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03.ソーラン節

5年生の運動会といえば、ソーラン節。

というのって、どこから始まった流れなのだろう?

宗佑の学校も例に漏れず、運動会に向けてソーラン節の練習が始まった。


背中に一文字。

ハッピに筆文字を書いて、皆で揃いのコスチュームで踊る。踊る、というより、演じるだ。

網を大きく引き、荷揚げをする。

大漁の魚を船から引き揚げる演目だと思う。


宗佑は、自分の名前から佑の文字を選んだ。たすく、誰かの力になる、自分らしいのからしくないのか、宗佑には分からないと思った。友達がいない訳でもないし、それなりにうまくはやっているはずだ。でも、言葉足らずだったり、少し知識をひけらかしてしまっているように、見えたり…しなくもないかもしれない。同学年の皆がちょっと幼いせいもあるような気もしなくもない。宗佑は小柄だが、クラスの誰よりも知識があり、賢い自負があった。だからこそ、皆が上手くいくようにちょっと加減して接してやらなきゃな、そんな驕りもちょっとあったかもしれない…。でも、そんなところも、誰かの成長に力を貸している…「佑」だよな。自分を納得させた。ぱっと決めて、デザインの計画書から顔を上げた。遠い目で、窓の外を眺めるあの子が遠くに見えた。


掃除の時間。近くのメンバーに声をかけた。

「何の字にした?」

名前の中から決めたり、絆とか友、とか翔(クラス目標だ)とか、みんなが口々に言う。そっか、いいね。僕は言いながら、横目であの子が話に乗ってこないなと思っていた。

「尾島さん何にしたの?」

絆に決めたという女子に聞かれた。

「まあ、普通に名前から。」

「ソウ?」

「いや、普通にスケのほう。」

「えっ、普通にってなにそれ、ソウのほうがメジャーじゃん。」

女子たちの納得のいく答えじゃなかったようで、宗佑はいじられていた。ちら、とあの子の方を見る。何か反応してほしいような、してほしくないような。すると、僕の視線の先に気づいた女子が言った。


「あー、あかりはね。」

「あれだもんね。」


気づかれた!

宗佑は慌てふためいた。様子を伺っていたなんて知られたら死活問題だ。しかもあれだもんねってなんだ?どういう意味だよ。


「あかり、何にしたんだっけ?」


からかうように女子が言った。

僕は失敗した、と思って直視できなかった。


「あ。」

こちらを見たあの子の声が響く。

え、何!なになに!声が重なる。

「あー。」


「ありなの?」

「ありだよ。」

「平仮名なんて聞いたことないよ。」

「でも、いいの。もう計画書も出したし。」

あの子は、背中の一文字を「あ」にしたらしい。



ありなのか?宗佑もそう思った。指定は漢字じゃなかったか。人のことなのにぐるぐる頭を巡った。そうして、次の日の昼休み。音楽室でトランペットを磨いていたあの子をみつけ、声をかけた。


「もうちょっといい字あるんじゃないの、ほら、ちゃんと漢字でさ。名前から選ぶにしても。」


あの子は、訝しそうに言った。

「え、ハッピのこと?うーん、あの、そうちゃんもしかしてわたしの名前ご存じない…?」


心臓が跳ねた。

「え、あ、知ってる…」

この状況においても名前を口に出して呼ぶハードルは高すぎるが、間違いなく知っていた。


「わたし、名前平仮名なんだけど。もしかして、織とか田とか推してる…?」

「…。」

「織とか苗字であんまり思い入れないし。田なんてさ、いわし漁なのに。」

「たしかに…。」

「あ、鰯ありかも。」

「本気?」

「え、そうちゃんが変えろって言い出したんでしょ。」

あの子が笑って言う。


鰯!ドーンと背中に書かれたハッピで踊る姿が想像ついた。観に来た親が、鰯…?って首を傾げるだろうな。


「そうちゃんだって、タスク、でしょ」

あの子は、「スケの方」とは言わなかった。

ぐっと落ち着いたトーンで続ける。

「それをさ、例えば救助みたいなほうの助けるにはしないわけじゃん。」


「わたしはさ、平仮名っていうのがきっと家族の想いなんだよね。あかり、であってたぶん、明るいでも灯すでもだめだったんだよ。勝手にさ、変えたくないじゃん。」


「だから平仮名?」

「うん、それがいい。たまたま、あ、だし許されそうじゃない?」


きっぱりと言うあの子は、強いなと思った。




でも、さらに翌日、あの子の手元にデザイン計画書は舞い戻っていた。担任の先生から、漢字にするようにやり直しをくらったらしい。

「どうしよう。」

珍しく教室であの子が話しかけてきた。別に、誰かに見られないようにみたいな密約が交わされていたわけではない。でも、なんとなく話すのは誰もいないときだけなのかと思っていたから、はじめ少し戸惑った。

「名前の由来から漢字拾ったりすればいいんじゃないの。」

「わかんないもん。」

あの子は左の机に頬をつけて、考える気も無いようだった。

「あかり、はやく出して委員会行こうよ」

女子が急かしている。

「例えば、光るとか輝くとか、色々あるだろ。塾で習ったりしてないの?」

宗佑が助け舟を出す。

助け舟だったはずなのに、「尾島さん賢さ見せてくるわ、うざー」女子が言った。

「いやいや、ほんとにそうちゃん賢いんだよ」

あの子が苦笑する。

「えっ、そうちゃん?」

女子が僕とあの子を見比べた。

「勝手にそう呼んでる。呼んでいいよ」

あの子は、さらに勝手を積み重ねて、女子にそうちゃん呼びを許可した。

「尾島さん、嫌なら嫌だって言っていいんだよ」

なぜか、女子からの風当たりが弱まったのを感じた。

そうして、あの子は何らかの字を書いて先生に再提出したのだろう。何にしたのか、気になる気持ちもありつつ、特に話に上がることもなく、ソーラン節の練習が続いた。運動会は、もうすぐそこだ。




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