ステータスプレート
短い、かつテンプレですがご了承ください。
校長先生の話が終わって少しすると、入れ替わるようにして騎士団の人たちが前に出てきた。先頭にいる人は後ろをついてきている人よりいい鎧に見える。予想だが、指揮官とかそのあたりか?
さらによく見ると、2人1組になっている。1人が木箱を持ち、片方は何も持っていない。
2人1組が前の方に移動した。すると何も持っていない人が箱から何かを出して、前から順に何かを配り始めた。配られた生徒が興奮して何かを言っているが、全員が一斉にしゃべっているので聞き取れない。
しばらく待っていると、近くに来た騎士団の人から石板と細い針が渡された。石板には、下側の中央に直径1センチほどの小さなくぼみが1つだける。
つい苦笑いをしてしまった。
異世界に召喚されたり転生したりする小説が好きなため、これと似たものを知っている。よく出てくるものだ。使いたい。
俺は早く使いたい気持ちを抑えて、石板と針を机に置く。
前を向くと広間を隅々まで見ている男性がいる。かなりいかつい顔だ。顔を見る限り、30代後半だろう。
「私はこの国の騎士団の団長を務めているロイス・イスバーンだ。皆に渡したものは『ステータスプレート』と呼ばれる、ステータスを表示するためのアイテムだ。早速だが、これより全員のステータスを確認する。針で指をつき、血を石板のくぼみにつけろ。それで各自のステータスが表示される。異世界から来た人は大体いい職業、スキルを持っている」
前に立っている男性はやはり地位の高い騎士団の団長か。
そして石でできた板は予想通り、自分のステータスを確認する道具――ステータスプレートだ。
周りがざわつく中、言われた通り早速やってみる。許可が下りたので、もう待っていられない。
針で指をつつき、にじんできた血をステータスプレートのくぼみにつける。少し痛かったが、今はそれを気にしている暇ではない。ステータスプレートを見るのに集中する。
狙うのは勇者――
ではなく魔法使い。ゲームではよく大規模な魔法を使い、敵を蹂躙する場面がかっこよく思い、憧れているからだ。魔導士がいるなら、それがいい。
徐々に何やら文字が浮かび上がってきた。早く見たかったので、早速目を通す。
ステータスプレートにはいろいろと書かれていた。名前や年齢、性別や種族のこと。これは日本にいてもわかっていることだ。
その下には職業、レベル、各種ステータスが書かれていた。
職業を見てみると、狙っていたのとまったく別の職業が来た。鍛冶師だ。
そしてステータスに目を通す。書かれていたのは体力、筋力、魔力、耐性の4項目。しかし魔力以外はすべて25だ。魔力については50。
それを見て机の上に突っ伏す。ショックが大きすぎた。職業はまさかの非戦闘職の鍛冶師。それに追い打ちをかけるようにステータスが低い。もっと高いと思っていたのに。
気を取り直して、スキルを見る。書かれていたのは、【インベントリ】【鉱石干渉】【言語理解】。
最初と最後のスキルは大体分かる。【言語理解】はこの世界の言葉が分かるものだろう。【インベントリ】は荷物を異空間にしまうことのできるスキルだろう。ただ、容量が分からない。調べる必要がありそうだ。
しかし、全く分からないスキルが【鉱石干渉】。
言葉の通りなら鉱石に干渉をするスキルと思うが、あっているかさえ分からない。
突然、歓喜の声が起きた。突然すぎて、ステータスプレートを机の上に落とす。割れなくてよかった。
声の下方向はすぐに分かった。何人が立ち上がっている。場所は3年と2年の境目だろうか。
気にはなるが、遠いのでわからない。視線を自分のステータスプレートに戻す。
「よし! 全員見たな! 軽く説明させてもらう。」
ステータスプレートを見ていると、団長が再び話しはじめる。どうやら、職業やステータスの説明が始まるようだ。俺は目を上げる。
「職業については、この中の誰か1人勇者がいるはずだ。かなり強い。もちろんそのほかにも、いろいろと職業がある。技能は、その職業に適しているものがあるはずだ。レベルに関しては、現在分かっているだけで最高100まである。100まで行く人は普通いない。過去に一度あっただけだ」
団長はそこで一度言葉を止め見回す。ここまで言ったことを理解できたか確認しているのだろう。
レベルは最大100か。伸び方にもよるが、将来が心配だ。ゲームでもそうだがステータスは物を言う。ただ、現実なのでどうなるかは分からないが。
少し時間をおいて、団長は言葉を続けた。
「ステータスは、レベル1の平均は10だがここにいる全員は少なくとも50はあるだろう。中にはすべて100を超える人もいると思う」
そこで、団長は話の間をあけて、全員がもう一度ステータスプレートを確認するのを待つ。
俺も再び、ステータスプレートに目を落とす。きちんと見直すと、魔力しか50を超えているものがなかった。あまりにもひどい。
「ちなみに、ステータスはレベルが上がることで上昇するが、日々の鍛練でも上昇する。魔力が高ければ、その分ほかのステータスも上がる。そこは研究が進んでいないので理由はわからない」
団長が再び説明する。
鍛えれば大丈夫ということがわかった。だが、どのくらい上がりやすいかは分からないのでレベル上げが、1番簡単にステータスを上げる方法だと予想が付く。
「魔道具というものがこの世界の中にはあるのだが、それの中にはステータスを表示させることのできるものも存在する。だがそれは噓のステータスを映し出す可能性がある。しかしステータスプレートを使うと、嘘偽りなく表示される。それは覚えておいて欲しい」
どうやら何かしらの方法でステータスを偽り、魔道具をだますことができるらしが、ステータスプレートはその嘘を見抜くようだ。覚えておいた方がいいな。
「それでは今から全員のステータスを見せてもらうが、均等に分かれてくれ。確認が済んだやつは、指示の通りに動いてくれ」
団長がそういうと、騎士団の団員に自慢したいのか、生徒たちが我先にと騎士団の人の前に並んでいく。驚いたことに、こういうことには興味がなさそうな女子生徒たちでさえ、真っ先に並ぼうとしていた。
600人近くと、人数は多いが、列は10列できているため、確認はそこまで時間がかからないだろう。
俺は自分のステータスの低さに気を落としながら、重い足を動かして列に並ぶ。
騎士団の人に自分のステータスプレートを見せた生徒が、次々と元居た席の場所に戻っていくが、中には部屋の隅に移動していく者もいた。何かしらの理由があるみたいだが、一切分からない。
そしてついに俺の番がまわってきた。騎士団の団員にステータスプレートを見せる。騎士団の人の表情が少し驚いたものになる。すぐさま俺がいることを思い出したのか、騎士団の人は顔を上げた。
「すまないが、あちらに移動してくれ」
騎士団の人は、申し訳なさそうに言い、部屋の隅を指す。そこには先に18人の学生と1人の先生がいた。全員困惑した表情をしている。
そんな中に俺もそこに加わるため移動する。考えられるのはステータスの低さが原因であるということ。もう1つは職業。だがそれでも詳しい原因はわからない。
俺もその塊に移動する。もちろん、そこにいる人たちは1人増えて計20人になっても、困惑の表情は変わらない。
ざっと顔を見るが、俺が知っている奴は先生も含めていない。事務員か?
「よし、全員終わったな。詳しい事は明日の朝話す。それと今からは夕食の準備があるため、一度部屋に戻ってもらう。部屋への案内はメイドがする。では解散!」
全員の石を騎士団の団員が見終わったことを確認した団長が声を出す。椅子に座っていた生徒は、立ち上がり次々に入口に向かう。そこにはメイドがおり案内して行く。その時に男子生徒が盛り上がっていた。
俺だってメイドには興味がある。
案内して欲しい。
「待ってくれ」
部屋の隅っこにいた俺たちはどうしてよいかわからず、他の人たちのように移動しようとしたが、声が掛けられ止められる。声を掛けてきた人を見ると団長だった。
「すまないが、君たちのことに関して少し話をさせてくれ」
「どういうことですか?」
団長の言ったことに、1人の男子生徒が尋ねる。
俺は予想を立てているので、団長の話を聞くだけだ。
「君たちは全員、非戦闘系の職業だ」
職業に関してか。それも非戦闘職が当たった人を集めての話。
そんな風に思っていると、団長が口を開いた。
「ここにいる20人は、生産系の職業・スキルのため戦闘には向かない。生産系の職業・スキルのため、ほかの人たちとは別のメニューを行ってもらうつもりだ。将来は生産系の職業を生かし、ほかの生徒を支援するようになってもらいたいと思っているが、いいだろうか?」
団長が説明を終えて、それぞれの顔を見た。
俺もそれぞれの顔をみると、納得した者、困惑した者、悔しそうな顔をした者。それぞれがいろいろな表情をしている。
支援か。
どのような支援をするか分からないが、やれるだけやるか。
「あと、夜にそれぞれのスキルの自主練ができるよう、20人には個室が貸し出される。ちなみにだが、他の者たちは4人部屋だ。案内はあそこにいるメイドが行う。では解散」
団長は最後にそう言うと、立ち去って行った。
団長が立ち去ると同時に、メイドがこちらに来た。人数は20人。どうやら1人ずつ案内されるようだ。
1人づつそれぞれのメイドに案内されて、1人部屋に移動する。俺を案内してくれたのは、顔はまだ幼かったが、感じからしてしっかりしていそうな子だ。
さすがにナンパをするつもりはない。というより、そんな勇気がないだけ。
移動中は一切話さなかった。他のメイドと非戦闘職の人も話をしていなかった。
「こちらが、あなたが使う部屋になります」
メイドがそういいつつ部屋の扉を開ける。
上から日本人の声が聞こえてくると言うことは、部屋の場所は戦闘職の人と同じ建物の内部か。
非戦闘系職業の20人は1階を使い、他の先生と生徒は2階を使うということか?
内装は、やはり1人部屋だけあって狭いのは分かっていたが、それでも十分な広さ。それに複数人で使う部屋よりはマシだろう。家具はベッドに机、タンスがあった。
気になったので、ベッドを上から押してみる。やはり城にある物だけあって、ふかふかだった。と言っても、日本で使っていたものと比べると、硬いのは当たり前だった。
「そちらは蜘蛛の糸を使ったベッドです。触り心地と丈夫さとは世界知と言われています。また、めったに手に入らない貴重なものとなっております」
「蜘蛛の糸か。すごいな」
説明を聞いて、ものすごく驚いたのは言うまでもない。俺が触り心地を確かめている間、メイドは一切動かなかった。
「それでは、注意事項の説明に入らせてもらいます。基本的に朝食は用意ができ次第、呼びに来るような形になります。昼食と夕食は訓練が終わり次第集まって取るようになります。ただし、今晩の夕食時に限っては、私が呼びに来ますので、部屋でお待ちください」
「ああ」
メイドが説明を行ったので、俺は短く答えて分かったことを伝える。
夕飯か。時代としては中世風なので、楽しみだ。
「入浴に関しては夜のみとなっております。王宮と言っても、自由に入浴することは難しいのでお気を付けください。訓練に関しては、明日の朝に説明が行われると思います」
「ああ、わかった」
「それと、こちらは女王陛下から皆様に贈られたお金です。多くはありませんが、必要なものを買うのに使ってください」
メイドはそういうと、麻袋を渡してきた。俺はそれを受け取る。
さすがに目の前で中身を確認するのはまずいと思ったので、ポケットに入れておく。
「質問はございませんか?」
「大丈夫……だと思う」
「わかりました。では失礼いたします」
そういうと、一礼してメイドは部屋から出て行った。
メイドが出ていった後は暇だったので、部屋の隅々まで見て回る。といっても、見るところなんて限られている。机の引き出し。タンスの中。ベッドの下。
ここで血で書かれた手紙なんて出てきたら少しは面白かったと思うが、そんなものは出てくるわけがなかった。
そんなことをしていると、メイドが呼びに来たので大広間に戻り、夕食をとった後入浴する。
城内で出されたものだけあって、夕食は元の世界より豪華だった。特にステーキがおいしかった。
風呂に関しては、ものすごく大きかった。日本にある風呂とは比べ物にならない大浴場だ。
日本で見たこともないような大きな風呂から上がると、割り当てられた部屋に戻る。服はこの世界で一般的な綿の服だった。色は学年によって分けられていた。俺が着たのは青く染色されたものだった。
説明不足というより、俺が聞かなかったのが悪かったのだろうか。
どうやら城内を自由には歩きまわることは許されていなかったようだ。なぜ歩き回るのがいけないのかが分かったかというと、歩き回って怒られたのだ。それも年下に……
スキルの事を調べるため図書館を探して歩き回っていた。こんなに城が大きかったら、図書館ぐらいありそうだったから探していた。
ただ、広すぎたので図書館がどこにあるのかなんてわからない。
広い城に住みたいと思っていたが、広すぎるのも考え物だな。
結局、図書館を見つけることがなく廊下でメイドに会った。暗闇で分かりにくかったが、こちらに近づいてきたのでよく見ると、部屋に案内してくれたメイドだった。少女は俺だとわかったようで、すぐに駆け寄ってくれた。きっと困っていると思ったのだろう。気が利く子だ。
「な、なんで廊下を歩いているのですか!」
――そんなことは無かった。突然服の袖をつかむと、柱の陰に引っ張り込み、小声で怒ってきた。しかも表情はどこか焦っている。なぜ表情がわかったかというと、窓の外から差し込む衛星の光で見えたためだ。
「人だから歩いている」
「そうじゃないです! どうしてこんな時間に歩いているんですか!」
「図書館を探すためだ。自分の職業とスキルについて調べたかったからな」
まあ、明日にでも調べたかったが、どうしても気になったので仕方がない。
俺がそう言うと、少女はすごく焦った表情をした。
「勝手なことしないでください! 言ったはずですよ! 勝手に場内をうろうろしないでくださいって! あなたは大丈夫でも、わたしが怒られるのです!」
「そんなこと聞いていないが?」
「……え?」
俺の言葉を聞いて、さっきまでの勢いはどこへ行ったのだろうか。少女はぽかんとしている。
いや、歩いたらダメとか聞いていないし。
「聞いたのは、食事のことと入浴のこと。あとは訓練のことだけだが? 食事は呼びに来ると言っていたが、もう終わっただろ?」
「……あ」
俺の言葉を聞いて、少女が口を丸く開けた。何か伝え忘れたのか?
少女は俺を部屋に案内していた時の表情に戻すと、姿勢を正した。
「追加の注意事項を言います。夜間は部屋から出ないでください」
「ああ。わかた」
「では、部屋に戻ってください。今すぐに戻ってください!」
「お、おう」
どうやら夜間は部屋にいないといけないようだ。理由は分からないが、仕方がない。部屋に戻ることにした。それになぜか少女がかなり焦っていたから。
「あ! やっぱり待ってください!」
俺は部屋に戻ろうと歩き出すと、少女は止めてきた。
どっちだよ!
「まさか、誰かに遭遇したとかはないですよね?」
「なぜだ?」
「もしあなたが、どなたかに見つかっていたら、メイド長に報告が行くのですよ。そして私がメイド長に怒られるのですよ。なぜ説明を忘れたのだって……」
少女は落ち込みながら答えた。
よっぽど怖いんだね、メイド長……
「大丈夫。誰にも会っていない」
「本当ですよね!?」
「そもそも、会っていたら連行されているだろ」
「……あ」
確かにそうだと言わんばかりに、胸の前で手のひらを合わせた。
「と、ともかく。見つからないように帰ってください」
「分かった」
「お願いしますよ!」
さすがにこれ以上はやめておいた方がいいと判断し、少女と別れると部屋へと戻っていく。
ここまで来るまでは、誰かに見つかってもいいやと思って歩いてきたが、誰にも見つからないで戻るとなると、急に難しい。
何度か見つかりそうになったときはあったが、柱の影に隠れたり小部屋に隠れたりするなどして、何とか見つからないで部屋に戻ることが出来た。
そう言えば1人で戻ってきたが、案内してもらった方が安全だったのではないだろうか……
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