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1話 追放-処刑 (1)


「追放……? そんなぬるいことをするつもりはない」


 なぜ、どうして……?

 吹き抜けのエリアにほんのりとした太陽の光が射す地下ダンジョン内。

 隙間風ひとつ感じない洞窟内で、私は産毛を震わせた。

 仲間たちのこんな顔、いままでみたこともないからだ。


 先刻までの談笑も、今朝の朝食の味も、2年前にパーティを結成したとき、みんなで組んだ肩の温もりも、すべてが嘘だったといわんばかりの殺気。


「そこを動くなよヒナタ。動けば……痛みを与えてしまう」


 私がいったい……、なにをしたっていうの────。



 ………………

 …………



 大剣が肉を打ちつけるたび、洞窟内のカビ臭さに鉄の臭いが入り混じる。

 岩場の影に身を潜めていても、私の肌を凍らせるほどの風圧。

 土埃で慎ましさの欠片も失せた白のスカートが靡き、このダンジョンが無風であることも忘れさせられる。


 ラージべロス。


 村ひとつくらいであれば、1体5分程度で壊滅させられるほどの、巨大な犬型モンスター。

 その群れに囲まれているにも関わらず、構える彼等は眉ひとつ動かさない。


 なぜなら私たちは、国家直属に任命されたSクラスパーティ、「灯火の息吹」なのだから────。



「──ふんっ」


 飛びかかってくるラージべロスの喉元へと、的確に剣筋を走らせていくのは、我らがリーダー「シュタルド・エナードリ」。

 踊るような剣技で血潮を飛ばし、他の個体の目元に付着させ視覚を奪う。


 そして、また喉元を掻き切る。

 目潰しと攻撃、その繊細な太刀をまるで淡々とした作業かのようにこなす彼は、まさに戦場の舞踏家。

 ラージべロスの群れをほぼひとりで殲滅させてみせた。


 大剣を鞘に収め、ひと息つき、「もう終わったぞ」といわんばかりにこちらを一瞥してくる。


「あっ!」


 しかし、私がそう声を漏らすよりも早く、彼の背後にはもう1体、ラージべロスの姿があった。

 剣はすでに鞘の中。

 ま、まずい! 殺られる──!



 ────ヒュンっ!



 と、なにかが風を切る音がしたと同時、シュタルドはいかめしい顔で頭を真横にそらしていた。

 シュタルド目掛けて投げ込まれたその得物は、背後にいたラージべロスの脳天へと、深く突き刺さる。


「──リュゲル……、あまり戦斧は投擲するなといっただろ。私でなければ避けてはいないぞ」

「へへ、悪りぃな大将。あっちは片付いたぜ」


 額に刺さる戦斧を片手で抜きとったシュタルドは、ため息混じりにリュゲルへと手渡した。

 この、硬い鱗の足で不自然な二足歩行をしているリザードマンが、「リュゲル・ゲイン」。

 ドラゴン頭をした、見た目通りの粗暴なヤツ。


 渡された戦斧を背中に戻したリュゲルをみて、安全を確認し、私もシュタルドたちへと駆けよった。


「お疲れ様。いつもありがとね。私、なんにもできないから……」

「いや大丈夫だ。ヒナタにはヒナタの役割がある。戦闘は我々に任せておけばいい。──なぁ、リリム!!」


 そう声を荒げたシュタルドは、私の反対側にある岩場を睨みつける。


「え、えへへ……あっしにようでやんしょうか……旦那ぁ……」


 岩場の影から、冷や汗まみれの「リリム」が姿をみせた。

 1000年も生きたエルフの末裔らしく、一応、魔法の類いは大体使うことができるらしい。

 長寿の功から、知識がクエストに役立つこともあるんだけど……。


「リリム、お前も多少は心得があるだろう。なぜ後方支援をしない」

「あはは……いやはや、私の魔法でシュタルド様の邪魔はできやせんよぉ。……別にぃ、昨日カジノで不正しまくるためにぃ、魔力をちょーとばかし使ったからぁ……とかはまったく関係ないんですけどぉ」


「魔力切れか」

「………………、……違うけどね。ほれ、激安ヒールかけてやっから、ちこうよれ、ちこうよれ」

「──たくっ」


 なんかずっと残念なひとなんだよなぁ……。


 みての通り、ほぼシュタルド、時々リュゲルの活躍で成り上がった私たち「灯火の息吹」。

 癖は強いけれど、全員、戦闘能力は折り紙つきで、Sランクパーティの名は伊達ではない。


 しかし、ならなぜ、農奴出身、11歳、戦闘経験皆無の私がここにいるのか、みんなも頭に疑問符ではなかろうか。

 実をいうと、私には隠された固有能力がある。

 ただの足手まといが、Sランクパーティに引き止められるほどの能力とは────。


「……ん?」


 ──なんだか足元がひんやりしだした。

 ここは地下洞窟内で、平均気温は10度と少し。

 防寒具は荷物に詰めたが、薄着特有の肌寒さではない。

 なんだか肌に直接、冷気を塗りたくられているかのような……?


「………………」


 足元に目線を落とすと、無様にもスカートが捲れ上がっていた。

 そして、スカートの裾をもつリザードマンの鱗が、私の真横で光沢を放っている……。


「──……っっ!!?!!?!」


「ちょっとリュゲル! あんたなにやってんのよっ!!? 変態! ロリコン! ロリコン! ロリコン!」


 リリムが私の手をひいて、身を抱き寄せてきた。

 お、お目汚しだぁ……。


「あ? 喉渇いたんだよ。荷物持ちならさっさと水でもだしてくれや」

「だからって、やりようがあるでしょっ!! ヒナタは子供でもレディなのよ! レ・ディ・イ!」


「もういいよリリム。リュゲルがこんなヤツなのは、今に始まったわけでもないし」


 そう嗜めた私は、自分の腹の周りに手をそえた。

 そして────。



 グニュゥウ……。



 蜃気楼のように歪んだ腹の中に、私の手がはいっていく。


 これが私の持って生まれた能力。


次元(ディメンション)支配(ポゼッション)


 身体全体を別の次元に繋げることができるのだ。

 身体の中には食糧やポーションだけでなく、武器、寝具、着替え、快適な旅をするための道具はすべて仕込んでいる。


 そう、超高性能荷物持ちこそ、私がこのパーティの一員として迎え入れられている理由なのである。


 まぁ灯火の息吹は2年前、「異種間の壁をなくす──」とか大義名分でお国が勝手に召集をかけたメンバーだから、よそにいたら使い物にならなさすぎて追放とかされてたのかもしれないけど。


「はい、水」

「おおサンキュー」


「…………」

「ん? シュタルドも水、ほしかった?」

「…………いや、大丈夫だ。なんでもない」


「……?」





 今回のクエストはかなり特殊なもので、国家直々の命でやってきた。

 このダンジョン、数多の冒険者を死地に追いやり、いままで誰ひとり最深部に到達したことがないSSS級のダンジョン。


 誰が呼んだか、壊した後に残るは平和の楽園「ピースエデン」。


 その浅層を調査することが今回の目的らしい。

 立入禁止区域ではあるが、奥に進まない限りはそこまで目まぐるしいわけでもない。

 シュタルドクラスの実力者が赴かなくても、Bランクくらいのパーティで完了できそうなクエストだった。

 なにか隠されてることでもあるのかな……?


 少し進むと、広々とした吹き抜けの空間につながった。

 立入禁止になる前は休憩スペースで使われていたのか、布類や錆びた剣が散在している。

 相変わらず隙間風すら吹かないことに気味の悪さはあるが、ここらで休憩をいれてもいいかも。


「……ふう、この辺りでいいか」


 そうシュタルドが呟いた。

 なんだ、休憩するつもりだったのか。

 意見が一致してちょっとばかし浮かれた私は、元気よくみんなのほうへと振り向いた。


「あっ、じゃあご飯だす? この辺は安全そうだし、飯盒とかしても────」



「………………」



「……え」


 後ろをみると、なぜかみんなは歩みを止めていて、私だけが少し前にいた。

 そしてみんな、私の目を凝視している。

 無風の空間なはずなのに、突風にさらされたような、肌がピリッとする感覚があった。


「ねぇ……やっぱなんとかなんないの? どこか遠くに逃してあげるとか──」

「リリム、ちと黙ってろや」


 さっきまでの時間が嘘のように、みんなの存在が遠く感じる。

 口を震わせながらも、その殺気を認めたくない気持ちが先行して、必死の作り笑いが漏れでていた。

 私が口を開くよりも先に、シュタルドが小さな息を吐く。


「悪いがヒナタ……、お前とはこれ以上、旅を続けることができない」


「え……、あっ、あー……! 追放ってやつ、よね? わ、私、足手まといだもんね! そ、そっか、仕方ないか……。2年っていっても、私は、結構……長く感じたし、そ、そこまで、未練はないかな……って……」


 なんとかお茶を濁したくて、思ってもいないことが次々に口からでていって、それでも、心臓がとても苦しかった。

 シュタルドの眉間に溝ができたあの顔は、追放だとかの時にする顔じゃないことくらい、わかっている。

 Sランクパーティとして、仕事を遂行する時の顔だ。


「追放……? そんなぬるいことをするつもりはない」


 私はシュタルドを直視できなかった。

 こんな時に限って、視線は後ろのふたりに伸びていく。

 なんで、なんでそんな顔をするんだ。

 仕方ないとでもいいたげな、もう諦めてくれとでもいいたげな、悲しい顔を。

 仲間の同情の目なんてみたくない。


「そこを動くなよヒナタ。動けば……痛みを与えてしま────」



「なんでっ!! なんで……私を殺すの……!?」



 気がつけば叫んでいた。

 策もないのに、生存本能がそうさせる。

 頭で考えるよりも先に言葉をださなければ、彼は躊躇なく私を切る。

 正面から逃げ切れる相手じゃない。

 時間を作ることだけが、唯一、私のとれる殺されないための手段だった。

 しかし、その問いかけに答えたのは、シュタルドではなかった。


国杜(こくと)だよ」

「おい、リュゲル」


「いいじゃねぇか、死人に口なしだぜ。……ま、理由までは俺らも知らねえが、勘でいやぁその妙な能力だろうな。お前に怯えるたぁ随分ビビりなもんでぇ」


「国杜……様?」


 国杜。

 一国を束ねる最高責任者。

 数100年前に姿を現し、世界の生物的価値観を一新させてみせた偉大な方だ。

 その影響力は世界全土に及び、実質的に神と崇められる存在である。

 いまなお現役なことから、エルフの生き残りだとも噂されているが、でも、どうして私なんかを……。


「2年前、俺らが国家召集されて、パーティを組んだ理由もテメェの監視が目的だった。ただの冒険者パーティとしては過剰戦力だったろ?」

「……っ」


 みんな……もとから……。


「気が変わったのか、命を受けたのは2日前、場所も日時も指定されていまに至る……ってとこだな。ヒナタにゃ恨みはねぇが、国杜に逆らやぁ俺らの首がはねられちまうってわけよ」


「リュゲル、喋りすぎだ」

「へいへい」


 そう嗜めたシュタルドは、大きく息を吸った。


「再度警告するぞヒナタっ!! 抵抗しなければ、痛みなくあの世へ送ってやる。さぁ、首を差し出せ!!」


 怒号が鼓膜を振動させるが、水面をなぞるだけで言葉が頭にはいってこない。

 まるで寝不足の時に読む小説のような感覚。

 走馬灯というやつか、なんだか昔のことまで思いだす。


 私には家族がいなかった。

 そんな私をみんな蔑んだ。


 でも、灯火の息吹だけは、みんなだけは私を必要としてくれて、私にとっての家族みたいなもので、生の実感をもてたんだ。


 それをなんだ。

 元から仲間じゃなかった。

 国杜から命令されただけ。


 ふざけるな──。



「国杜が……なんだよ……」

「……?」


「命令されたから殺すのか、仲間だとおもっていなかったのか、私なんて……その程度の存在だったのか…………!」


 目頭が熱くなる。

 自分でいって、その発言がすごく気持ち悪い。


「すぅ……悪いが、抵抗と受け取らせてもらう」



「動くなっ──!!!」



 私の叫びに、みんなの肩がすこしはねた。


 血の味がする。

 喉が切れたのか。

 なにか大きな卵のようなものが、口の中からでてきたような、そんな感触がある。

 アドレナリンをだしすぎたか、死が間近にあるはずなのに、なんだか気分がいい。

 戦闘のスペシャリストたちが私の一動に驚いたのが、なんだかおかしくて、ひきつった笑みがこぼれてしまう。


 私は彼等から目を離すことなく、自分の胸へと手をいれた。


「私に戦闘スキルはない。やりあえば、必ず、殺される……」

「……おい! 無駄な抵抗は──」


「でも、自爆くらいはできるぞ……!!」


 胸の歪みからとりだしたのは、筒状の火薬。

 点火すれば半径10メートルくらいは粉々になるだろう。


「うわっ! ダイナマイトだ!!」

「くそっ……、めんどうな……」


「近づくな! 脅しじゃない……、私は、……覚悟の上、……だぞ」


 言い訳ですが、ドラ○もんのこと思い出したのは添削中です。

 パクリじゃないです。

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