二話目
病院の入り口の自動ドアは勿論動くはずもないが、ガラスが叩き割られていたので難なくぼくらは通り抜けた。
周囲の壁には落書きがされていたが、それは入り口周辺だけで奥の方には何もなかった。
病院のロビーはあまり荒らされていない所を見ると、人が立ち入ることはすくないのだろうと思われる。
先頭はF君、その後ろにぼくとM君が続いた。
三人は懐中電灯をつけて奥の方へと進んでいく。
奥に進むほど真っ暗な空間が広がり、このままこの暗闇に飲み込まれそうな気がした。
ぼくはたまらず提案する
「ねえ、やっぱり戻らない?」
F君「おいおい何いってんだよ隆太、まだ始まったばかりだぜ?」
M君「隆太は怖がりだなあ」
二人共笑いながら言っていたが、若干声が震えているように感じるのは気のせいだろうか。
真っ暗な廊下を進んでいる途中でF君が突然立ち止まった。
ぼく「え?おいどうした?」
F君「いや、何か誰かそこを通ったような…」
M君「おいおい冗談だろ?」
F君は廊下の曲がり角の所に行ってのぞきこむと「あっ…」としたように口を押さえて固まっていた。
そして青ざめた表情で人差し指を向けている。
ぼく「え?なんかいるの?」
ぼくとM君はF君の見つめる先に恐る恐る目を向けた…
「ギャーーー!!!!」
「うああああああああああ!!!!」
ぼくはF君の悲鳴に驚いて腰を抜かしてその場にへたれこんでしまった。
・・・
F君「アハハハハハハハ…冗談だよ、冗談」
ぼく「ばかやろー!時と場所を考えろ!」
M君「お前ホントにふざけんなよ!」
流石のM君も半ギレ状態でF君にポカポカと殴りかかっていた。その目にはうっすら涙が浮かんでいるようだった。
F君「ハハハハ、二人とも腰抜かしてやんのウケるー」
ぼく・M君「てめえ」
F君をぼくとM君で押さえ込んだ。
M君「お前今度やったら殺すからな」
F君「ワリイワリイw」
いつもの学校での休み時間みたいな感じで三人でじゃれあっていた。
少し恐怖感も抑えられたので結果オーライといった所か…。
そのまま三人で病院の裏口まで進んだ。
F君「なあんだやっぱり何ともねえじゃん」
M君「まあただの都市伝説みたいなもんでしょ?幽霊なんているわけなし」
ぼくはこれで帰れると思えるとほっとした。
ぼくはもしかしたらこのまま異次元へと迷い混んでこのまま出られないんじゃないか?なんて考えたりもしたがどうやら杞憂だったようだ。
するとF君はまたしても「あれ?」とか言い出した。
M君「おいおい、いいよもうそういうのー」
ぼく「早く帰ろうぜ」
F君「いや、今度はホントに。だってあそこ…」
F君の指差す方に目を向けると…明かりがついている部屋が見えた。
三人は顔を見合わす。
F君「行ってみる?」
M君「ヤバイんじゃないの?いやもしかしたら警備の人とかかもしれないし」
ぼく「うん、怒られるよ止めようよ」
F君「いやでも確認しておかないと気になるし…」
そういってF君は部屋の方へ進んでしまった。
M君「おーい、俺らもう帰るからな。知らねーぞ」
M君は(もうほっといて行こうぜ)みたいに言っていた。ぼくも早くここから出たかったのでコクンと頷いた。
「二人共ちょっと来て!」
「もういいよぉ~、早く帰ろうぜ~」
ぼくとM君は心底ウンザリした表情でF君の所へ向かった。
「なんだよぉ~」
「いや誰もいないよホラ」
…確かに明かりはついているが人はいないようだった。「誰か来て消し忘れたのかな?」
すると「ギャー!!」とまた悲鳴が聞こえた。
「おい!いい加減にしろ!」
「は?今誰が叫んだの?」
「おめーだろ!」
「いや違うよおれじゃねーよ。隆太?」
「いや俺でもないよ」
「じゃMか?」
「なんで俺なんだよ、おめーだろが!!」
「違うってのに、え?じゃ今叫んだのって…」
…三人は顔を見合わせて黙りこんだ。
シーンと静まり返る病院。
遠くの方で車が走る音が聞こえる…。
「…そろそろ帰ろうか」と珍しくもの凄い冷や汗をかきながらF君が最初に沈黙を破った。
「だからさっきから言ってるだろ」
「早く行こうぜ」
ぼくたちは手を繋ぎながら病院の出口に向かって走り出した。