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準備と出発と呼び戻し

 意識が浮上してきたのが分かった。目を少し開けると窓から差し込む光に気が付く。どうやらすでに朝のようだ。だが眠たいので再び目を閉じる。


 しかし突然、閉じようとした目の隙間から腹部あたりの布団がごそごそ動くのが見えた。腹部が勝手に動くなんてちょっとしたホラーだ。それが原因で一気に意識が覚醒する。ごそごそと上に上ってくる。俺は身構えた。


 すると布団から少女が顔を、ひょっこりと出すと俺の顔を覗きこんできた。


「……レイ……朝」

「そうだな。……それより何している」

「……ツンツン」


 朝一番の声を掛けながら、シュティアが頬をツンツンしてくる。すごく楽しそうだ。

 ツンツンされる方はすごく迷惑だ。


「そのぐらいわかる。どいて」

「……やだ」

「どけ!」


 拒否するシュティアに向かって俺は声を少し大きくすると同時に頭の上へチョップを落とす。頭を押さえながら俺の上から転げ落ちるシュティア。壁の方に転げ落ちたためにベッドからは落ちていない。


 昨日はシュティアが寝る邪魔をしてきたため、俺はなかなか寝付けなかった。結局寝たのは深夜を過ぎていたと思う。

 最終的にシュティアが寝落ちしたので俺は本来シュティアが寝るはずだったベッドで寝ることとなったが、どうやら先に起きたシュティアがもぐり込んだようだ。




「……今日は、どうするの?」

「そうだな……。明日にはここを出ていくから、食べ物と服の準備だ。それにインベントリに入っている物をギルドで売却するぐらいだ。どこか行きたいところはあるか?」


 寝癖を直すなど出発の準備をしていると、シュティアが聞いてきたので予定を伝える。少しでも早くここを出ていきたいが、着替えが少ないので今日のうちに買いに行くことにした。

 食べ物と服を買いに行く以外には、インベントリに入っている物をギルドで売却することと、街を少し見て回ることしか考えつかなかった。


「……ない。レイに、ついていく」

「そうか。じゃあ出かけるか」


 したいことがないとの返事が来たので、軽く返して部屋を後にする。

 

 まずは鍵を預けに受付に向かう。

 朝食を食べようと思ったが、受付で朝食を出せる時間は過ぎていると説明されたので仕方なく近くの店で食べることにした。インベントリには入っているが、それは街の外で食べるようなので食べないで置く。


 鍵を返す時に受付の人が何かを察したように、ニコニコしていた。

 この人が想像することは何もしていない。




 受付の人に鍵を返して、朝食をとるために街の中を移動すことに。


「……どうしたの?」

「何でもない。それよりも朝食を食べに行くぞ」


 どうやら、受付での事を考えていたら難しい顔をしてしまっていたらしく、シュティアが声を掛けてくる。問題ないことを伝え、朝食を食べるために店を探しに行く。


 ちょうど近くに良さそうな店があったので、そこに入って朝食をとる。朝食なので重たいものは食べない。

 薄くスライスして焼いたお肉に、目玉焼き。サラダに果物を絞ったらしいジュースを頼んだ。



 店で朝食を食べ終わると、冒険者ギルドに向かう。もちろん登録するのではなく、昨日捕った獲物を売るためだ。


 登録した方が高く買ってもらえるそうだが、登録しないで買い取ってもらう。すべて売り払ってお金を受け取る。合わせて銀貨3枚に銅貨2枚を貰った。


 ついでに近くにあった掲示板で、明日の朝に出発する馬車を確認することに。できれば今日の方が良かったが、誰かさんのせいで寝過ごした。


 掲示板で確認した結果、明日の朝に出発する馬車のうち、1団だけ南下する馬車に乗れそうだったので、それに乗ることに。それ以外は王都行きなど、王都から距離を取ることが出来ないような馬車。

 確認が終わるとギルドから出ていく。何人かの冒険者はこちらを見ていたが、絡んでくることはなかった。



 次に向かったのは衣服屋。

 昨日、狩をしていて気が付いたが、シュティアの服は貰った物のまま。そのため新しく買わなければならなかった。しかしついつい狩を続けてしまい、買いに行くのをすっかり忘れていた。そのため今から買いに行くことにした。ついでに俺の服も新しくする。


「シュティア。俺、服選ぶこと苦手だから勝手に選べ」

「……え? いいの?」

「と言っても動きやすい服で、そこまで高くないやつだ」

「……うん。わかった」


 俺がそう言うと、シュティアは店の中をうろうろし始めた。

 それからが長かった。店の中をあっちに行ってはこっちに行っては、あれではない、これではないといろいろな服を見ていた。ここでようやく気が付いたことがある。


 異世界でも女性は買い物が長いと。



 結局1時間近くかかって選んだ服は、絹でできた薄い紫色のTシャツの様なものと、丈が膝までの白いスカートだった。購入するとすぐにシュティアは着る。その他にも予備の服を買った。

 冒険者の女性に貰って、着ていた服はインベントリにしまっている。


 ついでなので自分の服も数着買っておく。この世界であまり目立たないものを選んだ。また俺は日本人と言うことで目立つ。そのため目立たないようフード付きの黒いコートも買っておく。すべてインベントリに入れた。

 代金は合計で銀貨11枚が飛んだ。そのうちシュティアの服だけで銀貨6枚払った。


 女性の服ってなんでこんなに高いのだろうか。

 まあ、シュティアは喜んでいるから良いが。



 その後、適当に街をぶらぶらした。相変わらず周りからの目はある。その時ようやく気が付いたことがあった。気が付いた理由は、近くを通った時に聞こえてきた声だった。


 聞こえてきた内容は簡単にまとめると、

 ・あれが異世界の奴か

 ・髪が黒いからわかりやすいな

 ・日本人に気をつけろ。殺されるぞ

 ・なぜここにいるのだ。王都にいるはずなのでは?

 ・今回は600人が召喚されたらしい


 どうやら黒髪が原因でバレたようだ。


 一部の人は召喚された日本人に殺されると話していた。どうやら過去にも召喚されたようだ。また歴代の召喚された人あたりが何かしらやらかしており、それが原因で日本人に殺されると思われていると思っていいだろう。

 

 もちろん俺だって極力人の命は奪わないつもり。

 だが今後移動するにあたって、俺の銃を力ずくで取ろうとしたり、攻撃をしてこようとするものは現れるだろう。

 その際は躊躇なく殺すつもりだ。




「シュティア。俺の髪の色はどこに行けば変えられる?」

「……?」


 こちらを見てくる目が嫌になって来たので、本当は嫌だが髪の色を変えることができるかをシュティアに聞いた。聞かれた本人は首をかしげる。


「俺は異世界の人間だろ? それが髪の色でバレる。どうにかしたい」

「わかった。来て」


 そういうシュティアについていくと、近くにあった路地裏に入っていった。裏路地と言えば悪いイメージしかない。そのためかシュティアが何か良からぬことを考えているのではないかと思ってしまう。念のためリボルバーをインベントリから出しておく。


 結果だけ言うと、シュティアは俺の髪の色を魔法で変えた。髪の色はこの世界で一般的な茶色。変えるときにシュティアが、「自分とお揃いがいい」と言って白を押してきたが、それでも目立つので本当に目立たないであろう茶色を押し通した。


 ただこの時すごく気になったのだが、なぜシュティアはこのような魔法を使えたのかと言うこと。ステータスプレートには表示されていない。にも拘わらず使えたことに疑問を抱くしかなかった。

 ただ何かしらのことをシュティアが隠しているのは分かった。ただそれを尋ねるようなことを俺はしない。



 まだ昼食には早いので街を見て回ることに。髪の色を変えたと言うことで先程よりは人の目は感じない。

 適当にぶらぶらしていると、広場に行きついた。


 近くに露店がでていたので、そこで昼食にする分をいろいろと購入する。串に肉を指して甘辛く焼いたもの。黒パンに野菜をはさんだもの。シチューのようなスープなど、かなり多く食べた。

 シュティアはスープが気に入ったようだった。



 午後には、旅の間に食べるものを買いに周る。

 途中、道端で芸をしている人を見つけたので見ることにした。蛇を使った芸でテレビでしか見たことがなかった俺には新鮮だった。笛を吹くと蛇が壺から出てきて、くねくねと踊る芸だ。



 その後もいろいろなことを見て回った。出店で魔法道具を売っている店。アクセサリーを売っている店など数多く。


 そんなことをしていると、あっという間に夕暮れ時になったので宿へ。朝出てきた宿とはまた別の宿。

 お金を払い夕飯を食べる。昼にたくさん食べたので、夕食は軽く済ませた。


 その後、お湯を貰って交代で部屋を使い、体を拭くと早めに寝た。明日は予定通りこの街を出ていくつもりなので、早く起きて馬車に乗らなければならない。幸い今日はシュティアが寝る邪魔をしてこなかったので、早く寝ることができた。




 翌日、昨夜は早く寝ることが出来たので、俺は寝坊することがなく起きることができた。

 しかし……


「スー。スー。レイ……そこ……だめ……」

「……」


 シュティアが寝息を立てながら寝たままだ。その上どんな夢を見ているのかは分からないが、寝言を言っている。寝言が気になってしまい、シュティアが自然に起きるまで寝言を聞いていたくなる。

 

 もちろんこんなことをしていたら、いつまでも寝ていそうなうえに、馬車が出てしまいそうなので起こすことにした。


「起きろ。朝だぞ」

「んんっ……もうちょっとだけ……」

「間に合わなくなるから!」

「……あと、ちょっと」

「いい加減起きろ!」

「痛い……」


 何回も起きろといったのに起きなかったため。頭にチョップをする。シュティアは、うるうるした目でこちらを見てくる。俺はシュティアの手を引いて朝食を取りに行く。


 本当に世話が焼ける!




 受付で鍵を返した後、猛スピードで朝食を摂ると、すぐに馬車が集まる所に向かう。いくつかの馬車は、すでに出発の準備が終わっており、あとは出発の時間まで待つだけになっていた。

 その中からギルドの掲示板で見つけた、南に向かう馬車を探す。幸いすぐに見つけることが出来た。物資を載せる用と乗客を乗せる用、2種類の馬車が全部で数台の編成の集団。


 この集団が向かうのは隣の国【アルール王国】。手続きを済ますと馬車に乗る。価格は2人で銀貨8枚。そろそろお金をどうにかしないと一文無しになる。



 馬車がゆっくりと動き始める。門の前で一度止まり出ていく手続きを行う。入ってきた時と同様に兵士が1人1人を確認。その後レールン王国とアルール王国の国境近くにある街【エリーノ】に向けて出発する。日数は3日かかり、そこから国境までが1日かかる。


 馬車の中でのんびりしながら、同じ乗客の人とおしゃべりという名の情報収集を行った。



 1番興味深かった情報は、日本人の扱いに関して。

 この世界は大きく分けて3つの勢力に分類されることについてだ。


 1つ目は、異世界召喚者賛成派だ。この派閥は召喚者の力を借り、魔王を倒そうと考える国が集まっている。召喚者は、この派閥に入っている国で貴族ほどでもないが、ある程度は優遇される。例えば貴族が使うような浴場が使える。食事や宿泊施設が安くなるなど。


 2つ目は、異世界召喚者反対派だ。この派閥に入っている国は、召喚者の力を借りないで、この世界の人の力だけで魔王を倒したり、街の防衛をしたりしようと考える国。だからと言って召喚者に対して冷たいわけではない。かといって優遇したりもしない。一般人として扱っている。


 3つ目は、異世界召喚者中立派だ。現段階では、どちらが良いか分からないため、中立として動いている国が集まっている。と言ってもその数は少ない。召喚者の扱いは、異世界召喚反対派と同じような感じだが、場合によっては優遇してもらえる。


 現在いる国は異世界召喚者賛成派の主導国で、向かっている国は異世界召喚者反対派の主導国。この2国はあまり仲が良くないらしい。さらに2国が隣接しているので、ピリピリした雰囲気が絶えず怒っている。



 その他にもいろいろと情報を貰った。といっても、これから向かう街『エリーノ』についてだ。興味深い情報は無かったので聞き流していた。


 情報のお礼として、昨日買っておいた食べ物の中から良さそうなお菓子を選んで、情報をくれた人の子供である幼い2人の兄弟にあげる。2人の兄弟の親はお礼を言ってくれた。

 借りはその場で返して置いた方が、今後面倒なことにならなくていい。


 兄弟の姿を見ていると、怜の事を思い出し、鼻の奥がツーンとしてきたため、外の景色を見る。その時にシュティアが俺の事を見ていた。

 まさか気が付いていないだろう。


 その後も順調に進んで、野営予定地だったところまで進んだ。草原のため魔物がきても、いち早く気が付くことが出来て、戦いやすい所だ。そこで晩御飯として保存食を食べた。干し肉に、乾燥させていた野菜を水で戻したスープだ。おいしくなかった。


 こうして2日間は無事に終わった。



 しかし、問題が起きたのは3日目の昼だった。

 森のすぐ近くでのんびりと大休憩で食事をする。食事が終わると乗客はそれぞれの馬車に乗り、護衛の冒険者は配置につく。それぞれの準備ができて出発しようとしたら、後ろから馬が3頭来たのだ。よく見るとレールン王国の近衛騎士だったため、出発しようにも出発できなかった。


「ここに、レイというやつはいるか!」

「俺が零だ」


 3人の騎士が着くや否や、頭の装備を外すと俺の名前を呼んだので馬車を下りて答える。かなり力が強そうな人だった。面倒ごとになりそうなのは、目に見えている。


「お前に話がある。馬車は出発していい」

「ですが、その人からお金を貰っているので……」

「大丈夫です。受け取っておいてください」

 騎士に話しかけていた商人に、お金は受け取っておいてと言う。すると申し訳なさそうに一礼すると馬車に乗り込み、出発していった。その様子を少し見た後、騎士団のうちの1人がこちらを見てきた。


「女王陛下からの命令だ。今すぐ王都に戻れ」

「なぜだ?」


 使えないということで、追い出すという判断をしていた女王が、急に戻って来いと命令してきた。追い出すような姿勢だったにもかかわらず、突然手のひらを返したかのような態度。そのため少し強い口調になった。

 俺の態度が気に入らなかったようで、騎士団の人は眉間にしわを寄せた。


「女王陛下が呼んでいるからだ。訳は直接お尋ねしろ」

「拒否は?」

「お前ごときに拒否権はない」


 尋ねたが、呼んでいるからという理由で済まそうとする。戻る気がないので拒否できるか聞いたが、無理と返ってきた。

 戻れと言われても戻るつもりはない。それに学校の奴らの顔など2度と見たくない。あんな奴らは仲間でも何でもない。



 銃を使えばこの場で3人を簡単に殺すこともできる。だが3人全員を殺す間に俺が殺される可能性がある。相手は騎士団だ。そのため強いだろう。いや、強い。


 銃を取り出す間に接近されて、剣で切られる。もう少し距離があれば、接近されるまでに撃って殺すことが出来るだろう。

 無理そうなので、別の方法を考える。だが時間が必要だ。時間を稼ぐ方法が必要だ。


「騎士団の人なのに、理由を教えられていなとは笑えるな?」

「なぜ笑えるのだ?」


 時間を稼ぐために、話をすることにした。あまり怪しまれないように気を付ける。見事に乗ってくれた。

 だが、これが時間稼ぎのために話していると分かっているかどうかは分からない。

 俺は話を続ける。もちろん、その間も頭の中では逃げる方法の案を考える。


「教えられていないということは、信用されていないということじゃないか」

「我々は信用されている!」

「じゃあ、なぜ教えられていないんだ?」

「我々に教える必要が無いと考えられたのだ!」


 完璧までに乗ってきてくれた。このまま話を続けて時間を稼ぐ。

 シュティアの魔法で倒してもらう方法を思いつくが、欠点が出てきた。距離が近すぎるため、こちらまで被害を受けるだろう。別の方法を考えるしかない。


 俺は騎士団の人と話して時間稼ぎつつ、頭の中で良い解決策を考える。

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