召喚者の襲撃
2/3あたりで人が死ぬシーンがあります。ご注意ください。
翌朝、街を出ることにした。理由は昨日ギルドで同じ学校の男子生徒3人組みに遭遇したため。まだ異世界にきて余りたっていないとはいえ、ここで同じ学校の生徒に会ったと言うことは、予想より早いが各地に出没する可能性があると考えていい。
そのためここを一刻も早くここを離れたい。問題はあまり起きて欲しくはない。
――が、早々に問題が起きた。予期もしない所で……
「おい! 起きろ! 邪魔だ!」
なぜか昨日別々の部屋で寝たはずのシュティアが俺の寝ているベッドで寝ている。部屋のカギは閉めたはず。
俺の寝ている部屋は1人用。すなわちベッドも1人しか寝られない。にもかかわらず無理やり寝ようとしたのか、俺に抱き付くようにして寝ている。
「……あと10分」
「起きろ!」
シュティアは再び寝ようとするので俺はたたき起こし、部屋の外で待機していたメルクールと合流。そのまま食堂へと向かった。
食事している間、メルクールがじっと俺を見ていたので少し居心地が悪かった。
「それじゃあ武器屋に向かうぞ。俺とシュティアはともかく、メルクールの武器を買わないといけない」
朝食を食堂で取った後、一度部屋に戻って武器屋に向かうことを伝える。メルクールがついてくる以上、弱い武器を持たせるわけにはいかない。
「あたしはこれでいいのですが、なぜですか?」
メルクールは俺に武器を見せる。腰の鞘から抜かれた武器は鉄製のダガー。初めて会った時のようにメルクールはスピードに自信があるようだ。そのスピードを生かすために取り回しのいい短い短剣の武器を使うのだろう。
シュティアは魔法を使うため武器は持っていない。もちろん俺は銃だ。
「そんなボロボロの物じゃまずいだろ。買い替えをしろ」
「その言い方ひどいです!」
メルクールは頬を膨らませつつ、若干睨むようにして俺を見てきた。鉄でも問題ないが、今のメルクールのダガーは刃が欠けている。替え変えた方が良さそうだ。
だがメルクールは一向にひかない。俺はため息を付いて諦めることにした。もちろん買い替えさせることをあきらめただけであって、別の方法を実行することにした。
ちなみにシュティアは横で見ているだけだ。
「じゃあ、そのダガーを貸せ」
「ど、どうするのですか」
「修理する」
ダガーを背中の後ろに隠してメルクールが睨んでくる。
俺は構わずメルクールからダガーを取り上げた。
シュティアは何をするのか分からなかったようで、きょとんとしている。一方メルクールは俺からダガーを取り返そうとしているが、修理という言葉を聞いて取り返すか迷っているようだ。
俺は右手でダガーの剣身を持ち、左手に持った鉄のインゴットをダガーに軽く押し当てる。そのまま鉄インゴットに意識を集中する。
すると鉄がまるで生き物のように、ダガーの表面を包み込んでいく。
あっという間にダガーの剣身の部分は鉄で薄くコーティングできた。刃が欠けたところは修復している。重さはあまり変わっていない。もちろん剣身以外の所はそのままだ。
「これでどうだ?」
コーティングが出来たので、メルクールにダガーを返す。それを恐る恐る受け取って、観察していた。
「すごいです……。これ、すごいです!」
メルクールは感想を言った後、嬉しそうに頬ずりをする。そして新しい剣を貰った子供のように、突然振り回し始めた。
危なすぎる!
「振り回すな!」
俺はそう言ってメルクールの腕をつかむと、頭を思いっきりはたく。
スパーンッ! といい音が鳴った。あまりの痛さにメルクールはベッドに倒れこむと、ギャーギャーいいながら、頭を押さえてベッドの上を右へ左へと転がり始めた。
その様子を、シュティアが何とも言えない表情で見ていた。
少しの間、メルクールの頭の痛さが収まるまで部屋で待つ。
ほんの1分ほどで起きあがった。思ったより早く回復して驚いた。
「い、痛かったです! 無茶苦茶いたかったです!」
「よし。じゃあ行くか」
「無視ですか!?」
「……本当に、歩いて……行く?」
「仕方ないだろ。ここを出る馬車がない」
メルクールが回復したので、ここを出ていく準備をして宿を出る。
その際にメルクールが横でわめいているが無視。
馬車は昨日聞いた通り、今日出る団体はなかったため、国境には徒歩で向かう。
国境までは馬車で1日かかる。徒歩では野宿を1回する程度だろう。もちろん、食事やテントの準備はきちんとしてある。
門を抜けて国境へ向かう。できれば国境までは何も起こらないで欲しい。
この世界に四季は存在するのかどうかは分からないが、現在の気候は日本でいうと春ぐらいだろうか。歩いていると暑くなってきた。途中で休憩をはさみながら歩いてゆく。変わらない風景にメルクールは時々文句を言っていたが無視する。
ついに我慢できなくなったメルクールが、休憩中にダガーを振り回して使い勝手の確認を始めた。そして近くにイノシシもどきがいたので、そちらの方向に走って行って倒していた。もちろん回収はした。
再び歩いたのち、おなかがすいてきたので昼休憩をしていると、後ろから馬に乗った人が10人来ているのに気が付いた。通り過ぎると思っていたが、速度を緩め始めた。
90メートルほどで馬から降りると歩いてくる。挨拶をするために降りた……と言う割には距離がありすぎる。
突然、10人のうちの2人が魔法を放つ。距離はまだあるが、撃ってきたとなれば射程内であることが分かる。
俺とメルクールは魔法を防ぐ方法を持っていない。
相手が放った魔法は水でできたボールのような物。シュティアが前に言っていたウォーターボールだろうか。それが目の前の何かにぶつかったようで弾けた。
隣を見ると、シュティアが手を前に掲げるようなポーズを取っている。どうやら魔法を発動させて防いでくれたようだ。。
よく見ればまるでガラスでできた大きなコンタクトレンズ型の何かが目の前にある。
魔法を防いだと言うことは盾の魔法か? だがシュティアは使えなかったはず。
遠くだったため確証はないが、魔法を防がれたことに少し動揺したように見えた。
俺は反撃の準備を開始するため、すぐにインベントリを開ける。
「何か秘策が?」
「まあ見てろ」
俺はメルクールの質問に答え、インベントリから銃を取り出す。弾は装填済みのため、すぐさま構える。目の前にあったガラスのような物はすでに消えている。
相手の正体をきちんと確認するため、こちらに攻撃できない程度に弱らせることにするか。なら狙うのは足。
足をきちんと狙ったあと引き金を引いて撃つ。
獣人たちの所ですこし改造したため、単発銃では無く複数の銃弾を装填できるボルトアクション式の銃になっている。作るのは思っていたより間取った。
パンッ!
「ヒッ!」
撃つとメルクールが音にびっくりして、小さく悲鳴を上げる。声を掛けたいが今はそれどころじゃないので放っておき、続けざまに撃っていく。
だが命中率は悪い。修正が必要だ。
相手10人のうち3人は足に銃弾を食らい倒れる。しかし、残った7人のうち3人は剣を抜いて走って来ていた。前衛がいるようだ。まあ当たり前だろう。
魔法使い2人は治療ではなく攻撃に専念している。魔法使いが治療より魔法での攻撃を優先しているのは、シュティア相手では攻撃する人が2人いないと大変なのだろう。時々矢も飛んでくる。どうやら先にシュティアを倒そうと考えているらしい。
しかしシュティアは詠唱なしで、水でできたボールをどんどん撃っている。さらには盾の魔法を使用して、相手が放つ魔法や矢も防ぐ。攻撃しつつ防御も完璧。
魔法についてはあまり知らないが、無詠唱ってすごいな。いや、この場合はシュティアがすごいのか?
「メルクール! 頼む!」
「任せてください!」
魔法と矢の援護を受け、前衛の3人がかなり近くに来たため、メルクールに攻撃してもらう。元気よく返事して一気に接近したメルクールが、右端の1人の剣を剣で叩き落とし、鎧で守っている腹部に蹴りを入れる。男は後ろに跳んだ。
痛そうだ。蹴りを放ったメルクールが……
そう思った理由は、メルクールが足を抑えてうずくまっている。もちろんこんなことをしていたら隙がありすぎる。
攻撃したメルクールに隙ができた。それを2人の男は見逃さなかった。1人がメルクールに剣を振るう。しかしメルクールは素早く反応して軽くいなすと、後ろへ飛んで距離を開ける。
援護をするため、俺は相手の足に銃弾を撃つ。
バランスを崩して片膝立ちになった相手に、メルクールが一気に近づき蹴りを入れ、1人目と同じように後ろへ飛ばす。
3人目は小さい盾を持っていたため、メルクールは苦戦していたが、持ち前のスピードで敵の死角をつき、後ろに蹴り倒す。
前衛を倒され、弓矢を構える中衛と魔法を使う後衛が動揺の色を見せる。しかし、すぐに気持ちを切り替えたようで攻撃をしてくる。その時にはシュティアとともにメルクールの近くに移動していたため、メルクールに飛んできた魔法や矢をシュティアが魔法で防ぐ。
俺が銃を構えると、地面に倒れている6人を除く4人は武器を捨て両手を上げた。さすがに勝てないと分かったのだろう。
メルクールに手を上げている4人をインベントリから出したひもで縛る様に指示を出す。メルクールはうなずくと、ひもを受け取って4人のもとに行った。その間シュティアは4人を見張っている。変な動きがあれば無力化をできるように。
魔法使いには轡もかませて、詠唱が出来ないようにしている。無詠唱でも魔法が使える場合があるが、威力は格段に落ちる。
俺の方は倒れている残りの奴らを回収していく。
「なぜ俺達が負ける!」
「絶対ゆるさねーからな!」
全員を集め、手足をひもでくくると、横一列に並ばせる。魔法を使っていた女性2人は猿轡をかませている。
男2人が叫ぶが放っておく。顔をよく見ると昨日ギルドで襲ってきた奴らだった。どうやら仕返しをしに来たみたいだ。
シュティアとメルクールは、縛って座らせている奴らの向こう側に立たせている。
「お前たちが置かれている状況が分かっているのか?」
「黙れ! 最弱が!」
冷たく言い放つと1人の男が叫ぶ。どうやらこいつは今の自分の立場が分かっていないようだ。シュティアとメルクールは話の流れから、この2人が日本人であることが分かったようだ。2人は少し不愉快に思ったらしく顔をしかめた。昨日話したばかりだったから覚えていたのだろう。
「ふーん。俺を覚えていたのか?」
「ああ! だって最弱だからな!」
「で、その最弱にお前らは負けたと?」
「お前がそんなせこい武器を使うからだ!」
男子生徒がなおも叫ぶ。この男子生徒は確か女子の中でかなり人気があった生徒だ。顔もよくテストも運動もできる。手当たり次第にかわいい女子を彼女にしているという話が出ていたことがあった。
男子生徒の言葉を聞いて、シュティアとメルクールの雰囲気が変わるのが分かった。なぜだかは分からないが怒っているようだ。だが今は放っておく。
「お前らが俺を捨てなかったら、これを使えていたかもしれなかったのに」
「うるさい! さっさと縄を解け!」
銃を見せながらそういうと、別の男が叫ぶ。こいつは先程の男子生徒の双子だ。顔もそっくり。もう1人の双子と同じ部活だったはずだ。さらには性格も何もかも同じだったはず。
シュティアとメルクールの我慢がそろそろ限界みたいだ。俺もこいつらと話すのが嫌になってきたので話を終わることにした。
「残念だが、それはできないな」
「なぜだ!」
「だって、お前らは日本から一緒に来た仲間じゃない。それどころかお前は俺に攻撃をしてきた敵だから」
男子生徒に答えると、持ち替えていたリボルバーの引き金を3度引いた。叫んでいた3人の男子生徒の頭を順に撃った。威力が高かったので3人は後ろにのけぞる様に倒れた。その隣にいた若い女性が悲鳴を上げるが、知ったことではない。
俺は初めて人を殺した。だが何とも思わない。脳に大量の血液が通っているからなのか頭痛が少しする。
「お前らはこいつに雇われただけか? きちんと答えないとこいつらと同じ道をたどるぞ」
「ち、違う! 私たちはみんな、この人が自分は勇者だというからついてきただけ!」
女性の方を見て半分脅しながら尋ねる。すると猿轡をかませていない1人の女性が慌てて答える。よっぽど死にたく無いようだ。
先ほど俺に攻撃をしてきた敵だから言って日本人を射殺した。もちろん目の前にいる女性達も攻撃をしてきた。だが片っ端から殺さないよう、俺は感情を制御する。
「それは本当か?」
「ええ! その人の言う通り! 自分は勇者だと3人が言うからついてきただけ!」
「そうか」
尋ねると別の女性が答える。俺が信じた様子を見て、数人がほっとした表情になる。
「1つ聞くがこの中に日本人はいないな?」
「え、ええ。いないわ!」
俺はその答えを聞いて、ため息を付く。こいつが言ったことが嘘なのだ。もしくは知らないだけか。
遠くだったので気付かなかったが、並ばせている時にもう1人の日本人と目が合っていた。
その上、縛られている女性のうち3人は答えを聞いて動揺していた。明らかに隠している。
「残念だ」
「……え?」
俺の言葉を聞いて、答えていた女性が驚いた表情をする。
その女性を俺は放っておいて、1番端っこに座っていた1人女性の前まで歩いて、銃口を向ける。その女性はずっと下を向いたままだった。まるでこうしていればバレなくて、殺されず逃げ延びることができると思っているように。
「お前、日本人だな?」
そう尋ねると、女性は体をビクっとさせ、恐る恐る顔を上げた。その顔は恐怖でおびえていた。名前は忘れたが、見たことのある顔だった。確か高校の中で男子から注目されている女子生徒トップ10に入っている生徒だったはずだ。男子生徒3人についてきたのだろう。
その女子生徒がゆっくりと首を横に振る。最初は日本人であることを否定しているのだと思ったが、違うようだ。
「そうすれば逃がしてもらえると思っているのか? 日本人同士である俺を殺そうとしてきたのに?」
俺はだんだんと言い方が荒くなってきていた。それを治すつもりはない。怒りで頭がガンガンする。脈が上がって来ているのだろう。
女子生徒は顔をこちらに向けたままだった。恐怖のあまり、その顔に涙が流れていた。
「恨むならお前達が俺にしたことを恨め」
俺はそういうと銃口を向けて引き金を引く。女子生徒は額を撃ち抜かれ、横に倒れた。目から涙が流れていた。
倒れてこられた方の若い女性は、悲鳴を上げる。しかし猿轡をかませられていたのでくぐもった悲鳴しか出ていなかった。
「他の奴らは見逃してやる。もし、攻撃してくるのなら全員殺す。わかったか?」
ガンガンする頭の痛みを無視しながら警告する。
俺の警告を聞いた女性たちはすごい勢いで首を縦に振った。それを見て、シュティアとメルクールに縄をほどくよう指示を出す。2人は縄をほどき始めた。
その間も監視は怠らない。銃は常に6人へ向けている。攻撃しようとしたらすぐに殺せるように。
全員分の縄を外すと、次々と馬に乗って元来た道を全速力で戻っていく。
「……顔、怖い……大、丈夫?」
シュティアが近づいてきて尋ねる。声に気付き見てみると、おびえた表情で下からのぞき込んできた。その瞳には怖い顔をする俺の顔が映っていた。少し離れたところでメルクールもこちらを心配そうに見ていた。
「ああ。大丈夫だ。ありがとう」
「……うん」
大丈夫であることを伝え、シュティアにお礼をいいながら右手で頭をなでる。シュティアは恥ずかしがりながらも嬉しそうな表情になった。メルクールはそれを羨ましそうに見ていた。
シュティアを撫でた後、メルクールをこっちに来いと手招きして呼ぶ。メルクールは、なぜ呼ばれたか分からない表情をしている。近づいたので右手で頭を撫でる。
「へ? え、えぇぇっっっ!」
メルクールが驚きすぎて、声を上げる。
どれだけ驚いているんだよ……
「メルクールもありがとな」
「と、突然なに言っているんですか!」
「お礼だ」
メルクールにお礼を言うと、俺の顔を見つつ焦りながら聞いてくるので答える。その間も頭を撫でるのはやめない。
「そ、それは分かっていますよ!」
「いやか?」
「うーっ……」
嫌かどうかを尋ねると、メルクールが唸りながら上目づかいで、もじもじする。それをシュティアが羨ましそうに見てくるので、手招きして左手で頭を撫でる。
結局2人が満足するまで、4人の死体が転がっている横で頭を撫で続けた。
シュティアとメルクールの2人に、お礼のために頭を撫で終わった後、前衛職の3人から装備を剥ぎ取る。魔法使いの女子生徒の装備は皮装備で、要らなかったので置いて置く。
その間2人とも顔を赤くしてうつむいていた。そのため結局1人で取ることになった。ただ鉱物干渉を使ったので、簡単だった。鉄装備だったので鉄のインゴットに変えてインベントリにしまう。
もちろん死体は放置していく。持って行く価値などない。
回収し終わった後、日本人が乗ってきて残っていた馬に乗って移動する。馬は銃声で逃げていたが、幸いあまり離れていなかったので回収することができた。せっかくいい馬がいるのだから使わないという選択はないだろう。
だが残っている馬は4頭。こちらは3人なので1頭あまる。そのため残った1頭は、つけられていた金具をすべて外して野生に返した。金具がいい値で売れそうだ。
馬に乗ると、メルクールから操作の方法を習う。俺は何とか走らせることが出来るようになった。だがシュティアが上手に乗りこなせていなかったので、全力で走るのではなく駆け足で移動する。
馬を全力で走らせることが出来なかったが、進むスピードは格段に上がった。そのため順調に進んだ。さすがにずっと乗っていると疲れてくるので時々降りて休憩する。
「……すまん……席を外す」
「顔色悪いですよ!? どうしたんですか!?」
「……レイ」
何度目かの休憩の時、俺はシュティア達2人を置いて、少し歩く。
一瞬、2人が付いてきそうだったが、手で制した。
必死になって足を動かすが、おぼつかない。何度か転びそうになるが、今は2人から少しでも離れなければならない。
どのくらい離れただろうか。試しに振り返った。だが、あれほど懸命に歩いたのにもかかわらず、20メートルも離れていなかった。
2人は心配そうにこちらを見ている。
俺は限界だった。頭の中では、先ほど殺した学校の奴らの顔が、出てきては消えていく。
俺に歯をむき出して叫ぶ奴。頭を撃たれたときに、何が起きたのかわからず目を見開いていた奴。恐怖で涙を流しながら見ていた奴。
そして、わずかにだが、生臭い血の匂いを思い出す。
そのたびに、気分がどんどん悪くなっていく。
限界が来たので、俺は倒れ込むように地面に手をついた。
胃が激しく収縮するのを感じる。それと同時に喉を熱い体液が通り、胃の中のものをすべて吐き出すかのように嘔吐をした。
何度も繰り返す。
ようやく収まった時には、体全体から汗がにじみ出ているのに気が付いた。。
インベントリから水の入った袋を取り出すと、顔を洗って口をすすぐ。
水の入った袋を仕舞うときに、布を取り出して顔を拭きながら、立ち上がる。そろそろ出発しなければ街に着かないので、俺はシュティア達2人のところに戻ることにした。
今後も場合によっては、人を殺さなければならないだろう。魔物は獣人のところで慣れた。
だが、人を殺したのは今回が初めて。そして他人の血の匂いも近くで嗅いだのも初めて。
今後も同じようなことをしなければならないとなると、耐えれるか分からない。
慣れようとは思わない。慣れれば、自分の中の何かがなくなるだろう。そうなれば、俺は人ではなくなるのではないかと感じた。
2人に近づくと、心配そうな表情で見てきた。
今の俺の顔はかなりひどいだろう。
「大丈夫だ。出発する」
「でも……」
「しつこいぞ」
俺が出発することを伝えると、メルクールが心配そうな表情で反論してくる。
俺は睨みながら一言だけ言うと、馬に乗って走り始めた。
2人は戸惑ったのか、すぐには来なかったが、俺の走らせる馬に追いつくと、並走する。
その後は誰もしゃべらずにひたすら移動する。
しかし途中、事故が起きた。馬に乗って移動していると、俺とシュティアが落馬した。ただ落ち方が良かったらしく、2人とも骨折どころか怪我さえ無かった。
怪我はしていなかったが、改めて落馬の怖さを思い知った。
聞いた所によると、馬に乗ることがどんなに上手な人でも骨折をしたり、死亡したりすることがあるらしく気を付けたいと思った。