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幻創夢伝  作者: 天野はるか
2/4

耀都

「きゃあ!」

── ドサッ

 桜は人だかりの街中で倒れこんだ。

「お嬢ちゃん、気ぃつけな!」

桜にぶつかった男は、面倒臭そうに言い放った。

「は…はい、どうもすみませんでした!」

 道に倒れたままの姿勢の桜がそう答え終わらないうちに、さっきの男はもう、人ごみに消えてしまっている。

「大丈夫ですか?桜様。」

青竜が手を差し伸べた。

「ええ、有り難う」


 青竜達が地界でまず最初に降り立った場所は、耀都(ようと)という街だった。

 地界でも有数の大都市の一つである耀都は、何処もかしこも行きかう人、人、人で、ごったかえしている。

 町は夕暮れに差し掛かっており、夕食の買い物に出歩く人に仕事帰りの人にと、ちょうど一番賑わっている時間帯であった。

「さっきから何回転んでんだ? 桜は」

実をいうと桜は、さっきから何度も往来している人にぶつかっては転んでいるので、鳳凰はすっかり呆れていた。

「仕方ないですよ。初めて地界に来たのだから」

 青竜は、桜を立たせながらぶっきらぼうに答えた。都会があまり好きではない青竜は、少し疲れていた。長時間人ごみの中で過ごしていると、気分が悪くなる性質なのだ。

 それなのになぜ、こんな大都市に来ているのかと言うと、四聖の一人である朱雀が都会にいると言う情報があったからだった。

「ここは息苦しいですね」

 青竜は早いところ朱雀を見つけ出してこの町から出たいと考えていた。

「そうか? なかなかいい街だと思うけどな」

 対して鳳凰は賑やかな場所が好きな様で、生き生きとしている。

「わたしも割とここ好きだわ!」

 さっきから転んでばかりいる桜が意外な言葉を発した。

「なんだ結局嫌がってんのはお前だけだぞ」

 鳳凰が、からかうと、青竜は理解出来ないという表情を作った。

「だってほら、見て下さいな!こんなにも人が沢山いるのよ!? ねえ青竜、どうしてこんなに沢山人がいるの? みなさん何をしているの?」

「ええと、それはですねぇ……」

 青竜が答えに困っていると、桜は無邪気に瞳を輝かせながら「それに」と続けた。特に明確な答えを求めて話しているのではないのだ。

「さっきから道の真ん中に並んでいるのは何かしら? あそこに人が沢山集まっていて、珍しいものがたくさん置いてあるわ!」

 そう言って桜は掛けだした。

「おい、急に動くとはぐれるぞ!」

 すかさず鳳凰が追いかけた。青竜も後に続く。道の真ん中では市場が開かれていて、買い物客で溢れかえっていた。桜はしばらくきょろきょろと辺りを見渡しながら市場を歩いて周った。

市場では野菜や肉などの食料品以外に、手作りの人形や小物類といったものも並んでいて、品物を売る以外には、似顔絵を描いて売っている者などもいた。桜が見たことのない物も沢山ある。

「そうだ桜、買い物してみるか? お前、買い物の仕方分からないだろう」

 思いついた様に鳳凰が言った。

「買い物……ですか? それは是非ともやってみたいですっ」

 桜はいよいよ顔を紅潮させて喜んだ。

「で、どうすれば良いのでしょうか?」

「まずは、欲しいのもを見つけてだな……」

 と、鳳凰が説明を始める。

「指を指してこう言う。青竜、あれ買って♡」

「ちょ……いい加減な事を教えないでください!!」

 慌てて青竜が口をはさんだ。

「買い物の仕方は私が教えます」

 青竜は桜に500りん握らせた。

「たったの500稟かよ。それじゃ何も買えないぜ?」

 鳳凰がケチをつけた。

「何を言ってるんですか。500稟あれば結構いろいろ買えますよ? というか鳳凰、あなたこそまともに買い物した事ないのでは?」

「そうか? うーん、確かに自分で買う事ってあまりないかもなぁ。必要なものは何でもあるし、欲しい物は欲しいって言えば用意してもらえるし」

「ほら! 宮殿生活しか知らないからそんななんですよ。この機会にあなたも桜様と一緒に買い物の勉強を……て、桜様?」

 いつの間にか桜が姿を消していた。

「あいつ、金を手にした途端消えやがった!」

 青竜と鳳凰は慌てて周囲を捜索した。

「桜ー!」

「桜様ー!」


「青竜、鳳凰!」

 まもなくして、奥の人ごみから桜が顔を出した。

「買い物、出来ましたわ!」

 桜は嬉しそうに手を掲げた。手首には鈴がぶら下がっている。

「なんだ桜、そんなものが欲しかったのか?」

 鳳凰は不審そうに鈴を見つめた。

「はい、聞いてください!」

 桜は興奮がちに続ける。

「実はさきほど占い師とか名乗る者に呼び止められまして……」

 青竜の顔色が変わった。

「占ってもらったのですか?」

「ええ。そしたら私、どうやら三日後に死ぬらしいのです」

 青竜と鳳凰は顔を見合わせてしばらく見つめあったあと、同時に溜息をついた。

「桜様それはおそらく…」

「あの方のおっしゃった事は間違いないと思いますの」

 桜は青竜の言葉を遮って続けた。

「あの方は、人の未来が見えるとおっしゃってました。でも青竜、安心して?」

 青竜は不安そうな表情を浮かべた。

「おい、桜もしかしてその鈴は……」

 鳳凰が恐る恐る尋ねた。

「お守りです。これがあれば私の命は助かります!」

 桜は満面の笑みを浮かべて答えた。

「この鈴には神様が宿っていて、私を守って下さるのですって!」

「おいおい、一体いくらで買ったんだ、それ?」

「占い代と合わせて50稟です」

「高っ!」

 すかさず鳳凰が言った。

「詐欺にしては安すぎる方だと思いますけど」

 青竜は鳳凰の金銭感覚がいまいち分からない。

「いいか、桜、そういうインチキなもんには1稟だって払っちゃダメだ」

 どうやら鳳凰は青竜が思っていたよりは、まともな金銭感覚をもっているらしい。

 桜は戸惑った顔をした。

「インチキじゃないです! これは神様なのですよ?」

 そう言って有難そうに鈴を掲げる。

「捨ててしまいなさい、そんなもの」

 青竜は桜から鈴を取り上げようとしたが、桜は頑なに拒んだ。

「嫌です! 私、この鈴がないと安心出来ません」

 泣きそうな顔をしている。

(目の前に本物の神が二人も付いていてお守りしているというのに、私たちはそんな鈴一つよりも頼りないと言うのだろうか。……私が泣きたい)

 と青竜は落ち込んだ。

「とにかく、この鈴は渡しませんから!」

 桜はきっぱりと言うと、青竜たちに背中を向けてすたすたと歩き出してしまった。

「まあ、いいじゃないか、あんな鈴くらい。持たせてやれ」

 鳳凰の方はあまり気にしていない様子である。

「あの鈴」

 と、鳳凰が続ける。ここから先は声を潜めて言った。

「妙だぜ。微かだが妖気を感じる。」

「なんだって!?」

 青竜は鳳凰の言葉に顔を強張らせた。 鳳凰は妖気に敏感なのだ。

「では、桜様は……!」

「恐らく、軽い暗示をかけられているな」

「あの鈴……!」

青竜は鈴を睨みつけると、刀に手をかけた。鈴を斬るつもりでいる。青竜の操る刀は、鉄をも切り裂く事が可能なのである。

「待て!」

鳳凰があわてて制止した。

「何故です!? このままでは桜様が危ない!」

「あの鈴の仕掛け人を知る必要があるだろう。しばらく様子を見よう」

「………」

青竜はやむなく柄から手を離した。

「さっきから何を話しているのです?」

 ふいに桜が振り返った。

 すぐに鳳凰が応えた。

「ああ、もう日が暮れる頃だからそろそろ宿を探そうかと話してたんだよ。なあ、青竜?」

「へ? ああ、ええっと……」

青竜はとっさに対応出来ずに曖昧な言葉を発した。

「あら、そう」

疑う事を知らない桜はまた前を向いて歩き出した。

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