ゆるふわ夫婦は最強です⁉
思い付きです。
やっちゃった(*ノω・*)
――魔術師の朝は早い
ラノス王国では近年稀に見る魔法国家であり王城に務める魔術師の数は周りの国と比べて何倍もの違いがある。
もちろん、魔術師だけでなく騎士もいるが魔術師の数には及ばない。それでもなお騎士が自分の立場を魔術師に取られず平等を保ってられるのは単にこの騎士達が先鋭揃いだからである。
まぁ取り敢えず、騎士の話は置いておこう。
冒頭でも述べたとおり魔術師の朝は早い。
魔法国家であるラノス王国での仕事は魔術師がいくら合っても足りないくらい多いのだ。
だか、そんな早いはずの朝をものともしない者がいた。
それがジルベール・ベルストだ。
宮廷魔術師副総司令官の地位を持ち地位の方が負けていると思える程の魔力、誰もが羨む美貌。目はタレ目だがそれが優しい雰囲気を醸し出していて190とある高い身長を緩和させていた。
性格もとてもフワフワしていてそれが逆に癒やされると魔術師団の女子には人気なのだが如何せん本人に自覚はない。
そんな彼は今回もまた遅い朝を過ごしていた。
一人で寝るには大きなダブルベッドの上そこに大好きな最愛の妻と今だに眠っている。
この妻であるティーナ・ベルストもまた元冒険者をやっていた魔術師だ。夫に負けず劣らずの美貌や魔術力を持ちそしてまたまた負けず劣らずのフワフワ感を醸し出していた。
朝日とは言えない窓からの光に当てられて起きたのは妻であるティーナだ。
寝ぼけ眼で時計を見、隣の夫を見る。
「寝過ぎですねぇ。どうしましょう?」
そこは普通慌てるはずなのだがその枠には生憎当てはまらないであろうティーナは気持ちよく眠っている夫を見ると起こすのも憚れるのかそのまま考えこんでしまった。
「ん、ティーナ何をしてるのですか?」
どうも起きてしまったらしい。
ジルベールは考える妻とその前にある時計を見て理解したのかヘラっと笑うとティーナに抱きついた。
「あぁ、大丈夫ですよぉ。時計を見て私を起こそうかどうか考えてくれたんですね?なら起きましたので用意しましょうか。」
ティーナはジルベールの言葉に了解の意を伝えると
早速遅い朝ごはんの用意に行ったのだった。
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「ジルベールさぁ、お前毎回遅刻してくるのどうにかしろよ?魔術師副総司令官の名が泣くぞ?」
ティーナとの別れを泣く泣くしてきたジルベールにとってこの手の話は今に始まったわけではないがイラッとするのも確かである。
「じゃあ私、魔術師副総司令官やめますねぇ。そしたら遅刻してきても大丈夫ですよね?」
「そんな訳あるか!そもそも遅刻してくるの自体を俺は怒ってるんだよ!誰文句言わねぇからって毎回毎回……。」
これ以上上司の小言など聞く気もないのかジルベールは自分の仕事へと目を向ける。
「はぁ、全く。こんな奴の何処がいいのか魔術師団の女はよくこいつに惚れるよな。あまつさえ恋人や妻の座を狙ってるとは。」
小さい声で愚痴を言っている上司の言葉などには耳を傾ける価値などないと思っているジルベールには聞こえていなかった。
数時間たち何やら外が騒がしくそれを不審に思った上司が部屋の扉を開けようと立ち上がった時にノックもなしに扉をあけて来る者がいた。
「総司令官!大変です。魔物が!魔物が王都に向かって進行しています。数は分かりません!とにかく数えられないくらい多いとの事です!」
「何だと!?他の魔術師や王都にいる冒険者の魔術師を集めろ!!」
「ひぃ!で、ですが王宮に残っている強い魔術師は少ないのです!今は少し遠いダンジョンに王子と共に行ってしまってるとの事で……」
この国で魔術師が困ってるのは何も魔術師がいくらいても足りない事だけではない。
このラノス国の王子は大変優秀でありながら時たま暴走しそれを心配に思った国王が数名の強い魔術師を勝手に使ってしまう事だ。
だから誰がいなくて誰がいるのか正確に知る事が出来なくなってしまう事が度々起こる。
今まではここまで大きな事件は無かったから強く王に言えなかったが多分この事で魔術師団長は王に強く申し出ることだろう。
「この忙しい時にあのクソ王子め!ジルベール!!お前は前線で被害が出ないように魔術を打て!少なくとも冒険者を集めるまで他の魔術師と連携を取り進行を遅らせろ!」
「いいですよぉ。頑張りますー。」
そんな上司の言葉は予想通りとばかりによっこらせっと年寄りみたいな言葉とともにゆっくり立ち上がる。
「早く行け!グズグズするな!」
「分かってますよぉ。そもそもそんなに言うならあなたが行けばいいでしょう。まったく。」
けしからん事だ。とばかりに、タレ目を出来もしない釣り目になるように怒った風を装うが全く出来てない。
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「副総司令官!ダメですこのままだと押されます!冒険者も騎士も数がたりません!!」
その声が部下から来たのはある程度の魔物を魔法で減らしてからだった。
減らしたといっても魔物の数は一向に減らず魔力が尽きてしまう魔術師を多く出していた。
「そうですねぇ。うん、このままだと私の魔力もそこを尽きてしまう。本当は冒険者としてやって欲しくないのですか妻を連れて来ますね。私の一番の助けですし癒しです。」
そう言うがさっそうと背中から翼を生やして飛んでいってしまう。
翼と言ってもドラゴンなどの無骨な物であって決して羽などではない。
ジルベールは竜族である。
そんな事を知らない部下たちはジルベールが飛んでいった方を唖然と見ている。
「え、ちょ、翼?!それに妻って!?結婚してたんですか?!」
気づいたものは総じて驚く以外の選択肢は持っていなかった。
多分、魔術師団の中でジルベール程謎が多い人物などいないであろう。
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「すみません、遅くなりました。いやぁ、案外王都から王都外まで飛ぶのって疲れますね。」
行きと同様帰ってきたジルベールの腕の中には160くらいの女性がいた。
勿論ティーナだ。
「副総司令官!遅いです!それに翼や妻なんて聞いてないですっ!って、そんな事よりどうしましょう?!さっきより魔物の軍勢が近くなってきていますよ。あなたがいなくなってから尚更です!」
部下の叫びが聞こえるがジルベールにとって妻を下ろすことの方が大切だった。
「ティーナ、突然連れてきてごめんね。今この魔物達をどうにかしたいんだけど私達の力じゃ間に合わないんだ。ティーナの力はなるべく借りたくなかったけどお願いできる?」
「あら、大変なのね?大丈夫よぉ。少しぐらい夫に力を貸すくらい造作もないわぁ。ついでに私の魔力もあなたにあげるわね。」
ティーナはそう言うとジルベールに大量の魔力をおくる。
「完了よ。ところでジルベール。あの魔物たちを攻撃すればいいのよねぇ?後でご褒美に甘い物下さいな!」
この事態に何を言うのかと部下はといてい強いとは思えない上司の妻を見る。
「そうだね。一緒に食べようか。私も魔力が戻ったし一気に片付けちゃおうか。」
有言実行とばかりに各々で魔力の展開を始める。
ジルベールとティーナのその術に込める魔力は今まで見てきたのとは桁違いで部下たちは信じられない気持ちでいっぱいだった。
「「展開」」
それぞれの技が魔物の大群の中へと放たれる。
ジルベールの火の魔術は光の光線のように辺り一帯全ての魔物を焼きつくしティーナの魔術も同様。
火ではないが水と風の魔術は鋭い歯を回転させた竜巻のように魔物を竜巻の中に取り込み切り刻んていく。
この光景は早々魔物との戦いとは言えなかった。
虐殺にも似た光景に唖然とするしかない。
そして、明らかな余裕がジルベールとティーナにはある。
これ程までに凄いとは思っていなかった。
実際さっきまでのジルベールに魔力は殆ど無くティーナからの大量の魔力でこの力を出せているのだ。
数分たち火や竜巻の攻撃が終わる。
その場にはおびただしい魔物の死体しか残っていなかった。
一緒に戦っていた冒険者や魔術師は唖然としていたものの戦いが終わると分かると一斉に歓声を上げた。
「終わりましたねぇ。さてお望み通り甘いものでも食べますか。私もティーナとゆっくりしたいですし。」
「私もジルベールとゆっくりしたいわぁ。久々の魔術で疲れたしねぇ。あ、でも大丈夫なの?この後王城に行かなくて?」
「大丈夫ですよぉ。呼ばれた時は呼ばれた時です。無視して次の日に行けば良いんですよぉ。」
「そっか。じゃあいいよね!早く行こ!」
歓声があがってる中、誰もが喜ぶのに夢中になっていて二人が消えたことに部下が気付いたのはいなくなってから随分後のことだった。
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―――次の日
ジルベールとティーナは王城に呼び出されていた。
王様との謁見はジルベールは初めてでは無いがティーナにとっては初めての事。普通は緊張するものだがティーナは今日ものほほんとしていた。
「二人共。昨日の活躍大儀であった!二人には後で褒美を出そう。ところでジルベール。少し聞きたいことがあるのだが?」
「何でしょう?」
「うむ、まずお主は竜族なのか?それと昨日の魔術。お主といい結婚してる事も知らなんだがお主の妻といい昨日の魔術は今まで見たことも無かったのじゃ。おぉ、これを聞いてどうこうしようという訳じゃないから警戒はしなくていいぞ!わしが気になっとるだけじゃ。」
王様とジルベールの付き合いは意外と長い。
だが、昨日初めて知った事もありまだまだジルベールを理解していないと痛感した。
その事がジルベールにも伝わったのだろう。
いつもの飄々とした態度で王様に答える。
「結婚したのは結構前ですよぉ。それに私は竜族です。昨日の魔術は私妻がハイエルフなので魔力を貰いそれを使いました。実に簡単なことですよぉ。」
実際問題簡単なことではない。
この世界では獣人はいるが竜族の数は少なくまた一人を好むのですジルベールみたいな性格のやつはまずいない。ジルベールが竜族の中で異端なのだ。
また、ハイエルフは竜族よりもおらずエルフは時たま見かけることはあれどハイエルフは貴重過ぎて村から出て来る者などいない。
つまり二人共異端であるというわけだ。
これには、王様も唖然とするしかない。
だがいつまでもそのままでいる訳もいかず結局褒美としての金貨を持たせ帰らせたのだ
そんな王様の感情など二人は気にするはずもなく、ジルベールとティーナはもらった金貨で何処に旅行に行くか決めだすのだった。
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それと、これは後で知った話なのだが。
殆どの人がジルベールとティーナが結婚している事を知らず今回の騒動でそれを知った城の女性は一斉に休暇を取り泣いた。そして、城下でもティーナを狙っていた男共が一斉に泣きながら魔物退治に出かけたと言う何ともシュールな噂が広まっていたそうだ。
読んでいただきありがとうございました!!