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今回、少し分量がいつもより多くなっていますが…読んでいただけたら…幸いです。


ヒロイン成分を出していきたいと思っています!



ヘーベルは、目の前の男に足を取るようにスライディングし、すぐさま立ち上がり、三人の顎へ拳を打ち込み、沈める。



「おい、お前ら邪魔だ。俺が相手する」



ジャージ姿の男の言葉に、兵士である男達は、道を開ける。ヘーベルは、その開いた道をゆっくりと歩き、ジャージの男の前に立つ。



「潜入した目的は、なんだ? 他国からのスパイか?」

「違います、私達の目標はこの国の転覆……。いや、改変。革命です」

「ということは、王の首が目的か……。はぁ、困ったな。まさか、今の世の中反乱する奴がいたとは」



タバコを捨てて、足でグリグリと踏みつけて消す。大きなため息をついて、首の後ろを撫でる。



「スパイなら、上には黙ってつまみ出そうかと思ったが。まぁ、あの犬の奴は始末しちゃったのは、正解か」



その言葉に、ヘーベルとハバキは反応する。

二人の頭の中に、最悪の結果が脳裏によぎる。それを確かなものにするように男は言った。



「お前らの仲間だろ? あの狼の獣人。先にあの世に送ってやったぜ」

「てめぇぇぇ!!」



ハバキが、兵士達をなぎ倒して向かってくる。

それをヘーベルは、左腕を出して制止する。



「止めるなっ! 俺にやらせろっ!」

「すみません、私の獲物と決まった以上。私にやらせてください」



その顔は、ナイフのように鋭い。それはとても女の子がしていい顔つきではなかった。ハバキは、その顔を見て一歩下がり、軽く舌打ちをする。



「すみません、でも私が敗れたら……。ハバキさん、あとは頼みます」

「馬鹿野郎っ!! お前が死んだなんて……知ったら、アリスが悲しむ……だから死ぬな。死ぬと思ったら俺を盾にしてでも逃げろよ」

「ははっ、ハバキさんは泣いてくれないんですね」

「俺だって、泣くさ。男だから心でな」



ハバキは、ヘーベルの背中を守るように立つ。

ヘーベルは、構えをつくり、男へ戦う意思を示す。それを見て、やっとかと言った感じで、またため息をつく。



「とりあえず、お前から戦うのな。俺、女だろうと平気で殴れるんで。そこらへん、OK?」

「いいですよ、私は貴方を全力で地べたに這いつくばらせてやりますから」

「はいはい。それじゃあ、俺の名前。オーディンってんだ。あの世の土産に覚えておけ」

「私は、ヘーベルといいます。覚えなくていいですから」



ドンッと地面を蹴り、地面がえぐれる。ふわっと景色に溶け込むように消えたヘーベルは、オーディンとの距離を詰める。左足で踏ん張り、右の拳を繰り出す。

だが、そのとてつもない速さで繰り出された拳はオーディンにあっさりと左手で、包みこむように受け止められる。



「へぇ~、縮地しゅくちか」

「くっ……」



拳を握られたまま、上に持ち上げられ、ヘーベルは吊られる姿となる。ヘーベルは、足で蹴りを繰り出し、何とかその手を離すことに成功する。



「まぁシュトゥルムぐらいなら倒せるぐらいか?」

「随分、強気なんですね……」

「俺は強いから、気持ちだって強気になるさ」



手をコキコキと鳴らし、準備運動を済ませたオーディンはブォンという音と拳を放つ。

その不意に放たれた拳をヘーベルは、右頬を掠めたが無事にかわす。



「わざとですか?」

「あぁ、わざとだよ。俺は、女を殴ることができる。でも女には、優しいんだよ」

「その優しさが、仇とならなければいいですね!!」



顔や腹を狙って何度も拳を放つが、全て受け止められてしまう。だが、その防御を破らずとも浸透させ衝撃を繰り出す技をヘーベルは、前世に会得している。

ヘーベルは、距離を取る。

息を深く吸い込み、ゆっくりと吐き出した。



「ふっ!」

「無駄だってぐぅ!!」



手でしっかりとオーディンは、掴んだが手から浸透した打撃の衝撃は彼の体を吹き飛ばす。

アスファルトの地面を靴をこすらせ、滑らせていき、彼は踏みとどまる。



「面白い……。防御を貫通する技か」

「はぁっ!!」



ヘーベルは、その勢いに任せて、必殺の技――九死一掌を放つ。その動きは、身軽な女性だからこそ放てるはずだった。だが、オーディンはそれを全て防御し、最後の膝蹴りを足で止める。



「まさか、止めるなんて……。私の必殺技が……」

「必殺技か、なら必殺じゃなくなったな。ただのをぐっふっ!?」

「なんてね、受け止められること分かっていました。なら技をとおすだけです」



膝蹴りを止めたはずだったが、衝撃は先程同様、浸透されしっかり一撃を食らってしまう。その衝撃でオーディンの体が空中に少し浮き、身を翻して地面へと降り立った。



「へっ、意外とやるな。意外と楽しめそうで、良かったぜ!!」



近くの標識をへし折り、力一杯横に振り回す。

ブォンと空気を切って放たれた一撃は、首もとを狙ってくる。その一撃に、身を屈ませてかわす。頭ギリギリをすり抜けていく標識は、ビルへとヒビを入れ、まるで最初からそのようになっていたかのように自然的にめり込んだ。



「馬鹿力ですね、当てなきゃ意味ないですけど」

「まだまだ!!」



備え付けの消火栓を手で軽く弾くと、ヘーベルへと飛んでいく。ヘーベルは、それを同じ力で押し返し、破裂させる。



「なかなか面白いな、どうだ俺と付き合わないか? そうすれば、お前だけは助けてやるぞ?」

「断る!! 私は……もう……既婚者なの。だから、別の相手でも探して。あと、貴方は嫌いです」

「既婚者だと……? えっ、結婚してんの?」

「形式的にはまだだけど……。これを成功したら、きっとそうなると思う」

「つまり……人妻……。大好物だぜ」



じゅるりとオーディンは、唾液が口から溢れたのを手の甲で軽く拭く。その姿にヘーベルは、嫌悪感と身の危険を感じる。



「決めた、ヘーベル。お前は生け捕りだ、俺色に染めてやる。いや、染まれ!!」

「気持ち悪い……です。ってか、黙ってください、その舌を引きちぎりますよ?」

「おー怖い、だがそんなとこも好きだ」



ヘーベルは、そのキメ顔を見て、ぞわっと鳥肌が立ち、顔色を青白くさせる。心の底から、嫌悪感を露にする。

相手は、ヴォルフを倒したものだ。

少ない時間ではあったが、自分に付いてきてくれた仲間なのだ。

彼女にとっては、既に大事な存在になっていた。

だが、この戦いを仕掛けたのは、ヘーベル自身だ。

本来、恨むなら自分を恨むのが、筋なのかもしれない。だが、その自分への怒りをヘーベルは、オーディンにぶつける。



「貴方は、ここで私が仕留める!!」

「へいへい、いいからかかってこいよ」



両者は、拳と拳をぶつけ、血が吹き出してくる。その血は、ほとんどヘーベルから流れ出てるものだった。手甲で手を固めて、守っているというのにオーディンの拳はそれを凌駕していた。



「さっさと決着つけるか」



力ずくで拳を繰り出し、ヘーベルはそれを冷静にかわしている。だが、右の拳を放つ素振りを見せる。それをしっかりとヘーベルは、視認していた。

だが、それはフェイク。

左から脇腹へ拳を打ち込まれ、ヘーベルが地面を滑っていく。踏みとどまり、咳き込んだヘーベルは血を口から吐いた。



「大丈夫か!」

「だ、大丈夫です。……気にしないでください」



長期戦を挑んでいると、自分の体の方が参ってしまうことを感じたヘーベルは、次の一撃に全力を叩きこむことを決める。



「次で最後です……」

「そうかい。なら全力で挑んでやるよ……こいっ!」



勢いよく息を吸い込み、肺を膨らませる。

入ってきた空気を力に変え、気を身体中に流し込み筋肉を締め上げる。

体の外にまで放出される気は、場を飲み込み、息がつまっていき、緊張感がうまれる。



「おいおい、そんな力どこに隠してた?」

「隠してません、ただ使わなかっただけです」

「そうかい、なら俺も………」



場を完璧に飲み込んでいたヘーベルの気は、半分まで押され、分断する形で、 オーディンも放出する。ヘーベルの気が熱さを感じさせるのだとしたら、オーディンは冷たさを感じさせた。



「行くぞ………」



パンッと音と共に二人の姿が消え、その場から気配を消し、パンッパンッと何度も音が鳴り、血が飛び散る。

二人は、縮地の速さの中、他の者には見えないスピードで技を繰り出していた。

だが、お互いが決定打を入れ、地面を滑り、その姿を現わした。



「はぁはぁ………!!」

「はぁ……んぐっ!!」



オーディンも口から血を吐き出す。体を震わせ、先程の決定打が効いていることをうかがわせる。だが、それはヘーベルも同じだ。息を荒くし、立っているのがやっとだと見てわかる。

二人は、ゆっくりとその距離を縮める。



「うおぉぉぉ!!」

「はあぁぁぁぁ!!」



二人の軸足が沈みこみ、全力で拳を繰り出す。

ブォンという衝撃が、ヘーベルの腹から背後へ伝わり、兵士達が巻き添えをくう。

リーチの差で、オーディンの拳の方が先に目標へたどり着いた。



「ぐっ……固てぇ………」



ヘーベルは、気の力で体を固めてもその打撃は、身を貫いた。一撃をくらったヘーベルは、ゆっくりと震えた拳をオーディンの顔に置く。

大型トラック車に轢かれたようなとてつもない衝撃が、オーディンを襲った。

オーディンの体は、空中で二転三転したあと、地面へと叩きつけられる。



「私の……勝ち……」

「ヘーベル!!」



その一撃に全てを込めたヘーベルは、事切れた人形のように真っ直ぐ倒れていく。

だが、オーディンは倒れていたわけではなかった。



「見事だった」

「嘘……だろ」



逆再生するかのように起き上がったオーディンは、地面スレスレでヘーベルを捕まえ、お姫様のように抱き上げる。



「俺をここまでのした奴は……初めてだ。本気で惚れたぜ」

「てめぇ!! ヘーベルを離しやがれ!!」



未だに数が増えていく兵士達に、ハバキは二本の刀を鞘に納め、呼吸を整える。



斬鬼ざんき千手観音せんじゅかんのん



居合いで抜かれた二本の刀は、千刀へと姿を変え、全てを一瞬で切り裂き、カチンという鞘に納める鍔鳴りとともに全ての兵士が倒れていく。



「お前もなかなかやるんだな」

「うるせぇ!! ヘーベルを離せ!!」

「何だ、もしかしてお前の妻か?」

「ちげぇよ、ただ俺が好きな女がそいつがいなくなると悲しむんだ。渡すわけにいかねぇだろ」

「なら、この子同様。俺を認めさせたらいい」

「斬鬼・風車!!」



体を空中で捻らせ、回転してくるハバキをオーディンは刀を足で弾く。すると、直ぐにハバキは体勢を変え、二刀を並べて降り下ろす。



「斬鬼・虎牙こが

「つまらないな」



足を鞭のようにしならせ、ハバキの脇腹をえぐり吹き飛ばす。ハバキは、ビルへとぶつかり、血をべっとりと付けると動かなくなる。



「じゃあ……ついでにこの戦い……終わらせるか」



息を整えるとパンッという音と共にその姿を消した。冷たい風が、その場に流れる。ハバキは、ゆっくりと意識を取り戻し、助けられなかったことを嘆くように奥歯を噛み締めて、目から一筋の雫をこぼした。



「すまねぇ……助けられなかった」



空には、月が見える。

その月の明るいはずの光が、ハバキ同様にどこか暗く悲しんでいるように見えた。





ヘーベルを送り届けたキューは、ここに自分は必要ないと二人を追いかけ、すぐに追い付いたキューは背中にアリスを乗せて、駆けていた。



「ヘーベル……?」

「どうした、姉君?」

「今、ヘーベルが呼んだような」



声が聞こえているわけがなかった。だが、アリスはヘーベルの何かを感じとり、振り返る。勿論、そこにヘーベルの姿はない。



「ブラドさん、ヘーベルが心配。早くあいつを」

「ふむ、仕方ないのう……。なら空を駆けるとするかの」



人の手であったブラドの両腕が、翼へと変わる。



「弾丸は、私が止める。だから、キューよ。お前は、姉君を頼むぞ」



キューは、コクリと頷くとブラドの後を追うように空を駆けていく。



「ブラドさん、最初からこうした方が速かったんじゃ?」

「ふむ……。人の姿になっているときに、半分戻ると私の可愛さが半減するじゃろ? だから、本当はやだったのじゃ」



一直線に向かってくる二人をスクーシナは、狙撃するが翼で弾丸を払いのけ、近づいていく。

アリスは、振り落とされないように必死にしがみつく。だが、その速さで飛んだおかけで、目前へと近づくとブラドはその爪でスクーシナを襲う。

それを寸でのとこでかわし、すぐに銃を近接用に所持していた黒塗りされたデザートイーグルで応戦する。



「まさか、こんな近くに来るなんて!!」

「痛いのう、私の肌に傷がついたらどうする?」

「この子が、狙撃手……」



スクーシナは、ナイフとデザートイーグルを構える。龍、そして麒麟。そしてある程度はやれる女騎士、分が悪かった。



「ずるくない? 私、相手に三人ってずるくない?」

「いつだって正義の味方は、数で一人を葬るものじゃ。観念するのじゃな」

「待ってください……分かった、私が戦おう」

「姉君? こやつに合わせる必要は」

「集団で苛めるような戦いは、私はあまり好きではありません。ここは、私に……」

「マジで? 一人で相手してくれるの? やった!」



アリスは、鞘からレイピアを抜き、構える。その姿を見たブラドは、大きくため息をつくとそれを了承するかのようにそれ以上は何も言わない。



「ありがとうございます」

「じゃが、弾丸は……避けられるのか?」

「ある程度は。あとは、気合いで!」



アリスは駆け、一撃を放つが、簡単にスクーシナは避け、デザートイーグルの銃口を向け、躊躇いなく撃つ。

それをギリギリでかわすが、足を払われ倒れてしまう。



「残念だけど、これで終わり!!」

「くっ!!」



銃口にレイピアを差し込み、銃を破壊しようとしたその時、あの男が現れる。



「はいはい、その戦いそこまで」

「オーディン!! 加勢に来てくれたの~?」

「貴様……何でヘーベルを………ハバキは?」

「姉君よ……。こやつが、ここに来たということは」

「まさか!?」

「いや、あいつは殺してないぜ? あぁ、でも犬は殺しちまった」



その言葉にアリスは、レイピアを向ける。眉間にシワを寄せたその顔は、とても険しい。



「オーディンよ、その娘は私の嫁じゃ。貴様になぞくれてやらん」

「お~、あんたの嫁か。だが、残念。王者の嫁は、強者っていうのが習わしだろ? それに人妻って俺大好き」

「貴様!! ヘーベルを……私の妹を離せ!!」

「まぁ、待て。今回の戦いは、これで終わりだ。お前らのことは、放っておいてやる」



その話に、一番驚いたのはスクーシナだった。



「そっ、そんなこと上が許すの?」

「許さないなら、消すだけだ。だから、お前も戦いはやめろ」



ヒュンとスクーシナの背後に立ったオーディンは、ヘーベルを右肩にスクーシナを左肩に抱える。



「じゃあな」

「なら、私の嫁を置いていけ」



ブラドは、殴りかかるが右足で止められる。その衝撃でビルへとヒビが走り、ガラガラと倒壊する。落ちていくアリスをキューが背中でキャッチする。

空中、瓦礫を足場とし殴りあうがブラドの拳は届かず、口に魔力を溜めて、火球を打ち込むと避けられ、他のビルが倒壊した。

その砂煙に混じって、オーディンは姿を消した。



「こいつを助けたかったら、パレードでも襲うんだな。そこで高らかにおれは、こいつを嫁として宣言する」



言葉だけが、その場に静かに残る。

ブラドとアリスは、もうそこにはいない者の姿を見るようにじっと倒壊したビルを見ていた。



負けた。

戦いは、彼女達の惜敗で終わった。

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