prologue3
「あ…………え?」
自分がしてしまったことが里羽にはすぐ理解できなかった。
自分は今なにをしてしまったのか。
誰かが里羽には分からない言語で喚いている。しかし里羽にとってはそれは遥か遠くから聞こえる木霊のようにしか思えなかった。
完全に思考がフリーズする。
自分はなにをした?
男は何故倒れている?
何故動かない?
死んでる……。
殺した………。
そう、殺したのだ。この自分が。
「うあああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁっっっ!!!」
里羽は半狂乱になって叫んだ。
若干12歳の少女にとって自分がしたことは正当防衛でもなんでもない。計り知れなぬほどの大罪であるかのように思えた。
パンッ、パンッ
二発の弾丸が里羽の腹と胸をとらえた。
仰向けに倒れる。
ただ、急所は外したらしく里羽が即死することはなかった。しかしこのままでは死ぬだろう。それでももういいと里羽は思った。自分は人を殺したのだ。不可抗力だろうがなんだろうがその事実は変わらない。
ひゅっひゅっと細く息をするが激痛で上手くいかない。
男達がこちらへ寄ってきた。
「(とどめを挿すのかな…………。)」
ぼんやりとしてくる思考でそう考えているとばっ、と里羽の前に立ちはだかる小さな体があった。
「おねぇちゃん、いじめちゃだめ!」
さっき助けた女の子だ。
「ばか…隠れてなよ………だめだよ………。」
そう切れ切れに言っても女の子は退かない。
男達は女の子に銃を向けた。
「(せめて、せめてこの子だけは助けたかったのに………。)」
悔しいという思いが胸を締め付け、涙が溢れた。
パンッ
何度目かもう分からない銃声が響く。
しかし倒れたのは女の子ではなかった。男のほうだった。
「そこまでだ。」
決して大声をあげているわけではないのに、その声はその場に凛と響き渡った。
『ここは既に包囲している。無駄な抵抗はするな。した者は容赦なく殺す。』
相手の言語でそう言うとその人物は再び銃を構えなおした。
『ちっ』
一人の男が舌打ちをして銃を女の子に向けた。
里羽の霞始めた視界にも女の子の怯えた表情が写った。そして救助に来たのだろう警察隊かわからないがそちらを見た。そこそこの人数がいる。
この子供だけなら助けられるかもしれない。
そう、里羽の手元にはまだ銃があった。
中の弾丸がきれてないことを祈る。
チャンスは一回だけ。それ以上は里羽がもちそうになかった。
女の子に銃を突きつける男を見る。そしてその右肩に焦点を合わせた。もう一度、誰かの命だけは奪うまい。
ひゅっと息を吸い込み、鉛のように思い腕を渾身の力を込めて上げた。
パンッという音とともに里羽が放った弾丸は男の右肩を貫いた。
そこから一気に物事が動いたが里羽はもうそれを見届ける力はなかった。
「ごめんなさい…」
誰に呟いたのか分からないがそう呟くとすぐ里羽の視界は暗転した。