表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

言い訳「僕の国は死の国だから」――黒の供述

 臆病な男の話を聞いてくれませんか?

 有難う、聞いてくれるんですね。


 それなら順序を追って、話をしましょうか。


 僕には好きな人がいます。

 とても可愛い人で、誇り高い人でした。

 僕の好きな人は、皆から「赤薔薇」と呼ばれていました。

 赤薔薇と呼ばれる女、エミリはとても人気ある女性で、可憐な公爵令嬢でした。

 誰にでも優しくて美しい笑みを、分け隔て無く送る、素敵なレディでした。

 赤薔薇がいるなら、他にも薔薇はいるわけで――(ルシェル、黄、クリスティーナアレクス

 それから最後に、黒薔薇のオルカ

 僕らはそれぞれ国を持つ遠縁の家族でした。

 紅い国は、情熱的で商才も豊か。

 蒼い国は、クールで冷静な人が多いせいか、情報が売り。

 黄色い国は、のんびりしててリゾート地としては最高。

 白い国は、清楚な生き物のみ入れる聖域。

 紫の国は、娼館が目立つのにあまり下品じゃない。


 僕の国である、黒い国は――。


「オルカ」

「――何でしょう、エミリ」

「どうか、この国から解き放って。自由にして頂戴」

「――何を、お望みでしょうか。エミリ、この身に何を背負えと言うのでしょうか。

力の無い僕に、貴方の為にできることなどありません」

「いいえ、できるわ。黒の……死の国皇太子様――お前に力が無いと誰も言えない。

お前に力がないのなら、誰にも、誰にも力など持ち合わせていないわ」

 僕の愛しい人は、残酷に可憐な笑みを浮かべるので、僕はついその紅い頬を引き寄せてキスをする。

 高い女だ、キス一つで……貴方を自由にしろなどと。

 執務室だから誰も臣下はいない、やけに広すぎるこの部屋はこの国を意味する黒が基調だった。

 窓際のカーテンでさえ、窓から先に見える景色や建物でさえ、全て黒い。

 黒くないのは、月や空だけだ。

 強請るように僕の胸板へ、指先で円を描く愛しい人。

 僕は小さく笑って、胸元に隠し持っていたナイフを露わにする。

「どうして、持っているとばれましたか? 護身用ですよ、残念ながら」

「お前は緊張すると、唇を噛む癖があるから」

「エミリ――僕には無理なんです。こんな物を持っていようと、

僕は僕でしかないのです。貴方を失うのが怖い――皆との約束を破るのも」

「オルカ、もう失っているのよ。貴方がそこにある――あの書類」

 愛しい人は、微笑みながら密やかに囁く――内緒話をするときのように、ドキドキする。

 愛しい人の、エミリの声は蠱惑的でくらくらして今にも襲いたい衝動になる。

「あの書類に、貴方がサインすれば、それで私は天国へ行ける――ねェ、判るでしょう?

 私は死んでいるの。もう、いないの」


 エミリの言う通り、エミリは死んでいて――エミリは地獄や天国を経由するこの国の審判を待っているだけでした。

 黒の国は、不吉な死の国――死者を裁く国でした。

 この国は、僕だけが生きていて。――否、この国を勝手に出て行ったら、その出て行った死者の魂は消滅して二度と再生しません。

 我が親愛なる遠縁の、愛しい人は――何者かに殺されたのでした。

 あれは、僕や他の薔薇が集まった日。

 エミリの紅茶に毒が入っていて、僕らはエミリが死ぬところをしっかり見ました。

 苦しく虫のように足掻く様も、美しい顔が歪んでいく姿も。

 今まで僕はそれらを他の誰かで見ても何とも思わなかったのに、エミリの姿に酷く焦燥したものです。

 やがて、僕ら薔薇で話合いました。


「エミリ」は黒の国に留まらせれば、死なないと――。


 地獄にも天国にも行かせない――さァ、臆病で卑怯な男女の話をしましょうか。


 臆病で卑怯な男女は、僕を含めて五人。

 それぞれに言い訳があるはずなので、どうかごゆるりと、この国の滅び行く様を見ていてくださいね。


 何故滅びるかって?

 ――たった一人の女の為に、誰にでも訪れる死という平等を失ったからですよ。

 全てに訪れる死を、特別扱いしたからですよ。


 聞いてくれて有難う、では次の言い訳を聞いてくださいね。

メンタルは削るもの。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ