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なんとか書き上げることができました。これも全てみなさんのおかげです。感想なども頂けると凄く励みになります。


温かい目で見ていただければ幸いです。


みんなの元へと向かうと既にみんなの準備は整い、二人を待っているようだ。そこには、ヴォルフの姿やハバキの姿が見える。みな、それぞれ防具の種類などが違い、各国の兵士達を一様に集めたかのようだ。

「おいおい、アリス。嬢ちゃんを連れていくのか?」

「ああ、そうだ。ヴォルフさんは、この子を連れていくのは不満?」

「いや、不満じゃねぇが……。その嬢ちゃんが、ケガとかしないかが心配なんだ」

そこに割って入るかのように、ハバキが口を出す。

「狼のじいちゃんは、心配性だな。その子は、大丈夫だ。俺が見た限りじゃ、結構強いぜ?」

「誰が、じいちゃんだ。まだ儂は若いっての。それにしてもハバキ、お前いつ嬢ちゃんと顔合わせた?」

「昨日だよ、まぁとりあえず行こうぜ。みんな準備出来てんだから」

勝手に作業に森へと入っていこうとするハバキを止めるように彼へとアリスは、声を掛ける。

「待て、ハバキ。とりあえず編成だ、私とヘーベルは一緒として」

それに不服なのか他の男達が納得いかない顔をする。

「え~、ヘーベルちゃんと一緒になれないのか?」

「ちぇ、せっかく格好いいとこ見せようとしてたのによ」

「そうだ、そうだ。ヘーベルちゃんは俺らに任せて、お前はハバキと組めって」

そんな不満の声を漏らす男達だったが、アリスの睨み一つで皆、一様に沈黙した。睨み一つで黙らせたアリスは、組み合わせとして。アリスとヘーベル、そしてヴォルフを組むことにし。残りの男達とハバキを組ませることにする。

「さぁ、編成は決まった。みんな……狩りの時間だ。気を引き締めて、オーグを駆逐しろ。もう私達の目の前に現れるのを恐れるぐらいに徹底的にだ」

男達は、アリスのその言葉におぉーと雄叫びを上げ森へと入っていく。その姿を見たヘーベルは、前世のアリスと重なりを覚える。

「さぁ、私達も行きましょうか」

「じゃあ、嬢ちゃんは儂の後ろに隠れてな。ケガしないように気をつけろ」

「は、はい。お気遣いありがとうございます」

穢れを知らない少女のような扱いに少し不満を覚えたが、記憶を無くした少女がいきなり戦いに望むというのなら男ならこれぐらい心配するものとその不満を心の奥底へと沈めた。

「そうよ、ヘーベル。ハバキは、ああは言ったけど。私は、ヘーベルのことが心配。だから、危なくなったら私やヴォルフさんを捨ててでも逃げなさい」

その言葉には、とても重みがあった。顔も真剣で、もしそういう状況になったら置いて逃げろとアリスは言っているのだ。

彼女は、それ程までにまだ会ってまもないヘーベルのことを本当の妹のように大切に思っている。


「それじゃ、気持ちも固まったし……もっと奥に」

その時、獣とも人とも取れるような唸り声が森中に響く。

声の主は、すぐに二人には理解した。声のする方向に二人は駆けていく。それに置いていかれないようにヘーベルは、二人の影を追いかける。

木々から、陽の光が点滅するように顔に当たる。その光に目を細目ながら、木々の隙間を抜けた先の少し開けた場所にオーグがいた。

オーグ――それは、人に似た化け物。姿は、人に似ているがその姿は、とても醜くく肌は少し茶色がかった緑色。蛙のような目に体からは、腐った臭いがする。

オーグの先には、小さなリスのような小さな体にフサフサとした大きな尻尾。そんな生物がいた。どうやら食料にするつもりのようだ。

「おいおい、オーグ。そんな可愛いものを傷つけようとするな」

ヴォルフが、駆けていく。その手に持っていた、自分の身より少し大きな鉄でできた棍棒を振り回し、一撃を放つ。

その一撃は、命中しオーグをまるで蚊のように潰す。だが、オーグは一体ではなかった。小人のような体型をしていたオーグとは違い。三人の背丈と同じものから頭一つ分の大きさのものから様々だ。

「くっ、まさか囲まれるとはな」

「アリス、嬢ちゃんを安全なとこに」

「そうだ、ヘーベル。私とヴォルフさんが道を開く。その隙に逃げろ!」

二人が心配するなか、ヘーベルは一瞬ふっと笑う。そしてはっきりと告げた。

「私は、大丈夫です。自信があったから、ついてきたのです。だから二人とも自分の身を案じてください!」

二人は、その言葉にまるで鳩が豆鉄砲でも食らったかのように唖然な顔をするが、すぐにオーグ達に向き合う。

それは、ヘーベルの言葉を信じた。そのことを告げていた。


「行くぞ、二人とも!」

先陣を駆けるのは、アリス。アリスは、鞘からレイピアを抜き、目の前のオーグの喉を一突きする。喉からレイピアを抜くと血がぴゅと勢いよく吹き出す。その血は、他のオーグにかかり興奮させる。

「さて、儂もまだまだおじいちゃんじゃないとこ見せるとしよう……ぬんッ!」

両手に持った棍棒を振り回し、囲んでいた小人型のオーグを風圧で吹き飛ばす。それを止めようと二体の大型のオーグが、襲いかかる。一体に対して右腕と左腕を一本一本でなんとか押さえる。

「二人とも凄い。私も……」

過去、数多の命を消してきた手はもうここにはない。この、まだ綺麗な手を再び今度は人ではなく。獣の血に染めることに覚悟を決めたヘーベルは、自分の手を力強く握る。

「オーグ、ごめんね。皆殺し……するから」

襲いかかる数体のオーグに、怖じ気づくことなく拳を振るう。全方位からくるオーグ、まずは右のオーグの頭を裏拳で頭蓋骨を確実に砕き、左のオーグを肘でなぎ倒す。前のオーグと背後のオーグの頭を掴み、力強くぶつけてその綺麗な顔に血がかかる。

「なっ、ヘーベル……武術を」

そんな言葉は、耳に入れずまるで機械のように心を閉ざす。それは、前世の時に元々優しかった彼女の心を守るために自分で作り出した術。今の彼女は、ただ敵を殲滅する機械でしかない。


遠くから放たれたオーグの弓兵部隊の矢が、雨のように降り注ぐ。二人が、心配するなか彼女はそんなことを気にする素振りもせず。最小限に動きで、両手を動かし、腕の籠手で弾く。矢は、まるで彼女を避けるかのように地面に突き刺さる。

そんな彼女の姿には、敵であるオーグは恐怖を覚えるが。その敵を殺せと本能が告げるように、逃げ出すことなく向かう。


そんなオーグ達を、彼女は迎え撃つ。

「それでいいです、私に恐怖し怯えて私に向かってきて。傷つくのは……私だけでいい」

身を屈め、足を払い何体のオーグを転ばせる。屈んだ状態から足のバネを使って、前へと飛び込み殴り、空中で身を翻して蹴りを入れる。その戦いは、荒っぽく女性のような気品も持ち合わせていない。戦場で磨かれてきた相手を殺すために鍛えられてきた技術だ。


二体の攻撃を受けていたヴォルフは、負けてはいられないと力で二体の一撃を押し戻す。

「嬢ちゃんが、まさかあんな強いとはな。儂も負けるわけにはいかんよ……な!」

ブンッ振り上げた棍棒は、空気の壁をぶち破り。棍棒でオーグの体を叩き潰すというよりは、力で真っ二つに引き裂く。

「ヘーベル……。貴方は、まるで」

彼女の言葉を無視して、オーグは襲いかかる。現実に引き戻したオーグ達を一切の躊躇いなく、そのレイピアで串刺しにする。だが、彼女の残酷さにはどこか綺麗さがある。

「オーグ……」

首を掴みとめ、締め上げる。苦しがるオーグの姿にヘーベルの瞳には全くの揺らぎがない。ヘーベルは、本当に機械になったようだ。

だが、そんな彼女を。

この世界で得た可愛い女の子に戻したのは、この世界の可愛い生物だった。


「ひゃあっ!! そんなとこ入っちゃ!!」

それは、さっき襲われていたリスのような生物だ。それが彼女の二つのまるで柔らかいものの谷間に逃げ込む。彼は、そこが安全だと感じたのだろう。

温かく汗で湿ったそこを這いつきまわり、最終的には谷間から顔をぴょこんと出す。

「リ、リス……。うぅ……仕方ない、このままで」

機械のような冷えきった目から人の熱を持った温かい目へと変わる。

まるで、人格が変わったかのように――別人のようだ。


「うぅ……凄い臭い……」

「ヘーベル、危ないっ!」

背後から、近寄っていた大型のオーグが、棍棒を振るう。ヴォルフが、1番近くで助けに向かうが、間に合わないことに気づく。

ヘーベルは、息を吸い込み気を高める。そして、その大きな腹に一撃を入れようとするが、ある影が横から現れ、その手を沈める。


木の棍棒が、地面へと叩きつけられ砂煙が巻き起こる。

「ヘーベルっっ!」

「嬢ちゃんっ!!」


二人は、その場で固まる。だが、ヘーベルとその影の主が砂煙から、現れる。

「ハバキッ!」

「まったく、さっきまで馬鹿みたいに強かったのに。急に人が変わったかのように、しおらしくなるとは」

「ご、ごめんなさい……」


オーグの力の入った一撃を二刀で受け止める。つばぜり合いのように震えることなく、ピタリと棍棒を止めている。

「じゃあ、まぁこいつ。倒すから」

ふんっと鼻を鳴らし、棍棒を十字に切り裂く。すると、刀を鞘へと戻す。

「俺に会うのは、早すぎたな」

キンと鍔が鳴る。それに呼応するように、オーグの体が十字に裂かれ、血の雨が降りそそぐ。

「さて、大丈夫だったか。あと、その胸のどうした?」

「えっ? この子は、急に入ってきて……」

「ふぅ~ん、羨ましいぜ。谷間に包まれるなんて、アリスにはなひぃぃぃ!」

オーグを殲滅したアリスから、レイピアが鼻をかすめるように投擲される。

「オーグは、狩った。あとは、貴様も狩ってやるぞ。ハバキィィ」

「やっべ、アリスが怒った!」


先程までの戦場はなくなり今は、戦いが終わった少し温かい空気が流れる。

そんな二人の姿を見ながら、少しヘーベルは笑みを浮かべる。


だが、戦いはこれだけではなかった。

「グガゴォォォォォォ!!」

耳をつんざき、暴風が吹き荒れる。木々がその鳴き声で、なぎ倒される。

その声の主は、伝説とされ空の王者ともされる者。

「ド、ドラゴン………」


空から、黒く血に飢えた一匹の龍が、地上にいる彼女らを見つめていた。

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