表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/5

1話 追放-処刑 (2)


「リリム、魔力の残りはどれほどだ」

「え、あ? ちびっとだけ」

「ヒナタの全身を浸らせるくらいの水はだせるか? 国杜様は死体もご所望だ。木端微塵にはしたくない」


 私にも聞こえる声量で作戦会議をするシュタルドにとって、いまの私は駄々をこねている子供と同じ認識なのだろう。

 決意も、言動も、彼にとっては些細なものなんだ。

 見知らぬ誰かが現れて、この行動を否定されたなら、その瞬間すべてが崩れてしまうほど、不安定な覚悟。


 息が、息があがる──。



「え……」



 コツン、と地面を蹴る音がなった。

 走ってはきていない。

 ゆっくりと、ゆっくりと、私に歩みよせてくるのは、リュゲルだった。


「おい! 点火はさせるなよ」


 シュタルドがそう語調を強めた。


 近づいてくる、ダメだ、近づいてくる。

 ゆっくりと、無言で、顔に影を落としながら、巨大な体を揺らして、近づいてくる。

 目の前に爆弾を突きだし威嚇するも、ガクガクと震えて格好がつかない。


「止まって……! 止まってよ…………、脅しじゃ、ないからぁ……」


「テメェ、このままじゃ犬死だぜ?」

「違う! ……違う」

「考えてもみろ、仮にテメェが自爆したところで、死体を望む国杜への嫌がらせにしかならねぇぜ」


「でも……これで、これをちらつかせば、誰も……近寄れなくて……」

「んなもん退く術はいくらでもある。そもそもテメェ、んなことできんのか」


「え、……あ」


 気がつくと、目の前にリュゲルがいた。

 私の3倍はあるであろう身長で、睨みながら見下ろしてくる。

 足がもつれて思わず尻餅をついてしまった。


「ほら、やれよ」

「…………いや、う……」


 目頭が熱くなる。

 鼻が緩んで、すすってしまう。

 私の頬は真っ赤だっただろう。


 使えない、使えるわけがない。

 長い年月をともにしたわけじゃないし、互いの素性を知り合った仲でもない。

 それでも、昨日、一昨日、ずっと前のことだって思い出せる。

 だって、だってみんなは────。


「リュゲルは……乱暴なヤツだけど情には熱いから、勝手な行動してても実は誰かの為の行動だったりして、そういうところが私は好きで……」


 ボソボソと、誰にも聞こえないんじゃないかと思うほどの声量しかでなかった。


「シュタルドは、強いし、頼れるし、足手まといの私にも手を差し伸べてくれて、でも実は苦いコーヒーが苦手で、そんな子供ぽいとこがあるのが好きで……」


 自分に言い聞かせていた。

 全部嘘っぱちだから、みんな演技をしていただけだから。

 でも、そんなことを私は認めたくなくて、言葉にしないと忘れてしまいそうで。


「リリムは、残念なとこもあるけど、子供の私とも対等に接してくれて、女の子として扱ってくれて、そそっかしいのにお姉さんなところが、私は好きで……」


 そうだ、そうなんだ。

 道具同然として扱われていたのに、それでもこの2年間が脳裏に焼きつかれて離さない。

 私はみんなが好きで、好きで、だからこそ、認めたくないんだ。


「みんなに……私を殺してほしくない。物として扱われたくない。優しいみんなのまま、大好きなみんなのまま……。死ぬ時は、その記憶だけでいいから」


 もう、力がはいらなかった。

 泣こうが喚こうが関係なかった。

 私の想いなんてちっぽけなもので、なにもないが強く残る。


 リュゲルの手が私へと伸びてきているのがみえた。

 選択権なんてもとよりない。

 そして私は、目を閉じたんだ……────。




「──……え?」


 頭に、ゴツゴツとした、固い砂でも擦り付けられているような感触があった。

 ひんやりとしていて、でもどこか、やわらかくて暖かい。

 頭の先から足の先まで、じんわりとした温もりが侵入してくる。



「よくいったな、ヒナタァ。俺も、同じ意見だぜ」



 目を開けると、そこには穏やかな顔でニタリと笑うリュゲルの顔があった。

 あれ……、首は? 私、死んだんじゃ……?


「なっ!? リュゲル、貴様──!!」

「悪りぃな大将! テメェらの下じゃあ、もうやってらんねぇわ」


「反逆は重罪だぞ……。国杜様を裏切るというのか」

「いっとけやシュタルド。いや、シュタルドじゃなくて、国家聖騎士団、団長さんとでも呼んだほうがいいか?」

「え!!?? 聖騎士団?!?」


 あっ、リリムの馬鹿みたいな声だ。

 脳が揺れる。

 私、生きてるんだ。


「裏で調べさせてもらったぜ。テメェレベルがこんなパーティ組まさせてるなんざ、おかしな話だと思っていた」


 国家聖騎士団といえば、表向きは国のために戦う騎士団って感じだけど、どこか黒い部分も多いだとか聞いたことがある。

 任務を達成するためなら犠牲は厭わない非情な集団。

 一般人の死者がでても、甚大な損害がでようとも、国がもみ消すから問題なし。


 なんで、どうして国杜はそこまでして私のことを……?


「この国は国杜に逆らやぁ一発死罪だ。俺もビビって従ってたが、監視するにゃあ、こいつはなんの変哲もねぇ幼子。急に殺せなんていわれりゃ、ちときなクセェな」


「………………」


「なんの説明もなしに利用されるだけたぁ、こちとらメンツが許さねぇ。俺はこっちにつかせてもらうぜっ!」

「リュゲル……!」


「はい! はい、ハーイっ!! 私も喧嘩はよくないと思います!!」

「リ、リリム……!」


 みんな、応えてくれた。

 私と同じ考えをもってくれていた。


「さて、これで3対1だ。どうするシュタルド! 俺とテメェの実力は同じくらい。やり合やぁタダじゃすまねぇぜ……」


 お願い、折れてシュタルド。

 あなたさえ見逃してくれるなら、私はこの死刑囚という業を背負って生きていくことに、怨恨をもたない。


 あなたと……戦いたくない。



「…………そうか」



 ゆったりと、神妙に、それでいてどこか軽く、誰かに聞かせるわけではないほど、ボソボソと口を開く。


「……リザードマン、お前が……人間の、肉壁となるのか……。…………そうか、そうか。それはなにかと、都合がいい…………」


「……?」


 そういってシュタルドは、剣の柄を握った。

 そう、柄を握ったのだ。

 それはすなわち、私たちに敵対するという意思表示。

 いまにも抜いて、その大剣で切り刻みにきても、なんらおかしなことはない行為。


 だが私の脳は、それを瞬時にどうでもいいものと判断して、認識の外へとおいやっていた。


 扉を開けたら扉を閉める。

 口に水をふくめば、そのまま飲み込む。

 さも人類はこれらの動作をすることがあたりまえかのような、そのくらい流れる動きで、彼は柄を握っていたのだ。

 ふと、リュゲルのほうに目をやっても、それらの動作に構える素振りすらみせていなくて、あぁ、じゃあ大丈夫なんだ、と思うだけだった。


 すると突然、シュタルドが脱力したかのように大きく息を吐いた。

 と思えば、柄を離して、なにもない上方へと顔をあげる。

 敵意も、殺意も、その姿から感じることはできず、私たちもつられて彼の目線を追いかけた──。



 ──なにかが、打ち上げられて宙を舞っている。

 太った蛇のような、そんな形状のなにか。


 洞窟内の微かな光に反応して、そのなにかは光沢をみせた。

 鱗かな?

 ゴツゴツした鱗が反射して、光をまとったんだ。


「あ、腕……」


 光ったことで判別できた。

 腕だ。

 ゴツゴツした鱗の皮膚をもつ、人間の数倍は大きな腕。

 それが、高く高く打ち上げられて、いま、宙を舞っている────。



 ──────

 ────

 ──







「────……リュゲルっ!!?!」



 私がそう叫んだと同時、思い出したかのように左腕の付け根が血しぶきをあげた。

 膝をついて倒れるリュゲルを支えようと手をだすが、私の小さな体じゃもたれることもできやしない。


 切られた、切られた……! いつ、どうやって!?


 声を上げるリュゲルなんてよそに、シュタルドは重力に則って落ちてくるその腕を、一瞥もすることなく、片手でキャッチしてみせた。

 そして、腕の血を搾りながら、返り血をみせつけるかのように堂々と、私たちへと冷徹な眼差しをむけるのだ。


「それで…………、私と貴様の実力が、なんだって?」


 私の人生において、再始点となる今日この日。

 最初の障壁が最大の障壁であるということを、いまようやく、理解したのだった。






 ↓そしてこれは蚊帳の外になったリリム。


「でへへ、お姉さんちょっとちびっちゃったよ」


 こんにちは。

 ライブ感だけで書いてます。

 ライブ感だけで読んでください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ