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努力が足りなかった、みたいだね。  作者: イチジク浣腸


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努力は報われる

「努力すれば、誰でも成功できる。成功できない奴は文句垂れの努力不足さん。」


 俺、柴田隼人は本気でそう信じていた。

 いや、その理論を証明してきたと言ってもいい。

 都内の名門私立進学校から現役で古八田大学の政経に合格。

 大学二年で起業し、僅か三年で年商五億を達成。

 現在、俺は二十五歳。ビジネス誌のインタビューを受け、母校で講演を頼まれるほどの存在になっていた。


「柴田さん、成功の秘訣を教えてください」


 スタジオのライトが白々しく光っている。

 正面の女性記者は、「成功者の華麗なる人生譚」しか聞く気がなさそうだった。

 そんな顔をしていた。


「努力です」


 俺は即答した。


「才能なんて関係ありません。毎日五時間睡眠で、誰よりも働いた。自分の細胞一つ一つ、全てを勉学に注いだ。それだけですよ」


「素晴らしいですね! では、恵まれた環境があったとか、そういうことは…?」


「ないですね」


 きっぱりと言い切る。


「確かに父は会社経営者ですが、俺の事業とは完全に別です。資金は自分で投資家から集めましたし、人脈も自分で作りました。親の七光りなんて、一切ありません。全て個人の力です。」


 記者は感心したように頷く。カメラマンがシャッターを切る。


 ...完璧だ。


 インタビューが終わり、スタジオを出ると、すぐにスマホをチェックする。SNSには先週の講演の様子がアップされていて、コメント欄が賑わっていた。


『努力は裏切らない!勇気もらいました!』


『自分も頑張ります!』


『柴田さんみたいになりたい!』


 気分がいい。「いいね」が五百を超えている。

 ただ、たまにこんなくだらない無為無能の人間共が書いたコメントも混じる。


『どうせ親が金持ちだからでしょ。金がないと学ぶことすら始められない』


『彼はそれをコネとは呼ばないだろうね。

 だけど、その親の名を前にして、人は平等でいられるかな?。

 利用の意志などなくとも、世間は勝手に配慮とやらを始めるさ』


『努力できる環境があったからだろ。西成でござ敷いて物乞いしなきゃ生きられない環境でも同じことを吐かせるかな?』


『全て個人の力?オムツも自分で変えてたのか?衣食住は?』


 即ブロック。

 こういう奴らは、努力から逃げてるだけだ。環境などを理由に言い訳ばかりして、行動しない。だから底辺なんだよな。哀れだな。俺は違う。誰よりも努力して、誰よりも結果を出してきた。


「隼人、また遅くなるの?」


 自宅マンションに帰ると、同棲中の彼女、美咲が呆れた顔で出迎えた。彼女は俺と同じ大学の後輩で、モデルのバイトをしながら俺の会社の広報を手伝ってくれている。スタイル抜群で、SNS映えする美人だ。


「ああ。新規のクライアントとの打ち合わせがあってさ」


「今日で三日連続だよ? たまには休んだら?」


「成功者は休まない。少なくともイーロン氏は、週に百時間を仕事に費やしている――それが現実だよ。僕たちが追いつけない理由は明白だろ?努力が足りないんだよ。休むなんて言ってる場合じゃない。」


 美咲は小さくため息をついたが、それ以上は何も言わなかった。

 彼女もわかってる。俺についてくれば、将来安泰だって。

 タワーマンションの窓から、東京の夜景を見下ろす。

 この景色を見るために、俺は努力してきた。

 誰にも文句を言わせない。

 俺は、自分の力だけでここまで来たんだ。

 翌日、オフィスに出社すると、社員たちが忙しそうに動き回っていた。社員は十五人。みんな揃って優秀だ。俺が厳しい面接で選んだんだから、当然だな。


「社長、例の案件、無事に契約取れました!」


 営業の山田が嬉しそうに報告してくる。


「よし。次は売上を三倍にするぞ」


「三倍ですか!? それは…」


「できないって言うのか? 努力すれば何でもできる。俺がそうだったんだから、お前らにもできるはずだ。出来るよな?なぁ?」


 山田は少し困った顔をしたが、「頑張ります」と答えた。

 当然だ。俺の会社で働けるだけで、幸運なんだから。もっと頑張れよ。

 昼休み、スマホを開くと、大学時代の同期からメッセージが来ていた。


『久しぶり! 今度飲まない?』


 既読当然無視。

 成功してから、昔の友人だったヤツらが急に連絡してくるようになった。どうせ金か、人脈目当てだろう。全くもって、時間の無駄。

 格下と連む訳ないだろ。

 俺に必要なのは、もっと上を目指すこと。

 年商十億。いや、百億。

 それが俺の目標だ。

 努力すれば、必ず届く。

 そう信じて疑わなかった。

 その日の夜、父親から珍しく電話がかかってきた。


「隼人、元気か?」


「ああ。どうした?」


 普段、父とはほとんど連絡を取らない。俺の事業には口出ししないと約束してあるからだ。


「いや、ちょっと話があってな。来週、時間取れるか?」


「忙しいけど。何?」


「まあ、会って話そう」


 電話が切れた。

 何だろう、と思ったが、すぐに考えることをやめた。

 父の話なんて、どうせ大したことじゃない。

 俺には、もっと重要な”仕事”がある。

 その日、俺はいつものようにSNSに投稿した。


『努力は嘘をつかない。今日も全力で走り抜けた。明日はもっと高みへ。#努力 #起業家 #成功者マインド』


 コメント欄が、また称賛で埋まる。

 完璧な一日だった。

 まだこの時、俺は何も知らなかった。

 この完璧な世界が、たった一本の電話で崩れ去ることを。

 俺が信じていた「努力」が、どれほど脆い土台の上に築かれていたのかを。

 そして、本当の地獄は、これから始まるのだということを。

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