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篝火

作者: 悪鬼乗り
掲載日:2025/12/22

俺は欲しかった。

ぬくもりを感じることができる、自分の『居場所』が・・・


16年間生きてきて、いつも感じていたのは『冷たい暗闇』だった。

俺の家は横浜の一等地にある。

父は会社役員、母は政治家秘書。

世間から見れば、俺は『お坊ちゃま』だろう。

ガキの頃から勉強を強いられ、遊ぶことは許されなかった。

学校に『友達』は一人もいない。

両親の帰りはいつも遅い。

俺の夕飯はいつも、テーブルの上に無造作に置かれた千円札で買うコンビニの弁当だった。

ある日、俺はふと思う。

俺という存在は、親のスケジュール帳に書き込まれた『記号』でしかないのではないかと・・・


その夜、俺は家出同然で街を彷徨っていた。

伊勢佐木町の路地裏から大通り公園に抜けようとしたところで、数人の不良に絡まれている俺と同い年くらいの少年を見つけた。

不良達は少年を取り囲み、執拗に殴り続ける。

すでに顔中血だらけの少年は、呻きながらも立ち上がろうとして不良たちに向かって吠えた。


「てめぇらなんかに、アイツの単車を汚す権利なんてねぇんだよ!」


負け犬のように見えながらも、絶対に屈しない少年。


『コイツの隣に立ちたい・・・』


俺は何故かそう思って、気付けば石ころを拾い上げて不良の一人に投げつけていた。


「うるせぇんだよ! 集団でしか何もできねぇクズどもが!!」


俺らしからぬ、感情そのままの言葉だった。

不良たちは標的を変えて俺に襲いかかってきたが、少年も立ち上がり、二人で無我夢中に応戦した。


数分後、不良たちは捨て台詞を吐いて去り、俺達は路地裏に座り込んで肩で息をしていた。


「てめぇ・・・何で俺を助けた?」


少年が荒い息をしながら尋ねてきたので、俺は答える。


「なんとなく・・・だよ」


本当は『隣に立ちたかったから』なんだが、そんなこと言えるはずもない。

そもそも、何故そう思ったのかもわからないのだから・・・


「そうかよ。 まあ、礼だけは言っとくぜ。 ありがとうな」


少年は落ち着きを取り戻してそう言うと、立ち上がって公園の方へ向かって歩き出した。

俺もつられて立ち上がり、少年の後を追う。

少年は公園の脇に止めてある真っ白なバイクの前で立ち止まって、こちらを振り返った。


「俺はトオル・・・安藤透アンドウトオルだ。 お前は?」


不意に問われ、俺は戸惑いながらも答えた。


「あ・・・ジュン・・・神谷純カミヤジュン


それだけ聞くと、透はバイクに跨りエンジンをかけた。


「それ、お前の単車? カッケーじゃん。」


俺の言葉に、透は少し悲しげな顔をしながら、どこか遠くを見つめて言った。


「俺んじゃねぇよ・・・形見なんだ・・・友達の・・・」


「あ・・・」


透の答えに、俺は言葉を詰まらせた。

言ってはいけないことを言ってしまったのではないかと・・・


だが、透は気にした様子もなく、俺に向かって問いかける。


「お前、家どこだよ? 途中までなら送ってやるよ。」


驚いたことに、透は俺をバイクの後ろに乗せると言ってきたのだ。

だけど・・・


「家には帰りたくない。 あそこは俺の『居場所』じゃないから・・・」


俺の答えに透は少し戸惑った様子を見せたが、すぐに笑顔を見せて


「そんならお前に『俺の世界』を見せてやる。 乗れよ。」


そう言ってくれた。


俺は透に促されてシートに跨る。


「振り落とされねぇように、しっかりしがみついとけよ!」


言われるまま、俺はしっかりとしがみついた。

そして、バイクは走りだす。


夜を切り裂くような排気音。

凄まじい速度で通り過ぎる街の風景。

全てが初めての体験だった。

そして、何より・・・

透の背中は暖かく、まるで凍てついた闇に燈った光のように感じた。


どれくらい走っただろうか?

透はバイクを止めて、スタンドを下す。

俺は周りを見渡した。

向こうに赤レンガ倉庫が見える。

見慣れた風景。

そこは『象の鼻パーク』だった。

さっきまでいた伊勢佐木町から、然程離れていない場所だ。


「あれ? 結構走ったと思ったけど・・・」


「ああ、走ったよ。 本牧を一周した。」


俺の疑問に、透は笑顔で答えた。

ああ、なるほど。

16号から八幡橋を渡ってたっけ・・・


「・・・で、どうだった?」


問われて、俺は正直に感想を述べる。


「どうって・・・なんか、上手く言えねぇけど・・・こんな世界があるんだなって・・・俺の世界に明かりが燈ったみたいな・・・」


「なんだよ、それ? お前、どんな世界で生きてきたんだよ?」


透は笑いながら返したが、俺は冗談なんか言ってない。

大真面目だ。


「俺の世界は・・・いつも『冷たい暗闇の中』だった。 どこにいても、誰といても・・・本当は俺の居場所なんか、どこにもないんじゃないかって・・・」


透は笑うのを止めて黙って聞いてくれた。

やがて、二人の間に沈黙が流れる。

気まずい・・・

俺は話題を変えようと、ふとした疑問を口にした。


「そういやお前、どうしてあんな所で喧嘩なんかしてたんだよ?」


俺の質問に透は一瞬キョトンとした顔を見せたが、何かを思い出したのか、怒りに震えた声で答えた。


「あいつら、この単車に唾を吐きやがった! 250ccだからってバカにしやがって・・・!」


そう言えば、透はこのバイクを『友達の形見』だって言ってたっけ・・・

そんな大事な物に唾を吐かれりゃ、そりゃ喧嘩になるだろう。

でも・・・


「でも、なんでそんな大事な物に俺を乗せてくれたんだ?」


「ん? ああ・・・」


透は気恥ずかしそうに頭を掻きながら、小さな声で呟くように答えた。


「俺と一緒に戦ってくれたろ? そん時、お前になら背中を預けてもいいって思って・・・それに・・・」


「・・・それに?」


俺は続きを促したが、透は答えなかった。

二人の間に再び沈黙が流れる。

やがて、先に沈黙を破ったのは透だった。


「なあ、純・・・」


急に名前を呼ばれて、少し驚いた。


「俺と一緒に、チーム作らねぇ?」


チーム・・・?」


「お前、居場所がねぇって言ってたろ? だったら、自分で居場所を作るってのはどうだ? それに、他にも居場所がねぇって奴らがいるだろうから、そいつらも誘って皆の居場所にするんだ。」


透の提案は突拍子もないものだったが、俺の中に暖かな光が差し込むようでもあった。


チームか・・・ いいね、それ! だったら、誰にも負けねぇチームを作ろうぜ。」


「ああ! 誰にも負けねぇ無敵のチームだ!」


俺たちは顔を見合わせて笑った。

こんなに笑ったのは、どれくらいぶりだろうか?


「なあ、チーム名どうする?」


「そうだな・・・」


俺の問いに透は少し考えてから口を開いた。


「チーム名は・・・」

後に、横浜で伝説となるチーム『篝火』

これは、その始まりの物語・・・


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