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評価等をしていただけてありがとうございます!

それに見あった作品になるよう努めていきたいと思いますので温かい目で見ていただけたら、これからも幸いです。



ドラゴンではなく、オーグに先程まで勇敢に戦った者達は、怯えの顔を見せる。そのことにすぐ気づいたヘーベルだったが、武人として強いという自負が彼女には少しばかりはある。

龍と戦うのは、初めてたが。勝つかは、分からないが負ける気はしない。そんなヘーベルは、拳をつくり龍へと構える。だが、戦おうとするヘーベルに対して、アリスは意外な一言を漏らす。


「みんな、逃げるぞっ! 早く、一歩でも早く逃げろ……!」

その言葉に狩りを終えて、援軍に来ていた他の男達も戦おうとせず、村へと逃げるように森を駆けていく。

「た、戦わないのですか?」

「馬鹿がっ! あの龍には……黒龍には傷はつけられないっ! いいから逃げるぞっ!」

ハバキは、ヘーベルの襟首を掴むと荷物を持つように背に背負い込み、逃げ出していく。

「ハバキさん、何で傷はつけられないんですか!」

ハバキは、息を力強く吐き出しながら応える。

「ただの龍なら俺達だって、逃げださないっ! でもな、あの黒龍は別だ。あれは、守り神なんだよ!」

守り神、それはこの村全体を守るためか。この世界を守るためなのか、ヘーベルには分からない。だが、守り神というのなら逃げる道理がない。


だが、その守り神から逃げる意味はすぐに分かった。

「うがぁぁぁぁぁっ!」

先に逃げていた男が、黒龍によって口へとくわえこまれる。黒龍は、頑丈に作られているはずの防具にその牙で傷をつける。その傷は、徐々に広がりを見せ肉へと食い込みを見せる。

血が雨のように、森へと降り注ぎ。緑色であるはずの木々を赤く不気味な者へと変えていく。

「な、何で……守り神がこんなことを!?」

「守り神たって、あれは龍。人間を食うんだよ……」


ハバキは、奥歯を噛み締めながら餌になった仲間の姿に目もくれず、ただ村へと帰ることを最優先に駆ける。

「でも、そんな守り神なら」

「ヘーベル、この国の王の名前。教えてやるからよく聞け。『龍王』ってんだ。だから、あの龍に傷をつけたらそれは、王への反逆を意味する」

「そんな馬鹿なことって……」

ヘーベルは、空に目をやると龍と目が合う。すると龍というものに、表情があるのか分からないがニヤリと笑ったように見えた。

二つの羽を振るい、こちらへと向かって降り立ってくる。

「ハバキさん、こっちに来ますっ!」

「ちっ、まぁいい。ヘーベル、悪いが俺達が囮になるぞ。アリス達が逃げる時間を稼ぐ」

後ろの向かってくる黒龍へと向き直し、ハバキは黒龍へと全神経を向ける。

その黄泉の穴のように黒く先が見えない喉を見せ、食らいついてこようとする。食らいつかれる瞬間に上へと飛び、黒龍の口先に触れて身を翻す。

そして、龍の頭へと降り立ち、尻尾に向かって駆け出しすぐさま地面に降り立つ。


「はぁ、食われるかと思った」

「私もです。まさか、あんな怖いことするなんて」

二人が、息を飲むのもつかの間。黒龍は、再度。空から二人に向かって降り立つ。目標は、二人にしっかりと定まったことに気づいたハバキは、村の方向ではなく横にあえて視界の悪い森へと突き進む。

「ハバキさん、下ろしてくださいっ! 自分で走りますから!」

「下ろすかよ、女を守るのも男の仕事だ。任せろ、お前は絶対に届けてやるっ!」

「へっ?」

「そんな間抜けな顔するなって。今の一言でだいたい女は惚れるぞ」

ふっと笑みを浮かべながら、森を駆けているときに黒龍の存在が消えていることに気づく。

「なっ、消えた……?」

「いえ……あの龍の気は、少し感じます。ですがどこに」

背後に気を向けて木々を抜けたその先には、黒龍が待ち受けていた。

「くっ、こいつどこからっ!」

「駄目、食われるっ!」

口を大きくあけて、飲み込もうとしようとしたその時胸元で大人しかったあのリスが黒龍へと向かっていく。その身を眩い光で、包み込み。二人は、その眩い光に目を閉じる。

光が止み、目をやるとそこにはリスの姿を変化させた虎のような生き物が黒龍と睨みあっていた。

顔は、どこか龍のようでもあり。牛の尾と馬の蹄を持っており、頭には二本のまだ短い角が生えている。

「なっ、こいつ麒麟きりんだったのか」

「麒麟?」

「あぁ、龍と並ぶ幻獣だ」

グルルルと咆哮し、黒龍と睨みあっている。すると、黒龍は諦めたのか空へと羽ばたき、どこかに去っていた。

「た、助かった……」

トンッと腰を地面にハバキはつく。空へ意識を向けていた麒麟は、そのはりつめた空気を解き。ヘーベルに抱きついてくる。だが、自分の体より少しばかり大きくなった麒麟を受け止めることが出来る筈もなく、押し倒される。

「ひゃ、ちょ、ちょっとくすぐったいよ!」

ヘーベルの顔を舐めて、母性の象徴である膨らみに頬擦りする。どうやら甘えているようだ。

「ははっ、どうやら胸が気に入ったみたいだな。その胸は、魅了の力でもあるのか?」

「そんなわけないじゃないですか!」

顔を真っ赤に否定している姿に苛めがいを感じたのか、悪い顔をする。

「どれどれ、幻獣が惚れるほどの胸。どれほどのものか触って確かめよう」

手を伸ばして確かめようとするハバキの手を、麒麟は何の迷いもなく噛む。

「ぎゃぁぁぁぁ!」

その悲鳴を聞き付けて、アリス達が黒龍が帰ったのを見計らって戻ってきた。

「ハバキッ、大丈夫か!」

「大丈夫じゃねぇ! いたたっ! 誰か離して!」

「おぉ、これは麒麟。何でこんなとこに?」

やめてと麒麟の頭を撫でると、麒麟はハバキの手を離す。

「ヘーベル~! 無事……無事だったんだ……」

「お、お姉ちゃん?」

アリスに抱きつかれたヘーベルは、少し戸惑う。アリスは頭を撫でながら、少し体が震えている。

「何だ? アリス、泣いているのか?」

「当たり前だっ! もし……食われてたらどうしよって思ってそれで………」

我慢していた涙を心の枷が外れたようにボロボロと目から涙が溢れていく。自分を本当に心配してくれたことの感謝と心配させてしまったという気持ちから、ヘーベルは優しく頭を撫でて抱き締める力を強くする。

「それで、ハバキ。何で麒麟がいるんだ?」

「さっき、助けたあのちびっこいのが実は麒麟だったんだよ」

ポンッと元のリスの姿へと戻った麒麟は、ヘーベルの首にマフラーのように巻き付く。

「どうやら、幻獣に懐かれたみたいだな。嬢ちゃん、連れて帰ったらどうだ?」

「で、ですが。いいんですか?」

「いいわ。お姉様には私からお願いするし、それに妹の恩人に無下なことできない」

いつもの凛とした眼差しとは違い、少し緩んだ優しい眼差しで軽く指で頭を撫でる。


「とりあえず、村に帰って黒龍が現れたことを伝えましょう。それに食われた彼らを弔ってあげたい」

「あぁ、じゃあまた何かに襲われる前に帰るぞ」



四人と一匹は森を後にし、四人は村に帰り黒龍が現れたこととそれによって犠牲になった人物を伝えた。すぐさま黒龍に対する策を練るのかと思いきや、犠牲になったものを弔うことを優先し、昔から犠牲になったものが眠る場所に新たな木を墓標として立てる。

そこには、既に何百もの木が刺さっておりどれだけ犠牲になったものがいるのかを知らせていた。数百という数は、その上に数の位がいっぱいあるために少なく感じる人もいるかもしれないが、人の命はそんなに軽くはない。

人の命は重さは、本当は測かれないことをヘーベルは誰よりも知っていた。数多の人間を自分の手で奪った彼女だからこそ、それは強く知っているし――思い知らされている。


村人は、その前に木を組み立てた塔を作り、その作った塔に火を着けて、燃やす。木は、ぱちぱちと音を立てて、数多の火の粉を出す。それが、まるで失った人達の魂ようにも思える。

村人全員が、その前へと集まり手を合わせて。今回の戦いの代表であるアリスが、先頭に立ち、手を合わせた。弔いの歌を歌う。

「ねんねんこ~おころりよ~。ぼうやは良い子だ~ねんねしな~」

それは、ヘーベルにも聞き覚えのある子守唄だった。母が子供を寝かしつける優しい歌は、どうやらこの村では弔いの歌としても使われているらしい。

「ぼうやの~お守りは~どこへ行った。あの山、越えて里へいった」

彼女の低く優しい声が、悲しみを誘う。そして村人のある老婆が歌を聴いて、泣き崩れる。きっと、あの男の母親だろうとヘーベルは思った。

歌が終わった頃には、木の塔は早くも燃え崩れて、小さな火だけが残る。弔いを済ませた村人は、足取り重く村の中へと戻っていく。

だが最後までアリスと老婆は残り、その小さくなった火を悲しそうに見つめていた。




悲しみを抱えながら、日は暮れ。気づけば夜になっていた。夜の夕食を済ませ、メディカに風呂に入るように言われたヘーベルは風呂へと入っていく。その隣には、麒麟も一緒だ。

「昨日は、ばたばたして入らなかったけど。お風呂なんて、久々な気分」

湯気が立ち込めていて、ヘーベルの体ははっきりとは誰の目にも写らない。体が湯気でしっとりと汗をかき、体を洗う。

「ん? そういえば、この子の名前なんてしよう……」

「キュ?」

ひのきでできた風呂の床に寝そべりながら、ヘーベルを見つめてくる。その姿は、とても愛らしいものだ。

「キュ……うん! キューちゃんにする! キューちゃんでいい?」

「キュキュー!」

「喜んでくれたみたいで良かった」

頭を撫でると自分の体をしっかりと洗い終わったヘーベルは、キューも洗ってあげる。

キューの体は、毛並みがふさふさとして触り心地がとても良く触っていて飽きない。洗われているキューもとても心地良さそうだ。

「じゃあ、お湯で流すね」

桶で湯船からすくった湯を手で集めて、優しくかけて洗い流す。そんな時だ、不意に風呂のドアがカラカラと開かれる。

「ヘーベル、なんでお姉ちゃんを誘ってくれなかったの?」

「ぶっ!?」

開かれた先には、アリスが衣服を身にまとわない姿で立っていた。ヘーベルには、確かに負けている膨らみがぷるんとプリンのように揺れる。だが、無駄な肉は一切ついてない体つきに白く絹のような肌。そんな彼女を直視できる筈もなく、すぐに目を逸らす。風呂に乱入してきたアリスを無視する形でキューの体を流す。

「あれ? 何で、顔赤いの?」

「き、気のせいだよ。お姉ちゃん」

苦笑いを浮かべているが、決してアリスの方は、見ない。

「もしかして裸とか見られるの恥ずかしかった? 大丈夫よ、女同士でしょ?」

「そ、そうだけど。……ひゃあ!? お、お姉ちゃん!」

「背中洗ってあげる。ほら石鹸貸して」

石鹸を奪い取ろうと手を伸ばす。そのため密着してしまい、ヘーベルの心拍数を上げることとなる。

「お、お姉ちゃん。わ、私! 体洗ったから!」

「そんなこと言わないで私に洗わせて」

石鹸を背中に擦り合わせ泡立たせる。背中をごしごしと洗われることに意識が行くよりも、アリスと風呂に入っていることに意識が向いてしまう。

「ねぇ、ヘーベル。記憶戻ってないから……分からないかもしれないけど。いつ、あんな技術を学んだの?」

「えっ……」

「オーグを狩っている時に見せたあの表情、そして躊躇いのない殺すためだけに磨かれた技術。ヘーベルは……何者なの?」

その言葉にヘーベルは答えることができず、場に静寂が生まれる。答えたところで、過去のことが何かが変わるわけではない。それに実は、転生したのだと伝えたところでこの世界には存在しない人間だ。転生してまで、別世界から会いに来たと言ったとしても、困ってしまうだろうということは目に見えている。


「分からないのならいいの。ただ、あんな心を無くした……死んだようになったヘーベルは見たくない。だから……なるべく戦わないで」

優しく抱きついてくる。だが、そこにヘーベルの先程までの照れなどはなかった。

「うん……ごめんね。でも私にこの力があるのは、きっと誰かを守るためにあると思うの。だから、この力はせめて……その誰かのために使わせて」

ぎゅっと力が強くなる。

「誰かのため……」

「はい、だから」

その時だ、不意に胸を揉まれる。優しく揉まれ、徐々に力を強くしていく。

「あっ……ん! んぁ、お姉ちゃ…んん!」

「う~ん、妹なのにこんなに持って。私にも少しは分けろ~」

ぷるんと上下に揺らすとヘーベルは、体をピクッと震えさせて顔を真っ赤にする。その反応を見て、アリスの心はくすぐられる。

「お姉ちゃん……もう……」

「もう……なに?」

息を切らしながら、ぷるぷると震える体から何か熱いものがこみあげてくるのをヘーベルは感じる。その熱いものが何かは分からないが、これ以上は抑えることができそうにないことを感じる。

「お姉ちゃん……お願い」

涙目で訴えてくるその顔に、更に心の何かのリミッターを狂わされていく。

越えてはいけない線を越えないようにするリミッターは、案外体の外にあった。

「ふふっ、アリス。なにやってるの?」

「お、お姉様!? わ、私は何を……?」

何とか理性を取り戻したアリスだったが、拘束から逃れたヘーベルはすぐに浴槽へと逃げ込み、深く入りこみプクプクと泡立たせる。

「ふふっ。今日は、三姉妹で疲れを癒しましょ!」


その日の風呂場からは、三姉妹の一番下の妹の悲鳴が聞こえていたという。

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