1話 追放-処刑 (2)
「リリム、魔力の残りはどれほどだ」
「え、あ? ちびっとだけ」
「ヒナタの全身を浸らせるくらいの水はだせるか? 国杜様は死体もご所望だ。木端微塵にはしたくない」
私にも聞こえる声量で作戦会議をするシュタルドにとって、いまの私は駄々をこねている子供と同じ認識なのだろう。
決意も、言動も、彼にとっては些細なものなんだ。
見知らぬ誰かが現れて、この行動を否定されたなら、その瞬間すべてが崩れてしまうほど、不安定な覚悟。
息が、息があがる──。
「え……」
コツン、と地面を蹴る音がなった。
走ってはきていない。
ゆっくりと、ゆっくりと、私に歩みよせてくるのは、リュゲルだった。
「おい! 点火はさせるなよ」
シュタルドがそう語調を強めた。
近づいてくる、ダメだ、近づいてくる。
ゆっくりと、無言で、顔に影を落としながら、巨大な体を揺らして、近づいてくる。
目の前に爆弾を突きだし威嚇するも、ガクガクと震えて格好がつかない。
「止まって……! 止まってよ…………、脅しじゃ、ないからぁ……」
「テメェ、このままじゃ犬死だぜ?」
「違う! ……違う」
「考えてもみろ、仮にテメェが自爆したところで、死体を望む国杜への嫌がらせにしかならねぇぜ」
「でも……これで、これをちらつかせば、誰も……近寄れなくて……」
「んなもん退く術はいくらでもある。そもそもテメェ、んなことできんのか」
「え、……あ」
気がつくと、目の前にリュゲルがいた。
私の3倍はあるであろう身長で、睨みながら見下ろしてくる。
足がもつれて思わず尻餅をついてしまった。
「ほら、やれよ」
「…………いや、う……」
目頭が熱くなる。
鼻が緩んで、すすってしまう。
私の頬は真っ赤だっただろう。
使えない、使えるわけがない。
長い年月をともにしたわけじゃないし、互いの素性を知り合った仲でもない。
それでも、昨日、一昨日、ずっと前のことだって思い出せる。
だって、だってみんなは────。
「リュゲルは……乱暴なヤツだけど情には熱いから、勝手な行動してても実は誰かの為の行動だったりして、そういうところが私は好きで……」
ボソボソと、誰にも聞こえないんじゃないかと思うほどの声量しかでなかった。
「シュタルドは、強いし、頼れるし、足手まといの私にも手を差し伸べてくれて、でも実は苦いコーヒーが苦手で、そんな子供ぽいとこがあるのが好きで……」
自分に言い聞かせていた。
全部嘘っぱちだから、みんな演技をしていただけだから。
でも、そんなことを私は認めたくなくて、言葉にしないと忘れてしまいそうで。
「リリムは、残念なとこもあるけど、子供の私とも対等に接してくれて、女の子として扱ってくれて、そそっかしいのにお姉さんなところが、私は好きで……」
そうだ、そうなんだ。
道具同然として扱われていたのに、それでもこの2年間が脳裏に焼きつかれて離さない。
私はみんなが好きで、好きで、だからこそ、認めたくないんだ。
「みんなに……私を殺してほしくない。物として扱われたくない。優しいみんなのまま、大好きなみんなのまま……。死ぬ時は、その記憶だけでいいから」
もう、力がはいらなかった。
泣こうが喚こうが関係なかった。
私の想いなんてちっぽけなもので、なにもないが強く残る。
リュゲルの手が私へと伸びてきているのがみえた。
選択権なんてもとよりない。
そして私は、目を閉じたんだ……────。
「──……え?」
頭に、ゴツゴツとした、固い砂でも擦り付けられているような感触があった。
ひんやりとしていて、でもどこか、やわらかくて暖かい。
頭の先から足の先まで、じんわりとした温もりが侵入してくる。
「よくいったな、ヒナタァ。俺も、同じ意見だぜ」
目を開けると、そこには穏やかな顔でニタリと笑うリュゲルの顔があった。
あれ……、首は? 私、死んだんじゃ……?
「なっ!? リュゲル、貴様──!!」
「悪りぃな大将! テメェらの下じゃあ、もうやってらんねぇわ」
「反逆は重罪だぞ……。国杜様を裏切るというのか」
「いっとけやシュタルド。いや、シュタルドじゃなくて、国家聖騎士団、団長さんとでも呼んだほうがいいか?」
「え!!?? 聖騎士団?!?」
あっ、リリムの馬鹿みたいな声だ。
脳が揺れる。
私、生きてるんだ。
「裏で調べさせてもらったぜ。テメェレベルがこんなパーティ組まさせてるなんざ、おかしな話だと思っていた」
国家聖騎士団といえば、表向きは国のために戦う騎士団って感じだけど、どこか黒い部分も多いだとか聞いたことがある。
任務を達成するためなら犠牲は厭わない非情な集団。
一般人の死者がでても、甚大な損害がでようとも、国がもみ消すから問題なし。
なんで、どうして国杜はそこまでして私のことを……?
「この国は国杜に逆らやぁ一発死罪だ。俺もビビって従ってたが、監視するにゃあ、こいつはなんの変哲もねぇ幼子。急に殺せなんていわれりゃ、ちときなクセェな」
「………………」
「なんの説明もなしに利用されるだけたぁ、こちとらメンツが許さねぇ。俺はこっちにつかせてもらうぜっ!」
「リュゲル……!」
「はい! はい、ハーイっ!! 私も喧嘩はよくないと思います!!」
「リ、リリム……!」
みんな、応えてくれた。
私と同じ考えをもってくれていた。
「さて、これで3対1だ。どうするシュタルド! 俺とテメェの実力は同じくらい。やり合やぁタダじゃすまねぇぜ……」
お願い、折れてシュタルド。
あなたさえ見逃してくれるなら、私はこの死刑囚という業を背負って生きていくことに、怨恨をもたない。
あなたと……戦いたくない。
「…………そうか」
ゆったりと、神妙に、それでいてどこか軽く、誰かに聞かせるわけではないほど、ボソボソと口を開く。
「……リザードマン、お前が……人間の、肉壁となるのか……。…………そうか、そうか。それはなにかと、都合がいい…………」
「……?」
そういってシュタルドは、剣の柄を握った。
そう、柄を握ったのだ。
それはすなわち、私たちに敵対するという意思表示。
いまにも抜いて、その大剣で切り刻みにきても、なんらおかしなことはない行為。
だが私の脳は、それを瞬時にどうでもいいものと判断して、認識の外へとおいやっていた。
扉を開けたら扉を閉める。
口に水をふくめば、そのまま飲み込む。
さも人類はこれらの動作をすることがあたりまえかのような、そのくらい流れる動きで、彼は柄を握っていたのだ。
ふと、リュゲルのほうに目をやっても、それらの動作に構える素振りすらみせていなくて、あぁ、じゃあ大丈夫なんだ、と思うだけだった。
すると突然、シュタルドが脱力したかのように大きく息を吐いた。
と思えば、柄を離して、なにもない上方へと顔をあげる。
敵意も、殺意も、その姿から感じることはできず、私たちもつられて彼の目線を追いかけた──。
──なにかが、打ち上げられて宙を舞っている。
太った蛇のような、そんな形状のなにか。
洞窟内の微かな光に反応して、そのなにかは光沢をみせた。
鱗かな?
ゴツゴツした鱗が反射して、光をまとったんだ。
「あ、腕……」
光ったことで判別できた。
腕だ。
ゴツゴツした鱗の皮膚をもつ、人間の数倍は大きな腕。
それが、高く高く打ち上げられて、いま、宙を舞っている────。
──────
────
──
「────……リュゲルっ!!?!」
私がそう叫んだと同時、思い出したかのように左腕の付け根が血しぶきをあげた。
膝をついて倒れるリュゲルを支えようと手をだすが、私の小さな体じゃもたれることもできやしない。
切られた、切られた……! いつ、どうやって!?
声を上げるリュゲルなんてよそに、シュタルドは重力に則って落ちてくるその腕を、一瞥もすることなく、片手でキャッチしてみせた。
そして、腕の血を搾りながら、返り血をみせつけるかのように堂々と、私たちへと冷徹な眼差しをむけるのだ。
「それで…………、私と貴様の実力が、なんだって?」
私の人生において、再始点となる今日この日。
最初の障壁が最大の障壁であるということを、いまようやく、理解したのだった。
↓そしてこれは蚊帳の外になったリリム。
「でへへ、お姉さんちょっとちびっちゃったよ」
こんにちは。
ライブ感だけで書いてます。
ライブ感だけで読んでください。




