新たな国
今回から第2章に入ります。
日本人を返り討ちにしてから数時間が経った。
休憩は必要最低限で馬を走らせていたが、ついに空は夕日で真っ赤に染まった。もう少しで辺りも暗くなり始める。
来る途中に学校の奴らの襲撃があったり、シュティアと俺の落馬という事故が起きたが怪我は一切なく国境についた。
遠目から見ると村のような小さな集まりだ。村と言うより大規模な行商人の集団にも見える。
暗くなる前にどこか場所を見つけて野宿しようと思ったが、これなら野宿せずに済みそうだ。
周りには木の柵で簡易のバリケードが作られている。これは魔物の侵入を防ぐためなのか?
魔物の侵入を防ぐためならもう少し頑丈に作った方が良いと思うが。
驚いたことに、この小さな村のような集まりが国境の境だそうだ。驚いたことにレールン王国とアルール王国の2か国が合同で警備している。
よく攻撃し合わないなと思ったら、上空から見れば八の字のような形をしており区画が分かれているため同じ空間にいると言うことも少なく、何より自分たちの行いにより戦争が起きるときちんと理解しているため互いにほとんど干渉しないと検問のために並んでいる冒険者が教えてくれた。
「ようやく出られる。長かった」
レールン側の簡易検問をくぐった俺は伸びをしながらつぶやいた。
ちなみに馬は検問所の所で降りている。人がたくさん歩いている中、まだ乗り慣れていない馬に乗り続けるつもりになれなかった。
「かなり嫌っていたのですね」
「ああ。いろいろあったからな」
俺のつぶやきに、ぶっきらぼうにメルクールが尋ねてくるので軽く返事をしておく。王都では散々な目に合ったが、ここまで来たらさすがに学校の奴らに会わないだろう。
入口で聞いた所、昔は兵が泊まるための建物であったが、気が付いたら旅人も泊まれるようになっていたという。
しまいに小さな町ができるのではないかという冗談もあったそうだが、今では石を積んで作った簡単な壁が所々に出来て来ているので、冗談ではすまなくなってきている。
道をぶらぶらと歩いて良さそうな宿を探す。ここにある宿は街のような立派な宿ではないが泊まるのには問題ないものばかりだった。
と言っても3つぐらいしか宿がなかったのだが……
宿代を払い、部屋で夕食を食べる。ありがたいことに馬宿だったということで、馬も預かってもらう。ここの夕食は場所が場所だけに野菜などはあまり良いものではない。しかし肉を使った料理は森が近くにあるため採れたてを使うことができる。結果新鮮な物が揃っているとのこと。ちなみに宿はレールン王国側に近い所にもあったが、一刻も早くアルール王国側に入りたかったため、アルール王国側に近い宿に泊まることにした。
ただ残念なことにここの宿はほとんどいつも満室。幸いにも1室開いていたが3人部屋。つまりシュティアとメルクールと一緒に寝ることになる。
俺としては1人で寝たいがあいにく1人部屋は空きがない。また外で寝るという方法もあるが、そう言う気分に離れなかったので仕方なく3人で寝ることにした。
シュテイアは喜んでいたが、メルクールは不満そうだった。やはり人と一緒に寝たくはないようだ。
「明日の朝にはここを出て次の街に向かう。そこで森に入りエルフの郷に向かう準備をする」
「……わかった」
「わかりました」
夕食を食べ終えたあと部屋に戻り、俺は明日の予定を伝える。ちなみに夕食は肉と野菜がバランスよくつかわれている料理を頼んだ。
明日のことを言うと2人は了承した。
インベントリから着替えを入れた袋を取り出して渡すと、それぞれ入浴しに行く。荷物を少しでも減らすためにある程度の荷物は俺が持っているが、衣類などは袋に入れて見えないようにしている。
驚いたことにここの町には風呂があった。といっても宿屋にあるのではなく、銭湯のようなものが建てられているのでそこに入る。
このような国境付近ではストレスが溜まりやすいため、少しでも軽くなるよう兵士の為に作られたのだろう。
「あー……気持ちいい……」
肩までゆっくりつかりながら声を漏らす。ここは兵と宿泊者が一緒に入れるようになっている。そのため、あちらこちらで体を洗う人がいる。もちろん混浴ではない。
本来なら兵士と一般人の浴槽は別々にするが、宿泊者と兵の情報交換のために一緒になっているようだ。兵士からはアルール王国にある隠れた店の情報や、ほかの宿泊者から聞いた情報をわたす。宿泊者からはアルール王国やレールン王国の最新の情報を出し合っている。
聞いた内容の中で1番気になった内容が、レールン王国はアルール王国に戦争を起こすかもしれないということだ。
この話は若い兵士から聞いたのだが、その兵士は一週間前に一緒に入っていた商人から聞いたそうだ。そしてその商人はレールン王国にいるときに聞いた噂らしい。
信憑性がないが、戦争が起こると思って行動した方がいいだろう。
その後も情報をいろいろ貰う。残念ながら俺は貰う一方だった。
さすがに貰ってばかりだと悪いと思ったので、獣人からもらったお酒を出す。もちろんコップも一緒だ。コップは木製の物を出した。
アルール王国では獣人の差別がないと言ってもいい。そのため獣人が作ったお酒も飲む。
しかし獣人の中で作る人がほとんどいないので出回らない。そのためそれなりに高価なものらし。
いつの間にか宿泊客も交じり、風呂で酒盛りを始めていた。中にはつまみを出してくるものもいた。そこから持ってきたのかを尋ねると、その人はマジックバッグの中から出したという。聞いたところスキルにある『マジックボックス』を人為的にまねたもので結構高価。ただ詮索はよくないので質問はそこまでにする。
もちろん俺は飲んでいない。酔った人に飲まされそうになったが、頑張って断った。
ただ唯一リラックスできる場所である風呂で疲れてしまった。
「疲れたー……」
「長かったですけど、どうしたのですか?」
ある程度お酒を出して情報を貰った後、部屋に戻る。先に上がった2人が話をしていた。戻ってきたのに気が付いてメルクールが尋ねてくる。
「まさか風呂で酒盛り始めるなんて思ってもいなかった」
「……お疲れ」
「どうしたら風呂で酒盛りが始まるのですか……」
シュティアは俺を気遣うが、そこまで仲良くないメルクールには呆れられた。
事の発端は俺だがわざわざ言わなくていい。
「その代わり、かなりの情報は貰った」
「……情報?」
シュティアが知りたそうだったので、お風呂で得た情報を教える。特に1番気になった戦争に関する情報を教える。
「どうやらレールン王国はアルール王国に戦争を起こすかもしれないらしい」
「え!? いつですか!?」
「それはわからない。明日かもしれないし、1か月後かもしれない。全く分からないらしい」
「……おかしい」
「なにが?」
メルクールと話していると、シュティアが顎に手を置いて考える素振りをする。何か気になったことがあるのだろう。俺はシュティアに尋ねる。
「……聞いた話では、アルール王国の方が……兵は多いはず」
「なら、なぜ攻撃する?」
「……もしかしたら、勇者を使うのかも……しれない」
「ええ! それ大変じゃないですか!」
シュティアの予想を聞いてメルクールが慌て出す。騒ぎ声がうるさかったので、俺が睨むと口を両手で抑えて静かになった。
「今まで勇者を使った戦争は?」
「……ないって、言っていた」
「じゃあなぜだ?」
「……今回召喚されたのは……600人近く」
俺がたずねると、シュテイアが自分の得た情報を言う。召喚された人数に関しては、俺の知っている情報と同じだった。そもそも俺の学校の奴らだし。俺は1つ思い浮かんだ考えを尋ねることにした。
「技術はともかく、大半が騎士並みにすごいスキル持ち。それゆえアルール王国との戦力差を埋めることができると?」
「…多分、そう」
俺が予想を言うとシュティアが賛同する。
俺としては、せめてこの付近にいる間は戦争をして欲しくはない。巻き込まれるのはごめんだ。しかも今いるここは国境。真っ先に戦闘に巻き込まれる可能性のある危険な場所。
それにもう1つ気になったことがある。
小説やアニメでも多数出てくるスキルだが、召喚された人が持っているスキルの強さがこの世界では突出しているように見えるのか、それともこの世界で一般的なスキルなのかが気になる。
その辺りがどうなるかによって日本人の位置づけが大きく変わってくるだろう。
いつ起きるか分からないことに、びくびくしていたってしょうがないのであきらめて寝ることにした。
2人がベッドに入ったことを確認してランプを消す。
「先に行っておきますが、変なことしないでくださいよ。変なことしたら殺しますから」
「そっくりそのまま返す」
暗闇の中メルクールが警告してきた。ややドスの聞いた声。本気のようだ。
俺もそのまま返した。
最初はあっさりと眠りに着くことが出来た。
だが夢の中で俺が殺してきた奴らが出てきた。額や胸に空いた穴から血を流し、左右別々の方向を向いた目や眼球がぐるりと裏返っているのか白目の状態で俺を追いかけてくる。
家に帰せ。親に合わせろと叫びながら。
それはまるでゾンビが追いかけてくるように見えた。
さらに血の匂いまでして来る。
俺は跳び起きる。昼の時のように胃が激しく収縮するのを感じた。
最悪だ。
俺は口に手を当て、急いで手洗いに走る。幸い近かったこともありすぐについた。
便器の前でかがみこむと淵に手をつく。それと同時に喉を熱い体液が通り、胃の中のものをすべて吐き出すかのように嘔吐をした。
何度も繰り返す。
ようやく収まった時には、体全体から汗がにじみ出ているのに気が付いた。せっかく風呂に入ったのに台無しだ。
昼同様にインベントリから水の入った袋を取り出すと、口をすすぎ顔を洗う。
水の入った袋を仕舞うときに、布を取り出して顔を拭きながら立ち上がる。
最後に水を流すと俺は手を洗い、重たい足取りで部屋に戻った。
外はまだ暗い。もうひと眠りできるだろう。
だが今は先ほど見た学校の奴らの顔が頭の中で出てきては消えていく。
眠れないかもしれない。目を閉じると学校の奴らの顔が出てきては消えていく。しかも夢で聞いた声を出しながら。
殺すときは何ともなかった。ただ単に怒りだけだったからだろう。だが今は冷静になれている。
そのためなのかあの光景を思い出すたびに気分が悪くなる。
結局、眠りに着いたのは、空が少し明るくなり始めたころだと思う。
次の朝は全員きちんと起きることができた。ただ俺は寝不足。
寝ることは出来たのだが眠りが浅かった。
寝不足であることが2人も分かったようだが、俺は大丈夫だと言う。
2人が少し怯えた表情を見せたが俺は何も言わない。これを気に2人が俺から離れてくれれば儲け話だ。
朝食は1つの部屋に集まって済ませる。ここの宿にも食堂はあるが、手持ちの食事の方がおいしいからだ。それは昨日学んだ。
出発の時間に関しては問題ない。昨日乗っていた馬に乗って移動するので、いつでも出発できる。
朝食を済ませたあとは出発の準備をする。準備と言っても預けている馬を受け取るぐらい。馬は昨日宿についたときに預けていた。もちろん馬の分の料金も払っている。
馬を受けとると手綱を引いて少し歩く。さすがに人が多い中、馬に乗ったまま移動するのは危ない。
宿からあまり離れていない所で建物が途切れている。そしてそこにはレールン王国側の入口と同じように、簡易検問が行われていた。
そこを通過すると馬にまたがり走り出す。昨日初めて乗ったばかりだが、何とか乗りこなせるようになった。相変わらずシュティアは落ちそうになったが大丈夫そうだ。
「このあたりで休憩するか?」
「……うん」
「どちらでもいいですよ」
かなり走ったためお昼ごろになったので尋ねたところ、休憩となった。
場所は森の近くの草原だ。そこで3人並んで昼食をとる。もちろん、インベントリから出した、出来たてのように湯気を上げるスープに、肉と野菜を挟んだパンだ。
ゆっくりと味わいながら食べる。お肉を挟んだパンは香ばしい匂いがしている。そして、思いっきりかぶりつくと、お肉の味が口の中に広がった。
「そういえば、メルクールの職業は何だ?」
「突然ですね」
馬が草を食べている姿を見ながら昼食を食べていた。そのときにふと思ったことがあったので尋ねる。メルクールに会った日から何回か話したが、職業について尋ねたことがなかったのだ。
「職業は獣剣士です」
意外にあっさり教えてくれた。
知らない職業だな。
「どういうものだ?」
「獣人がなる職業です。攻撃魔法は一切使えない代わりに、身体強化の魔法が使えます」
獣人専用の職業か。身体強化の魔法は羨ましい。身体強化の魔法を使って目を強化すれば、スコープ代わりになって良さそうだ。
「確かにそんなに小さいうえに身体強化したら、すばしっこくなって攻撃当たりにくくなるな」
「わたし、そんなに小さくないです! こう見えて16歳です!」
「え……」
思ったことを言ったら、メルクールに否定された。どうみても16歳には見えない。背が低すぎる。
シュティアもメルクールを見ているが、視線が少し下に向いているような気がする。俺的には年齢と身長の方が驚くことだった。もちろん、ほとんどまな板であることは少々気になるが……
「2人とも、かなり失礼ですよ! 特にシュティアさん! 身長はあまり気にしませんが、それについてはかなり気にしているのですから!」
俺に怒ってくると思ったら、シュティアの方が怒られた。メルクールは身長より、別の事を気にしているみたいだが、何も言わないでおく。
そのような話をしながら食べていると、あっという間に食べ終わった。一度話を終えて、片付けを行ってから少し休憩をする。さすがに食べたばかりで馬に乗るのは大変だ。
太陽の光が降りそそぎ、風が少し吹いているので眠たくなりそうだった。だがここで寝ると魔物や盗賊に襲われそうだったので寝ない。
隣ではシュティアとメルクールは熟睡していた。放っていきたいのは山々だが止めておく。いくら何でも良くない。
30分ほど休憩した後、2人を叩き起こして移動を開始しようと馬に乗る。2人は寝起きなので少々危なっかしかった。馬に乗るときにシュティアが落ちそうになった。
その時、前方から何かが来るのが分かった。土煙が上がっているように見える。
見た限りそれなりの規模だ。残念ながら何が来ているか分からない。
「メルクール。あれは何が来ている?」
「あのですね……いくら私でも無理です。遠すぎます。ただもしかしたらスピードは速いと思います。逃げ切るのは無理かもしれません」
俺を嫌っている雰囲気のメルクールだが、きちんと情報を教えてくれた。詳しく分からないことが少々残念だが。
逃げ切るのは不可能かもしれない。いずれ追いつかれるのなら、今ここで戦った方がよさそうだ。
「仕方ない。もしもに備えておくぞ」
「……うん」
「わかりました」
俺とシュティア、メルクールは馬から降りると、馬を近くにあった木へと繋ぐ。本当は野放しの方が馬が逃げてくれて被害が行かないと思うが、逃げられたら逃げられたらで今度は探すのが大変になる。
ただ馬に攻撃が当たらないようにするためにも、謎の集団へと近づいて行くことにした。




