかったということの報告とお礼は言った。

 そのさいに、宿の警備が低かったために起きた事件なので賠償をさせてほしいと言ってきたが、断った。それでも賠償をさせてほしいと言ってきたので、代わりに警備に気を付けて欲しいと言った。



 今回の事件だが、俺の相手になるはずだった貴族の子たちの親が、自分の子供達を優勝できるようにシュティアたち4人を攫ったのは、人攫いの大男たちから確認済みだ。

 だが、それをどうこうするつもりはない。興味ない。4人が無事に戻ってきてくれた。それだけでいい。




「次の街と言えば、王都か近隣の小さな町ですね?」

「そうなるな……」


 テーブルの上に置いた地図を見ていたヴェーヌが、指を指しながら次の町はどこかを教えてくれる。この世界での詳しい地図は軍事用で、一般には出回らない。一般に出回るのはどこにどの国があるかを書いたものや、街がどこにあるかを書いたものだ。


 街までの距離や位置は大雑把に。森の位置や川、山の位置はほとんど書かれていない。書かれているのは、大きな森や大河ぐらいだ。

 理由としては、相手の国に持ち出されても使われないようにするためだ。


 情報によると、王都までの距離は馬車で5日ほど。王都の近隣の町も同じく馬車で5日ほどだ。



「ふふっ。零さん、貴族がらみの事件は懲り懲りっていう顔をしていますよ?」

「そうなってもしかたないだろ……」


 どうやら顔に考えていることが出ていたようで、ヴェーヌが笑いながらこちらを見るので、ズボンのポケットに手を突っ込みながら椅子に体重を預けて天井を見る。


 王都はいかにも、テンプレの流れで貴族や王様に会いそうだ。貴族や王に会う。そのような面倒ごとは勘弁してほしい。今回は貴族と直接な接触はしていないが、厄介ごとに巻き込まれた。


 近隣の町といっても王都に近い。各街では貴族が領主となり納めている。近隣の町となれば簡単に行ったり来たりできるので、滞在することが多いだろう。そうなれば貴族と関わることも多くなるかもしれない。


「……大丈夫。何かあったら……私たちが、守る」

「その時は頼むが、くれぐれも無茶はするなよ?」


 シュティアの方を見ると、こちらを見ながら声は小さいが、気合を入れながら伝えてくる。その気持ちを有難く受け取り、無茶たけはしないように伝える。


「話を戻すけれど、私はどちらの街でもいいわよ?」

「私もどっちでもいいです!」

「メルクールさん、行儀が悪いですよ」


 テーブルに肘をつきながら、優雅に飲み物を飲んでいたウーラが意見を言う。

 するとお菓子を食べていたメルクールがテーブルに手をついて、前のめりに体を倒すように椅子から立ち上がった様子を見て、ヴェーヌが注意する。


「……ウーラと、同じ、意見」

「私もそれでいいですよ?」


 シュティアもウーラと同じ意見であることを言うと、ヴェーヌも同じ意見であることを伝えてくる。4人の意見がどちらでもいいだったので、決まらない。

 行くのはどちらでもいいので、4人に託すつもりだったが、どちらでもいいというのでため息を付いてしまう。4人も苦笑いしながら見合っていた。


 ちなみにカナは黙ったまま椅子に座っているだけだった。カナはそこまで感情が豊かではないので、どこに行きたいというような思いがないのだ。


「じゃあ、明日の朝までに答えを出すようにするか?」

「それがいいですね」


 提案をすると、ヴェーヌが答えてくれた。他の3人も納得したような表情をしていたので、明日の朝までに答えを出すことにした。カナは、任せますと言ったような表情だ。

 話し合った結果、明日の朝に出発する馬車に乗ることにした。急ぎでない限り、ジープは使わないことにしているのだ。


 出発の予定が決まったので、明日の朝に出発する馬車を調べに行くことにした。2種類の出発する馬車を探す。1つは王都行き。もう1つは近隣の町だ。

 向かったのはギルドだ。ギルドには護衛の依頼をするために商人などの人が、依頼を持ち込んでくる。そのためどこ行きの馬車が出るか、すぐにわかるのだ。


 結果だけ言うと、明日の朝は馬車が無いことが分かった。無いと言っても、他の方向に出る馬車はある。しかし肝心の王都行きと近隣の町行きの馬車は無かった。明日は荷物の整理などで出発しないが、荷物整理が終わった2日後なら出るらしい。


 宿に戻った後、馬車が出ないということを4人と1人に伝える。そして再び話し合いをした。結果は、そんなに待つつもりはないので、ジープで移動することに決まった。

 カナはあまり興味を持たなかった感じだ。


 予定が決まったので、遅めの昼食をとることにした。助け出した時点で昼近くだったので、かなり遅い昼食になる。もちろん宿の食堂は閉まっていた。そのため外に食べに――



 いかないで部屋で食べた。時間停止機能があると言っても、いつまでもインベントリに食べ物があっても困るからだ。屋台で買った食べ物や、エルフの郷で作ったり貰ったりした物を食べる。


 雑談をしながら食べたので、食べ終わるのにかなりの時間を費やした。しかし、話しながら食べたのでおいしく感じたのでいいだろう。



 その後に相談した結果、午後は武道大会を見に行くことになった。どのチームが勝つのかが、気になるのだろう。いつでも出発できる準備はできているので、特にすることがない。結果、みんなで見に行くことにした。


 向かう途中に、武道大会は今日の夕方頃に決勝があるという話を聞いた。会場に到着すると、すでに準決勝が始まっていた。準決勝だけあって、声援は会場の外まで聞こえるほど賑わっていた。ただ時々、罵声が混じっていた。


 観客席から見下ろすと準決勝は、前の試合で対戦が当たっただろう貴族の坊ちゃん嬢ちゃんのチームと、どこかの冒険者のチームだ。

 貴族の方は親の力もあり、不戦勝でここまで登ってきていた。しかし冒険者の方は実力で登ってきたため、圧倒的に強かった。そのため貴族側は防衛だけで精一杯だった。


 貴族側は、剣士は相手の剣を防ぎ、魔法使いは風の魔法などで相手の攻撃を防ぐ。自分の事だけで必死なので、お互いを助け合うなんて出来ない。

 一方、冒険者側は汗ひとつついていなかった。魔法使いは、剣士に支援の魔法を使うなどの余裕があった。

 2つのチームにはそれほどの圧倒的な実力の差があった。結果はあっという間に決まった。冒険者側が勝ったのだ。


 その次は決勝が始まるようだった。だが30分ほどの休憩が挟まった。冒険者側のチームが試合を行ったばかりなので、休憩をして体力を回復させるのだ。魔法使いには魔力を回復させるポーションが支給され、魔力を短時間で回復できるように配慮されている。



 そしてついに決勝が始まった。決勝まで勝ち進んできた2チームが向かい合う。その様子に、会場も自然と静かになっていった。一方はSランク冒険者。もう一方はDランクの冒険者。

 Sランクならわかるが、なぜDランクがここまで勝ち進んできたかが分からなかった。しかし隣の観客の人の言葉で、なぜここまで勝ち進んでくることが出来たか分かった。どうやら勇者のチームらしい。それもかなり前に襲ってきた勇者を名乗っていた3人の日本人のような偽勇者ではなく、正真正銘の選ばれた勇者と、その一行らしい。それを聞いて驚いたが、よく顔を見ると日本人の顔だった。


 横ではシュティア達4人が、本来ならあそこには私たちがいたのにと、ぶつぶつ言っていた。カナは俺の太ももの上に座ってただひたすら、じっと見ている。

 俺は腕試し程度の感覚で参加していたので、それほど悔しくはないが、参加するからには優勝を狙いたかったのが本音だ。もしかしたら勇者組と当たっていたら面白かったかもと少し思った。


 そうこうしていると、お互いの準備が整ったようで戦いが始まった。剣士は走り出し、魔法使いは魔法の詠唱を始めた。よく聞くと、詠唱はSランク冒険者の方が早かった。なって2か月ちょっとの魔法使いとは明らかに違う。

 横を見ると、シュティアとウーラは微笑んでいた。きっと、その程度かと思っているのだろう。ウーラもシュティアも無詠唱で魔法を発動できるから、他の人と比べてはだめだ。


 目線を前に戻すと、剣士が剣をぶつけ合っていた。ここでも勇者組の方が、技術面では明らかに劣っていた。足使いや重心の位置、フェイントなどが基礎しかできていない。それならば、冒険者側が勝つ。


 しかし勇者組はその差をステータスで補っていた。力ならば勇者組がやや有利だ。そうこうしている間に魔法が完成したようで、前衛の上を魔法が飛び交う。それに交じって、矢も飛び交っていた。

 矢は特殊なもので、当たっても死にはしないものだ。


 観客はすさまじい光景に、言葉をほとんど発することなく見入っていた。それほどすさまじい戦いだったのだ。どちらも譲らない攻防がかなり続いた。


 そしてついに、勝負が決まるきっかけの事が起きた。冒険者側の魔法使いの詠唱の方が勇者側の魔法使いより早く終わった。風の玉が勇者側の魔法使いに向かう。勇者側の魔法使いはすぐに防衛用の詠唱を始めるが、判断が遅かった。たったそれだけの事だったが、そのミスは大きかった。


 冒険者側の魔法使いが放った風の玉が、勇者側の魔法使いに直撃した。初級の魔法だが、威力が高かったため魔法使いは後ろに吹き飛んだ。その隙に冒険者側の魔法使いは、剣士に付与魔法をかける。それだけで冒険者側の剣士は先程とは比べられない攻撃を繰り出す。目で追うのがやっとの攻撃だ。


 相手をしていた勇者側の剣士は一気に押され始める。そしてほんの少しの隙を突かれて攻撃が当たる。その攻撃が重たかったようで、剣士は後ろに吹き飛んだ。それを合図に、冒険者側はさらに駆け出し、制圧した。


 それで試合は終わった。司会者が試合終了を告げると、会場は歓声に包まれた。その様子を見ながら4人に帰ることを伝える。表彰式は別に見なくていいと思ったからだ。

 表彰式は見どころが特にないらしいのは確認済みだ。


 4人も同じ意見だったらしく、変える支度を始める。他の観客も半分近くは変える支度を始めた。カナを太ももから下ろし立ち上がる。

 俺は4人とカナを連れて会場を後にした。夕食は何を食べるか、話しながら宿に戻る道を歩いて行く。




 夕飯にいい時間だったので、帰り道に店によって食べていくことにした。しかしかなり遅めの昼食を食べたので、あまり入らなかった。結果、ホットケーキのようなものを食べた。飲み物は柑橘系の果物を絞ったものだった。この世界では保存料などがないので、果物を使ったジュースなどの飲み物は、素材のみを使用した物なので美味しい。


 明日の事について、話しながら食べる。怪しまれないようにカナの分も頼むが、ホットケーキではなくプリンのような物を頼んだ。ヴェーヌが食べたいと言ったからだ。


 ヴェーヌがホットケーキのような物を食べ終わると、自分のお皿とカナの前のプリンのような物のお皿を変える。こんなことを小さい子にしたら、本来は泣くだろうが食べることが出来ないカナは、ヴェーヌが取り替えたため何も乗っていないお皿をじっと見るだけだった。




 食べている途中で、邪魔が入るということは無く食べ終わる。明日の朝は自分の時間で出発するので、早く寝る必用は無いが、することがなかったので部屋に戻る。


 寝ようとするとなぜだか、シュティア、メルクール、ヴェーヌ、ウーラの4人のうち、誰が俺の横で寝るかの戦いが始まった。戦いと言っても魔法をぶっ放したり、剣で切ったりではない。

 その前に、そんなことをされると宿が壊れる。


 部屋には闘うための安全な道具があった。それを使った戦いを行っている。


 安全でさらには大人数ででき修学旅行でお馴染みのもの。

 枕投げである。


 なぜ枕投げが起きたかというと、部屋に戻ると疲れた俺は右から2番目のベッドに寝転がった。疲れていたからだ。寝転がった瞬間、シュティアが素早く俺の右隣りのベッドを俺が寝転がったベッドにくっつけ、隣を陣取った。


 するとメルクールが、俺の左隣りのベッドをくっつけて陣取る。結果、ヴェーヌが怒った。なぜ怒ったかは分からない。いつものヴェーヌなら苦笑いしながら見ているはずだ。


 起こったヴェーヌは、メルクールのいる横のベッドにあった枕をシュティアに投げた。それがちょうど、ベッドの上に座って、たまたまヴェーヌの方を向いた瞬間のシュティアの顔に当たったのだ。

 顔に当たった時、ふぎゅっ、というかわいい声が聞こえてきた。


 怒ったシュティアがヴェーヌに枕を投げ返すが、余裕の表情をしたヴェーヌがかわす。だが、ヴェーヌが枕をかわしたため、その枕が俺から見てヴェーヌの奥にいたウーラの顔に当たった。なにか考え事をしていたようで、気付くのが遅かったために、あまりにも完璧な不意打ちになった。


 顔に枕が当たったウーラは、不意打ちと枕に威力があったのが原因で、ベッドの上で後転した後ベッドの向こう側に落ちて消えていった。

 きれいな後転だった。寝間着はきちんと着ていたために、何も見えなかった。



 そうして全員での枕投げ大会が始まった。驚いたことに、カナも枕投げをやっていた。ある程度の出力があったため、いい勝負になっていた。最初はやり返しで枕を投げていたが、だんだんと遊び感覚になっていった。


 俺は調子に乗って、インベントリから枕を追加で出した。宿の枕と俺が出した枕は硬さが違うので、間違えて持って行ってしまうということは無いはずだ。


 さりげなく、シュティアが魔法で防音をしていたので、宿の人に怒られることは無かった。そのため深夜近くまで枕投げ大会は開かれた。


 最終的に、ヴェーヌとウーラが俺を挟むように引っ付いて寝るという配置になった。シュティアとメルクールが睡魔に負けて寝たからだ。


 全員が寝る前に、ベッドを移動させてくっつけているので、広さは確保されている。最終的に寝ている場所は右からカナ、ウーラ、俺、ヴェーヌ、シュティア、メルクールになった。


 久しぶりの枕投げはかなり面白かった。またやりたいと思うのは仕方がないだろう。




 そうして、静かに、ちょっとした事件は幕を閉じたのだった……

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