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謎の少女

 隣で誰かが動く気配がする。今泊っている宿の部屋には俺1人しか泊まっていないはず。侵入者だ。

 そう思った瞬間意識はすぐに覚醒する。


 腹筋を使って上半身を起こすと同時にリボルバーをインベントリから取り出す。それと同時に銃口を謎の侵入者へと向ける。そこでようやく1人で泊まっていたのではないことを思い出した。

 完全に忘れていた。


「気が付いたか。大丈夫か?」


 森の中で拾った少女に声をかけながら、インベントリにリボルバーをしまう。ざっくりとした時間を確認するため窓の外を横目で見る。外はとっくに日が昇って明るいので朝であることはすぐに分かった。少女はベッドの上に座ったままで、周りを見渡したあとこちらを見る。


「……大、丈夫。……ここ、は?」

「ここはハルーフにある宿だ」

「……ハルー、フ? なぜ、ここに? 森で、倒れた、ような」


 物音がしていたら聞き逃してしまいそうな声で話す。

 少女は大丈夫というのでとりあえずは一安心。例え体調が悪いと言われても、医者じゃないからどうすることもできない。できることは薬を買うぐらいだろう。

 心の中で、治療に当たってくれた人に感謝をする。もし会うことがあればお礼を言いたい。

 

「森で倒れたことは覚えているのか」

「……うん」

「なぜ、森で倒れたの?」

「……分から、ない。気づいたら、森に、いた」


 昨日から疑問に思ったことがあったので少女に尋ねると答えてくれた。

 森で倒れたことは覚えているようだったが、森で倒れた理由が分からないときたか。お酒を飲んで酔ったため、森に行ってしまったなんて考えられない。


「その前はどこにいたか覚えているか?」

「……分から、ない。何も、覚えて、いない……」

「名前は?」

「……名前は……シュティア。それが名前」

「名前はわかるのか……」


 ここまでの質問のうち、森で倒れていたことと名前しか覚えていないことが分かった。

 さらに質問を行うことにした。


「じゃあ、出身はわかるか?」

「……わから、ない」

「うーん……じゃあ、親は?」

「……わから、ない」


 医者じゃないので、自分の名前以外は分からということは記憶喪失か判断していいのか分からない。


「あー……わからん! とりあえず、朝食を食べに行くか」


 あまり詮索するのはよくないと思ったので、質問を止める。

 かなり尋ねてしまったが……


 俺と少女――シュティアは身支度をして、朝食を食べに行くことにした。森からこの街までの数日間寝ていたとはいえ、お腹は空いているはず。

 だがシュティアを見つけた時には、付近には荷物が一切落ちていなかった。お金があれば個別で払うことを考えたが、それは無理そうだ。見ず知らずの奴にお金を貸すのは気が引くが、俺が払ってやることにするか。

 

 朝食は宿の食堂でとった。ヤギのミルクにパン、薄く切って焼いた肉だった。食事中はお互い何も話さないまま進む。


 朝食を取ったあと部屋に向かう。もちろん目的は1つだ。


「それじゃあ、これでお別れだな」

「……え?」


 イスに座り迎え合わせで別れを告げる。俺が言った言葉に、シュティアが驚いた顔をする。

 本当は放って置いて行くのはまずいだろうが、俺は食事をしているときに、連れて行かないことを決めていた。というより、俺が預かることになった時から決めていたが。


 理由だが、俺は日本に戻るための手段を探している。見つかるまでに、たくさん銃を使うはず。その便利さに気が付いた、今は中立であろう此奴が銃を盗むかもしれない。それは困る。

 何より俺の持っている銃はこの世界にバランス崩壊を招く。俺のせいで世界が壊れたなんて、そんなことは防ぎたい。


「なぜそんな声を出すんだ? 当たり前だよな?」

「……なんで?」

「まさか、ついてくるつもりだったのか?」

「……うん」


 俺はシュティアの返事を聞いてため息を付く。ある程度は食事中に予想を立てていた。シュティアは記憶がない。そのため1人なのは心配なのだろう。

 俺は解決案を提示することにした。


「ギルドかどこかで、パーティーに入れて貰え」

「……なんで?」

「パーティーに入れば、お前は保護してもらえる。俺はお前を保護しなくていい。まさに両者の思いをかなえるいい案だからだ」


 俺は解決案を提示した。俺はシュティアが断りはしないだろうと思った。まさに言った通り、両者の思いをかなえることが出来る案だ。

 しかし……


「……やだ……ついて行く」


 嫌と言ってきた。俺は肩を落とす。ここまでいい案を却下すると思わなかったからだ。

 さらに、ついて行くと言い張る。俺は案を出すのではなく、質問することにした。


「なぜだ? 一体俺には何のメリットがあるんだ?」

「……仲間がいると、楽しい。夜も、さみしくない」


 そう言いながら、ペロリと唇をなめる。どこか、妖艶な雰囲気を出している。そんな様子を見て、ため息を付く。嫌な予感しかしない。


 さらには『仲間がいると楽しい』ときた。そんな言葉を聞いて笑いそうになった。俺は仲間と思っていた奴らに殺されかけた。それのどこが楽しいのだろうか?


「それだけか? メリットは?」

「……だめ?」


 俺は怒鳴りそうになるのを押さえて再び尋ねると、メリットが思いつかなかったのか、シュティアは聞き返しながら悲しそうな表情をする。普通の俺なら可愛いと思っただろう。しかし今の俺は違う。

 俺はシュティアに一言だけ告げる。


「駄目だ」

「……お願い」

「駄目だ」

「……お願い」

「駄目だ」

「……ついて、いく」


 俺が駄目だと言っても、シュテイアは一歩も引かない。最後はお願いではなく、ついていくと来た。

 俺は次にいうことを考えていたら、何かを考えて居たシュティアは口を開いた。


「・・・まだ、恩返しが、できていない。だから、ついていく。だめって言っても、ついていく」


 今まで話した中で一番長く話した。シュティアはどうやら話すことが苦手らしいが、必死さが伝わった。俺意外について行く気はなさそうだ。もちろん引かない。


「恩返しなんていらない。何よりお前がいると邪魔だ」

「……ッ」


 俺の言い方が強かったのか、体をびくりをさせ怯えたような表情になる。もちろん罪悪感なんてものはわかない。


「話は終わりだ。数日分ぐらいの宿の金と食事代ぐらい払っておいてやるから今後のことでもゆっくり考えてろ」


俺はそう言うと部屋から出ようとする。だがそれより先にシュティアが言葉を絞り出すかのように出す。


「……たすけて。1人……なの……」


 1人。

 その言葉を聞いてしまったためか、俺は足を止めてしまう。


俺は1人で日本へ帰る方法を探す。もちろん誰の手も借りず1人で。それは俺が望んだこと。

だがシュティアは望まず1人になっている。周りには誰も助けてくれるような人はいない――ことはないと思うが、危険は伴うだろう。


シュティアの状況が俺と似ており、つい足を止めてしまった。

悩むことなどない。放って置け。心の中で自分に言い聞かせても踏み出せない。


そうこうしているうちに再びシュティアが声を絞り出す。


「……お願い……します」

「わかったよ! 連れていくよ!」

「……! ありがと!」


 絞り出すかのように言ったシュティアの言葉を聞き、俺は折れる。

 振り向くとシュティアはほっとした表情をしているのが見えた。もちろん先に言っておくことは言っておく。


「抜けたくなったら勝手に抜けろ。俺は知らん」

「……大丈夫……ずっと、一緒」


 俺の言った言葉にシュティアはほっとした表情のまま頷く。

 シュティアの感じからすると、本当にどこまでも付いてきそうだ。こいつが足手まといにならなけらばいいのだが。


 一度ベッドの淵に座る。もちろんお互いが寝ていたベッドに別々に座る。


「……名前、なに?」

「俺は京崎零。零と呼んでくれ」

「……苗字がある。貴族?」

「いや。召喚された異世界の人だ。異世界の人は平民でも名前を持つ」

「……異世界の人」

「ともかく、よろしくな」

「……うん。よろしく。レイ」


 そんな感じのやり取りをした。もちろん俺の目的が元の世界に戻ることであることも伝えた。極力この世界には関わらないようにしながらということを。



 その後教会へ向かうことに。シュティアの職業が分からないため、ステータスプレートが必要だった。本人が持っているとよかったのだが、無いので教会で購入することにした。


 そのことを伝えて、出発の準備をする。と言っても、あまりすることがなかった。

 教会でステータスプレートを買う理由は、ギルドに買いに行くと変な奴に絡まれそうだったからだ。テンプレを避けるということ。無駄なことはしたくない。

 ちなみにステータスプレートを変える場所は宿の人に聞いた。


 宿を出て教会へと向かう。

 宿から離れており大変だったが無事に見つかった。教会の外装は白一色で統一されていた。内装に関しては、ステンドガラスが使われているため神秘的だ。


「ようこそいらっしゃいました。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 観光に来たのではないので教会にいた神父に近づく。長く白い髪と口ひげを生やし優しそうな表情をしている高齢の男性だ。シュティアはきょろきょろしていたが、すぐに追い付く。


「こいつのためにステータスプレートが必要だが、売っているか?」

「ありますよ。少しお待ちください」


 シュティアの為にステータスプレートが必要ということを伝え、購入する。価格は銀貨5枚。まあまあ高い。



「ほら」

「……うん」


 外に移動して、早速確認することにした。シュティアがステータスプレートを渡す。

 シュティアは俺が使ったように使用した。針は俺がインベントリからさりげなく出して渡した。本人は気が付いていないようだった。



 ステータスが表示されたようなので、俺は横から覗く。種族は当たり前だが見た目通り人族。年は16歳。性別はこれも当たりまえだが女性だった。

 職業は魔法使い。普通の職業だった。レベルはもちろん1レベル。


 ステータスに関しては、全ての物がこの世界の平均の2倍。つまり20はあった。スキルについては水魔法と火魔法が使えるが、両方とも初級しか使えない。俺は魔法使いではないので、どのくらいまで『級』があるか分からない。


 ただわかることは、シュティアも弱いということだ。



 横からシュティアの表情を見ると、少し困惑した表情をしてスキルをじっと見ている。本人が1番困っている。



 旅の連れが増えたため、1日当たり必要なお金が増えた。今はかなり残っているが、それもすぐに尽きるだろう。そこで近くの草原でウサギか何かを狩ることにした。今日たくさん買って売却すれば、ある程度時はたまると予想。

 そこで今いる場所から、4つあるうちの最も近い街の入口に向かうことにした。


 教会に行くときもそうだったが、こちらをちらちら見る人はいるが声はかけてこない。ちらちら見られる原因はシュティアだろう。傷だらけの時は慌てていたため、目につかなかったがあらためて見てみると肌は白く、薄い紫に見える長い髪は背中まである。目は綺麗な赤紫色だ。何よりスタイルもかなりいい。身長は俺よりやや低いぐらい。


「……ん? どう、したの?」

「何でもない」

「……なら、いい」


 そう言って、俺の右腕に腕を絡ませてくる。フニフニとした感覚が腕に来る。

 俺はシュティアを払いのけようとしたが、しっかり捕まっているので離せない。仕方なくそのままにする。


 それを見たほかの冒険者の男性が嫉妬の目を向けてくる。何人かは一緒にいた女性に殴られていた。

 シュティアに抱き着かれるという被害を受けている俺の身にもなれ。




 そんなことがあったが、無事草原に到着。街からそれなりに離れている。少し離れたところには森がある。木が多いため、ここからでは森の中が見えない。


 街を出るときに、昼食用で食べ物を買ってインベントリに入れてきている。食べ物を入れるときには周りの人には気づかれないようにインベントリへと入れていく。


 移動に時間がかかったため、昼食をとってから狩りをすることにした。インベントリから昼食を取り出していると、シュティアは驚いた顔をした。


「……それ、アイテムボックス?」

「アイテムボックス?」

「……持っている人は、めったにいない」

「レアなのか?」

「……それ、なりに。所有する魔力によって、容量が、変わる」

「そうか」


 一瞬考えたが、どのくらいの期間になるかは分からないが一緒に移動することになる。

 俺は説明するのが面倒に思ったため、インベントリからステータスプレートを出した。それをシュティアに渡す。本当はシュティアに見せるつもりはなかった。ステータスは大事なもので、他人に安易に見せるものではないのだ。


 シュティアのステータスを無断で見たのは問題だが、付いてくる奴のことを知る必要があったので、気にしない。


 ステータスプレートを見たシュティアの表情は、申し訳なさそうなものになって俺を見る。何を言いたいのか分からなかったので、言葉にするように目で促す。


「……鍛冶師。戦闘に、向かない」


 ステータスプレートを受け取ったシュティアが上から下まで見る。インベントリと書かれたところに目が行くと思ったら、違うところに目が行っていた。

 確かに、鍛冶師という職業を見て困惑するのもわかる。


「ああ。わかっているが、あまり嫌だとは思っていない」

「……なぜ?」

「武器を作るためだが、詳しくは実際に見てもらわないと説明ができない。それはお昼ごはんを食べてから教えよう」


 素っ気なく言って、俺は昼食をシュティアに渡す。

 昼食はホットドッグの様なもの。お皿に入れたものはさすがに売っていなかったので、手で食べる事ができる物を選んだら、このようになった。

 シュティアはそれを受け取ると目を見開く。それもそのはず。アイテムボックスなら食べ物は冷める。しかし、シュティアが持っている昼食は出来立てのように温かい。


「……温かい」

「理由をわかってもらうために、ステータスプレートを渡したんだけど?」

「ご、ごめん」


 シュティアが驚いたように言うので、ステータスプレートを渡したわけを言う。シュティアは慌てて謝ると、ホットドックを膝の上に置いて、俺のステータスプレートを見る。

 それを見て驚いて表情をして、俺を見る。

 そんなシュティアを放っておいて、俺はホットドックをかじる。


「あ。案外おいしい。」


 思ったより美味しかった。パンの中には肉と少しの野菜。そしてケチャップのような酸味の聞いたソースが入っていたのだが、そのソースがおいしかった。このソースを探しさえすれば、自分で作れそうだ。


 俺が食べ始めたのに、気が付いてシュティアも慌てて食べ始める。そこから声は一切出さないで、ひたすら食べた。




「よし。じゃあ、なぜ俺が職業を変えないのか分けを見せよう」


 そう切り出して立ち上がる。そしてホットドックの包み紙をインベントリにしまい、1つの銃を取り出す。

 それを見て、またしてもシュティアは驚いた顔をした。


「……それ、銃?」

「ああ。なぜ?」

「……何か、変」

「変だが、かなり強力だ。見てろ」


 取り出したのは、王都で試しに作った単発銃だ。この銃を研究して、今後はライフルやアサルトライフルを作るつもりでいる。



 俺は、遠くからこちらを見ていたイノシシ(体が藍色)に標準をつける。距離はおよそ200メートル。


 王都にいるときに調べたのだが、魔法は物によって射程が変わる。初級のものなら50メートルが限界。

 火縄銃は対象が生身の場合、殺傷距離が150メートルくらいだが、鎧などを付けられるとその距離は一気に下がる。


 しかし、作った銃弾は現代式のため300メートルぐらい簡単に届き、なおかつ生身なら殺傷力も落ちないはず。



 俺は伏せ撃ちを行うことにした。シュティアも横で伏せて、心配そうに見ている。残念ながら、倍率を変えることができるスコープまでは作れなかったので、フロントサイトとリアサイトで狙いを付ける。


 しっかりと敵を狙う。幸い風は吹いていないので、左右に調整はしなくてよい。問題は重力を考えた上下の調整だが、あまり変えなくてよいだろう。

 ゆっくりと引き金をひく。


 パァン!


 銃は無事に作動した。勢いよく発射された弾が、一直線にイノシシの頭に直撃して倒す。

 シュティアは横で涙目になっていた。音に驚いたようだ。


「……すごい」

「だろ?」


 シュティアが感想を言う。まさか火縄銃でも当たるか分からない距離から確実に当て、なおかつ即死の威力を持っているとは思ってもいなかったみたいだ。


「……見せて」

「あ、ああ。気をつけろよ?」

「……うん」


 シュティアが頼んできたため銃を渡す。

 もちろん銃弾は抜いた。先ほどの攻撃で、この銃の凄さが分かったはずだ。もし銃弾が残っていたら、その銃弾を使って俺を殺した後、銃を持ち去る可能性があったのだ。


もちろん、ひそかにインベントリからリボルバーを取り出している。これは、もしシュティアが魔法を使うそぶりを見せたら即座に打ち殺せるようにするためだ。


シュティアは体を起こして座ると、すごくうれしそうに受け取って眺める。

今のところ、魔法を使うそぶりは見せない。銃弾は先ほど目の前で抜いたので、撃とうとは思わないだろう。


「銃見るのはいいが、シュティアも魔法の練習をしろよ?」

「……これ、使いたい」

「え?」

「……これ、使って、みたい」


 シュティアが銃を使ってみたいと突然言い出したため、俺は困惑する。使わせたくないというわけではなく、まさか使いたいと言い出すとは思いもしなかったからだ。

 しかし1つ思ったことがあったので尋ねる。


「別にいいが、魔法の方は大丈夫なのか?」

「……大、丈夫」


 そう言うとシュティアは銃を置いて立ち上がると、少し移動する。俺も銃をインベントリに回収すると、急いでついていく。

 シュティアについて少し歩くと、こちらの様子をうかがっている別のイノシシもどきがいた。距離は100メートルほど。何とか魔法が届く範囲だ。


「届かないだろ」

「……見てて」


 そういうと、シュティアはイノシシもどきを見る。そして手を向けると……


「おお!」


 手のひらに近いとこから、火でできた槍が飛び出し100メートル飛翔した後、小さな爆発を起こしてイノシシもどきにダメージを与える。そのまま火はイノシシもどきの毛に燃え広がっていく。イノシシもどきが暴れまわっているが、少し暴れたら倒れて動かなくなった。


 あまりの光景に気が付いていなかったが、魔法は無詠唱で行われた。さらに距離は100メートルほどで、本来なら初期魔法は届かないはずだ。なら一段上の『級』なのだろう。



 俺は気持ちを入れ替えると、イノシシもどきを見るため近づく。ひどい臭いだった。獣の焼けた匂いは最悪だ。


「なあ。もう少し別の魔法はなかったのか?」

「……水なら、あるよ?」

「水で? できるのか?」

「……うん。ウォーターバレット、使ったら」


 尋ねると、水でできると言ってきた。俺は頭を抱えた。シュティアが分かっていなかったので、説明することにした。


「最初からそれで攻撃してくれ。これ売れなくなった……」

「……え? 晩御飯に、なる」

「食べられるわけないだろ! 真っ黒こげだよ!」

「……中……こげて、ないよ?」


 頭を傾げたシュティアを見ながら俺はため息をつきつつ、こげてしまったイノシシもどきをインベントリにしまう。


「で、ウォーターバレットのほかに何が使える?」

「……ウォーターボールと、ウォーターウォール。火魔法も同じ。」

「で、さっき撃った奴はファイヤーボールか?」


 イノシシもどきを仕舞った後、シュティアに向き直り何が使えるか質問する。今は3種類使えるらしい。


「……うん」

「見た感じ、使い慣れているな。」

「……問題、ない。」


 そんなことを話しながら、次の獲物を探すために歩く。街と平行に移動する。あまり離れすぎると、帰りが大変になるからだ。



 それからも休憩も入れながら3時間ぐらい狩をする。狩りと休憩の割合的に半々ぐらいだろうか。シュティアが銃を使うので、教えていたらこうなった。

 もちろん、シュティアが銃を使う際、俺はインベントリからリボルバーを取り出していた。もしシュティアが俺に向かって発砲しようとすれば、いつでも殺せるようにするためだ。


もちろんその必要はなく、順調に狩りは進んでいった。



 結果、9匹のイノシシもどきと、5匹のウサギもどき(イノシシもどきと同じ色)を捕まえた。かなり収穫があったうえに日が傾いてきたので、宿に戻ることにした。


 夕方近くになったため街の外から戻って来たのか、冒険者がたくさん入口に並んでいた。そのため街に入るまでに時間がかかった。


 街の入口で入る許可を貰い、宿に戻るとちょうど夕食の時間で、宿泊客がたくさん夕食を取っていた。俺達もお金を払い夕食を取った。夕食は、シチューに肉、硬いパン、ワインだった。話を聞くと、ここに泊まっている客の1人が宿主に、売却できなくて処理に困った肉を提供したそうだ。

 かなりおいしかったので、また食べたい。


 その後、もう1泊するためお金を払いに行く。かなり歩いたため疲れた。受付は昨日と同じ人だった。その人に昨日と同じ金額を払うと鍵を貰う。説明は昨日聞いたため、断った。

 なぜか受付の女性が俺の後ろをちらりと見ると、俺に視線を戻した。


「昨日の説明でもありましたが、部屋は防音になっておりません。くれぐれも大きな音は立てないでください」

「え? ……ってしませんから!」


 一瞬何を言っているか分からなかったが、すぐに理解した。そりゃ後ろにかわいい女の子がいたら、そう思ってしまうだろう。

 まあ、言った通りしませんが。



 ため息をつきつつ部屋に向かう。部屋は昨日と同じ部屋。部屋に入るとベッドに倒れこむ。視線を感じたので顔を向けると、シュティアがベッドの端で、ちょこんとすわりこちらをじっと見ていた。


「しないからな!」


 何かを期待している目だったので先に行っておく。危ないときは先手必勝って、田舎のじっちゃんが言っていた。

 言ってなかったけど……


「……だめ?」

「だめだ。今回は譲らん」


 そう言うと、シュテイアは唇を尖らせて不満顔だ。

 なぜそこで不満顔になる……


 そんなことをしていると、店の人がお湯を持ってきてくれた。交代で部屋を使い、体を拭く。待っている間は部屋の前で待機。もちろんだが、きちんと鍵を中からかけて、事故が起きないようにする。

 わざと事故を起こしそうなのは、シュティアの方だが。


 体を拭き終わったが、何もすることがないうえに疲れているため、そのまま寝ることにした。蝋燭を消すことを伝え、シュティアがベッドに入ったことを確認する。

 蝋燭の火を消すと、光は窓から入ってくる月明かりのみになった。

 ……月明りで合っているのかな?


 布団に入り、目を閉じる。こちらの世界の布団は少しごわごわしており、肌触りは悪いが、気にしないことにした。王都にある城の布団は肌触りが良かったことを思い出すが、どうでもよかったので考えることをやめた。


 ふいに隣のベッドから布のこすれる音が聞こえる。そして歩いたためなのか、床がきしむ音。

 そして誰かが足元から布団の中に入ってきた。それが体の上を這ってきて、ちょうど胸の上で止まる。


「何してる……」

「……? 一緒に、寝る」

「自分の所に戻れ」


 布団をめくると、シュティアがこちらを見てきていた。布団の中に入ってきたのだ。重くはないのだが、寝にくいうえにつかれているので勘弁してほしい。

 だが――


「……やだ」


 シュティアは拒否する。だが、目を細めてなんだかうれしそうだ。

 俺にとっては迷惑だ。


「俺は寝たい」

「……眠たく、ない」

「お前は眠たくなくても、俺は眠たい」

「……やだ」

「ああ、分かった! 俺は寝るから、勝手にしていろ!」

「……うん」


 戻りそうになかったので、勝手にしろと伝えると、俺は目を閉じる。すぐに睡魔が襲ってくる。

 しかし邪魔が入ったため、睡魔が手を振りながら去った。


 シュティアが体を撫でまわし始めたのだ。最初は我慢できたが眠れない。目を開けると、嬉しそうに微笑みながら、こちらを見ていた。


「いい加減にしろ!」


 いらいらしてきたのでそう言うと、シュティアの額にチョップをかます。少し強めにチョップをしたが、きちんとした姿勢からのチョップではなかったので、威力が落ちる。


 だが当たった場所がよかったのか、いい音がなった。そんな音が鳴ったということでそれなりに痛かったのだろう。


「ぁう……」


 シュティアが額を抑えてうるうるした目で見てくる。痛かったのだなと思いつつ、ベッドを移り変えるため移動しようとしたが、シュティアが上から降りない。


「俺が違うベッドで寝てやるからどけ!」

「……やだ」

「いいからどけ!」

「……やだ」


 違うベッドで寝るというが、シュティアは拒否をして退かない。俺はもう一度退くように言うことにした。


「ど……ってちょっ、どこ触っている! 待て!」


 退くように言おうとすると、シュティアが体をなでまわし始めた。しかも先ほどよりいろいろなところを。

 俺は止めようとしたが、やめない。

 



 その後は、いろいろあったことだけ追記しておく。

 本人曰く既成事実を狙ったのこと。

 もちろん、そんなことは俺が許さなかった。

第1ヒロイン登場です。

性格はミステリアス系で行こうと思っていますが、物語の途中でガラリと変わらないか心配です……

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