獣人の少女
上手く区切りが付けられず、字数が急に増えたり、減ったりと安定しません。
その辺はご了承ください。すみません。
俺が銃を取り出して騎士団を殺すか、シュティアに魔法を撃ってもらうか。どちらも危険はある。もはや賭けだ。
そんなことを考えていると突然、森から何か小さなものが飛んできた。それが騎士たち三人の首に吸い込まれるように次々と刺さる。
騎士団の人は、自分に何が起きたのか分からないまま息絶えた。
首に刺さっているのは短剣。
騎士団の人に近づいて、首に刺さっている短剣を見ていると、飛んできた方向の森から誰かが出てきた。
森から出てきたのは、目は深い青色でクリーム色の髪をした獣人の少女。耳は犬のものだろう。年は分からないが、15歳ぐらい。幼さが残っている。
距離はまだあるので、大丈夫だと判断して銃はしまったままだ。
「レールンの人間? それとも、別の国の人間?」
「違う。俺はレールンの人間じゃない」
少女が威圧しているような声を掛けてきた。しかし声が高いため威圧されているようには思えない。
俺が日本人と伝えるべきか迷う。ただこの場合は言った方がよさそうだ。相手が人間ならどうにかなるが、相手は獣人と呼ばれるであろう生き物に見える。
「……お前は異世界の人間を知っているか?」
「当たり前!」
「俺は異世界の人間だ」
その瞬間、少女の雰囲気が一気に変わった。敵意をむき出したような雰囲気になる。
嫌な予感がして、とっさに自分の顔の前に左腕で庇う。
なぜそのような行動をしたかは分からない。きっと本能だろう。
それが良かったのか、悪かったのか。
間を置かずに、ドスッと鈍い音がする。気が付くと前に移動させた左腕の前腕にナイフが刺さっていた。遅れて激痛が走る。涙が出るほど痛かった。
平和な日本では、よっぽどのことがない限りナイフが刺さったりしない。つまり慣れていないため、かなり痛く感じる。
余りにも痛かったが、今は我慢する。ナイフの柄を握ると、力いっぱい引っ張る。刺さった時よりも痛かった。痛さというより、熱を持ったように熱かったというほうが正しいだろうか?
だがそれもすぐになくなる。刺さったところが痛み出した。
だが今はそんなことを気にしている暇はない。獣人の少女がナイフを投げてこようとしているのだ。先程は勘で致命傷を避けることが出来た。しかし2度目はそうはいかないだろう。
すぐにインベントリからリボルバー銃を取り出し構える。距離は50メートルほど。狙うには十分な距離だ。
だが左腕はナイフが刺さったため、使うことが出来ないので、右腕だけで構える。そのため照準がぶれる。少女の右足に照準が一瞬だけ付いたため、引き金を引いて撃つ。
バンッ!
驚いたことに、少女は体を軽く移動させて避けた。まるで撃つタイミングが分かっていたかの様に……
もちろん、驚いている暇はない。再び照準を合わせて二発目を撃つ。少女は少し驚いたような表情になっていた。今度はさすがに避けることができなかったようだ。弾は少女の右足に当たって貫通した。
少女はバランスを崩し転倒する。小刀が刺さって痛む腕をかばいながら近寄り、しゃがむと少女の額に銃を突きつける。
「なぜ攻撃をしてきた!」
「異世界の奴は、我々獣人をレールンと同じように奴隷にするからです!」
俺が攻撃してきた理由を尋ねると、少女は悔しそうな表情をしながら答える。
「奴隷に?」
「かわいがると言う理由で、無理やり連れていくのです」
「そうか」
理由が聞けたので銃を額から離す。
だが銃口は、いつでも少女を撃てるように向けておく。
少女は諦めたらしく動かない。気が付くと後ろからシュティアが少し遅れて追いていた。
「……レイ。無茶しすぎ」
「俺が何をしようが、俺の勝手だ」
「……動かないで」
「何を?」
シュティアが真剣な表情で動かないように言うと、俺の左手首を突然つかむ。つかんだところが手首とはいえ、捕まれた衝撃でさらに痛くなる。目の前がチカチカする。
しかし、その痛みもすぐに引いていった。
不思議に思い、傷口を見てみると傷がふさがっていたのだ。
「シュティア? これは?」
「……治療の、魔法」
「使えたのか?」
「……うん」
驚いた。確かステータスプレートには、治療の魔法が使えると乗っていなかったはずだ。
俺はそのことも尋ねることにした。
「ステータスプレートには載っていなかったのに?」
「……うん」
「あと、ありがとな」
余りの出来事に驚きすぎて忘れていたが、お礼が先であることを忘れていたので、シュティアにお礼を言う。
いくら相手が勝手についてきているからと言って、お礼を言わないわけにはいかない。
お礼を言うとシュティアは、はにかんだ。
それを確認した後、すぐに少女に向き直る。少女は何も言わずに仰向けでこちらを見ていた。その目には覚悟をしたものが映っていた。どうやら俺に殺されると思っているのだろう。
「シュティア。すまないが、こいつの足を治してやってくれ」
「……わかった」
そういうと、背中に隠れて覗いていたシュティアが少女の方へ手のひらを向け目を瞑る。すぐに少女の足にできた傷がきれいに消える。
それを見て少女が驚いた表情をした。殺そうとした相手が、自分をたすけるとは思わなかったのだろう。少女は座りなおすと、こちらを見てきた。
「なぜ治してくれたのですか?」
「攻撃してきた理由が分かったから。それに治したのは俺ではなくシュティアだ」
「あたしはあなたを殺そうとしたのにですか?」
「死んでいないから問題ない」
少女は唖然とすると突然笑い出した。笑い終わると少女は立ち上がった。身長は俺よりかなり小さかった。シュティアよりも低い。中学生ぐらいの身長だろうか。
「変な異世界の人間」
「悪かったな」
「あたしはメルクールです! 種族は狼人族です!」
「犬じゃなかったのか……」
「どう見ても狼の耳でしょ!」
少女が元気よく名乗った後、種族を教えてくれた。そのときに衝撃の言葉が出てきた。まさかの狼人族だった。どう見ても耳は犬の耳に見える。
なんて思っていると、殺気が飛んできたので考えることをやめた。
「俺は零。京崎零。で、こっちが勝手についてきているシュティア」
「こんにちは」
「……こんにちは」
メルクールが名前を名乗ったので、今度はこちらが名前を名乗る。シュティアとメルクールがお互い軽く挨拶をする。シュティアは相変わらず背中に隠れている。
だが、勝手についてきていると言われた部分が気に入らなかったらしく、腕を強く握ってくる。
今すぐやめろ。地味に痛い。
「傷は治ったが、あまり無理はするな」
「む、無茶はしませんよ!」
メルクールに今頃だが注意をしておく。幸い、まだ無茶な動きはしていない。
「本来なら銃弾なんて、ひょいひょいと避けますから!」
「ちょっと待て! 銃弾を避けることが出来るのか?」
「当たり前ですよ! 私を何の種族だと思っているのですか!」
驚いたことに、本来は銃弾を避けることが出来るというのだ。
その方法があるのならぜひ聞きたい。
「あ。でも、避けると言いましても、どの方向を向いているか、いつ撃って来るかを判断して避けているだけですがね」
「あー……なるほど……」
こちらから聞く前に、どのように避けるかを教えてくれた。しかし気付いたが、教えてくれた方法は視力がいい獣人しか出来そうにないものだ。
だがここで1つ疑問に思う。攻撃を避けることができると言っていたが、先ほどは2発目の銃弾に当たっていたのだ。これでは1発目は、たまたま避けることが出来たのではないかと思ってしまう。
「待って下さい! 銃が連続攻撃できるなんて思わなかったから当たったんですからね! 私が油断しただけで、本来なら勝っていました! だからこの勝負は引き分けです!」
どうやら考えていることがばれたようで、メルクールは頬を膨らませながら怒ってくる。あんまり怖くはなかった。むしろかわいかった。
もちろん、かわいいと言っても、幼女に興味は無い。
だが、後半にいったことは無茶苦茶だ。こういう奴はいつか命を落とすだろう。
まあ、俺には関係ないから放っておくが。
それよりも問題は、どうやって分かれるかだ。さっさと進めるところまで進みたい。
運が良ければ、騎士団の奴らのせいで別れた馬車の集団に追いつくことができるかもしれないからだ。
「これから、一度私たちの集落に来てもらいたいのですが、いいでしょうか?」
「突然だな……」
頭の中でメルクールとどう別れるか考えていると、メルクールから思いもよらない言葉がきた。シュティアをちらりと見ると、こちらを見ていたので、任せるという意味だろう。
「少し気になることがあって、部族の中で会議をしたいのです」
「で、俺もいた方がいいと?」
「はい! お願いできますか?」
メルクールが理由をはなす。向かう先を急に変更することにしたため、再びシュティアを見る。シュティアはこちらを見ると首をコクンと小さく縦に振る。どうやら大丈夫らしい。
「分かった。行こう」
「では、ついてきてください!」
シュティアに確認できたのでついていくことを伝える。するとメルクールは、ついてくるように言うと、さっき出てきた森の中に入っていく。それに続いてシュティアとともに急いでついていく。兵3人は放置していくことにした。魔物に食べられるかもしれないが、知ったことではない。
森の中は歩きにくかったが、先行するメルクールが歩きやすい所を選んでくれているのか、あまり疲れなかった。といっても歩きなれないので、途中に休憩を挟む。休憩を挟んでいても、シュティアは体力が少ないようで、すぐに息が切れる。
移動の途中、何度か魔物が襲ってきた。と言ってもオオカミの魔物だったため、サクッと倒す。もちろん魔石を回収するつもりだったが、迷宮と違って魔物は消えなかったので、魔石を取り出すには解体する必要があった。そもそも解体の仕方が分からないので、魔物の死体ごとインベントリに入れる。街に行ったときにでも解体してもらおうと思う。
どのくらい歩いたか分からなくなってきたころ、あたりの気配が変わった。正確に言うと、気が付いたら静かなっていたのだ。鳥の声もしなくなっていたのだ。
「あとどのくらいだ?」
ひたすら歩くだけになったので、余裕ができ尋ねる。後ろを見ると、シュティアが限界そうだ。
「もう少しです」
メルクールは、前を向いたまま答える。
王都で一度地図を見たが、ここの森はかなり大きかった。樹海だろう。下手をすると、一番小さな国と同じくらいの面積があるかもしれないような大きさだ。そしてこの森にはエルフを獣人が住んでいるという情報もある。
実際、俺の前を獣人が歩いているが……
その時、右側から枝が折れる音が聞こえる。普通なら聞き逃しそうなぐらい小さな音だが、鳥一匹も鳴かない状態なので何とか聞こえた。
「メルクール? どうした?」
「な、なんでもありません。急ぎましょう!」
メルクールの体がピクリとなったが、何事もなかったらしく、そのまま歩いて行く。その後ろを俺とシュティアはひたすらついて行く。
再び音が鳴った瞬間、再び少しだけメルクールの肩がピクリとなった。
多分だが、何か隠している。それも何かよくないことを……
俺は何を隠しているのか尋ねようとしたが、尋ねる必要はなかった。
その答えはすぐに分かったからだ。
「!? レイ……逃げて……」
「シュティア? シュティア!」
後ろからシュティアの声が聞こえてきたと思って振り返ると、シュティアが倒れるところだった。幸い、すぐ近くをついてきていたため、地面に倒れこむ前に受け止める。その時に、シュティアの手から何かが落ちたが気にしている場合じゃない。
「シュティア! シュテイア! 目を覚ませ!」
焦ってシュティアに声を掛けるが、目を覚まさなかった。急いで首に指をあてて脈を診る。きちんと脈は打っているので死んではいない。
すると、ふいに寝息が聞こえてきた。どうやら眠っているらしい。しかし一体なぜ突然眠り始めたのだろうか。
「すみません。こうするしかなかったのです……」
声が聞こえてきたのでメルクールの方を見る。こちらを申し訳なさそうに見ていた。
メルクールに気を取られている間に、首に何かが刺さる。急いで抜いてみると吹き矢の様なものだ。
そこまでしか考えることができなかった。俺は襲ってくる睡魔に勝てずに深い眠りについたのだった。