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「本当に欲しかったのは……」――黒の告白

 御機嫌よう、オルカです。

 僕が愛していたのは幻だと知りました。


 僕が捕まる前に、エミリを自由にしたいと願いました。

 皆が嫌っているのだという事実を知らせず、好かれたまま天国へ向かわせてやりたいと。

 アレクスは頷いて、エミリの書類を取り出し、僕はそれにサインをしました。


 エミリの表情はうきうきとしていました。

 晴れ晴れとしていて、「有難う」とにこやかでした。


 嗚呼、嗚呼――。



(この人は、これから先、僕が地獄へ向かおうとも、何が起ころうとも構わないのだ――何とも思わないんだ)


 一気に切なさが募って、僕はこの世から亡くなりたい気持ちになりました。

 僕はこれから奴隷になり、これからはクリスティーナの元でお世話になるそうです。

 クリスティーナの国へ送り届けられると、僕はクリスティーナ個人からは歓迎されました。

 どうしてか判らないままでいると、クリスティーナは「鈍感ね」と僕へキスしました。

 心から嬉しそうだったクリスティーナは、徐々に僕へ執着を見せました。

 四六時中僕の傍から離れなくなりました。

 僕は奴隷だというのに、自分の寝所にまで連れて行って……まぁそういうことです。

 ある日、クリスティーナが泣きながら、僕に縋ってきました。

「お願いよ、私を連れて出て行って」

「クリスティーナ……?」

「私、このままだとアレクスと結婚しなきゃいけないの……貴方を手に入れる誓約だったから」

「クリスティーナ、約束は守りませんと」

「それなら…………オルカ、一言でいいの。愛してると言って。その言葉だけで、私はきっと……」

「貴方と違って、嘘は言えません」


 明確な線引きをした瞬間でした――もう貴方達と僕は違うのでしょう、と。

 貴方達は、エミリを鬱陶しがって、僕を騙した。

 僕は皆が、エミリを慕っていると喜んで、死の国へ招き入れた。


 確かに幸せでした――エミリが誰にでも秋波を送るのだと知らなかった頃は。

 アレクスとの行為を知らなかったことは。


 クリスティーナの結婚式の日、僕は牢屋に繋がれていました。

 牢屋で静かに過ごし、牢から見える小さな窓から入る小鳥を眺めていました。

 かつんかつんと足音が聞こえます。

 目を向けると、牢屋の前に、ルシェルが憮然とした表情で立っていました。


「君にとって幸せは何だ?」

「――……騙されない世界にいること、ですかね」

「皮肉かよ。……俺はさ、真面目にお前を助けようってんだぜ?」

「……エミリに愛されていた貴方が?」

「そう、クリスティーナに愛されているお前を助ける」

 ルシェルがそんな揶揄をすることで、ルシェルにとってのエミリはそんな感情なのだと思い知らされて少し悔しかったです。

「僕は――産まれてからずっと、外の世界を知りませんでした。

 ずっとずっと、外に行くとしても公務でしかなくて。

 だからこそ、自由なエミリに憧れたのでしょうね」

「……つまり、自由になりたい、と?」

「恋愛も、身分も関係なく暮らしてみたいものです」

「なる程、ならぴったりな物件がある。

 世界が羨むリゾート地」

 ルシェルが僕の牢屋の鍵を壊して、僕を引きずり出しました。

 僕はルシェルの言葉に不思議に思っていると――。


「――黄薔薇の国へ?」

「げっ、アレクス?!」


 今頃宴会にいるはずのアレクスが、新郎姿で牢屋の出口に立っていました。

 アレクスは僕をじっと睨み付けてから、ふっと笑いかけてくれました。


「オルカ、もう二度とこの国へくるな。クリスティーナに逃げられても困る」

「……――アレクス」

「お前にはすまないと全員が思っているよ……だからこそ、黄薔薇の国で平穏を望むなら応援したい、せめて祈るだけでもさせてほしい」

「……何だ、アレクスも助けようと思ってたのかよ?」

「いいえ、最初は殺そうとしていたよ。ばれないように。けど、一番の犠牲者はエミリでもなく、オルカだと思い出したから……」



 アレクスはそれだけ言うと、あっさりとその場を立ち去りました。

 僕はルシェルに連れられて、用意されてる馬車の中へ。


 馬車に揺られて、三日ほど経つと――とても夕日が美しい国にいたのです。

 真っ青な色と、真っ赤な色が同時に見ていられる。

 それだけじゃない、全て人工だと信じられない程に、自然やテーマパークが一体となっていて、お伽噺にいる感覚でした。


 ふと、僕はにやけました。


 エミリ、嗚呼、エミリ――君を愛してると言ったけれど。

 僕の一番は本当は違うんだ。


 僕が一番愛しているのは、自由と自然なんだよ――。

 本当はあの死の国にうんざりしていたんだ。

 だから君が手に入らなかったのは残念だけれど、僕としてはこの国にいられる権利が貰えてとても幸せ。



 僕はきっと最初から、小指に巻かれた赤い糸なんて信じていなかった。

 だからこそ、エミリが死んでも涙一つ零さなかったのでしょう。


 いいえ、涙を零さなかったのは、全員。

 皆、卑怯で臆病な奴らだったでしょう?

 これにて話はお終い。


 僕はこれから、真っ当な男として生きますよ。

 この国で、ユエラオの導きがありますように――今度こそ、赤い糸を信じてもいいかもしれない。

 信じて良い「自由」を手にしたから。



もっと前から書き終わっていたのですが、載せるのが遅くなりました。

というわけで、それぞれ別人視点から語るという試みをしたくて

書いてみましたが、如何でしたか。

腹黒いのを!やめてやらない!と只管に、オルカをフルぼっこにしていった気持ちでした。

昼ドラっぽいものを書くのは楽しいですね、それではまた別作品でお会いしましょう。

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