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『シュティアとメルクールの会話』

本編ではありません。時系列的に、第11話の『召喚者との遭遇』で、零がシュティアとメルクールの2人に王都で何があったかを説明して寝た後の場面です。

「シュティアさん。少しいいですか?」

「……なに?」


 寝るために部屋を出いていった零が部屋の扉を閉めたことを確認して、メルクールがシュティアの名前を呼ぶ。

 シュティアは何かを考えていたようで窓の外を見ていたが、メルクールの方を見た。


 2人は零から話を聞いた時の位置のままだ。そのため2人の間は2人分ほどしか開いていない。


「シュティアさんはレイさんと長くいましたが、レイさんの言ったことって、初めて聞きましたよね?」

「……うん。レイの言った通り……初めて聞かされた」


 メルクールが確認を含めて尋ねると、シュティアは初めて聞かされたことを伝える。



 2人は何を聞かされたかというと、零がレールン王国の王都で何を体験し、そのことに対しどのように感じたかだ。

 零が体験したこととは、同じ学校の奴にこの世界に来てイジメられたということだ。いじめられた理由は職業が非戦闘職であるため。それだけだ。


 戦闘職の生徒や先生は、非戦闘職の人は使えないと思ったのだろう。だが実際はそうではない。

 戦闘職の人を支えるのが、非戦闘職の薬剤師や錬金術師。そして鍛冶師だ。その職業の人たちのおかげで戦闘職の人たちは活躍できる。


 零に対するイジメは次第に激しくなり、ついには命を落とす寸前まで行った。そのため零は、仲間を信じようとはしなくなったのだ。


 だがここで勘違いしてはいけないことがある。それは零だけが標的になっていたわけではない。他の非戦闘職の人も標的になっていただけである。

 だが命を落とす寸前までは行っていなかった。


だからなのか、零は仲間を必要と思っていない。


「それでもシュティアさんは、レイさんについて行くのですか?」

「……あたりまえ」

「なぜですか?」


 メルクールの質問にシュティアは力強く頷きながら答える。

 だが 過去にいろいろあったようで人間を嫌っていることを横に置いて考え直したとしても、それでもメルクールは分からなかった。


 仲間を必要と思っていなかったり信用していない人がいる状態での旅は危険を伴う。特に命を懸けた戦いの時なんて。

 それはこの世界に住む人、特に戦闘を行うことのある兵士や冒険者などはよく分かっている。


「……恩返しの……ため」

「恩返し……ですか?」

「……うん」


 シュティアの返答にオウム返しするメルクール。そこでシュティアは何があったかをどのように説明するか1度考える。

 1度深呼吸をすると、話し始めた。


「……私は、レイに、助けてもらった。詳しくは、覚えていないけど、森で倒れているところを助けて貰った」


 シュティアは今までとは違って、はっきりと話す。どうやら、しっかりと話さないといけないと思ったようだ。

 メルクールが何も言わなかったので、シュティアはそのまま説明を続ける。


「……森で倒れていた理由は、倒れるとき以前の記憶が、ない……から分からない。でもなぜか私はボロボロだった。まるで何かと戦って、逃げて……きたように。そして私は力尽きて倒れた」


 そこで1度、呼吸を挟む。話すことが苦手なシュティアにとって長く話すことは疲れるようだ。呼吸を整えると、再び話し始めた。


「意識が戻った時には……宿にいた。聞いた所では……私が倒れた時に、レイが近くにいたらしく運んでくれて……魔法使いの人が治療してくれたみたい。……だからそのお礼をしないといけない」

「そんなことがあったんですね……」


 シュティアは話し終えると、呼吸を整える。話すことが苦手なシュティアにとって、今話した長文は少々きつかったのだろう。

 一方、シュティアの話を聞いたメルクールは何かを考えている。


 少し考えた後メルクールは顔を上げて、シュティアの方を見る。その時にはすでにシュティアは呼吸を整え終えており、メルクールの方を見ていた。


「では、シュティアさんは恩返しができたら、レイさんの元を離れるのですか?」

「……なんで?」


 メルクールからの質問に、シュティアは首をかしげる。


「だってレイさんは、仲間はいらないと言っているのでしょ?」

「……レイはそう言っているけれど、私は離れない」


 メルクールの質問にシュティアが答える。そのときの目には、強い意志が宿っていた。


「なぜですか?」

「……私はレイを……元に戻す」


 首をひねるメルクールにシュティアが答えるが、それでも意味は伝わらなかったようだ。

 そこでシュティアが説明する。


「……今のレイは……まだ弱い。……だから仲間がいる。……けどレイは、仲間を信じない。……だから、レイが私を信じることが出来るように……頑張る」

「そうですか」


 メルクールは納得したらしく黙った。

 シュティアは再び呼吸を整え始めた。相変わらず話すことが苦手なようだ。


「……そういうメルクールは……どうする、の?」

「へ?」


 シュティアの突然の質問にメルクールが変な声を出す。まさか質問が来るとは思わなかったのだろう。


「……いつまで一緒にいるの?」

「あたしですか?」


 シュティアが再び尋ねてきたので、メルクールは考え始める。ついて行く期間を考えているのだろう。


「あたしの罪が許されるまでですね……」

「……メルクールの罪が、許される……まで?」

「はい」


 メルクールが答えるが、シュティアは分かっていないのだろう。そこでメルクールはどのように説明するか考え始めた。


「前も言いましたが、村のルールを破りましたよね。それが許されるまでです」


 シュティアは思い出していたようだ。間を置かずして笑みを浮かべた。

 もちろん、メルクールはその表情を見逃しはしなかった。


「シュティアさん? なぜ微笑んでいるのですか?」

「……なんでもない」


 メルクールが尋ねるが、シュティアは何でもないと言う。しかし尚もシュティアは微笑んだままだ。もちろんこんなこと言われると、気になるのが人――獣人だ。


「気になってしまうじゃないですか! そんなに微笑んでいたら!」

「……気にしなくて……大丈夫」

「教えてください!」


 メルクールはそういうと、2人分あった距離を詰めて、シュティアに迫る。しかしシュティアは一切引かない。そのため鼻と鼻が当たりそうな距離になる。


「……やだ」

「ぐぬぬ……。こうなったら無理やり聞き出してやります!」


 シュティアが一向に教えてくれないため、メルクールがシュティアに襲い掛かる。2人の間はほとんどなかった。そのためメルクールが有利だと思われた。

 しかし事前に予想していたシュティアは、メルクールから少し離れるように、枕のある方に移動して避けた。


 まさか避けられるとは思ってもいなかったメルクールは、シュティアの方に倒れこむ。そして顔を、そこそこあるシュティアの胸に突っ込んだ。どこのアニメの主人公だと言いたいが、同姓なのでセーフである。

 シュティアは一瞬驚いたが、これ幸いとメルクールの後頭部をつかんで、抱き締める。メルクールが逃げようとするが、シュティアがちっかりと抱いているので逃げられない。


「――ッ!」


 メルクールが何かを言っているが、声はくぐもっており何を言っているか分からない。しまいには右手でシュティアの左肩をタップする。どうやら離すように促しているのだろう。

 シュティアはそれを見てメルクールを解放した。


「ぷはー! 死ぬかと思いましたよ!」

「……死なない」


 解放されたメルクールが空気を吸い込む。顔は真っ赤だった。そうとう苦しかったのだろう。


「いや、死にますから! そんなものに顔を押さえられたら死にますから!」

「……じゃあ、メルクールの胸で試す」


 シュティアはメルクールの胸を見ながら、そんなことを言う。メルクールは自分の胸と、シュティアの胸を見て比べた。


 シュティアの胸はそこそこ大きいが、メルクールの胸はペタンこだ。まな板と言ってもいい。平原であろう。絶壁と言っても過言ではない。そのためシュティアがメルクールの胸で試しても、窒息はしないだろう。ただ痛いだけ。


 そのことに気が付いたメルクールがシュティアにジト目を向ける。


「ねえ、シュティアさん。けんかを売っているのですか?」

「……なんのこと?」

「分かっていて言いましたよね!?」

「……なんのこと?」


 メルクールが問いただすが、シュティアは一向に認めない。

 いや。シュティアは本当に分かっていないのだ。なぜ自分がメルクールに怒られているかを。


「絶対に無理ですよね! あたしの胸で窒息なんて!」

「……あ」


 メルクールの言いたかったことがようやく理解できたシュティア。

 そして気が付いた時に自分の物とメルクールの物を見比べてしまった。そして、ついメルクールを気遣う目をしてしまう。


「ひどいです! ひどいですよ、シュティアさん!」


 案の定、メルクールはベッドに顔をうずくめた。シュティアはというと、その様子を見つつどうするとよいか考えていた。

そして思いついた方法が頭を撫でる。


「……大丈夫。……大きいだけが、全てじゃない」

「シュティアさんが言わないでください!」


余計なことを言って。

メルクールが顔を上げて恨めしそうに言うが、その目はしっかりとシュティアの胸に固定されている。


「で、結局なぜ微笑んでいたのですか?」

「……このままいけば……レイと2人きりに、なれるから」

「……ん?」


 メルクールが話を戻して再び尋ねる。シュティアの答えを聞いて、メルクールは間抜けな声を出した。思いもよらなかった答えだったのだろう。


「……メルクールがいたら、レイが私に……夢中にならない」

「意味が分かりませんよ!」

「……そのままの……意味」


 シュティアの言ったことにメルクールが声を荒げる。しかしシュティアは平然と答え

 た。


「……私はレイと……相思相愛になる」

「今のレイさんの状況では無理ですよね? どうやって相思相愛になるんですか」

「……夜這い」


 シュティアの答えを聞いてメルクールは半分呆れていた。

 するとシュティアは一言だけ言うと立ち上がって部屋の外へ出ていった。


その後、メルクールは1人部屋で寝て、シュティアは受付のところで合いかぎを――本来は渡してもらえないが、シュティアと零が仲間であることと、おかみさんが変な想像をして気を使ったために渡して貰えた――受け取り部屋に零の部屋に入って眠りに着いた。

次の本編から第2章に入るため、別視点の話を挟みました。


今のメルクールの考えからだと少し行動と発言が合わないかもしれないので少し変更するかもしれません。

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