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シュティアとの取引

「できた……」


 獣人の集落に来て5日目。ついにボルトアクション式の銃ができた。

 イメージとしては、第1次世界大戦で使われていたような銃だ。ただ、装填方法は上から入れるのではなく、マガジンに銃弾をいれて交換するようにした。


 この銃は、王都にて作った欠陥品のボルトアクション式の銃ではない。実践で使うための銃だ。もちろん、いつかは壊れる。それより先に世代交代が来るかもしれない。


 本当に作りたいのはアサルトライフルであったり、スナイパーライフルなのだが、今の技術では無理があるのでこれにした。もっといい物を作ろうとすると、さらにスキルを練習する必要がある。それほどまでに部品作りには繊細な作業が必要だ。



 ボルトアクション式の銃を作るにあたっては、薬室付近の部分が特に大変だった。

 簡単に言えば、薬莢を排出する部品がなかなか上手に作れなかった。

 変えの部品なんて思いつかず、かなり苦戦して銃本体を何とか作ることができた。



 今回作ったものは装弾数は10発と少ないが、リボルバーなどの銃弾より明らかに射程が長いうえに、装弾数も多いので問題ないだろう。

 ただ、威力が強くなった分、撃った際の体への負担も大きくなる。


 このままではスナイパーライフルどころか、アサルトライフルでさえ体への負担を心配するしかなくなる。

 そのためいっこくも早くステータスを上げて、少しでも体への負担を軽減する必要がある。


 獣人の集落であるこの辺には魔物はいる。しかしまだ低いが、ある程度レベルが上がっているため強い魔物を探す必要がある。そのためには少し遠出が必要だ。


 この辺りの地形に関しては、少しだが歩き回っているので周辺は把握している。そのためここから少しぐらいなら離れても問題はない。


 インベントリには食料量が3日程度なら入っているので、俺はすこし遠出することにした。

 レベルを上げてステータスを上げるためと、ボルトアクション式の銃を使うためだ。



 俺は貸してもらっている家から出ると集落の入り口に向かう。

 入り口で警戒をしているのか外を見ている若い獣人の人に声をかける。


「すみません。すこし遠出してきます」

「なぜだ?」


 獣人のひとりにそう言って獣人の集落から出ようとする。いつもは散歩してくるというと、わかったといわれるが、遠出となると話は違ってくるようだ。

 そのため止められた。


「ちょっと魔物を狩ろうと思いまして」

「別に魔物を狩るのはいいが、この辺りの魔物は強いぞ。せめて1人は連れて行きなさい」


 俺が訳を言うと、止められはしなかったものの、1人は連れて行くように言われた。

 もちろん俺は1人で行くつもりだ。1人の方が動きやすい。それに獲物に見つかりにくい。その分危険だが、俺には銃があるので問題ない。


 俺はそのことを言おうとして口を開くが、後ろから来た人物に遮られるのだった。


「……私が……付いていく」


 声で分かったが、俺は後ろを振り向く。

 そこにいたのは予想通りの人だった。


「来なくていい。シュティア」


 シュティアはTシャツに短パンのような服装をしていた。

 獣人にとってスピードは大事なため、動きやすい服装だ。だがTシャツに短パンという格好はさすがに危険なため、普段は集落内でしか着ていない。

 そしてその服はシュティアも着ている。色は上が深緑で下が黒色と、森に溶け込むことができそうな色だ。


「……なぜ」

「足手まといだ」


 困惑するシュティアを後にして俺は集落を出ようとする。しかしシュティアに手をつかまれて進めなかった。

 俺はシュティアの方を振り向く。


「なんだ」

「……1人は、危険」

「俺には銃があるから平気だ」

「……それでも、死ぬときは死ぬ」


 シュティアは腕をつかんだままで、どうしても行かせてくれなかった。握力は弱いので、振りほどくなど簡単だ。だが、そうしようとはしなかった。シュティアのいうことも一理ある。

 俺はため息をついた。


「用意しろ」

「……え?」

「ついてくるのだろ? だったら用意しろ」


 俺の言った言葉が分からなかったようなので、同じことを2回言う。

 2回目でシュティアは理解したようで、手を放す。

 しかしその場に立っているだけだ。


「俺は用意しろといったはずだ」

「……出来て、いる」

「出来ているって……まさか、その格好で行くのか?」

「……うん」


 俺の質問にシュティアは頷いた。

 再びため息をついてしまった。先ほどのため息は諦めだが、今回のため息は呆れだ。


 半そで半パンで森の中に入るのはただの阿保だ。森にいるのは魔物だけではない。小さな虫もいる。その虫が毒を持っていたら問題になる。


「……大、丈夫」

「どうなっても知らんからな」


 俺のため息を聞いて、シュティアは言い切った。

 俺は忠告をすると、集落の出口に向かって歩き出す。俺の服装は長そで長ズボンだ。もちろん動きやすい服装。色は黒をメインとして、赤や黄色などの明るい色はない。そのため魔物には気付かれないはずだ。



 獣人の集落を出て、俺はどんどんと森の中を歩いていく。シュティアの様子を見ながら歩いてはいない。自分のスピードで歩いている。

 そのためシュティアが付いてくるのが大変そうだ。だが、勝手についてきているので放っておく。

 おいて行かれたら自力で戻るはずだ。

 方向音痴でない限り……



 15分おきぐらいに休憩をはさみながら、1時間ぐらい歩いただろうか。

 森の中に開けたところが見えてきた。だがそこには先客がいた。声がしたのだ。分かった理由は物音が聞こえたからだ。


 誰がいるか気になったので、俺は物音を立てないように静かに近づいていく。もちろん銃は取り出している。ボルトアクション式の銃だ。万が一に備えて、リボルバーにも銃弾を装填して、インベントリに仕舞ってある。


 近づいたので、物音で誰がいるかが分かった。そこにいたのは人でも獣人でもなかった。そこにいたのは――


「オークの集まりか」


 そうオークがいたのだ。まだ遠いためなのか、うっすらと鳴き声が聞こえてくる。


 俺は物音を立てないように、さらに近づく。人でも獣人でもない、魔物がいると分かれば気が抜けない。常に銃は前に向けて構える。


 さらに近づいて気が付いたのだが、集落ができていた。集落というだけあって、家のようなものもある。

 ただオークが作っただけあって、家はかなり粗末なものだった。家というより、三角のテントと言った方がいいだろう。骨組みを覆っているのはおそらく動物の皮。白色の皮が多く、ところどころ黒色の皮が混じっていた。


 集落の真ん中であろう方向から鳴き声が聞こえてくる。鳴き声からして、かなりの数がいる。優に50匹は超えているだろう。

 すべてのオークを倒すとなると、かなりの重労働だが、かなりの経験値になるだろう。


「……オークの、集落?」

「ああ」


 追いついたシュティアが尋ねてきたので俺は短く答える。


 さてどうやって攻略しようか。

 方法としては、ヒットアンドアウェイを取るのが有効だ。こちらは数十メートル離れても攻撃できるが、向こうは至近距離でないと攻撃できない。

 この方法なら、けがをしなくて済む。


 別の方法としては、木に登るという方法が取れるが、登った木の下にオークが集まって囲まれたら逃げられないし、木を切り倒されたら転落死をするだろう。

 死ななかったとしても、けがをして動けなくなる。そうなればオークに殺される。


「……助け、ようか?」

「なに?」


 シュティアの言った言葉に俺は尋ね返す。まさか助けようか尋ねてくるとは思わなかったからだ。

 もちろん助けてもらえれば楽だろうが、ヒットアンドアウェイをするなら俺1人で十分だ。

 だから俺の答えは決まっている。


「大丈夫だ」

「……足手まといに……ならない」

「俺の考えている攻撃方法は、逃げながら攻撃する方法だ。シュティアがいれば足手まといになる」


 シュティアが訴えてくるが、俺はそういうと撥ね退けて立ち上がろうとした。

 だがシュティアは手首を掴み、食い下がらなかった。


「……1人は、危険」

「お前がいた方が危険だ」


 シュティアがさらに訴えてくるが、俺は撥ね退ける。その間も俺は準備を行う。どこから攻撃を行い、どのように逃げるかを考える。

 先ほど来た道を通る方法が1番だろう。理由としては来る時に通った道なので地形を把握できているから。ただシュティアが逃げないといけないので、この方法はあまりとれない。


「……でも」

「しつこいぞ!」


 しつこいシュティアに向かって叫ぶ。それもうっかり。

 俺の叫び声を聞いて、シュティアが驚いたようでビクッとした。


 だが俺は一瞬だが忘れてしまっていた。ここはオークの集落からあまり離れていない。そのため大声を出せば気が付かれる。

 気付かれ証拠に、オークの集落の方で音が一瞬だが無くなった。その後、叫び声とこちらに向かってくる足音が聞こえ始めた。


「くそ! シュティア、今すぐ下がれ!」

「……でも」

「下がれ!」

「……どうなっても……知らない」


 下がれという俺の叫びに、シュティアは渋々だが村の方へと走り始めた。


 俺はオークの方を向くと、発砲を始める。だがボルトアクション式のため、あっという間に間を詰められる。

 一定の距離は離れているようにするために、撃ちながら下がる。下がるタイミングはすべての弾を

 撃ったタイミングだ。全弾を撃ったタイミングで、後ろに下がりながらリロード。

 空マガジンをインベントリに入れて、銃弾が入っているマガジンをインベントリから取り出して装填。

 そしてその場に止まって振り向くと、オークの集団に向かって発砲。


 もちろんすべて頭を狙って撃っている。

 銃弾の貫通力がいいのか、1発撃てば縦に並んでいるオークは2、3体が一気に倒れる。


 時々、木の根っこに足を取られそうになる。その度にオークに追いつかれるのではないかと、ひやりとする。



 かなり逃げてきたが、何とかすべてのオークを倒すことができた。20体あたりから数えることをやめた。

 オークは、ほとんどオークの集落から一直線になるように倒れている。

 数体だが、起き上がろうとしているものもいる。


 俺はオークの生き残りを始末するために、逃げてきた道を今度は戻る。

 その道中は起き上がろうとしているものは頭を打ち貫いていく。


 歩いていると分かるのだが、かなりの距離を走って逃げてきていることがわかる。さらには完全な一直線ではなく、やや曲線を描いていた。

 そんな中を俺はひたすら歩いていく。



 かなり歩いた。ここまで歩いてくる分と逃げる分。そして生き残りを始末するために歩いた分が合わさり、かなり疲れた。

 だがようやく集落が見え始めた。俺は歩くスピードを速める。


 そしてついに、オークの集落についた。


「かなり残っていたな」


 俺のつぶやきの通り、かなり生き残りが残ていた。全体の詳しい数は分からないが、5分の1は生き残っていただろう。だがそれも終わった。すべて片付けたのだ。

 草が生えていたので、俺はその場に座り込む。もう動けない。銃はインベントリにしまった。もう必要ないと思ったからだ。



 だが俺は完全に油断していた。それはすぐに分かった。


「グォォォォォォ!」


 後ろからオークの鳴き声が聞こえた。俺は慌てて振り向く。そこには1匹のオークがいた。剣を持ってこちらを睨んでいた。


 俺は慌てて立ち上がると、インベントリから銃を取り出す。そして銃を構えると、オークの眉間に合わす。すかさず発砲。


 しかし、オークは距離があるのが分かっており、こちらが遠距離から攻撃できる手段を持っているのも理解していたようで、剣をこちらに投げようとしていた。というよりすでにオークの手から剣が離れようとしていた。


 そのためオークの眉間に銃弾が当たるときには、すでに剣が手を離れており、こちらに飛んできた。明らかに直撃コースだ。


 まずい!

 俺はそう思った瞬間に、体を右側に移動させようと左足で地面をける。


 しかし運悪く、左足が草によって滑った。そのため俺はバランスを崩して体を右に移動できなかった。


 ドスッ!


 鈍い音がしたのち、俺は何かの勢いにより、仰向けに倒れ込む。何の音か分からなかった。

 音のした方に目を向ける。音がしたと思われる場所は、俺の目線より下。

 そのため下を向く。すると、恐ろしいことが起きていた。


 ()()()()()()()()()()()。それも深々と。


 それが分かった瞬間、尋常じゃない痛みが襲ってきた。声が出なかった。すぐに死を悟った。

 あまりの痛みに、俺は何もできないまま意識を手放した。






「……レイ」


 耳元で声がする。

 俺は剣に刺されたはずだ。状態的に死んでもおかしくないような大怪我をしたはず。しかしどこかで聞いたことのある声が近くから聞こえてきた。どうやら俺は生きているようだ。

 目をゆっくりと開く。


 そこに声の主がいた。俺は口を開け、名前を呼ぼうとしたが声が出なかった。

 驚きからなのか別の理由からなのかは分からない。


「……気が付いた」


 シュティアが俺を膝枕するということはなく、頭の近くに立って俺を見下ろしていた。さらにはいつもと違い、口調は零度まで冷え切っていた。怒っているようだ。


「……ミヤザキ、レイ。……私を、信じなかったから……あなたは、死にかけた。そして、今もまだ……傷の治療は……完全じゃない」


 言い方からすれば、俺は死にかけたが、シュティアに助けられたということだろう。だが傷は完全には治っておらず――いや。意識が戻る程度にしか()()()()()()ようだ。

 完全には傷を治してはいないが、命を救てくれたのはありがたいといえばありがたい。しかし大きな痛手もできた。それが――


「……あなたは、私に……借りがある」


 そう。借りを作ったのだ。借りを作ったとなれば大きな痛手だ。俺はその借りを返さなと行けないのだ。


「……もし、借りを返さないと、いうのなら……この場で殺す」


 シュティアの言った言葉に驚きすぎて、俺は息を吸うのを忘れてしまう。

 しかしよくよく考えると、それは仕方のないことかもしれない。俺は命を救われた。その借りは大きい。

 そして俺の命を救ったのは、俺が全く信用していないシュティア。


 俺の今までの態度を考えれば、殺されて当然かもしれない。

 もし俺に心残りが何もなければ、このまま殺される道を選んでいたかもしれない。


 しかし俺にはしなければならないことがある。自分の力で日本に変える手段を見つけるということだ。そのまま死にでもすれば、学校の奴らに笑われることになる。


 俺は借りを返してまで生きる手段を選択するしかない。

 しかし、俺はシュティアの言葉でさらに驚くことになる。


「……でも、私は……借りより、命令をする。それが、借りの……代わり」

「命令……だと?」

「……私を……信じて」


 借りを作るのではなく、俺に命令を聞くように言ってきた。そしてその命令が、自分を信じろというものだった。


 だが、俺は王都で信じていた友達や先生に切り捨てられたのだ。そんなことがありながら、再び人を信じろだと?


「……もちろん、何か理由があるのは……わかる。だから、信じろとは……言わない。

 信じるように……努力、して」


 俺の表情から、渋っていることを読んだようだ。

 そのためだろうか。シュティアは信じろと命令するのではなく、信じるように努力しろと命令してきた。


 もちろん、俺が冷たく当たっているときに、シュティアがそこを指摘したとしても、俺が努力しているといえば努力していることになるだろう。

 そのあたりは、きちんと理解しているはずだ。


 にもかかわらず、そのように言ってきた理由が分からない。


「……私は、レイを……信じる。だから、レイも……私を信じて」


 どうやら、シュティアも俺を信じるから、俺もシュティアを信じる努力をしろということらしい。

 俺はシュティアに確認することにした。


「俺がシュティアに冷たく当たったとしても、信じる努力をしていると言って、嘘をつくかもしれないぞ。それでもいいのか?」

「……私は、レイを……信じている」


 俺が尋ねても、シュティアは俺を信じるとしか言わない。

 俺は諦めた。今回命を救ってもらったことを切っ掛けに、少しずつだがシュティアを信じてみようと思った。もちろん命令に従うことも含めての考えだ。

 俺はそのことをシュティアに伝える。


「わかった。できる限りシュティアを信じるようにする。だが、すぐには信じることはできないぞ」

「……それで、いい。……取引、成立」


 俺の言葉を聞いて、シュティアはうなずくと目を閉じた。そして何かに集中する。

 少しすると、俺の体――特に県が刺さった腹部が優しい光に包まれる。それはものすごく暖かった。


 それが数秒間続くと光が消えていった。体を少し起こして腹部を見る。

 目にはいてきたのは、服の腹部に当たる部分に穴が開いたところから見える、傷一つない腹部だった。

 あまりにも驚いた。まさかここまで綺麗に治るとは思わなかったのだ。


「シュティア。ありがとう」

「……どう……いたしまして」


 俺が起きあがりながらお礼を言うと、シュティアは微笑みながら答える。

 さすがにこれからオークをインベントリに入れるのは大変だ。しかし置いていくと他の魔物のえさになるので、回収せざる負えない。


 俺はシュティアと並びながら、俺はオークを回収しつつ獣人の集団に戻っていくのだった。

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