episode1
郵便局テロ事件から一週間が過ぎようとしていた。
郵便局を襲ったのは在日外国人。アジア系の男が四名とヨーロッパ系の男二名の計六名。そのうち四名が死亡。二名の身柄を拘束した。
当時現場には職員含め34名いたが内21名死亡。一名意識不明の重体である。
そこまで書いて黒条剛は一旦ペンを置き書類を読み返した。
今回のテロの原因は日本政府に対する報復だと二人は証言している。個人的恨みをもつものが集まり、今回のテロを行ったというのだ。
2891年現在、日本は世界でもトップクラスの先進国になった。あのアメリカさえも日本は色んな分野においてひけをとるほどだ、
しかしその一方で日本は国内を厳しく取り締まるようになっていった。そして在日外国人への対応もやや風当たりが強くなっていってしまったのだ。そのことが今回大きく関係あると見られている。
「この国もそろそろ根底がぐらつく頃か……。」
「なに物騒なこと言ってんだよ、黒条。」
独り言を呟いたつもりだったがそれに返ってくる言葉に剛は後ろを振り返った。
案の定、後ろにいたのは黒条の同期で唯一の親友である東堂悠斗だった。両手にマグカップを持っているようだが片方は剛のだ。
「はい。少しは休めよ。」
コトッと音をたてて剛の前にマグカップを置く。どうやら中身はコーヒーのようだ。
「すまない。」
そう言って剛はコーヒーを一口口に含んだ、
「少し砂糖も入れといた。疲れてる時は糖分とった方が良いからね。」
そう言うと悠斗も剛の向かいにある椅子に座った。
今二人は基地の一般書庫にいた。
基地、というのは日本の秘密軍隊『A Hit Squad (暗殺団)』頭文字をとって通称『AHS (エイヒス)』と呼ばれる軍の基地である。
憲法第9条において、日本は武力の放棄を宣言している。自衛隊はあくまで自国防衛のためにあるというとが日本の言い分だ。
しかし世界は甘くない。
いくらアメリカの傘下に日本が入ろうともいつどの国が戦いをしかけてくるのか分からない。
また、他国との軍事連繋及び内戦などの援護が出来ないことは日本の信頼において大きな問題点でもあった。
そこで2800年。当時各国で戦争が活発になりつつあった為日本は極秘でAHSを立ち上げた。しかしAHSも元々は軍隊ではなかった。その名のとおり、『暗殺団』として設立されたのだ。
他国との連繋を極秘でとり、同盟国や自国に負の影響を与える物事を裏で速やかに排除するというのが最初だったのだ。
今現在は日本の軍隊として取り扱われているが、その存在は日本政府のトップと海外政府のそれこそ数人しか知られていない。一応、アメリカの日系アメリカ人ということにしてもらい、海外での活動を主として行動している。
月日が経てば世の中も変わるもので、あれほど戦争は良くないと言ってきた約900年ほど前と比べ今はまた戦争が増えてきている。人口が増え、食糧難や土地の争いがぽつぽつとしかし着実に増えてきているのだ。
「で、さっきなんであんなこと言ってたんだ?」
悠斗がそう剛に問いかけた。
「この国もそろそろ根底がぐらつく頃かってやつか。」
「あぁ。」
悠斗が頷くと剛は一枚の書類を手にとった。
「今回のテロの動機、いくら日本がこの『AHS』を使って海外と友好関係だかなんだかを保とうとしたところで国内がこんなんじゃいつか暴動やら革命やらが起こりそうだと思っただけだ。」
そう言う剛に悠斗は苦笑いした。
「まぁ、黒条が言ってることは確かだな。それを危惧してないやつはそういないと思うけど。」
「……俺は政府の上の奴らがなにをどうしようが興味ない。ただここで任務をこなしていくのが役目だ。」
いつもの無表情でそう言う剛に悠斗は小さく息をついた。
「そうだな。まぁ、何かあった時はその時どうにかすればいいんだろうけどね。」
とコーヒーをまた飲み、あれ?と首をかしげた。
「そういえば、黒条。お前、もう書類は終わったんじゃないのか?」
そう剛の手元の書類を見ながら聞くと剛はあぁ、と言って一枚の紙を悠斗に手渡した。
「ん?…………。あー………つまり今回はテロを防げなかったこちらの責任だから後始末まで全部やれ……と。」
「いつもは警察の仕事だが、今回は外国が関わっているテロだからな。警察の方には適当になにか指示でも出ているんだろう。例えばマスコミ対応とかな。」
はぁ、と短い溜め息をつき剛は再び書類を手にとった。
「3日程度で終わる内容だと思っていたが提出した書類が上は気に入らなかったらしい。少し付け加えるところが増えた。仁代さん達の手にもおえなくなってきたから少しこちらにまわしてもらった。」
「なんだ、そんなことなら俺も手伝うのに。」
「お前はお前の仕事があっただろうが。」
「まぁね。でも今はそれも終わったから。手伝うよ。」
とにこやかに悠斗は書類を半分手にとった。
「あぁ、すまない。助かる。」
「大変な時はお互い様だって。」
と、その時。
「るーんるーんるったったー」
といかにも今自作しましたー!という鼻歌とともにひょこっと一人の少女が書庫に顔を覗かせた。