.あまとうのみつばち
砂糖をいれすぎた、あまったるい紅茶をひとくち、口にふくんでそのままのどの奥へと流しこんだ。
うっくん、とのどが鳴る音が聞こえてくる。
ぼくは一回、オレンジ色の水面をながめてから、ぶすっとした顔を作った。
「さとう、いれすぎですよ」
「そーお?甘いほうがすきかとおもって」
せんぱいはにこっと笑って、角砂糖をひとつ、くちのなかに投げ入れた。
しゃくしゃくと、角砂糖がたべられていく音がする。
「糖尿病、になりますよ」
「じゃあ、かずくんもなれば?」
「いやです」
断固として拒否しても、せんぱいはいやな顔ひとつせずにぼくをみつめている。
その瞳には好奇心というか、たのしそうな光がちらついていた。
「あたしは、あまいものだあーいすき」
ぼくの非難の目をもろともぜずに、せんぱいはおおっぴらに手を広げて見せた。
「かずくんは?」
「きらいです」
ぼくは未だにぶすっとして即答する。
せんぱいのペースはいつもこうだ。
下をむいていると、ふんわりとした手が、ぼくのほおをつつんで、ゆっくりとやわらかいものが、ぼくのくちびるを包み込んだ。
そして、そのままふんわりとあたたかいものが名残おしいくらいに離されていく。
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頭が、からだぜんたいが熱くなっていくのが自分でもわかる。
砂糖がとけるまえに蒸発して、ぼくがとけてしまいそうだ。
砂糖の甘い、きれいなあじがした。
「あまいもの、きらい?」
せんぱいは勝ち誇った笑みをうかべて、ぼくを見つめていた。
「…ずるいですよ」
あとの祭り。




