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ポイント評価していただきありがとうございます!とても嬉しかったです、励まされました!感想等も今後ともお待ちしております。これからもこの作品がより良い作品になるように頑張りますので、温かい目で見守っていただければ幸いです。
メディカに連れられて、ヘーベルは小さな村へとたどり着く。村には、茅葺き屋根の家が何軒か建てられている。数は、目に見える範囲ではとても少なくこの村に住む人達があまり多くないことを予想させる。
「お~メディカ。帰ったのか」
屋敷の中から出てきたのは、狼の頭をした男性と思われる獣人だ。獣人は、 メディカとヘーベルへと近づき、ヘーベルの姿に気づく。
「何だ、この子は? メディカの隠し子か?」
「ふふっヴォルフさん、冗談言ったんですよね?」
笑顔のまま、両方の頬をつねる。そうするとヴォルフは、苦痛で顔を歪める。
「わふがった、わひがわるはった!」
「ふふっ、素直に自分の罪を認める人は好きですよ」
つねっていた手を離し、解放するとヴォルフは両方の頬を痛そうに撫でている。
ヴォルフの顔に少しばかり驚いたヘーベルだったが、すぐに順応し。ヴォルフに声を掛ける。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だ。優しいな嬢ちゃん。それで、嬢ちゃんは、何者なんだ?」
「わ、私は……その」
助けを求めるようにメディカをヘーベルは見る。するとあの笑顔を見せ、頭を軽く撫でる。
「この子は、記憶喪失なの。さっき森で会って、怪我したから連れてきたの」
「おぉ~、そうだったのか。助かったな、嬢ちゃん! メディカは医師だ。傷だって、あっというまに消してくれるさ」
ハハッとヘーベルの背中をパンパンと叩きながら笑う。 ヴォルフに叩かれた背中は、少し強く叩かれたせいかヒリヒリする。
「あっ! ヴォルフさん、やめてくださいっ!そんな風に乱暴に叩いてこの子は、男の子じゃないんですよ!」
「あっ、すまんすまん嬢ちゃん!」
「いえ、大丈夫です……あの、それより……何か服を貸してくれませんか? この格好……その恥ずかしくて……」
ごめんねとメディカは言うと、ヴォルフに一礼し、背中を軽く押しながらメディカの家へと向かっていった。
メディカの家へと着くと、すぐさま着替えとは行かず先ずは右腕の手当てをされた。
「いつっ!」
「ヘーベルちゃんは、まるで男の子みたいな怪我をするのね。何か固いものでも殴ったの?」
「えっ……あはは……覚えてません」
そうとメディカは消毒を済ませ、両の手を右手の甲に乗せる。するとメディカの手から光だし温かいものが手を包んでくれる。
「ほら、これで傷はなくなったわ。今度からは、気を付けてね」
「本当だ、ありがとうございます」
右手の甲についていた傷痕は消え、綺麗に痛みもなくなっていた。まさに手当てされたのだ。
「あの何で傷が?」
「ふふっ。これは魔法なの……まぁまじないというのが正しいのかしら」
「まじない……魔法。そんなものがこの世界にはあるんですか?」
「ええ、私の先祖が元々医者で。この魔法を作り出したの。それ以来、私の一族はこんな治癒の魔法をやることができてるの」
魔法――それは、ヘーベルの世界にはなかった技術だ。ヘーベルも気を扱え、血などの流れを無理矢理変え止血できたり体の身体能力を上げたりすることができる。だが、それとはまた違った力をヘーベルは感じた。
「それじゃ、着替えちゃいましょう……」
「えっ、あっ。あの、メディカさん……さっきと目の色が違うような……」
どことなくメディカは鼻息を荒くし、先程までの優しい目とは違った野獣の目をしている。口からは、メディカの女神っぷりには似合わない唾液が一滴垂れている。
「私、可愛い女の子を着せ替えするの大好きなの! だから……ほら可愛くしてあげるね……ヘーベルちゃん」
じわりじわりとにじみ寄ってくるメディカの姿にヘーベルは怯えるかのように距離を離すが、壁に追いやられ退路を失う。
「ほら、逃がさないわよ。ヘーベルちゃん」
「落ち着いて……落ちつきゃぁぁぁぁ!」
その後メディカの家からは、若い女の声と悲鳴が外にまで漏れだし。それに続いてメディカの嬉しそうな悲鳴が響いてきたという。
「か、可愛い………!!」
「うぅ………」
ヘーベルを紹介するために村の真ん中に集められた村人達は、その姿にそんな声を漏らした。主に村の若い男達だが。
「あの……私のこの格好は……みなさんと明らかに違うと思うのですが……」
「ふふっ、だって私の手作りだもの。ここのみんなの服装は、昔ながらのものだけど。私は、もっと華美な衣装を作りたくて……でも私が着るのは恥ずかしいから」
ヘーベルの格好は、他のみんなと遥かに違っていた。メディカ達の格好を和服とするならば、ヘーベルの服装は洋服。丈の短いフリルがあしらわれた白いワンピースである。
「さてヘーベルちゃん、みんなにご挨拶して」
「えっと……ヘーベル……です。記憶がなくて様々なことを聞いてしまうかもしれませんが、優しく教えてくれたら嬉しい……です」
その格好に前回男であったことから恥じらいを覚え、顔をほんのりと赤く染めた挨拶は男達の心を捉えた。
「うぉぉぉぉ!! ヘーベルちゃん~!」
「何でも聞いてくれ、手取り足取り教えてやる!」
「ヘーベルちゃん、お兄さんが色んなこと教えてあげるからね~」
にじり寄ってくる村の男に苦笑いを浮かべて困っているとヘーベルの視界に見慣れた姿が写りこんだ。
「お前ら、ヘーベルさん困ってるじゃない!」
桃色の綺麗な髪、幾度となく守り守られてきた背中。まるで男のように強気な言動に王女には似つかわしくないつり上がった瞳。
それは、間違いなく彼――今は彼女のヘーベルが転生する理由となった探していた人物その人だった。
「ひぐっ……えぐっ………」
「えっ、大丈夫!? ほら男共が、そんな怖い顔して詰め寄るから」
大丈夫と聞きながら、ヘーベルを慰めるように抱き締めてくれる。
「ち……違うんです……ただ、急に涙が……」
「そう? なら、落ち着くまで私が付いていてあげるから」
抱き締められたまま、みんなから徐々に離れていくように距離を離そうとしてくれる。
ヘーベルは、その過去には失ってしまった彼女の姿が消えないようにがっしりと。しっかりもう二度と離さないと抱きついていた。