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落第サンタ

落第サンタ

作者: 高原 夕晞


「キズナさーん、また追い払われたんですか? いい加減、大人の願いを聞き出そうとしなくたっていいのに……」


 呆れたように声をかける少年。キズナと呼ばれた彼女はまるで少年の言葉が聞こえていないように無視すると歩き出す。


「キ、キズナさん。俺の話聞いてます?」

「聞いてるよ。ユーマ君次の家行くよ、もしかしたら次の人は願いを教えてくれるかもしれないし」


 キズナは振り返ると、少年――ユーマに明るく言い放つ。ユーマはまだ行くんですか、などと泣き言を漏らすものの歩みを止めないキズナについていくしかない。

 そういえば、とユーマはキズナに尋ねた。


「キズナさんって、サンタクロースですよね?」


 元だけどね、とキズナは訂正する。


「どうしてやめちゃったんですか?」

「やめたというか、やめさせられたというか、長い話になるよ」


 そこまで言うなら、付き合ってもらおうじゃないか。とキズナは近くに会ったベンチに腰掛ける。ユーマは家巡りが止まったことに安堵しつつその隣へ腰かける。


「それは私がまだ、若かった頃……」


 今も十分若いでしょうという言葉を押し殺して、ユーマは彼女の話を聞き始めた。


―――


「キーズナっ、さっさと行かないと朝ご飯食べ損ねるんだけど?」


 いらだちを隠さずに幼いキズナに話しかける少女。キズナはその少女に、先行っててと言うがそうもいかないのがルールだ。


「ペアで行かないとダメな事と知ってるでしょ。ほらさっさと起きる」


 強制的にキズナを起こす少女にされるがままのキズナ。


「少しは焦りなさいよ」


 今日は実戦訓練の一日目でしょうが。と耳元で言うといきなり動き出すキズナ。


「そういうことは先に言わなくちゃだめだよ。ミクちゃん」


 先ほどとは打って変わって、てきぱきと行動するキズナにミクはあきれ顔だ。


「いつもこうならいいのに……」


 この言葉が通じる日が来ることを真に祈るミクだった。


「いただきまーす」


 何とか時間に間に合い食堂で朝食を食べる二人。

 二人が食べ終わる前に放送がかかる。二人を含め食べていた者は一斉に手を止める。


『おはようございます。本日は実践日となります。全員が幸せを運ぶために尽力していただきたいと思います――』


 この後は注意書きが続くだろうと聞き流すような体制に入るキズナ。それを横目で見るミクは注意するよりも自分が聞く方を優先させた。

 放送が終わるころにはキズナは夢の中だったようで、ミクは頭をはたきキズナを起こすと、手を引き誘導する。


「あり、もう行く時間なのか」


 寝てるのが悪い、とばかりにキズナはもう一度はたかれる。


「私何も悪いことしてない」

「話聞かずに寝てたでしょ」


 だって、ミクが聞いてくれるし。と言い放つキズナにミクはあきらめるという選択肢を取ることにした。


―――


「どうして、プレゼントは子供にしか届けられないんだろうね」


 プレゼントの準備をしながらミクに問いかける。ミクはそう決まっているから、という紋切型の答えを返す。


「そうじゃなくて、なんでこう十五歳までなんだろうねってことだよ!」


 そう決まっているから、としか答えようがないミク。


「なんで大人に夢を届けられないんだろうねってこと。十六歳の子はもう届かないってことわかってないんだよ?」


 熱が入ったキズナの演説を無視するように、ミクは作業に没頭する。こうなったキズナは他の事を忘れてしまう。作業が終わらなければ、外には出してもらえない。


「今日はさっさと終わればいいけど……」


 終わらないならば強硬手段に出るしかないとミクは決意した。


「だから、私は抗議しようと思うんだ、手伝ってくれるよねミク?」

「う……え、なんだって?」


 だから、徹底抗議するの! というキズナに、ミクはポカンとするだけだった。


「え、ど、どうやって?」


 と尋ねるミクにキズナは、いいから見ててとばかりに微笑んでいるだけだった。


「第二百八十六代認定アサギ師匠、質問なんですけど!」


 そういって、近くの指導者であるアサギに声をかける。厳格そうなアサギがキズナへと視線を向ける。


「どうして子どもと規定された人物にしかプレゼントを受け取る、そして私たちが配ることができないんでしょうか?」


 キズナは真剣なまなざしで尋ねる。まるで何も学んでこなかったように、サンタの教育を初めて受けた人間のように。


「そう決まっているからです。候補生のキズナさん」

「どうして、大人の願いはかなえられないのでしょう。一歳過ぎただけでかなえられない彼らの願いがいきなりなくなると思いますか。成人した大人たちも自分だけでは難しい願いを抱えているのかもしれません。私は分からないけれど、師匠方なら知っているのではありませんか?」


 そうキズナが言う間に、アサギの顔色は変わっていく。


「つまり、貴女は何が言いたいのです?」


 アサギの口調には少しの憤りが混じっている。


「子供にだけ、夢を与え続けているのは間違っているのではないかと言いたいです!」


 対してキズナは笑みすらこぼれている。これがどんな結果をもたらすのかわかっているはずなのに。ここにいるサンタは『子供』に夢を与える存在なのだ。


「ちょ、ちょっとキズナ?」


 ミクはいきなりの急展開についていけない様子だった。


「わかりました、キズナさん」


 貴女は今日限りで、この場所を追放です。とアサギはキズナへと告げた。


「キ、キズナ?」


 今なら間に合うよ。という言葉をかけることは出来ずに、キズナは全員へお辞儀をする。


「ありがとうございました」


 そして、通り過ぎ様にミクへと感謝の言葉を告げる。


「ミクさん、貴女は別の方と組んでもらうことになります」


 なんて言葉は殆ど聞き流してしまうくらい、彼女には衝撃が強かった。


―――


「ってわけだよ。わかったかい?」

「それは分かりましたけど」


 なんで今こんなことを。と尋ねるユーマにキズナはただこう答えた。


「だって、年齢関係なくみんなを幸せにしたいって考えちゃったんだよね」


 なんて笑うキズナに、こんな人だからついていきたいと思ったんだ。と再確認するユーマだった。


「でも、もう帰らないと」


 アスカさんたち待ってますから。とユーマが言うと、家まで競争ねと走り出すキズナを慌てて追いかけるユーマだった。



読んでいただきありがとうございます。

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