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獣人たちの村

 俺は夢を見ていた。昔、両親と双子の妹の怜と一緒に山の中のキャンプに行った時の夢だ。自然が豊かだったのは覚えている。


 夏休み真っ只中のとある日。両親に連れられ家族4人で圏外にある少し山奥のキャンプ場へと来ていた。ついたのは夕方近く。そこから両親は着替えやテントの部品などの運搬。俺と怜も手伝う。

 10分も経たない間に運搬が完了。暇を持て余した俺と怜は、小さな川が流れているということでその川に入って遊んだ。


 それから数回のみキャンプに行ったが、学年が上がるにつれていかなくなった。




 ゆっくりとだが、意識が戻ってくる。見ていた夢をぼんやり考える。

 無事に日本へ戻ることが出来れば、キャンプをしに遠出するのも悪くないかもしれない。


 意識がはっきりしない脳をはたらかせるため、数回瞬きをする。

 それと同時に何者かに襲われたことを思い出した。


 状況を確認するため見回す。部屋にいることが分かった。部屋には窓はないが、所々壁の役割を果たしている板と板の隙間から光が入り込んでいる。この部屋は地下にあるわけではなさそうだ。

 監視する人はいない。


 部屋の中は質素。机や椅子、俺の寝ていたベッドが置かれているがその全てが木で出来ている。ベッドは木でできていると言っても、動物の皮らしきものが敷かれていたので体が痛くなっていると言うことはない。


 ふと思い出し見まわすが、シュティアはいない。どうやら別々で捕まっているようだ。

 耳を澄ますと、外から男性の声が聞こえてきたが、声が小さくて何かを言っているか分からない。何かを相談しているように聞こえる。


 起き上がろうとしたが、体にうまく力が入らない。若干だが麻痺しているようだ。

 腕で体を支えながらゆっくりと立ち上がり、体を支えるように壁に腕をついて扉に向かう。扉にたどりつくと、取っ手をつかんで扉を押す。しかし扉は開かなかった。

 引いて開ける扉なのか?


 扉を押すのではなく引くが、先ほどと同様に開かない。何度も試すが一向に開かない。どうやらカギがかかっているようだ。


 そんなことをしていると、誰かが気が付いたらしく足音がする。俺は扉から離れる。外でガチャガチャと音がした後に扉が開いた。


 そこにいたのは、犬のような耳を頭から生やした人――多分だが獣人族の男性。鎧は必要最低限しかつけていない。腰には剣がぶら下げてあった。


「起きたか。族長が話をしたいそうだから出ろ。それと下手な動きはするなよ。お前は招かれた客ではない。こちらはいつでもお前を殺す準備は出来ている」


 獣人の男性が俺を睨むように見てくる。


 俺は頭の中でインベントリに入っている武器を確認。多分だが足りる。つまり戦った場合勝つことが出来る。

 ただ相手の運動神経が未知数。もし俺の想定より動きが良かった場合、俺は負けるかもしれない。

 下手に動かず、指示に従って外に出ることにした。


 木々の間から漏れてくる光に一瞬目を細める。森の中にしては温度が低い。時間帯にして朝だろう。もし本当に朝なら、気を失ったのは昼近くだったことから、かなり長い間寝ていたことになる。


 集落がある場所は森の中だった。家は基本的に地面の上に建てられていた。数軒はツリーハウスのように、木の上に建てられていた。見張りの為の物だろうか。

 見える範囲だけだが、家はすべて木造建築。



 獣人の男性の後ろをひたすらついて行きながら、周りを見回しながら歩いていると、あちこちから住人たちがこちらを見ていた。驚いたことに、犬や猫、兎や虎などのいろいろな種族が混じって生活しているようだ。



 かなり移動すると、広場として使われているのであろう開けた空間が出てきた。

 そしてその近くには大きな建物が建てられてあった。その建物に獣人の男性がまっすぐ向かっていくので続く。


 玄関を入ると、いたって普通の民家のように見える。

 しかし奥の部屋に移ると部屋の真ん中に大きな切り株のテーブルがあった。机の上には水晶のような物が置かれていた。

 そしてその周りにいろいろな獣人が7人座っている。見た目からして、犬、猫、虎、狼、兎、鳥、馬だろう。全員男性で、体毛が濁っているので年配のようだ。


 その人たちが顔を見合わせて話し合っていた。かすかに聞こえる内容を聞くと、俺をどうするかの内容だ。

 幸い死刑宣告は無い。


「連れてきました」

「ご苦労。外で待機しておいてくれ」

「わかりました」


 獣人の男性が声を掛けると、族長のうちの1人が待機命令を出す。俺をここまで連れてきた獣人の男性は一礼して部屋を出ていった。


「とりあえずは座ってくれ」


 犬の獣人が座る様にいうので、俺は丸太の椅子に座る。それを他の獣人が一斉に見る。

 居心地が悪い。


「お主、名はレイだったな?」

「ああ」

「すまんな。こんなことしてしまって」

「謝罪の前に、ここの場所は何か。どうして手荒な方法で、ここに連れてきた理由を教えてもらえませんか?」

「そうだな。理由は……」


 犬の獣人の男性が少し考えるそぶりを見せる。少し考えた後、説明しだした。


 ここの場所は獣人達の住んでいる村。名前はない。


 手荒な方法で連れてきた理由は、ここに外の人を入れると、その人が暴れて獣人に死傷者が出るかもしれなかったから。


 昔から、ここには幾度となく人が来ては、暴れて若い獣人を連れ去った。目的は奴隷にするため。

 本来ならこの村に近づこうとするものは見つけ次第、森の中で殺すのだが、俺が持っていた武器が特殊だったため話し合いをしてここに連れてきたそうだ。


 ちなみに眠らされた理由は、例え2人とも見た目が子供だったとしても油断できないため。今回村に来た者は若い2人と言っても、そのうち1人は特殊な力を持つといわれる異世界人だからだ。


 ちなみに獣人は村に近づいてくる人は殺すが、森の外で人は殺さない。理由はあまりやりすぎると人族に攻撃されるから。森の中で殺すのは隠蔽が簡単だからそうだ。

 つまり俺への攻撃は、メルクール自身の判断で行った。そのことに関しては、獣人の方で処罰が下されると話された。




「それで、なぜ珍しい武器を持っていただけで、ここに連れてきた?」

「それは、とある召喚者が理由じゃ……」

「とある召喚者?」

「詳しい事は、お主のステータスを見て、確証を得てからじゃないと話せない」

「おいおい。簡単に自分のステータスを見せる者がいるかよ」


 俺の質問に獣人の1人が答える。

 しかし返ってきた答えがバカバカしかった。

 ステータスは自分のすべてをさらけ出すことと同じ。なぜ見ず知らずの奴らに教えないといけない?


「どうしても駄目か?」

「仮に駄目だと言った場合はどうする?」

「再び監禁し、主の処罰を話し合わねばならぬ」


 見せなかったら再び監禁されるようだ。

 さらには話し合いが行われ、処罰が決まる。殺されるかもしれない。


「監禁される前に、俺が抵抗するかもしれないぞ?」

「確かにそうするかもしれぬな」

「俺は武器を持っている。剣のように生易しいものではない。この村にいるほとんどの戦力を消し去ることの出来るほどの物だ」


 脅しを半分入れて警告する。そこまでの連射力は無いので、どこまで通用するか分からない。しかしそれなりに被害を出すことが出来るだろう。俺が死んだとしても。ただ死ぬのは回避したい。

 俺の言った警告に別の獣人が答える。その人は猫の獣人だろうか。


「そうかもしれぬな」


 あまりにも落ち着いているのでイライラしてきた。だがここでその気持ちに任せて銃を取り出すのはまずいと分かっている。そのため一度気持ちを落ち着かせる。


「もし、ここで我々を殺したとしよう。お主はその時に何を得るのだ?」

「……は?」

「ここで我々を殺して、お主は何を得るのだ?」

「それは……」


 気持ちを落ち着かせていると、虎の獣人に質問された。

 しかし聞かれたことが分からず、間抜けな声を出してしまった。虎の獣人は再び同じ質問をしてきた。

 そこで俺は言葉を止めた。何を得るか考えるためだ。


 その答えはすぐに出てきた。


「逃げる時間を得る」

「この村には獣人がたくさんいる。必ず捕まって殺されるぞ」


 俺が答えると、猫の獣人が答える。

 俺はさらに答えるのを続ける。


「獣人たちを導く長老を失う」

「獣人は強いものが村全体を導く。我々のような()()()()なんて足手まといだ」


 俺が答えると、牛の獣人が答える。

 まるで犠牲などいくら出てもいいような言い方だ。そのような姿勢にイラッとする。



 対する俺が失うものは良くて武器。悪くて命。こちらに何の得もない。特に日本へ帰ろうと思っているにもかかわらず、命を落とすのはマズイ。俺の取れる決断としては、諦めて相手に従うこと。

 俺はため息をつく。


「……俺はどうしたらいい?」

「では、これに触れてくれ。これはステータスを表示してくれるものじゃ」


 獣人の1人が机の上に置いてあった占い師が使いそうな水晶を指す。どうやら飾りだと思っていた物が、ステータスを調べる物だった。

 手の平を水晶に置く。ほのかに温かかった。

 すると水晶から光が上に伸びる。そしてステータスがSFっぽく、空中に表示された。多分これも魔法なのだろう。

 魔法ってすごい。


 表示さえたものはスキルのみ。これはどうやらスキルだけを表示するものらしい。表示されたものを見ていた長老たちが互いの顔を見ると頷き合う。


「なぜ、お主をここに連れてきたかを詳細に話そう。それはお主にはあやつ。とある召喚者と同じスキルがあるかもしれなかったからじゃ。それはこれを見て確証に変わった」

「同じスキル? もしかして、鉱石干渉か?」


 犬の獣人がここに来た理由を伝えてくる。

 言語理解はここに来た異世界の奴ならだれでも知っているだろうし、インベントリは珍しい武器に関係ないだろう。結果、消去法で残った鉱石干渉だと思ったのだ。


「ああ。あやつはそれで、とんでもないものを作りおった」

「とんでもないものか……それは何だ?」

「異世界では『兵器』と呼ばれるものらしい」


 虎の獣人が深刻な表情で話す。こちらで言う異世界とは元の世界――日本がある世界を指すのだろう。

 兵器と聞いて、どんなものか想像するが思い浮かばなかったので、目線で先を促す。


「それを引き取ってほしい」

「なぜだ?」

「我々には、とてもじゃないが扱いきれん。それに、それが原因で一族が滅びるかもしれんのじゃ」

「滅ぶほどのものであると?」

「ああ。いろいろと厄介なものだ」

「それを俺に渡すと?」


 とんでもないものを擦り付ける――もとい、渡すためにここに連れてこられたと言いたいそうだ。

 こっちはいい迷惑だ。


「で、どこにあるのだ?」

「ここにはない。エルフに預けている」

「そうか……」


 さっさと貰って立ち去ろうと思ったが、どうやら無理そうだ。


「あったとしても渡せん。お主はまだ弱い。弱いとほかの奴らに取られるかもしれん」

「だろうな」


 猫の獣人の言葉を聞き、椅子にもたれかかる。この世界で脅威となる物を簡単には渡せないのは当たり前だ。


「そこで、お主には力をつけてもらう。」

「……は?」

「お主には力をつけてもらう」


 驚いて変な声が出てしまう。虎の獣人は2回同じことを繰り返して言った。

 鍛えるだと?


「いやいやいや! どうやって!?」

「元からの技術を高めるのと、レベルを上げる」

「レベルを上げるのはわかった。技術を上げるのはどうやって?」

「本来ならわしらが教えるべきじゃが、ダンジョンが無いため、レベルを上げることはできん。幸いエルフの郷に訓練できる場所があり、ダンジョンもあるので両方とも可能じゃろう」


 どうやらエルフの郷に行って訓練を受けるらしい。それならいちど街に戻って、必要になりそうなものを買う必要がある。


「それと、魔石を持って行きなさい」

「いいのか?」

「ああ。我々はあまり使わぬゆえ、かなりたまっている。処分に困っておったのじゃ。それにお主の資金にする為じゃ」

「分かった。有難く貰う」


 どうやら魔石を貰えるとの事らしい。話が終わったと思って、立ち上がり掛けると、獣人が少し滞在していきなさいと言ってきた。休息を兼ねて、少しだが訓練を行うらしい。


 俺はそれを了承した。すると猫の獣人が、外で待機していた獣人の男性を呼んで入れる。その獣人に決まったことを話して、魔石がある場所に連れて行くように言った。長老たちはこの後も話し合いがあるようだ。



 魔石は地下室にある壺に入れて保管されていた。その中から良い品質のものを選ぶ。かなりの量があったので、選ぶのが大変だった。最後の方なんて適当に選んだが、いっぱい貰ったので、結局3日ぐらいかかった。


 その間に、暇な獣人たちが時々だが体術を教えてくれた。もちろんレールン王国の騎士団に教えてもらったようにやった。だが怒られっぱなしだった。理由は簡単。

 俺がした動きは、獣人にとって経験が浅い者がする動きであるため。すなわち初心者の動きであると言うことだ。


 そのため俺は1から訓練を始める。やっていて気が付いたが、本当に無駄がない。ひたすら無駄を取り除いたらこうなりました的な戦い方だ。


 そのため最初は、獣人が手加減してもやられっぱなしの模擬戦は、獣人が手加減すると勝てる程度になった。基礎は大事だと改めて学んだ。


 食事については素材をそのまま使った料理。調味料はほとんど使っていないのにもかかわらず、おいしかった。

 風呂に関しては、昼間に近くの池で水浴び。もちろんハーフパンツを履いて。



 獣人のところにいる間も、シュティアはひたすら俺についてくるだけだった。本人は楽しいらしいがわからん……

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