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師匠がわたしのパンツに魔法を付与するので困っています。  作者: ぇーぁぃ
物質の支配者・転換篇
2/86

ある日の鉱物採集2

「そろそろ一休みして帰るか」

「はーい。師匠」


 朝一に街を出て、三時間の山歩き。そして石拾いも二時間ぐらいしていたと思います。


「どうだい?収穫は?」

「ふっふー、見てくださいっ」


 わたしは、石を積み込んだ籠を師匠に向けて見せびらかします。

 以前採取に来た時よりも沢山拾うことが出来ました!

 まぁそのうち半分近くを最初に見つけた瑪瑙めのうの塊が占めるのですが……。


「んー、屑石は掴んで無い様だな、上出来上出来っ」


 師匠はわたしの頭をボンボンッと乱暴に撫でます。

 撫でたついでに、わたしの髪の感触を確かめたり、耳や頬っぺたに触ってきたり……。

 しまいには匂いを嗅ごうとニヤけた顔を近づけてくるので、さっさと逃げます。


「そうやって、子供扱いしないでくださいっ」

「子供扱いが嫌だったら、せめて俺の半分でも集めてみるんだな」


 師匠の籠はすでに鉱石が満載のようです。かなりの重量があるはずです。

 くらべて、わたしの籠は師匠の物の半分ぐらいの大きさで、集めた石もリュックの容量の半分ぐらいでしかありません。


 この差は力や体力の差以上に、目利きの差というものです。

 師匠はわたしが知らない種類の鉱石も詰めています。以前説明は受けましたが、わたしには難しい事はよく分かりませんでした。


 師匠曰く、この川沿いは閃ウラン鉱の鉱脈だとか言うものがあるらしく、


「きっと三百年ぐらいすると役に立つかもなぁー」


 と、遠い目をして今は役に立たない知識を開陳してしてくれました。

 師匠のその遠い目が何処を見ているのか、わたしには分かりません。郷愁みたいなものを感じているのでしょうか。


 師匠は自分の事を"転移者"だと言っていました。

 なんでも別の世界から来たのだとか。


 もと居た世界での"科学技術"だとか言うものを活かして、今は錬金術師なんて生業をしているみたいです。


 この世界に来てすぐはハンターをしながらあちこち旅をしていたそうですが。

 そういえば、何か物騒な二つ名もあるって言ってましたっけ。忘れましたけど。


 まぁ、わたし自身も自分の故郷なんて分からないのですけどね。故郷どころか十歳までの記憶も無かったりするんですが……。

 わたしが本当に当時十歳だったかも分からないのですが。


 と、物思いに耽りつつ、持ってきたパンをもしゃもしゃと食べます。

 重荷を背負っての帰り道はなかなかハードになるはずです。今のうちに休憩がてら腹ごしらえをするのです。



「そろそろ帰るか」


 師匠が立ち上がり、その辺に落ちている沸石をボンボンとわたしの籠に投げ込んできます。


「はいっ!」

「トイレはその辺で済ませておけよ」

「な……っ! ほっといてください!」

「あんまり離れるなよー」


 この、デリカシーの無さ!


 わたしは花を摘むために、河原の岩場を移動して師匠から見えない位置でズボンに手をかけました。ゆったりとした膝丈のズボンの紐をほどき、するりと下ろしてブーツごと足を抜きます。


 そして、問題の下着です。


 わたしの着けている下着は町で売っている普通のカボチャパンツのようなズロースとは形がかなり違います。 

 サラッとした肌触りの柔らかい布は面積がとても小さく……、それでいて身体を包みこむようなフィット感があります。


 履き心地は良いんですけど。


 覆われている面積が少なくて心もと無い感じがします。

 左右の2か所で紐を結んで着けるので、脱ぎ着も少し手間取ります。

 そして、謎の技術で染色れており、今日の下着は水色と白縞模様でした。

 なぜこんな下着(師匠はパンツと呼んでいる)を使っているかというと、師匠の言いつけです。


 わたしは師匠から下着を押し付けられた日の事を思い出しました。


―――――――――――――――――――――――



 数週間前のある日、アトリエの地下工房から上機嫌の師匠が布切れを持って出てきました。そしてわたしを見つけるなり、


「お願いします、エミリーさん!この下着を穿いてみてください!」

 と、滅多に下げない頭を90°に下げて言ったのです。


 不気味に思いましたが、師匠がわたしにそんな風に懇願する事など初めての事でしたので、その時のわたしはびっくりして、つい「はいっ」と承諾してしまったのです。


「これは、パンツだ……!」


 師匠がパンツと呼ぶ、その薄桃色の布切れを受け取りわたしは私室に引っ込みました。 それで師匠の気がすむならと、とりあえず言われた通りに下着を穿き替える事にしました。


 その日わたしは、これまた師匠が選んでくれたロングスカートを着けていましたので、少し屈めば鉄壁のガードを崩さずに下着を穿き替える事ができます。


(えーと、先に紐を結ぶのでしたね)


 師匠に言われた通りに、やってみます。


「分かるかい? エミリー。手伝おうか?」

「要りませんっ!」


 部屋に入ってこようとする師匠を扉の向こうに追い出しますっ!

 

 背中で扉を抑えながら両足を通し、何とか着替えられました。

 

 しかし、布が少ないです。

 ほとんど裸みたい。男の人がするというフンドシよりも、もっと布が少ないです……。

(この下着は、絶対人に見せるられるものでは無いですね)


 着心地を確かめて、扉を開けて師匠に報告します。


「着替えられましたよ」

「では、よく見せてください」


 と、師匠は何を思ったのか突然わたしのスカートをまくろうとしました。


「いやいやいやいや、ちょっと待ってください!?」


 わたしはスカートを抑え、全力でバックステップして師匠から距離を取ります。


「さぁ! 早く見せて、その、下着を! 穿いた! 君の下着姿を! 見たいんだ!」


 師匠が何かとち狂ったようです。

 当然その要求には応えられませんっ!乙女には守らねばならぬものがあるのです。


「まて、勘違いするな、エミリー。ちゃんと穿けているか、着方が間違ってないか、確認してあげようと言っているんだ。」


「そんな確認、不要ですっ! というか師匠、つい今、見たいんだって仰いましたよね!?」


 問答をしている間にも、師匠は足をジリジリと床を滑らせ、間合いを詰めてきます。

 

 部屋の扉は師匠の側に一つだけ、退路はわたしの後ろの小さな窓だけですが、窓から逃げれば、後ろからわたしのお尻と下着が見えてしまうでしょう。


(諦めて下着を見せようとした瞬間に蹴り飛ばす! それしか無いです!)

 師匠はきっと、変態に対処する修行の機会を与えてくれたのでしょう。


「わ、分かりました師匠。御覧に入れますので、どうかそれ以上近づかないで下さいっ!」


 蹴りやすい間合いを測ってから、わたしはスカートの前を掴み、ゆっくりと布を持ち上げます。


「早よっ! 早よ……っ! ……ハァっ……っ ハァ……っ」


 師匠はいつの間にか床に跪き、わたしを見上げるようにしています。

 

 呼吸も荒く、まるで野獣の様です。

 なんと情けない師匠でしょうか。

 とても人様には見せられない絵面です。


 わたしは焦らす様に、さらにゆっくりとスカートを持ち上げながら、蹴りのタイミングを計ります。


「ハァっ……っ ハァ……っ、ハっ見、見ぇっ! みえ……っ!」

(今だ!)


 わたしが脚に力を込め、予備動作無しで脚を振りぬこうとした瞬間。


―― スルッ…… ハラリ。


「あっ!」

「おっ」


 布が落ちました……。

 落ちてはいけない布が、落ちてしまいましたっ!

 結び方が甘かったようですっ!


「いいいやぁあっ!!!」


―― ドガッ! ゲシッ! バコッ!


 わたしは泣きながら師匠をポカポカと殴りつけて、部屋を飛び出したのでした。



「お、脱ぎたてゲット」


 部屋に残された師匠のゲスなつぶやきはわたしの耳には届きませんでした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その日以来、わたしは師匠から頂いた紐パンを身に着ける事になったのですが、左右の紐はきつめに固めに結ぶようにしています。

 ですので、脱ぎ着は余計に手間取るのです。


 そんなこんなで、わたしがパンツの紐を解くのに苦労していると……、


「……ハァっ……っ ハァ……っ」


(ん?)


―― ガサ、ガサッ、ガタッ 「ハァっ……っ ハァ……っ ハァァ……っ」


(えぇっ!?)


 わたしの背後から、荒い息遣いと、そして岩場を踏みしめるような足音が近づいてきますっ!!


(この獣のような荒い息遣い、あの時の師匠と同じですっ?!こんな場所で、またセクハラですか!?)


 パンツの時も含め、日々師匠からセクハラを受けているわたしですが、いくら師匠が最低でも、御不浄の最中に手を出すなんて外道な真似はしないと思っていたのですが……。


 わたしは師匠の変態具合を見誤っていたのかも知れません。しかし、いくら何でもこんなシチュエーションはあんまりです。

(そして、おしっこが我慢の限界なのです!)


「ハァ~、ハァ~……」


 獣の様な、荒い息遣いはかなり傍まで寄ってきました。

(近づいてくる! あぁもう下着姿はばっちり見られちゃってるよね……っ! それにおしっこも漏れそうなのに!)


 もう頭の中は焦りでいっぱいです!


「もう、いい加減にしてください! 師匠っ!」


 わたしは覚悟を決めて振り返り叫ぶと、


 果たしてそこには、大きな熊がいました。


「ガァァア!」

「……うきゃぁあぁぁぁああああっ!!」


 わたしの悲鳴は、川のせせらぎを塗りつぶして、あたり一面に響き渡ったのでした。



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