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遅くなってしまって申し訳ありません。できるだけペースを保っていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

ヘーベルは、体に温かく柔らかい毛布のような感触と自分の体重をふわりと受け止めてくれる心地を感じとり、自分がベッドで寝かせられていることに気づく。

それを確かめるように重い目蓋まぶたを開けた。最初に目にしたのは、見慣れた天井。ここが、自分の部屋であることにヘーベルは、確証を得る。



「ぬっ? やっと起きたか、眠り姫みたいに私のキスがなければ目覚めないかと思ったぞ」



それは、最近耳にした声。

あの黒龍の声だった。黒龍は、頭をそっと撫でて笑みを浮かべる。少し体を起こすと、毛布の上にはキューが体を丸めて気持ちよさそうに寝ていた。



「連れてきてくれたんですか?」

「うむ、もう主は私の嫁じゃ。嫁に優しくない旦那がいないわけなかろ?」

「はは……。本気だったんですね……」

「本気も本気じゃよ。主のことは、気に入ったのじゃ」



待っておれとドアを開けて、一階へと降りていく。それを確認すると起こしていた体をベッドにまた預ける。心地よく眠っているキューの頭を撫でているとキューも目が覚める。

キューは、顔へと近づき頬擦りをし、軽くその小さな舌でぺろっと舐める。キューも自分の主人がどこかに連れていかれ、心配していたのだろう。



「ごめんね、心配かけちゃったみたいで」

「キュー、キュー」



頭を優しく撫でるとキューは、嬉しそうに鳴き声をあげる。その時、ドアが開いた。ドアの先には、少しムッとした顔のアリスが立っていた。

アリスは、その表情のまま詰め寄ってくる。

ヘーベルは、怒らせてしまったと思い、苦笑いを浮かべる。だが、アリスの次の行動は、ヘーベルの予想外の行動だった。



「良かった……ヘーベル!」

「お、お姉ちゃん……?」



アリスは、ムッとした顔が緩み、顔をほがらかにする。その目には、涙が見えた。ヘーベルは、どうしたらいいのか分からず、頭を撫でる。



「ヘーベル、ブラドさんから聞いたよ」

「ブラド?」

「私のことじゃよ?」



ドアには、あの黒龍が腕を組み、ドアに体を預けて、笑みを浮かべていた。



「えっ? ブラドって名前が?」

「違うよ、ただ名前がないと不便じゃろ? 黒龍つまりブラックドラゴン。それを縮めて、ブラドじゃ。あとで、嫁である主が正式に私に名前をつけてくれ」

「えっ、じゃあ村人には」

「私の正体を話した、そして私が犯した罪を謝って回った。そんなことで、許されるわけがないがの」

「ブラドさん……」



アリスは、少し哀れみを持った目で見ると、ブラドは、それを笑顔で返し、自分は平気だと伝える。



「あとは、主がどのような気持ちで私を懐柔したのかも伝えたぞ。みな、驚いておった」

「そ、そうだ! ヘーベル、国を……この世界を変えようとしてるって本気!?」

「……はい、本気です」



ヘーベルのその瞳には、一切の迷いがなかった。その表情も真剣であり、アリスはヘーベルの覚悟を感じた。



「私は、この国は、間違っていると思います。自分の近場は、同じ人間として扱い、周辺の村人は人ではなく税の詐取やブラドの餌だなんて。そんなの間違っている……」

「ヘーベル……。貴方は、反乱を起こす気?」

「はい。お姉ちゃんに前に話しましたよね……私のこの拳は、きっと誰かを守るためにあるんだと」

「そうね……でも貴方は、女の子よ。そういうのは……男が」



その言葉にヘーベルは、深呼吸をする。何かを伝えようとするヘーベルに気づいたアリスは、ヘーベルの言葉を待つようにじっとヘーベルの目を見つめる。



「男も女も関係ないです。気になった人が動かないと。誰かが正しいことをすれば、人は動きます。人は勇気がなかなか出ない生き物です。だから私が先頭を走ります。みんなに小さな勇気でも持ってほしいから」

「流石、私が見初めた嫁じゃな。いいことを言う」

「ブラド、全然良いことじゃないですよ。私は、犠牲を考えていない。私が先頭を走って大衆が動いたら大きな争いが起きるんですから」



それが、ヘーベルの迷いでもあった。多数の犠牲を払ってでも彼女――アリスに良い世界で生きてほしい。そう決めたヘーベルだったが、自分の願いで多数の命を奪うことに迷いは完全には晴れていない。



「それでも主は、この世界を正そうとしている。確かにかなりの犠牲はつくじゃろうよ。でも、綺麗事だけでは世界を変えられぬ」

「分かっています、それでも」

「なら、少数精鋭。それで王を倒せばよいじゃろ? 私と主、それにあと数人。それで犠牲は、かなり減る。それなら、納得じゃろ?」



確かにヘーベルは、その通りだと思った。それならば、もし自分達が敗れたとしてもそれを見て感じた大衆が、動いてくれるかもしれない。それなら失敗はいずれ成功する。世界は変わる、そう感じた。



「なら、その少数精鋭に私を加えて! 姉として妹を支えさせて!」

「お姉ちゃん、それは」

「いいじゃろ。主もそれで納得じゃろ?」

「駄目です! ブラド勝手なことを」

「主に権利などない、忘れたか? 全て私に捧げたことを」



私についてこいと二人に手を差しのべる。いつの間にか、ブラドに先頭を走られている。王の化身であるはずの彼女が、今はまるでジャンヌダルクのような救国の乙女といった感じだ。



「分かりました、私がお姉ちゃんを守ります」

「いや、私がヘーベルを守る!」

「ふむ、ならば私が二人を守るとするかの。両手に華とはこのことじゃ」



三人が手を取り、決意を固めているとドアをコンコンと鳴らし、いつの間にかドア先にはハバキとヴォルフが立っていた。



「お嬢さん方、都。いや、新しい未来までエスコートしましょうか?」

「何を気取ってるんだ、お前は。気持ち悪いぞ」

「じいさんは、黙ってろって」

「だから、儂のことじいさんと呼ぶな」



二人は、ドア先でじゃれあっているのを女子三人はそれを見て笑みを浮かべる。それを見られた二人も自然と笑みがこぼれる。



「美女三人にそれに従う豪傑が二人。これだけ揃えば、世界なんて変わる。昔の伝承からの決まりじゃよ」

「そうですね、皆さん。命、私に預けてくれますか? そのかわり皆さんを私が守ります!」



ヘーベルのその問いに五人は、ふっと笑みを浮かべて目を閉じる。全員、覚悟を決めてその問いに代表するように答える。



「勿論、でも私達がヘーベルを守るから安心して」

「それじゃ、あの意味がないような」

「主は、何を言っておる。嫁を見捨てるような私ではない!」

「そうだぜ、女を守るのが男の仕事だ」

「まさか、お前からそんな言葉を聞けるとはな。嬢ちゃん、私もハバキに同意見だ」

「皆さん、ありがとうございます!」



ヘーベルは、頭を下げる。ヘーベルの頭をわしゃわしゃと乱暴にハバキが撫でる。そんなハバキをブラドが殴り、一撃の下に沈める。

それを諌めるように二人が押さえこむ。本当に大丈夫だろうかとヘーベルは、心の中でほんの少し思った。

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